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30-2 解ける誤解
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本当にどうしたんだろう。私は彼の背中に腕を回した。
「思い出して、くれたのか?」
抱きついたままアンディが言った。
「うん。ちょっとだけね」
「そうか」
彼の返事が鼻声になっているように聞こえたのは気のせいだろうか?
━━謝らなきゃ。
別れの挨拶もなく山を離れた事を。
みんなの思い出を忘れて生きてきた事を。
昔した約束のためにアンディに苦労をかけた事を。
折角迎えに来てくれたのにアンディの優しさや愛情に気づけなかった事を。
私から離婚を申し込まれると思い込む程、アンディに素っ気ない態度を取っていた事を。
私には謝らないといけない事が沢山あった。ちゃんと謝らないといけないのに、胸の奥から溢れる想いのせいで、言葉に詰まった。
「今まで、ごめんね」
やっと言えた謝罪の言葉は短くて具体性に欠けるものだった。
今の私にできる謝罪がこの程度の物だと思うと情けなくてしょうがない。
「ごめん、本当にごめん」
「いいんだ。思い出してもらえただけで」
ごめんとしか言えない私をアンディは許してくれた。
私は顔を見てお礼を言いたかったから、彼から身体を話した。すると、彼は慌てた様子で目を擦った。
━━やっぱり、泣いてたんだ。
さっきの鼻をすする音は聞き間違いではなかったようだ。私はアンディの背中を擦った。
「ねえ、アンディ」
「何だ?」
彼は何事もなかったかのように返事をした。泣いていた事を知られたくないのだろう。
私は気づいていないふりをして、彼に伝えたい事を言った。
「私も、あなたと離婚したくないわ。大好きなんだもの」
アンディは目を丸くした。
「本当に、・・・・・・本当にそう思っているのか」
アンディの質問に私は自信をもって「そうよ」と答えた。
「私、多分、昔からアンディの事が好きだったの」
「多分って・・・・・・」
「ごめんね。まだ全部を思い出した訳じゃないから」
それでも、記憶の中の私は彼を慕っていた事ははっきりと思い出した。それは友達としての好意で、恋心と呼べる物ではなかったのかもしれない。
でも、彼のお姫様になると約束したくらいだ。いくら小さな子どもだったとはいえ、好きでもない相手とそんな約束はしないと思う。
「小さい頃の気持ちは断言できないけど・・・・・・。これだけははっきり言えるわ。あなたと結婚してからの私は心の底でこう願ってた。『このままアンドリュー卿の妻として幸せに暮らしていきたい』って」
アンディは複雑だと言わんばかりに難しい顔をした。
「それなら、どうして俺に対して怯えた様な素振りをしたんだ? ずっと俺と別れたいと言いたげにしていただろう」
「ごめんね・・・・・・」
私は自分の事ばかり考えていて彼の気持ちなんてまともに考えていなかった。私をずっと想ってくれたアンディに対して酷い態度をとっていたんだと改めて思う。
「私は私を偽りの聖女だと思っていたから」
「偽りの聖女、だって?」
「うん。私は自分が既に聖女としての力を発現させていた事も忘れていたの。だから、あなたの求める"ジョルネスの娘"が私ではないと思ってたわ」
「シアは昔の事を忘れていたとは聞いていたが・・・・・・」
アンディはフェイを見た。何で詳しく教えなかったんだと言いたげだ。
「私も知らなかったのよ。てっきり、神聖力を使える状態を隠しているのだとばかり思っていたわ。シアと話をしてみたらそうじゃないと分かったんだけどね。でも、あなた達ったら全然話をしないから・・・・・・」
だから誤解が解けるのがこんなにも遅くなったのよと指摘された。フェイの言葉に私とアンディはしゅんとならずにはいられなかった。
「まあ、過ぎた事はしょうがないから、今からでもしっかり話をしましょうよ」
フェイに促されて私は再びアンディに向き合った。
「ごめんね、アンディ。私は"ジョルネスの娘"と偽っている事がいつかバレるんじゃないかって思って怖かったの。それに、アンディを騙している事に対して後ろめたさを感じてたわ」
「だから、あんなに思い詰めた表情をしていたんだな」
アンディはそう言うと私の髪を撫でた。
「分かってあげられなくてすまなかった」
「アンディが謝ることなんてないの。自分の保身ばかりを考えていた私が悪かったんだから」
「いや、俺ももう少し寄り添っていれば正直に打ち明けられたんだろ?」
私は首を振った。
「多分、私は言わなかったよ。私は『アンドリュー卿を騙し続けて、このまま何も知らないあなたに優しくされたい』と願っていたんだから」
言ってみると改めて自分が保身に走っていた酷い人間なんだと分かる。
「それなのに・・・・・・。私はこんな酷い事を考えていたのに、アンディが愛人を囲っていると勘違いをして、嫉妬して・・・・・・」
「愛人!?」
アンディは素っ頓狂な声をあげた。
「それなんだけど」
フェイがこれまでの事を説明するとアンディは「なるほど。俺にもやっと理解ができた」と呟いた。
「思い出して、くれたのか?」
抱きついたままアンディが言った。
「うん。ちょっとだけね」
「そうか」
彼の返事が鼻声になっているように聞こえたのは気のせいだろうか?
