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番外編2-5 氷の王子と呼ばれたお兄様の静かな恋
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それからというもの、お姉様は私の植物学の勉強を積極的に手伝ってくれるようになった。そして、植物学の勉強を通して、私達の仲は深まったのだ。
ヴィオお姉様は変わった人だった。
私が植物学の勉強に励む事を好まない人達は多いのに、ヴィオお姉様はその真逆だった。
私の世話をしてくれる人達ですら、止めるようにと言ってきたのに。
「王女殿下にはそのような事柄を学ぶ必要はありません」
「淑女として身に着けるべき教養はもっと他にありますわ」
「王女殿下は花を愛でるだけで良いのです」
彼らの言葉には悪意がなく、寧ろ私を心配してのものだった。しかし、悪意なくとも、彼らの言葉は私を傷付けるのに十分だった。
「この国には頭の固い人達がまだまだ沢山いるから」
そうお父様が言っていた事の意味が、今になってよく分かった。この国では、女に賢さは必要とされていないのだ。
「女は学問の知識を身に着けなくても良い」と遠回しに言われ続けた私は、いつしか、人前で勉強しないようになっていた。植物学に関する本を図書館からこっそりと借りてきて、夜に少しだけ読む。
だから、私の勉強はその程度で止まっていただった。
でも、ヴィオお姉様が手伝ってくれるようになってからはそれが変わった。
お姉様は意外にも大胆な人だった。私とピクニックに行くと草花を採って保存し、学者さながらスケッチをするのは当然だった。それを人に咎められても、お姉様は気にする事はなかった。
「ピクニックのついでに草花を採って何が悪いの? 押し花を作る令嬢にも同じ事が言えるのかしら?」
「淑女が植物の採集作業をしてはいけないなんて法律はなかったと思うけど。勿論、そんな事を書かれたマナー本も見た事がないわ」
「植物のスケッチが駄目? ・・・・・・じゃあ、画家の描いた植物の絵を全部廃棄しても問題ないわね?」
半ば屁理屈にも似た言葉をお姉様が投げかけると、大抵の人は顔を引き攣らせて黙った。さらに反論をする人もいたけれど、それでもお姉様は勉強をやめようとしなかった。
「私は悪い事をしていないのだからやめないわ。やめて欲しいなら私が納得できる理由を持ってきてちょうだい」
自信を持って言うお姉様を私は頼もしく思う様になり、以前よりももっと好きになった。
そして、ヴィオお姉様は私に慕われる事が満更でもなかったらしい。植物学の研究の手伝いを快く引き受けてくれたし、お姉様自身の事も話してくれるようになった。
だから、ヴィオお姉様が心を開いてくれるようになった時には、私達は休みの日のほとんどを、共に過ごすようになっていた。
しかし、私とヴィオお姉様の仲が深まったところで、お兄様とお姉様の距離は一向に縮まった様子はなかった。
二人は定期的にデートをしている。でも、それはお姉様のお話を聞いている限りでは、形式的なもので、とても楽しいものだとは思えなかった。
二人のデートは月に2回だけだった。外に出かけるのは月の初めで、アンドレ公爵家でお茶をするのが月の中頃。それが二人の決まり事らしい。「イベントがあるから出かけよう」とか、「一緒にいたいから会いましょう」とか、そういう気持ちが二人にはないらしい。
でも、ヴィオお姉様がお兄様ともっとデートしたい気分にならないのは無理がないと私は思う。
お兄様はお姉様といる時、魔法学の研究の事や私達家族の話ばかりをしているらしい。お茶の雑談の中の一つであるのなら、悪くはないと思う。
でもお兄様は街に行こうが、自然の中を歩こうが、そんな話ばかりなのだそうだ。
「デートなんだからお姉様を楽しませようとは思わないの!?」
いつだったか、お兄様にそう言った事がある。その時、お兄様は首を傾げて不思議なものを見る目で私を見た。
「ヴィオは笑って話を聞いてくれているよ?」
それを聞いた私は溜め息を漏らさずにはいられなかった。
「それは愛想笑いで社交辞令ですよ! しゃ、こ、う、じ、れ、い」
