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14 ダンス
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歓談を楽しんでいると、ダンスの時間がやって来た。私は、エドに誘われるがまま踊ることになった。
「君に恥をかかせないように頑張るよ」
エドはそんなことを言っていたけれど、彼の踊りが上手なことは同級生の誰もが知ることだった。そんな彼が失敗なんてするはずがない。私こそ、彼に恥をかかせないようにしないといけない。
幸い流れている曲は古典的でリズムの取りやすいものだった。だから、大きく失敗することはないだろう。
「懐かしい。この曲、文化祭のダンス大会の課題曲だったんだよ」
踊っている最中、エドが言った。去年の夏に学園で行われたダンス大会のことなんてよく覚えていられるなと感心する。
「そうでしたか」
「やっぱり、覚えてないんだね」
エドは苦笑した。
「はい」
「まあ、仕方がないか。ベラは踊らなかったし」
ダンス大会は全員参加ではなく、自薦と他薦によって選ばれた者だけが参加できるものだった。私も誰かに推薦されていたみたいだけれど、断っていた。パートナーを探すのは大変そうだし、何より人に踊りを見せつけるほど自分の踊りが上手いとは思えなかったからだ。
「ねえ、ベラ。どうしてあの時、大会に出なかったの?」
「私程度のダンスのスキルでは恥をかくだけですから」
「そんなことないよ。むしろ優勝できてもおかしくなかったと思う」
ダンス大会に参加して、実際に優勝したエドに言われると、何だか嫌味に聞こえる。
「ごめん、褒めてるつもりなんだけど。嫌な思いをさせたね」
「そんなこと、ありません」
「嘘をついてもダメだよ。顔に出てるから」
「顔に?」
「うん」
そう言われてもにわかには信じがたかった。私は"氷の令嬢"と揶揄されているくらいだから良くも悪くも気持ちが顔に出ないのに。
「そんなに驚くことかな?」
「ええ。だって、私は」
"氷の令嬢だから"と言葉を続けようとした時に音楽が終わった。音楽が終わったのにそのまま話をするのは気が引けて、私は黙った。
「まあ、エドワード殿下とイザベラ嬢のダンス素敵でしたわ」
誰かの声を皮切りに次々と称賛の声があげられた。
「イザベラ嬢があんなに上手だなんて知りませんでしたわ」
「というより、踊っているのを初めて見ました。てっきり、下手だから踊らないのだと思っていたのに」
正直な感想を口にする人にエドは顔を顰めた。彼女達にわざわざ近づいて行こうとする彼を私は静止した。
「あの程度のことなら、別にどうでもいいです」
「だめ。君を悪く言われたら俺が腹が立つんだ」
私は首を振った。
「こんなことでお怒りになってはいけませんよ? それに、彼女達に誤解を与えた私も悪いのです」
私はエドの手を取った。
「これからはみんなの前でたくさん踊って、あんなことを言われずに済むようにします。だから、エドも協力してくださいね」
エドの機嫌を直したくて私は頑張って微笑んだ。また変な顔になっていないか心配だったけど、私を見て嘲笑う人がいなかったから多分大丈夫だ。
「そう。それならもう一曲踊ろうか」
エドはにこりと笑った。私は彼の言葉に頷いた。
結局、私達はその後、3曲も踊った。難しい曲もあってほんの少しミスをしてしまったけれど、エドがすかさずフォローしてくれたおかげで大事には至らなかった。
「イザベラ嬢、本当にお上手でした」
踊り終えた私達にローズマリー嬢が言った。
「ありがとうございます。エドのおかげですよ」
「いえ、そんなことはありません。今までエドのパートナーを務めた方の中で一番と言っても過言ではないくらい息がぴったりでした」
そこまで言われると少し照れてしまう。
「お褒めのお言葉、とても嬉しいです」
ちらりとエドを見たら彼は嬉しそうに笑っていた。
「こんなにお上手なのに、今までどうして踊らなかったんですか」
私はローズマリー嬢の質問に、正直に答えた。
「踊ってくれる相手がいなかったからです」
フィリップ様は私と接触することを好まなかった。彼がエリナと出会ってからは特に嫌がるようになり、彼はエリナをパートナーに指名するのが当たり前だった。
だから、私は人前でダンスを披露する機会がなかった。別に隠していたわけでもなく、たったそれだけの理由だった。
でも、ローズマリー嬢は顔を引きつらせた。
「ああ、そうなんですね」
どうしてそんな顔をするのかとじっくりと考えて私はようやく理解できた。私は暗に「フィリップ様とは険悪な仲でした」と答えていたのだ。
━━また、変な空気になるようなことを言ってしまった。
自分で蒔いた種なんだから、私が何とかしないといけないのは分かっている。でも、どうすればいいのか分からない。そう思っているとエドが私の肩に触れた。
「過去のことはどうでもいいだろう。これからはベラの踊る姿はいくらでも見れるんだから」
彼がそう言った途端、ローズマリー嬢に口元に手を当てて笑った。
