【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依

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番外編2-2 氷の王子と呼ばれたお兄様の静かな恋

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 お祖母様によると、お母様は噂通り、かつて公爵家の令息と婚約関係にあったそうだ。ただ、当時のお母様は何事にも関心が薄くて感情の揺れ幅の少ない人だったそうだ。
 そんなお母様の気を引くために令息はお母様のお気に入りの令嬢と浮気をしてしまったそうだ。でも、お母様はそんな事をした令息に対して残酷なまでに何の反応もしなかったらしい。だから、令息はお母様を恨むあまり、婚約破棄を宣言したのだという。

「そういう理由があったから、お母様はお兄様の婚約を心配していたんですね」
 お祖母様の話の途中、私が呟くとお祖母様はすかさず反応した。
「確かにヘンリー殿下は昔のベラに似ていますわ」
「お祖母様の目から見てもそういう風に思うんですか」
「ええ。表情もほとんど動きませんし、他人どころか自分の気持ちにすら気付いていなさそうですもの。ベラの心配する気持ちが少し分かります」
 お祖母様はお兄様を心の底から心配してくれていた。お祖母様は気性の荒い所があるけれど、それでも家族思いの優しい人なのだ。

 それなのに、あの時の私はとんでもないことを聞いてしまった。
「やっぱりお祖母様は、お母様がその婚約者だった人と結婚して欲しかったんですか」
 私の質問にお祖母様は首を傾げた。
「どうしてそんなことを聞くんです?」
「だって、お母様の冷たい性格が原因だったと悔やんでいる様に見えたんです。それに、婚約破棄された事をお祖母様は残念がっているようでしたもの」
 そういえば、お祖母様は首を振った。
「残念だなんて、そんなことを思ったことは一度もありません!!」
 お祖母様は眉間に皺を寄せて腕を組んだ。お祖母様の愛らしい顔が、さっきよりも険しい顔つきになっていることに気づいた。
 そうなってから、私はようやくしてはいけない質問をしたのだと理解した。

「どんな理由があれ、浮気をする男なんて絶対にありえませんわ。ましてそれが自分の娘の夫になる人ならなおさら! もし、あのまま結婚していたら、私はあの男を折檻してやろうと思ってましたの。二度と浮気をしようだなんて考えないように!」
 怒るお祖母様の気迫に圧倒されて、私は口をぽかんと開けて話を聞いているしかなかった。
「殿下もいいですか! 男の浮気を決して許してはいけません。お祖父様のような誠実で浮気を一切せずに自分だけを愛してくれる人と結婚するんですよ? 分かりましたか?」
「は、はい・・・・・・」
 気圧されて私はそう返事をするしかなかった。

 そんなやり取りをしていると、お祖父様が部屋にやって来た。お祖父様は興奮したお祖母様を宥めながら、私に帰るように促した。どうやら、お祖母様がヒートアップしていく様を見た侍女がお祖父様をこっそり呼んだらしい。
 だから、私は二人に挨拶をして王宮に帰ることにした。







 馬車に乗ると、ついため息を漏らしてしまった。

 ━━ほんの数時間お茶をしただけでこんなに疲れるなんて思ってもみなかった。王宮に帰ったら部屋でゆっくり休もう。

 そう思っていたのだけれど、そうはいかなかった。王宮に戻ると、アンドレ公爵の紋章が刻まれた馬車が目に入ったのだ。
「アンドレ公爵が来ているの?」
 出入り口を警備する衛兵に尋ねると、彼は公爵ではなくヴィオお姉様が来ていると教えてくれた。

 ━━お兄様は、魔法学のフィールドワークに行っているから、もう1時間経たないと帰って来ないはずよね? 一体誰に会いに来たのかしら?

 そんなことを思いながら自室に戻っていると、お母様付きの侍女がやって来た。
「ルーシー殿下、イザベラ殿下からの言伝がございます」
「なあに?」
「ヘンリー殿下が戻られるまでの間、アンドレ公爵令嬢のお話相手になっていただきたいとおっしゃっていました」
 お兄様のいない間の場繋ぎを私に任せるなんて、お母様は忙しいのかしら?
 疑問に思ったけれど、お母様の意思に反発する理由もないから、「分かったわ」と返事をした。

 侍女に連れられて庭園にある東屋に行くと、ヴィオお姉様は侍女の一人とお茶をしていた。
 侍女は私が来たことを知るとヴィオお姉様に挨拶をして席を立った。私は侍女が座っていた席に着く。
「ご機嫌よう、ヴィオお姉様」
 笑顔で挨拶をしたら、お姉様は薄っすらと笑みを浮かべた。
「お久しぶりですね、ルーシー殿下」
「ええ、本当に。体調はよくなりましたか」
 この時のヴィオお姉様は、5日程前まで風邪を引いていた。幸い高熱は出なかったそうだけれど、咳が酷かったらしく2週間、家で安静に過ごしていたそうだ。

「ええ。お陰様ですっかりよくなりました。きっとルーシー殿下が贈って下さった薬草のおかげです」
「そう言ってもらえると嬉しいですわ」
 そこで一度、会話が途切れた。それが少し気まずかったから、私は淹れられたお茶を飲んで間をはかった。
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