お兄様はますます首を傾げるばかりで、私の言っている事の意味をまるで理解していなかった。
そんな日々を送る中、遂に事件が起きた。
ヴィオお姉様は変わった人だった。
私が植物学の勉強に励む事を好まない人達は多いのに、ヴィオお姉様はその真逆だった。
私の世話をしてくれる人達ですら、止めるようにと言ってきたのに。
「王女殿下にはそのような事柄を学ぶ必要はありません」
「淑女として身に着けるべき教養はもっと他にありますわ」
「王女殿下は花を愛でるだけで良いのです」
彼らの言葉には悪意がなく、寧ろ私を心配してのものだった。しかし、悪意なくとも、彼らの言葉は私を傷付けるのに十分だった。
「この国には頭の固い人達がまだまだ沢山いるから」
そうお父様が言っていた事の意味が、今になってよく分かった。この国では、女に賢さは必要とされていないのだ。
「女は学問の知識を身に着けなくても良い」と遠回しに言われ続けた私は、いつしか、人前で勉強しないようになっていた。植物学に関する本を図書館からこっそりと借りてきて、夜に少しだけ読む。
だから、私の勉強はその程度で止まっていただった。
でも、ヴィオお姉様が手伝ってくれるようになってからはそれが変わった。
お姉様は意外にも大胆な人だった。私とピクニックに行くと草花を採って保存し、学者さながらスケッチをするのは当然だった。それを人に咎められても、お姉様は気にする事はなかった。
「ピクニックのついでに草花を採って何が悪いの? 押し花を作る令嬢にも同じ事が言えるのかしら?」
「淑女が植物の採集作業をしてはいけないなんて法律はなかったと思うけど。勿論、そんな事を書かれたマナー本も見た事がないわ」
「植物のスケッチが駄目? ・・・・・・じゃあ、画家の描いた植物の絵を全部廃棄しても問題ないわね?」
半ば屁理屈にも似た言葉をお姉様が投げかけると、大抵の人は顔を引き攣らせて黙った。さらに反論をする人もいたけれど、それでもお姉様は勉強をやめようとしなかった。
「私は悪い事をしていないのだからやめないわ。やめて欲しいなら私が納得できる理由を持ってきてちょうだい」
自信を持って言うお姉様を私は頼もしく思う様になり、以前よりももっと好きになった。
そして、ヴィオお姉様は私に慕われる事が満更でもなかったらしい。植物学の研究の手伝いを快く引き受けてくれたし、お姉様自身の事も話してくれるようになった。
だから、ヴィオお姉様が心を開いてくれるようになった時には、私達は休みの日のほとんどを、共に過ごすようになっていた。
しかし、私とヴィオお姉様の仲が深まったところで、お兄様とお姉様の距離は一向に縮まった様子はなかった。
二人は定期的にデートをしている。でも、それはお姉様のお話を聞いている限りでは、形式的なもので、とても楽しいものだとは思えなかった。
二人のデートは月に2回だけだった。外に出かけるのは月の初めで、アンドレ公爵家でお茶をするのが月の中頃。それが二人の決まり事らしい。「イベントがあるから出かけよう」とか、「一緒にいたいから会いましょう」とか、そういう気持ちが二人にはないらしい。
でも、ヴィオお姉様がお兄様ともっとデートしたい気分にならないのは無理がないと私は思う。
お兄様はお姉様といる時、魔法学の研究の事や私達家族の話ばかりをしているらしい。お茶の雑談の中の一つであるのなら、悪くはないと思う。
でもお兄様は街に行こうが、自然の中を歩こうが、そんな話ばかりなのだそうだ。
「デートなんだからお姉様を楽しませようとは思わないの!?」
いつだったか、お兄様にそう言った事がある。その時、お兄様は首を傾げて不思議なものを見る目で私を見た。
「ヴィオは笑って話を聞いてくれているよ?」
それを聞いた私は溜め息を漏らさずにはいられなかった。
「それは愛想笑いで社交辞令ですよ! しゃ、こ、う、じ、れ、い」
お兄様はますます首を傾げるばかりで、私の言っている事の意味をまるで理解していなかった。
そんな日々を送る中、遂に事件が起きた。
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