「エド、あなたがそんなにキザで積極的なセリフを言う人だったなんて知らなかったわ」
ローズマリー嬢はそう言って笑った。
「君に恥をかかせないように頑張るよ」
エドはそんなことを言っていたけれど、彼の踊りが上手なことは同級生の誰もが知ることだった。そんな彼が失敗なんてするはずがない。私こそ、彼に恥をかかせないようにしないといけない。
幸い流れている曲は古典的でリズムの取りやすいものだった。だから、大きく失敗することはないだろう。
「懐かしい。この曲、文化祭のダンス大会の課題曲だったんだよ」
踊っている最中、エドが言った。去年の夏に学園で行われたダンス大会のことなんてよく覚えていられるなと感心する。
「そうでしたか」
「やっぱり、覚えてないんだね」
エドは苦笑した。
「はい」
「まあ、仕方がないか。ベラは踊らなかったし」
ダンス大会は全員参加ではなく、自薦と他薦によって選ばれた者だけが参加できるものだった。私も誰かに推薦されていたみたいだけれど、断っていた。パートナーを探すのは大変そうだし、何より人に踊りを見せつけるほど自分の踊りが上手いとは思えなかったからだ。
「ねえ、ベラ。どうしてあの時、大会に出なかったの?」
「私程度のダンスのスキルでは恥をかくだけですから」
「そんなことないよ。むしろ優勝できてもおかしくなかったと思う」
ダンス大会に参加して、実際に優勝したエドに言われると、何だか嫌味に聞こえる。
「ごめん、褒めてるつもりなんだけど。嫌な思いをさせたね」
「そんなこと、ありません」
「嘘をついてもダメだよ。顔に出てるから」
「顔に?」
「うん」
そう言われてもにわかには信じがたかった。私は"氷の令嬢"と揶揄されているくらいだから良くも悪くも気持ちが顔に出ないのに。
「そんなに驚くことかな?」
「ええ。だって、私は」
"氷の令嬢だから"と言葉を続けようとした時に音楽が終わった。音楽が終わったのにそのまま話をするのは気が引けて、私は黙った。
「まあ、エドワード殿下とイザベラ嬢のダンス素敵でしたわ」
誰かの声を皮切りに次々と称賛の声があげられた。
「イザベラ嬢があんなに上手だなんて知りませんでしたわ」
「というより、踊っているのを初めて見ました。てっきり、下手だから踊らないのだと思っていたのに」
正直な感想を口にする人にエドは顔を顰めた。彼女達にわざわざ近づいて行こうとする彼を私は静止した。
「あの程度のことなら、別にどうでもいいです」
「だめ。君を悪く言われたら俺が腹が立つんだ」
私は首を振った。
「こんなことでお怒りになってはいけませんよ? それに、彼女達に誤解を与えた私も悪いのです」
私はエドの手を取った。
「これからはみんなの前でたくさん踊って、あんなことを言われずに済むようにします。だから、エドも協力してくださいね」
エドの機嫌を直したくて私は頑張って微笑んだ。また変な顔になっていないか心配だったけど、私を見て嘲笑う人がいなかったから多分大丈夫だ。
「そう。それならもう一曲踊ろうか」
エドはにこりと笑った。私は彼の言葉に頷いた。
結局、私達はその後、3曲も踊った。難しい曲もあってほんの少しミスをしてしまったけれど、エドがすかさずフォローしてくれたおかげで大事には至らなかった。
「イザベラ嬢、本当にお上手でした」
踊り終えた私達にローズマリー嬢が言った。
「ありがとうございます。エドのおかげですよ」
「いえ、そんなことはありません。今までエドのパートナーを務めた方の中で一番と言っても過言ではないくらい息がぴったりでした」
そこまで言われると少し照れてしまう。
「お褒めのお言葉、とても嬉しいです」
ちらりとエドを見たら彼は嬉しそうに笑っていた。
「こんなにお上手なのに、今までどうして踊らなかったんですか」
私はローズマリー嬢の質問に、正直に答えた。
「踊ってくれる相手がいなかったからです」
フィリップ様は私と接触することを好まなかった。彼がエリナと出会ってからは特に嫌がるようになり、彼はエリナをパートナーに指名するのが当たり前だった。
だから、私は人前でダンスを披露する機会がなかった。別に隠していたわけでもなく、たったそれだけの理由だった。
でも、ローズマリー嬢は顔を引きつらせた。
「ああ、そうなんですね」
どうしてそんな顔をするのかとじっくりと考えて私はようやく理解できた。私は暗に「フィリップ様とは険悪な仲でした」と答えていたのだ。
━━また、変な空気になるようなことを言ってしまった。
自分で蒔いた種なんだから、私が何とかしないといけないのは分かっている。でも、どうすればいいのか分からない。そう思っているとエドが私の肩に触れた。
「過去のことはどうでもいいだろう。これからはベラの踊る姿はいくらでも見れるんだから」
彼がそう言った途端、ローズマリー嬢に口元に手を当てて笑った。
「エド、あなたがそんなにキザで積極的なセリフを言う人だったなんて知らなかったわ」
ローズマリー嬢はそう言って笑った。
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