36 / 52
27-2 愛を貫き通すのなら
しおりを挟む
「狂ったように別の女を愛す男と一緒にいるなんて、私は嫌だわ。・・・・・・まして、それが自分の好きな男ならなおさらね」
そう言って夫人は侯爵を見た。侯爵は気まずそうな顔をして「俺はそんなことをしないよ」と呟いた。夫人は何が面白いのか、ふふっと声に出して笑う。
侯爵は咳払いをして、話を元に戻すように促した。
「だから、ランベール子爵令嬢にとってフィリップ子息と一生を添い遂げるということは、ある意味、地獄であると私は思いますの」
「フィリップ子息の好意がランベール子爵令嬢に向かなければな」
「そうですね。でも、それはそれでいいじゃない」
夫人はとても楽しそうに笑った。
「どうしてだい?」
「だって、他の女が好きで自分に興味のない男を振り向かせるのは結構大変なことよ? それに、二人が両思いになったとしても、困難はまだまだ続くわ」
夫人の言う通りだ。フィリップとエリナの婚姻は二人で一緒にいるだけで、様々な人から悪く言われるに違いない。それに、二人の婚姻が認められる可能性も低い。仮に二人が結婚できたとしても、フィリップは公爵の身分にはなれない上、出世もできないから、生活面で困窮する可能性だってある。
「その困難を全て乗り越えて、二人が幸せを掴めば、彼らがベラにやったことをなかったことにしてあげてもいいと私は思います」
夫人の話を侯爵は理解できないといった顔で聞いていた。それは俺も同意見ではあるけれど。
「ベラもどうやら夫人と同じ考えのようなのです。愛を貫き通すことがエリナにとって最も過酷な罰であり、エリナが幸せになる最後の可能性だと言っていました」
侯爵は眉間に皺を寄せて黙って考えた。数分の沈黙の後、彼は顔をあげて俺を見た。
「マシュー公爵はすでに私達への謝罪を済ませている。これ以上、事を荒立てることもないでしょうから、娘の言う通りにしましょう」
「ありがとうございます」
「ただし、もしもランベール子爵令嬢がフィリップ子息から逃げ出そうとした時は・・・・・・」
「分かっています。二人には別の贖罪を用意させましょう」
侯爵は頷いた。
話を終えると、緊張の糸がぷつりと切れた。眉間に皺を寄せていた侯爵は無表情に戻り、夫人は穏やかで愛らしい微笑みを浮かべた。
「大事なお話は終わりましたよね?」
「ええ」
「娘に会ってから帰りたいのですが、よろしいでしょうか」
夫人は懇願するように俺を見ている。
「今日はベラも休日ですから時間があるはずです。呼んで来ますので少しお待ち下さい」
「ありがとうございます」
夫人はとびっきりの笑顔を向けた。俺は椅子から立つとすぐに部屋から出てベラの下へと向かった。
ベラに両親が呼んでいると伝えると、彼女は母親に似た愛らしい笑顔を俺に向けてきた。
せっかく久しぶりに会えたのだから、「親子水入らずの時間を楽しんで」と言ったら、ベラは俺も一緒がいいと言った。
「エドも家族となるのですから」
そう言ってくれたベラを俺はぎゅっと抱きしめた。
そう言って夫人は侯爵を見た。侯爵は気まずそうな顔をして「俺はそんなことをしないよ」と呟いた。夫人は何が面白いのか、ふふっと声に出して笑う。
侯爵は咳払いをして、話を元に戻すように促した。
「だから、ランベール子爵令嬢にとってフィリップ子息と一生を添い遂げるということは、ある意味、地獄であると私は思いますの」
「フィリップ子息の好意がランベール子爵令嬢に向かなければな」
「そうですね。でも、それはそれでいいじゃない」
夫人はとても楽しそうに笑った。
「どうしてだい?」
「だって、他の女が好きで自分に興味のない男を振り向かせるのは結構大変なことよ? それに、二人が両思いになったとしても、困難はまだまだ続くわ」
夫人の言う通りだ。フィリップとエリナの婚姻は二人で一緒にいるだけで、様々な人から悪く言われるに違いない。それに、二人の婚姻が認められる可能性も低い。仮に二人が結婚できたとしても、フィリップは公爵の身分にはなれない上、出世もできないから、生活面で困窮する可能性だってある。
「その困難を全て乗り越えて、二人が幸せを掴めば、彼らがベラにやったことをなかったことにしてあげてもいいと私は思います」
夫人の話を侯爵は理解できないといった顔で聞いていた。それは俺も同意見ではあるけれど。
「ベラもどうやら夫人と同じ考えのようなのです。愛を貫き通すことがエリナにとって最も過酷な罰であり、エリナが幸せになる最後の可能性だと言っていました」
侯爵は眉間に皺を寄せて黙って考えた。数分の沈黙の後、彼は顔をあげて俺を見た。
「マシュー公爵はすでに私達への謝罪を済ませている。これ以上、事を荒立てることもないでしょうから、娘の言う通りにしましょう」
「ありがとうございます」
「ただし、もしもランベール子爵令嬢がフィリップ子息から逃げ出そうとした時は・・・・・・」
「分かっています。二人には別の贖罪を用意させましょう」
侯爵は頷いた。
話を終えると、緊張の糸がぷつりと切れた。眉間に皺を寄せていた侯爵は無表情に戻り、夫人は穏やかで愛らしい微笑みを浮かべた。
「大事なお話は終わりましたよね?」
「ええ」
「娘に会ってから帰りたいのですが、よろしいでしょうか」
夫人は懇願するように俺を見ている。
「今日はベラも休日ですから時間があるはずです。呼んで来ますので少しお待ち下さい」
「ありがとうございます」
夫人はとびっきりの笑顔を向けた。俺は椅子から立つとすぐに部屋から出てベラの下へと向かった。
ベラに両親が呼んでいると伝えると、彼女は母親に似た愛らしい笑顔を俺に向けてきた。
せっかく久しぶりに会えたのだから、「親子水入らずの時間を楽しんで」と言ったら、ベラは俺も一緒がいいと言った。
「エドも家族となるのですから」
そう言ってくれたベラを俺はぎゅっと抱きしめた。
56
お気に入りに追加
613
あなたにおすすめの小説
クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。
【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
【完結】冷酷な旦那様が甘すぎます
アリエール
恋愛
冷酷な旦那、アルベルト。彼は結婚からも心を閉ざし、妻エリザに冷徹な態度を取り続けていた。しかし、次第にエリザの愛情に心を動かされ、彼女を守りたいという強い想いが芽生えていく。
推ししか勝たん!〜悪役令嬢?なにそれ、美味しいの?〜
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは前世で読んだラノベの世界で、自分が悪役令嬢だったとか、それこそラノベの中だけだと思っていた。
だけど、どう見ても私の容姿は乙女ゲーム『愛の歌を聴かせて』のラノベ版に出てくる悪役令嬢・・・もとい王太子の婚約者のアナスタシア・アデラインだ。
ええーっ。テンション下がるぅ。
私の推しって王太子じゃないんだよね。
同じ悪役令嬢なら、推しの婚約者になりたいんだけど。
これは、推しを愛でるためなら、家族も王族も攻略対象もヒロインも全部巻き込んで、好き勝手に生きる自称悪役令嬢のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる