上 下
54 / 55

30-1 解ける誤解

しおりを挟む
「夢って、もう叶ったでしょう? アンドリューは騎士となって悪い父親からシアを救い出したんですもの。・・・・・・まさか、アンドリューの功績が足りないなんて言わないわよね?」
 私は首を振った。
 私のために危険を顧みずに大きな武勲を立ててくれたアンディに対して私がそんな我儘を言えるはずがなかった。
「アンディと交わした約束は果たされたわ。でも、フェイと語り合った夢はまだ叶ってないの」
 そう言って、フェイは眉を顰めてから「ああ・・・・・・」と呟いた。
「確かシアの母親のためにもあなた自身が幸せになって、周りの人間達も幸せにするって話だったわね」
 私は頷いた。
「そうよ。でも、今の私はみんなに気を遣われて私の幸せを願われるばかりだった」
 幼い頃にした約束を守って、迎えに来てくれたアンディ。彼は不器用ながらも私に愛情を表現しようとしていたと今なら分かる。それなのに、私は自分の保身ばかり考えて、彼の愛を疑ってその行為を勘繰っていた。
 そんな考えだったから、私は気づかないうちに自分で自分を不幸に追い込んでいた。それを見たジェシカが私を心配するのも無理のない事だっただろう。
 私は逃げるように城を飛び出してジェシカの事を忘れかけていたというのに・・・・・・。

「ジェシカを、・・・・・・お父様から切り離さないと」
「そうね。碌でもない父親の下には置いておけないわね」
 ジェシカはカーライル殿下の力を借りてお父様の罪を白日の下に晒すつもりでいるけれど。失敗すれば、お父様がどんな報復をするか分からない。計画に抜かりがないかもう一度確認しよう。
「他にはしたい事はあるの?」
 フェイは静かに問いかけてきた。
「フェイは今、幸せ?」
 逆に質問をすると、フェイは顎に手をあてて「それなりに」と答えた。
「悪くはないんだけどね。でも、シアとまた森の中で遊べたら毎日がもっと楽しくなるわ」
 そう言うとフェイはいたずらっぽく笑った。そんな彼女を見ていると、どんどん涙が流れてくる。

 ━━また、フェイとアンディと一緒にあの場所で暮らしたい。

 そう思った時、部屋の扉が開いた。

 部屋に入って来たのはアンディだった。彼は私を見ると顔を歪めて、乱暴に扉を閉めた。
「フェイ!」
 怒鳴るように大声で呼びかけるものだから、フェイは当然気を悪くした。
「何よ?」
 むすっとした顔で返事をすると、彼女は腕を組んだ。
「お前も余計な事を言ったんだな!」

 ━━お前も? 余計な事?

 戸惑う私を他所に二人は言い争いを始めた。
「アンドリューじゃあるまいし、私がそんな事をするはずないでしょ?」
「じゃあ、どうしてシアが泣いてるんだ!?」
「そういう事は私を問い詰めるんじゃなくて本人に直接聞きなさいよ!」
 フェイがそう言うとアンディは私を見た。彼はさっきまで怖い顔でフェイに言葉を投げかけていた。それなのに私を見ると怒っているというより困ったとでも言いたげな顔をしてきた。

 ━━第二王子殿下との食事に行く前はこんなに機嫌が悪くはなかったのに。一体、彼に何があったのかしら?

 私が心配している事を知ってか知らずか、アンディは私に向き直った。
「シア」
 彼は力強い目で私を見てこう宣言した。

「俺は、絶対に離婚しないからな!」

 そう宣言した彼の気迫に押されて、私の涙はぴたりと止まった。
「う、うん・・・・・・」
 何と返事をしたら良いのか分からなくて、私はその一言で終わらしてしまった。
 今までの彼ならそれで会話が終っていたけれど、今回は違った。

「俺は誰に何を言われようとシアを手放す気はないし、信じてくれないかもしれないが俺はお前を・・・・・・愛してるんだ」
 最後の方は声が小さくなっていたけれど、彼は「愛してる」と確かに言っていた。

「『愛してる』の一言にどれくらい時間をかけたのかしら・・・・・・」
 フェイは嫌味っぽく言ったにも関わらず、その顔はとても嬉しそうだった。そんなフェイをアンディは睨みつけると、フェイはわざとらしく舌を出して挑発した。
 二人のやり取りを懐かしく思える。きっと思い出せていないだけで、二人はこういう事をよくしていたのだろう。

 私の口から笑い声が溢れるとアンディが私を見た。その顔はとても驚いている様で、私は彼にこう尋ねた。

「どうしたの、アンディ?」

 彼は、私を強く抱きしめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

処理中です...