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30-1 解ける誤解
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「夢って、もう叶ったでしょう? アンドリューは騎士となって悪い父親からシアを救い出したんですもの。・・・・・・まさか、アンドリューの功績が足りないなんて言わないわよね?」
私は首を振った。
私のために危険を顧みずに大きな武勲を立ててくれたアンディに対して私がそんな我儘を言えるはずがなかった。
「アンディと交わした約束は果たされたわ。でも、フェイと語り合った夢はまだ叶ってないの」
そう言って、フェイは眉を顰めてから「ああ・・・・・・」と呟いた。
「確かシアの母親のためにもあなた自身が幸せになって、周りの人間達も幸せにするって話だったわね」
私は頷いた。
「そうよ。でも、今の私はみんなに気を遣われて私の幸せを願われるばかりだった」
幼い頃にした約束を守って、迎えに来てくれたアンディ。彼は不器用ながらも私に愛情を表現しようとしていたと今なら分かる。それなのに、私は自分の保身ばかり考えて、彼の愛を疑ってその行為を勘繰っていた。
そんな考えだったから、私は気づかないうちに自分で自分を不幸に追い込んでいた。それを見たジェシカが私を心配するのも無理のない事だっただろう。
私は逃げるように城を飛び出してジェシカの事を忘れかけていたというのに・・・・・・。
「ジェシカを、・・・・・・お父様から切り離さないと」
「そうね。碌でもない父親の下には置いておけないわね」
ジェシカはカーライル殿下の力を借りてお父様の罪を白日の下に晒すつもりでいるけれど。失敗すれば、お父様がどんな報復をするか分からない。計画に抜かりがないかもう一度確認しよう。
「他にはしたい事はあるの?」
フェイは静かに問いかけてきた。
「フェイは今、幸せ?」
逆に質問をすると、フェイは顎に手をあてて「それなりに」と答えた。
「悪くはないんだけどね。でも、シアとまた森の中で遊べたら毎日がもっと楽しくなるわ」
そう言うとフェイはいたずらっぽく笑った。そんな彼女を見ていると、どんどん涙が流れてくる。
━━また、フェイとアンディと一緒にあの場所で暮らしたい。
そう思った時、部屋の扉が開いた。
部屋に入って来たのはアンディだった。彼は私を見ると顔を歪めて、乱暴に扉を閉めた。
「フェイ!」
怒鳴るように大声で呼びかけるものだから、フェイは当然気を悪くした。
「何よ?」
むすっとした顔で返事をすると、彼女は腕を組んだ。
「お前も余計な事を言ったんだな!」
━━お前も? 余計な事?
戸惑う私を他所に二人は言い争いを始めた。
「アンドリューじゃあるまいし、私がそんな事をするはずないでしょ?」
「じゃあ、どうしてシアが泣いてるんだ!?」
「そういう事は私を問い詰めるんじゃなくて本人に直接聞きなさいよ!」
フェイがそう言うとアンディは私を見た。彼はさっきまで怖い顔でフェイに言葉を投げかけていた。それなのに私を見ると怒っているというより困ったとでも言いたげな顔をしてきた。
━━第二王子殿下との食事に行く前はこんなに機嫌が悪くはなかったのに。一体、彼に何があったのかしら?
