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23-1 エリナの夢物語
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「久しぶりね、エリナ」
「はい」
「椅子に座って。ずっと立っているのも疲れるでしょう?」
「でも」
エリナは怯えているのか、身体を震わせていた。
「座ってくれないと話がしづらいの。見上げて話すことになるから首が痛くなるわ」
私がそう言うと、エリナは渋々椅子に腰掛けた。
「あの、どうして私をお呼びに?」
エリナは私の顔色を伺うように、恐る恐る尋ねてきた。
「あなたが何かを怖がって悩んでいるとアンリ伯爵夫人から聞いたの。そして、罰を受けたがっているとも」
"罰"という言葉を聞いて、エリナは身体をガタガタと震わせた。
「あの、その・・・・・・」
あからさまに動揺する彼女に、私は落ち着くように言った。
「私はあなたに危害を加えるつもりはないわ。私は、あなたがどうして王都を離れようとしているのか、あなたの言う"罰"とは何なのか、それが気になっただけ」
エリナは暗い顔で俯くだけで何も言わない。
「教えてくれないかしら?」
念を押してみると、エリナはゆっくりと顔をあげた。
「これが、・・・・・・イザベラ様に全てを話すことが、私の受けるべき"罰"の一つなのかもしれません」
「どういうこと?」
「イザベラ様、私はこれからとても常識的に考えてありえないような話をします。でも、それを最後まで聞くと約束していただけませんか」
エリナは懇願するように胸の前で手を組んだ。
「分かったわ」
私が了承すると、エリナは話を始めた。
「信じられない事だと思いますが、私には前世の記憶があるんです」
エリナいわく、彼女は前世で別の人間として人生を送っていたそうだ。しかし、不幸な事故に遭い、若くして亡くなってしまったのだという。エリナがそのことを思い出したのは、学園生活を送っていた時で、約1年半くらい前だった。
記憶を取り戻したエリナは、今の自分のいる世界が前世で遊んでいた"オトメゲーム"の世界で、自分がその主人公なのだと気がついたのだという。
「"オトメゲーム"とは、なんです?」
「物語の主人公になって、素敵な男の人達との恋愛を楽しむものです。恋愛小説の主人公になれると思えば分かりやすいのかもしれません」
エリナは私の質問に答えると話を元に戻した。
「乙女ゲームの世界に転生して、初めは浮かれていました。大好きなフィリップが現実世界にいて、しかもゲームの展開通りに私達の仲は深まっていましたから」
エリナは学園生活の途中で記憶を取り戻したと言っていた。少なくとも、最初の頃は、前世で得ていたオトメゲームの知識を使ってフィリップ様と仲良くなったのではないのだろう。
━━それなら、二人は初めから結ばれる運命にあったのではないのかしら?
そのことをエリナに伝えると、彼女は首を振った。
「そんなことはありません。私達は愛し合っていたわけではありませんでしたから」
エリナの言葉に私は目を見開いた。
「どうして? あなたは、今世では大好きなフィリップ様と一緒にいれて嬉しかったと言っていたじゃない」
「確かに私はフィリップを愛していました。前世の記憶が戻る前の、自分がエリナ・ランベールの生まれ変わりだと気づく前から!」
エリナは声を荒げた。その目の端に涙が溜まっている。
「でもっ、でも・・・・・・。フィリップは違っていたんです。彼は私を愛していなかった」
そう言ってエリナは嗚咽を漏らした。手で顔を覆って泣く彼女に私はハンカチを差し出した。
━━フィリップ様がエリナを愛していない?
