【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依

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8 噂を流した犯人?

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 その後、私達は自然公園の中をゆっくり散策して回った。途中で、童心に帰って雪だるまを作ってみたり、雪投げをしたりもした。そんなことをしていたから、家に帰る頃には辺りはすっかり暗くなっていた。

 家に帰ると、私は真っ先にお風呂に入った。お湯はいつも通りぬる目にしてもらっているのに、手や足先が異様に熱く感じた。その感覚が妙に気持ちいい。
 今日は思った以上に歩いて回ったから少し疲れた。湯船にゆっくり浸かって、疲れを癒やしたかったから、メイドには一度下がってもらった。
 
 ━━今日は、楽しかったな。

 こんなに楽しいと思ったのはいつぶりだろう。いや、そもそも、家族以外の人と出かけてこんなに楽しいと思ったのは初めてかもしれない。
 次のデートはどこに行くのかしら? また近々会おうと言う話にはなったけれど、具体的な予定は決めなかった。

 ━━そういえば、今回のデートのお礼をしなくても良いものなのかしら?

 デートの後にお礼について学園で同級生が話していたのを聞いたことがある。でも、具体的なことはまるで覚えていない。
 そもそも、私はデートの作法も良く分かっていない。お母様に聞いてきちんと確認をした方がいいのかもしれないけれど、いい歳をした娘が、母親に恋愛相談をするのも何だか恥ずかしい。
 どうすればいいものかと悩んでいたら、メイドが帰って来た。随分長い事考え込んでいたらしい。
 結局、どうすればいいのか分からないまま、私はお風呂を出た。
 






 次の日の朝、支度を整えて部屋を出ると、お母様の怒声が響いていた。私は階段を降りるとすぐにお母様の下に向かった。
 怒鳴るお母様の隣には、意外にもお父様がいた。お父様がお母様のヒステリーを止めないということは、とても良くないことが起こっているということだ。
 
「どうしましたの。お母様」
 声をかけると、お母様は新聞を突き出してきた。

 "イザベラ令嬢、新恋人と密会か!?"

 見出しには、そう書かれていた。よくよく、内容を読んでみると、私が昨日、うちの馬車で街に行き、"新恋人"と密会していたという内容だった。
 エドの名前を書いていないのは、流石に王族を揶揄するような記事はかけないとゴシップ紙側が判断したのだろう。
「あの場にあなたが行ったことを知っているのは、この御者だけよ。うちの情報を他所にベラベラと話すなんて!」
 お母様は御者の男を責め立てた。
「違うのです。奥さま、私は」
「黙りなさい!」
 お母様は長年仕えてくれた御者に裏切られたことが相当ショックだったようだ。今にも掴みかからんとするお母様を使用人達は必死に宥めていた。
「お父様、御者の言い分も聞いてあげて下さい。何かの間違いかもしれませんから」
 お父様にそっと耳打ちすると、お父様は小さく頷いた。

「クレモン伯爵夫人のサロンに行ってきます」
 私が言うと、お母様は一度、怒鳴るのをやめて、「気を付けて行ってらっしゃい」と言った。







 クレモン伯爵夫人の屋敷で、今日は詩を学んだ。私は、隣国の若手の詩人であるセリーナ・エーレンベルクの詩が特に気に入った。彼女の詩集は我が国でも何冊か出されているようだから、後で取り寄せてもらおう。そう思ってメモを取っていたら、声をかけられた。

「ごきげんよう、イザベラ嬢」
「ごきげんよう、アイラ嬢」
 アイラ・マダール伯爵令嬢は、学園の1つ上の先輩だった。彼女は何かと私を目の敵にしてきて、少し苦手な存在だった。
「フィリップ様と別れたんですってね」
「はい」
「愛人に取られてしまうなんて情けないわ」
 アイラの言葉にくすくすと笑う声が聞こえた。近くにいたアイラ嬢と親しくしている令嬢が私を見て笑っている。
「そうですね。お恥ずかしい限りです」
「あら? 本当にそう思っているの? もう新しい恋人ができたって噂だけれど」
「アイラ嬢もあんなゴシップ紙をお読みに?」
 そう言ったらアイラ嬢は顔を歪めてどこかに行ってしまった。

 ━━また、変なことを言ってしまったのかしら?

 そう思った時には、すでに私の周りから人がいなくなっていた。

 ━━誰かに、それとなくデートの作法を聞こうと思ったのに。

 でも、そんな空気ではとてもない。私はいつも以上に腫れ物として扱われることになった。
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