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新たな約束
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婚約破棄から数ヶ月が経った。
王宮を離れた私は、公爵家の屋敷で穏やかな日々を過ごしている。
私は、あの日、確かに全てを失った。
しかし、不思議な事に喪失感は全くと言ってなかった。むしろ、それからの私はとても晴れ晴れとした気分で日々を過ごしているくらいだ。
そして、今の私は、とても穏やかな気持ちで夜の庭園に佇んでいた。
月明かりに照らされた白百合が静かに揺れている。
あの日の事が思い出されて、私はそっと胸元のペンダントを握った。
「アリシア様、そろそろ中に戻られませんか」
聞き慣れた優しい声が背後から響く。
振り返ると、ルークが私を見つめていた。
「まだもう少し、ここにいたいわ」
「夜風が冷えますから、本当に少しだけですよ?」
心配性な彼に向けて私は優しく微笑んだ。
ベンチに座ると、私はルークに隣へ座るようにと促した。彼は素直に応じてくれて、私達は静寂の中、共に白百合を眺めた。
ルークとの無言の時間は、居心地の悪いものではなかった。
昔から、彼は私を護衛してくれたけれど、ここまで近しい距離でいる事はなかったのに。彼が私の隣にいることが心地よくて、今では当たり前のように思える。
「ねぇ、ルーク」
「はい」
「あなたは、どうして今も私の傍にいてくれるの?」
ぽつりと零れた疑問に、ルークは驚いた様だった。
私の婚約が破棄された時、大広間にいた誰もが私に侮蔑の視線を送っていた。それもそのはず。私は彼らにとって、白百合の聖女と王太子の美しい恋物語を邪魔する、惨めな悪役令嬢だったから。
ジョージ殿下の婚約者だった頃には散々、チヤホヤしていたくせに、今では、手紙の一つも来やしない。落ちぶれた悪役には誰も関わりたくはないのだろう。
しかし、そんな中でも、ルークだけは変わらなかった。彼は今までと何一つ態度を変える事なく、護衛騎士として私の傍に仕えてくれていた。
「あなた程の実力者なら、こんな所にいなくても、もっといい就職場所があるんじゃない?」
そう問うても答えは返って来なかった。
ルークはしばらく沈黙した後、私を真っ直ぐに見つめた。
「……まさか伝わっていないとは思いませんでした。俺は、好きな人を置いて他所へ行くつもりはありませんよ」
夜の静寂が、彼の言葉を際立たせる。
そして、私の心臓がうるさいくらいに跳ねる音が聞こえた。
「俺はずっと、アリシア様をお慕いしていました。でも、公爵令嬢と貴族の爵位を持たない騎士という身分の違いを考えると、決して口にしてはならない想いだと思い……」
「ルーク……」
彼がそんなに真剣だったとは夢にも思わなかった。
「ですが、あの夜、ペンダントをお返しした時に決めたんです。今度こそ、アリシア様を守ると。そして、もう決して手放さないと」
ルークの瞳には、迷いもためらいもなかった。
「だから、どうか。もう一度、俺にそのペンダントを預けてはいただけませんか?」
私は息をのんだ。
━━白百合のペンダントを好きな人に受け取ってもらえると、その恋は叶う。
幼い頃に聞いたあの言い伝えが頭の中を過った。
━━もし、それが本当なら。私はこのままルークと一緒に穏やかな日々を過ごしたい。
私は、震える手でペンダントを握りしめた。
そして、ルークが見つめる中、私はそのペンダントを外した。
「大事にしてくれる?」
「勿論ですよ」
ルークは大切そうにペンダントを受け取り、それをぎゅっと握りしめた。
そして、それに向けて何かを祈っているのかと思った刹那、ルークの手が、私の手をそっと引き寄せた。
彼の顔が近づく。月明かりに照らされた彼の瞳が、私を射抜いた。
唇が触れるほどの距離で、彼は優しく囁く。
「もう、誰にもあなたをあげない」
その言葉に、私の頬が熱を帯びた。
夜風が白百合の花を揺らす。
私達は静かに、そっと、唇を重ねた。