そんなはずはない。そんなはずはないけれど、アイラ嬢の言葉が頭の中を過った。
"本当に何も分かってないのね! フィリップ様はエリナを愛してなんかいないわ"
"自分の婚約者の好意に気づかずに彼を狂わせておいて、自分は新しい男にのうのうと乗り換えるんだから"
━━そんなはずないわ。フィリップ様が私を好きだなんて、そんなはずは・・・・・・。
私は頭の中で、必死になってアイラ嬢の言葉を否定した。仮にフィリップ様がエリナのことを好きじゃなくても、私のことを好きだなんてありえない。
でも、エリナはそれをあっさりと否定した。
「フィリップ様が本当に好きだったのは、イザベラ様、あなたです」
「はい」
「椅子に座って。ずっと立っているのも疲れるでしょう?」
「でも」
エリナは怯えているのか、身体を震わせていた。
「座ってくれないと話がしづらいの。見上げて話すことになるから首が痛くなるわ」
私がそう言うと、エリナは渋々椅子に腰掛けた。
「あの、どうして私をお呼びに?」
エリナは私の顔色を伺うように、恐る恐る尋ねてきた。
「あなたが何かを怖がって悩んでいるとアンリ伯爵夫人から聞いたの。そして、罰を受けたがっているとも」
"罰"という言葉を聞いて、エリナは身体をガタガタと震わせた。
「あの、その・・・・・・」
あからさまに動揺する彼女に、私は落ち着くように言った。
「私はあなたに危害を加えるつもりはないわ。私は、あなたがどうして王都を離れようとしているのか、あなたの言う"罰"とは何なのか、それが気になっただけ」
エリナは暗い顔で俯くだけで何も言わない。
「教えてくれないかしら?」
念を押してみると、エリナはゆっくりと顔をあげた。
「これが、・・・・・・イザベラ様に全てを話すことが、私の受けるべき"罰"の一つなのかもしれません」
「どういうこと?」
「イザベラ様、私はこれからとても常識的に考えてありえないような話をします。でも、それを最後まで聞くと約束していただけませんか」
エリナは懇願するように胸の前で手を組んだ。
「分かったわ」
私が了承すると、エリナは話を始めた。
「信じられない事だと思いますが、私には前世の記憶があるんです」
エリナいわく、彼女は前世で別の人間として人生を送っていたそうだ。しかし、不幸な事故に遭い、若くして亡くなってしまったのだという。エリナがそのことを思い出したのは、学園生活を送っていた時で、約1年半くらい前だった。
記憶を取り戻したエリナは、今の自分のいる世界が前世で遊んでいた"オトメゲーム"の世界で、自分がその主人公なのだと気がついたのだという。
「"オトメゲーム"とは、なんです?」
「物語の主人公になって、素敵な男の人達との恋愛を楽しむものです。恋愛小説の主人公になれると思えば分かりやすいのかもしれません」
エリナは私の質問に答えると話を元に戻した。
「乙女ゲームの世界に転生して、初めは浮かれていました。大好きなフィリップが現実世界にいて、しかもゲームの展開通りに私達の仲は深まっていましたから」
エリナは学園生活の途中で記憶を取り戻したと言っていた。少なくとも、最初の頃は、前世で得ていたオトメゲームの知識を使ってフィリップ様と仲良くなったのではないのだろう。
━━それなら、二人は初めから結ばれる運命にあったのではないのかしら?
そのことをエリナに伝えると、彼女は首を振った。
「そんなことはありません。私達は愛し合っていたわけではありませんでしたから」
エリナの言葉に私は目を見開いた。
「どうして? あなたは、今世では大好きなフィリップ様と一緒にいれて嬉しかったと言っていたじゃない」
「確かに私はフィリップを愛していました。前世の記憶が戻る前の、自分がエリナ・ランベールの生まれ変わりだと気づく前から!」
エリナは声を荒げた。その目の端に涙が溜まっている。
「でもっ、でも・・・・・・。フィリップは違っていたんです。彼は私を愛していなかった」
そう言ってエリナは嗚咽を漏らした。手で顔を覆って泣く彼女に私はハンカチを差し出した。
━━フィリップ様がエリナを愛していない?
そんなはずはない。そんなはずはないけれど、アイラ嬢の言葉が頭の中を過った。
"本当に何も分かってないのね! フィリップ様はエリナを愛してなんかいないわ"
"自分の婚約者の好意に気づかずに彼を狂わせておいて、自分は新しい男にのうのうと乗り換えるんだから"
━━そんなはずないわ。フィリップ様が私を好きだなんて、そんなはずは・・・・・・。
私は頭の中で、必死になってアイラ嬢の言葉を否定した。仮にフィリップ様がエリナのことを好きじゃなくても、私のことを好きだなんてありえない。
でも、エリナはそれをあっさりと否定した。
「フィリップ様が本当に好きだったのは、イザベラ様、あなたです」
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