私が心配している事を知ってか知らずか、アンディは私に向き直った。
「シア」
彼は力強い目で私を見てこう宣言した。
「俺は、絶対に離婚しないからな!」
そう宣言した彼の気迫に押されて、私の涙はぴたりと止まった。
「う、うん・・・・・・」
何と返事をしたら良いのか分からなくて、私はその一言で終わらしてしまった。
今までの彼ならそれで会話が終っていたけれど、今回は違った。
「俺は誰に何を言われようとシアを手放す気はないし、信じてくれないかもしれないが俺はお前を・・・・・・愛してるんだ」
最後の方は声が小さくなっていたけれど、彼は「愛してる」と確かに言っていた。
「『愛してる』の一言にどれくらい時間をかけたのかしら・・・・・・」
フェイは嫌味っぽく言ったにも関わらず、その顔はとても嬉しそうだった。そんなフェイをアンディは睨みつけると、フェイはわざとらしく舌を出して挑発した。
二人のやり取りを懐かしく思える。きっと思い出せていないだけで、二人はこういう事をよくしていたのだろう。
私の口から笑い声が溢れるとアンディが私を見た。その顔はとても驚いている様で、私は彼にこう尋ねた。
「どうしたの、アンディ?」
彼は、私を強く抱きしめた。
私は首を振った。
私のために危険を顧みずに大きな武勲を立ててくれたアンディに対して私がそんな我儘を言えるはずがなかった。
「アンディと交わした約束は果たされたわ。でも、フェイと語り合った夢はまだ叶ってないの」
そう言って、フェイは眉を顰めてから「ああ・・・・・・」と呟いた。
「確かシアの母親のためにもあなた自身が幸せになって、周りの人間達も幸せにするって話だったわね」
私は頷いた。
「そうよ。でも、今の私はみんなに気を遣われて私の幸せを願われるばかりだった」
幼い頃にした約束を守って、迎えに来てくれたアンディ。彼は不器用ながらも私に愛情を表現しようとしていたと今なら分かる。それなのに、私は自分の保身ばかり考えて、彼の愛を疑ってその行為を勘繰っていた。
そんな考えだったから、私は気づかないうちに自分で自分を不幸に追い込んでいた。それを見たジェシカが私を心配するのも無理のない事だっただろう。
私は逃げるように城を飛び出してジェシカの事を忘れかけていたというのに・・・・・・。
「ジェシカを、・・・・・・お父様から切り離さないと」
「そうね。碌でもない父親の下には置いておけないわね」
ジェシカはカーライル殿下の力を借りてお父様の罪を白日の下に晒すつもりでいるけれど。失敗すれば、お父様がどんな報復をするか分からない。計画に抜かりがないかもう一度確認しよう。
「他にはしたい事はあるの?」
フェイは静かに問いかけてきた。
「フェイは今、幸せ?」
逆に質問をすると、フェイは顎に手をあてて「それなりに」と答えた。
「悪くはないんだけどね。でも、シアとまた森の中で遊べたら毎日がもっと楽しくなるわ」
そう言うとフェイはいたずらっぽく笑った。そんな彼女を見ていると、どんどん涙が流れてくる。
━━また、フェイとアンディと一緒にあの場所で暮らしたい。
そう思った時、部屋の扉が開いた。
部屋に入って来たのはアンディだった。彼は私を見ると顔を歪めて、乱暴に扉を閉めた。
「フェイ!」
怒鳴るように大声で呼びかけるものだから、フェイは当然気を悪くした。
「何よ?」
むすっとした顔で返事をすると、彼女は腕を組んだ。
「お前も余計な事を言ったんだな!」
━━お前も? 余計な事?
戸惑う私を他所に二人は言い争いを始めた。
「アンドリューじゃあるまいし、私がそんな事をするはずないでしょ?」
「じゃあ、どうしてシアが泣いてるんだ!?」
「そういう事は私を問い詰めるんじゃなくて本人に直接聞きなさいよ!」
フェイがそう言うとアンディは私を見た。彼はさっきまで怖い顔でフェイに言葉を投げかけていた。それなのに私を見ると怒っているというより困ったとでも言いたげな顔をしてきた。
━━第二王子殿下との食事に行く前はこんなに機嫌が悪くはなかったのに。一体、彼に何があったのかしら?
私が心配している事を知ってか知らずか、アンディは私に向き直った。
「シア」
彼は力強い目で私を見てこう宣言した。
「俺は、絶対に離婚しないからな!」
そう宣言した彼の気迫に押されて、私の涙はぴたりと止まった。
「う、うん・・・・・・」
何と返事をしたら良いのか分からなくて、私はその一言で終わらしてしまった。
今までの彼ならそれで会話が終っていたけれど、今回は違った。
「俺は誰に何を言われようとシアを手放す気はないし、信じてくれないかもしれないが俺はお前を・・・・・・愛してるんだ」
最後の方は声が小さくなっていたけれど、彼は「愛してる」と確かに言っていた。
「『愛してる』の一言にどれくらい時間をかけたのかしら・・・・・・」
フェイは嫌味っぽく言ったにも関わらず、その顔はとても嬉しそうだった。そんなフェイをアンディは睨みつけると、フェイはわざとらしく舌を出して挑発した。
二人のやり取りを懐かしく思える。きっと思い出せていないだけで、二人はこういう事をよくしていたのだろう。
私の口から笑い声が溢れるとアンディが私を見た。その顔はとても驚いている様で、私は彼にこう尋ねた。
「どうしたの、アンディ?」
彼は、私を強く抱きしめた。
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