━━謝らなきゃ。
別れの挨拶もなく山を離れた事を。
みんなの思い出を忘れて生きてきた事を。
昔した約束のためにアンディに苦労をかけた事を。
折角迎えに来てくれたのにアンディの優しさや愛情に気づけなかった事を。
私から離婚を申し込まれると思い込む程、アンディに素っ気ない態度を取っていた事を。
私には謝らないといけない事が沢山あった。ちゃんと謝らないといけないのに、胸の奥から溢れる想いのせいで、言葉に詰まった。
「今まで、ごめんね」
やっと言えた謝罪の言葉は短くて具体性に欠けるものだった。
今の私にできる謝罪がこの程度の物だと思うと情けなくてしょうがない。
「ごめん、本当にごめん」
「いいんだ。思い出してもらえただけで」
ごめんとしか言えない私をアンディは許してくれた。
私は顔を見てお礼を言いたかったから、彼から身体を話した。すると、彼は慌てた様子で目を擦った。
━━やっぱり、泣いてたんだ。
さっきの鼻をすする音は聞き間違いではなかったようだ。私はアンディの背中を擦った。
「ねえ、アンディ」
「何だ?」
彼は何事もなかったかのように返事をした。泣いていた事を知られたくないのだろう。
私は気づいていないふりをして、彼に伝えたい事を言った。
「私も、あなたと離婚したくないわ。大好きなんだもの」
アンディは目を丸くした。
「本当に、・・・・・・本当にそう思っているのか」
アンディの質問に私は自信をもって「そうよ」と答えた。
「私、多分、昔からアンディの事が好きだったの」
「多分って・・・・・・」
「ごめんね。まだ全部を思い出した訳じゃないから」
それでも、記憶の中の私は彼を慕っていた事ははっきりと思い出した。それは友達としての好意で、恋心と呼べる物ではなかったのかもしれない。
でも、彼のお姫様になると約束したくらいだ。いくら小さな子どもだったとはいえ、好きでもない相手とそんな約束はしないと思う。
「小さい頃の気持ちは断言できないけど・・・・・・。これだけははっきり言えるわ。あなたと結婚してからの私は心の底でこう願ってた。『このままアンドリュー卿の妻として幸せに暮らしていきたい』って」
アンディは複雑だと言わんばかりに難しい顔をした。
「それなら、どうして俺に対して怯えた様な素振りをしたんだ? ずっと俺と別れたいと言いたげにしていただろう」
「ごめんね・・・・・・」
私は自分の事ばかり考えていて彼の気持ちなんてまともに考えていなかった。私をずっと想ってくれたアンディに対して酷い態度をとっていたんだと改めて思う。
「私は私を偽りの聖女だと思っていたから」
「偽りの聖女、だって?」
「うん。私は自分が既に聖女としての力を発現させていた事も忘れていたの。だから、あなたの求める"ジョルネスの娘"が私ではないと思ってたわ」
「シアは昔の事を忘れていたとは聞いていたが・・・・・・」
アンディはフェイを見た。何で詳しく教えなかったんだと言いたげだ。
「私も知らなかったのよ。てっきり、神聖力を使える状態を隠しているのだとばかり思っていたわ。シアと話をしてみたらそうじゃないと分かったんだけどね。でも、あなた達ったら全然話をしないから・・・・・・」
だから誤解が解けるのがこんなにも遅くなったのよと指摘された。フェイの言葉に私とアンディはしゅんとならずにはいられなかった。
「まあ、過ぎた事はしょうがないから、今からでもしっかり話をしましょうよ」
フェイに促されて私は再びアンディに向き合った。
「ごめんね、アンディ。私は"ジョルネスの娘"と偽っている事がいつかバレるんじゃないかって思って怖かったの。それに、アンディを騙している事に対して後ろめたさを感じてたわ」
「だから、あんなに思い詰めた表情をしていたんだな」
アンディはそう言うと私の髪を撫でた。
「分かってあげられなくてすまなかった」
「アンディが謝ることなんてないの。自分の保身ばかりを考えていた私が悪かったんだから」
「いや、俺ももう少し寄り添っていれば正直に打ち明けられたんだろ?」
私は首を振った。
「多分、私は言わなかったよ。私は『アンドリュー卿を騙し続けて、このまま何も知らないあなたに優しくされたい』と願っていたんだから」
言ってみると改めて自分が保身に走っていた酷い人間なんだと分かる。
「それなのに・・・・・・。私はこんな酷い事を考えていたのに、アンディが愛人を囲っていると勘違いをして、嫉妬して・・・・・・」
「愛人!?」
アンディは素っ頓狂な声をあげた。
「それなんだけど」
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