そして、私は月明かりの下、永遠の愛を誓ったのだ。私を優しく見守ってくれた彼に、これからたくさんの愛を捧げようと。
王宮を離れた私は、公爵家の屋敷で穏やかな日々を過ごしている。
私は、あの日、確かに全てを失った。
しかし、不思議な事に喪失感は全くと言ってなかった。むしろ、それからの私はとても晴れ晴れとした気分で日々を過ごしているくらいだ。
そして、今の私は、とても穏やかな気持ちで夜の庭園に佇んでいた。
月明かりに照らされた白百合が静かに揺れている。
あの日の事が思い出されて、私はそっと胸元のペンダントを握った。
「アリシア様、そろそろ中に戻られませんか」
聞き慣れた優しい声が背後から響く。
振り返ると、ルークが私を見つめていた。
「まだもう少し、ここにいたいわ」
「夜風が冷えますから、本当に少しだけですよ?」
心配性な彼に向けて私は優しく微笑んだ。
ベンチに座ると、私はルークに隣へ座るようにと促した。彼は素直に応じてくれて、私達は静寂の中、共に白百合を眺めた。
ルークとの無言の時間は、居心地の悪いものではなかった。
昔から、彼は私を護衛してくれたけれど、ここまで近しい距離でいる事はなかったのに。彼が私の隣にいることが心地よくて、今では当たり前のように思える。
「ねぇ、ルーク」
「はい」
「あなたは、どうして今も私の傍にいてくれるの?」
ぽつりと零れた疑問に、ルークは驚いた様だった。
私の婚約が破棄された時、大広間にいた誰もが私に侮蔑の視線を送っていた。それもそのはず。私は彼らにとって、白百合の聖女と王太子の美しい恋物語を邪魔する、惨めな悪役令嬢だったから。
ジョージ殿下の婚約者だった頃には散々、チヤホヤしていたくせに、今では、手紙の一つも来やしない。落ちぶれた悪役には誰も関わりたくはないのだろう。
しかし、そんな中でも、ルークだけは変わらなかった。彼は今までと何一つ態度を変える事なく、護衛騎士として私の傍に仕えてくれていた。
「あなた程の実力者なら、こんな所にいなくても、もっといい就職場所があるんじゃない?」
そう問うても答えは返って来なかった。
ルークはしばらく沈黙した後、私を真っ直ぐに見つめた。
「……まさか伝わっていないとは思いませんでした。俺は、好きな人を置いて他所へ行くつもりはありませんよ」
夜の静寂が、彼の言葉を際立たせる。
そして、私の心臓がうるさいくらいに跳ねる音が聞こえた。
「俺はずっと、アリシア様をお慕いしていました。でも、公爵令嬢と貴族の爵位を持たない騎士という身分の違いを考えると、決して口にしてはならない想いだと思い……」
「ルーク……」
彼がそんなに真剣だったとは夢にも思わなかった。
「ですが、あの夜、ペンダントをお返しした時に決めたんです。今度こそ、アリシア様を守ると。そして、もう決して手放さないと」
ルークの瞳には、迷いもためらいもなかった。
「だから、どうか。もう一度、俺にそのペンダントを預けてはいただけませんか?」
私は息をのんだ。
━━白百合のペンダントを好きな人に受け取ってもらえると、その恋は叶う。
幼い頃に聞いたあの言い伝えが頭の中を過った。
━━もし、それが本当なら。私はこのままルークと一緒に穏やかな日々を過ごしたい。
私は、震える手でペンダントを握りしめた。
そして、ルークが見つめる中、私はそのペンダントを外した。
「大事にしてくれる?」
「勿論ですよ」
ルークは大切そうにペンダントを受け取り、それをぎゅっと握りしめた。
そして、それに向けて何かを祈っているのかと思った刹那、ルークの手が、私の手をそっと引き寄せた。
彼の顔が近づく。月明かりに照らされた彼の瞳が、私を射抜いた。
唇が触れるほどの距離で、彼は優しく囁く。
「もう、誰にもあなたをあげない」
その言葉に、私の頬が熱を帯びた。
夜風が白百合の花を揺らす。
私達は静かに、そっと、唇を重ねた。
そして、私は月明かりの下、永遠の愛を誓ったのだ。私を優しく見守ってくれた彼に、これからたくさんの愛を捧げようと。
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