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11 画材屋にて

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 手を繋いだまま話をしていると馬車はあっという間に画材屋の前に到着した。私達は馬車を降りて、店の中に入った。

 この店は首都で一番大きな画材屋というだけあって、品揃えがとてもいい。目当ての絵の具やブラシを手に取った後、ついでに色々な物を見て回っていた。

「この色は、綺麗じゃないか?」
 エドは絵の具の一つを手に取った。
「ええ。でも、それは水彩絵の具ですから」
 私は水彩画はほとんど描いたことがない。エドの言う通り綺麗な色だと思うけれど、買ったところで宝の持ち腐れになるだけだ。
「そんなに油彩と水彩って描く上でもそんなに違うものなの?」
「ええ」
「ふぅん」
 エドが絵の具を元の位置に戻した時、店の扉が開いた。

「いらっしゃいませ」
 店に入って来たのは、アンリ伯爵夫人とエリナだった。二人とも私を見るなり顔を強張らせた。
 でもそれはほんの一瞬のことで、エリナは私達に向かってお辞儀をして、アンリ伯爵夫人は私の下に挨拶に来た。

「お久しぶりです、モラン侯爵令嬢」
「ええ。お久しぶりです。夫人のサロン以来ですね」
 夫人のサロンに参加をした時はまだ学生だったから、半年と少し以来だ。夫人からサロンへの誘いを頂いていたのだけれど、忙しくて出席できずにいた。

「今日は画材を買いに?」
 夫人の言葉に私は頷いた。
「はい。描きたい風景があるのですが、絵の具を切らしてしまって」
「まあ、どんな絵を描く予定ですの?」
「冬景色です。以前、夫人が見せて下さったイアン・ホワンソンの風景画とそっくりな景色を見て私も描きたくなったんです」
「まあ! それは素敵」
 夫人はにこりと笑った。

「こちらの方がアンリ伯爵夫人?」
 エドの言葉に夫人はお辞儀をして挨拶をした。私は、「そうです」と返事をして夫人にエドを紹介した。
「すみません、エドワード殿下。挨拶が遅れました」
「いや、気にしなくていい。ところで、彼女とはどういう関係で?」
 彼女というのは、エリナのことだ。私と夫人があえて触れないようにしていたのに。夫人とエリナは再び顔をこわばらせた。

「彼女は、我が家で雇っている侍女ですの」
「なるほど。夫人の所に就職したんだね」
 エドがエリナに向かって言うと、彼女は「はい」と返事をした。
 いつも明るくてかわいらしい笑顔を浮かべるエリナがとても困った顔で俯いている。ついこの間、私がフィリップ様から婚約破棄を言い渡されたばかりだ。当事者の一人であるエリナが気まずい思いをするのは当然だろう。

「エド、あまり長話をしていてはお二人を困らせてしまいますわ」
「ああ、すまない。つい」
 私は夫人に向かって会計をしてくると言って、話を終わらせた。そして、店員に商品の代金を支払うと、私は二人に挨拶をして店を出た。
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