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31-1 幸せにしたい
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私達は宿を出ると近くのレストランで食事を摂る事にした。
宿屋の側にあるレストランは、いかにも高級そうな所ばかりだった。
アンディは比較的小さなお店の前で立ち止まった。
「ここの肉は上手いって第二王子が言っていた」
「そう。・・・・・・でも高そうじゃない?」
「だろうな」
といいつつも、アンディは店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
店員からにこやかな挨拶を受けてしまっては帰るに帰れない。私達は案内されるがまま席に着いた。
アンディがステーキの評判を聞いて来店した旨を伝えて、おすすめの料理を私達に合わせた分量だけ持ってくるように伝えた。
店員が去っていったのを確認してから私は店を見渡してみた。夕食時を大分過ぎているせいだろう。お店の中には殆ど客がいなかった。おかげで、大きな声を出さなければ他の人に私達の会話は聞かれずに済みそうだ。
「アンディ、私のために無理をして贅沢をしなくていいんだよ」
前から胸に抱え込んでいた事をストレートに伝えたのに、彼は「無理はしていない」と頑なだった。
「それじゃあ、英雄になってから高価な物が好きになったの?」
「どうだろう。昔よりは値段を気にしなくなったな」
彼はそう言うと私の耳元に顔を近づけた。そして、彼の持つ巨額の資産を囁いた。
「え!?」
思ってもみない金額に私は大声をあげそうになってしまった。
「王族や大貴族に比べたら大した事はないだろうが、それでも田舎の領主にしては持っている方だと思うんだが」
私は"役立たずのシアリーズ"として育てられていたから、領地の経営については明るくない。でも、そんな私でさえ、彼の資産は少なくないと分かるくらいの額だった。
「そんな大金をどうやって手に入れたの?」
「傭兵時代の稼ぎと先のドラゴン討伐の褒賞金だ」
アンディは何でもない事のように言ったけれど・・・・・・。
「アンディ、これからもそうやってお金を稼いでいくつもり?」
アンディの顔が歪んだ。
「何だ、急に?」
仏頂面の彼に臆しそうになる。前までのように何も言えなくなりそうになった。
━━ちゃんと言わないと、今までのままだわ。
私はみんなを幸せにしたい。そのためには、今までのように黙って小さく縮こまっていてはだめだ。そうやって殻に籠もっていたから、再会したアンディを困らせたんだから。
━━記憶の中のアンディはむすっとしている事が多かった。でも、顔付きに似合わず優しい人だったわ。
だから大丈夫だと自分に言い聞かせて、私は自分の思いを伝える事にした。
「心配なの。あなたが傭兵稼業を営むという事は、言い換えれば危険の中に身を置くということでしょ? これまでは大丈夫だったかもしれないけど・・・・・・。これからもずっとそうだとは限らないじゃない?」
アンディの実力を疑うような言い方をしてしまったかもしれないと後悔し始めた時、彼は「そうか」と呟いた。
「傭兵稼業は控えるつもりではいる。俺もシアを未亡人にさせたくはないからな。ただ、騎士の位を授かった以上、王命に従って戦場に赴くことはあるだろう」
アンディの言葉を聞いて、私は胸を撫で下ろした。
「嬉しいよ」
アンディの呟きに私は戸惑った。
「どこに喜ぶ要素があったの?」
「シアが俺の事を思ってくれていると知れたから。だから嬉しいんだ」
アンディはそう言って笑った。幼い頃の記憶にあった優しい彼の笑顔。懐かしさとともに、胸の奥がくすぐったい気持ちになってくる。
━━私は、アンディに幸せになって欲しい。そして、アンディと幸せになりたい。
胸の中で想いが膨らんでいくのを感じていると、店員が前菜のサラダを持ってやって来た。
宿屋の側にあるレストランは、いかにも高級そうな所ばかりだった。
アンディは比較的小さなお店の前で立ち止まった。
「ここの肉は上手いって第二王子が言っていた」
「そう。・・・・・・でも高そうじゃない?」
「だろうな」
といいつつも、アンディは店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
店員からにこやかな挨拶を受けてしまっては帰るに帰れない。私達は案内されるがまま席に着いた。
アンディがステーキの評判を聞いて来店した旨を伝えて、おすすめの料理を私達に合わせた分量だけ持ってくるように伝えた。
店員が去っていったのを確認してから私は店を見渡してみた。夕食時を大分過ぎているせいだろう。お店の中には殆ど客がいなかった。おかげで、大きな声を出さなければ他の人に私達の会話は聞かれずに済みそうだ。
「アンディ、私のために無理をして贅沢をしなくていいんだよ」
前から胸に抱え込んでいた事をストレートに伝えたのに、彼は「無理はしていない」と頑なだった。
「それじゃあ、英雄になってから高価な物が好きになったの?」
「どうだろう。昔よりは値段を気にしなくなったな」
彼はそう言うと私の耳元に顔を近づけた。そして、彼の持つ巨額の資産を囁いた。
「え!?」
思ってもみない金額に私は大声をあげそうになってしまった。
「王族や大貴族に比べたら大した事はないだろうが、それでも田舎の領主にしては持っている方だと思うんだが」
私は"役立たずのシアリーズ"として育てられていたから、領地の経営については明るくない。でも、そんな私でさえ、彼の資産は少なくないと分かるくらいの額だった。
「そんな大金をどうやって手に入れたの?」
「傭兵時代の稼ぎと先のドラゴン討伐の褒賞金だ」
アンディは何でもない事のように言ったけれど・・・・・・。
「アンディ、これからもそうやってお金を稼いでいくつもり?」
アンディの顔が歪んだ。
「何だ、急に?」
仏頂面の彼に臆しそうになる。前までのように何も言えなくなりそうになった。
━━ちゃんと言わないと、今までのままだわ。
私はみんなを幸せにしたい。そのためには、今までのように黙って小さく縮こまっていてはだめだ。そうやって殻に籠もっていたから、再会したアンディを困らせたんだから。
━━記憶の中のアンディはむすっとしている事が多かった。でも、顔付きに似合わず優しい人だったわ。
だから大丈夫だと自分に言い聞かせて、私は自分の思いを伝える事にした。
「心配なの。あなたが傭兵稼業を営むという事は、言い換えれば危険の中に身を置くということでしょ? これまでは大丈夫だったかもしれないけど・・・・・・。これからもずっとそうだとは限らないじゃない?」
アンディの実力を疑うような言い方をしてしまったかもしれないと後悔し始めた時、彼は「そうか」と呟いた。
「傭兵稼業は控えるつもりではいる。俺もシアを未亡人にさせたくはないからな。ただ、騎士の位を授かった以上、王命に従って戦場に赴くことはあるだろう」
アンディの言葉を聞いて、私は胸を撫で下ろした。
「嬉しいよ」
アンディの呟きに私は戸惑った。
「どこに喜ぶ要素があったの?」
「シアが俺の事を思ってくれていると知れたから。だから嬉しいんだ」
アンディはそう言って笑った。幼い頃の記憶にあった優しい彼の笑顔。懐かしさとともに、胸の奥がくすぐったい気持ちになってくる。
━━私は、アンディに幸せになって欲しい。そして、アンディと幸せになりたい。
胸の中で想いが膨らんでいくのを感じていると、店員が前菜のサラダを持ってやって来た。
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