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29-4 私の大切な人
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でも、その表情は直ぐ様消え去り、彼女は首を振った。
「そんなの、認められないわ」
フェイは眉を逆立てて私を睨みつけた。握りしめた拳がわなわなと震えている。こんなに怒ったフェイを初めて見た。
「シアは私の一番の友達で、契約まで結んだ仲よ。叶うはずのなかった私の夢を叶えてくれた恩人でもあるわ。それなのに、あなたを見捨てて、全てなかったように振る舞うなんてできない」
フェイの気持ちは痛い程よく分かった。もし、彼女が私と同じ目にあっていたとしたら、私も同じ事を言うに決まっている。
私達は互いの不幸を簡単に見過ごせるような関係ではなかった。
でも、フェイには諦めてもらわないといけない。
「ありがとう、私のために真剣に怒ってくれて。・・・・・・でもね、私は私の地獄に友達を・・・・・・、あなた達二人を巻き添えにするつもりはないの」
「そう・・・・・・」
フェイは半ば投げやりに返事をした。
「分かったわ。シアの言う通り、あなたの記憶を消してあげる」
「ありがとう」
「ただ、私はこのままシアとの関係をおしまいにするつもりはないから! それはきっと、アンドリューだって同じよ」
「・・・・・・」
嬉しい言葉だった。涙がこぼれそうになるくらい嬉しかった。
しかし、それを喜んではいけない。二人には、私と関わらず幸せに暮らして欲しかったから。
だから、私は拒絶の言葉を言わなければいけなかった。でも、涙を堪えるのが精一杯で言葉に詰まってしまう。
何も言えない私に対してフェイは言葉を紡いでいく。
「私は妖精の女王ティターニアで、アンドリューはシアのための騎士だから。どんな悪い物に勝てるわ」
「・・・・・・」
「少しだけ時間をもらうことになるけれど、それまで、待っていてね」
フェイの小さな手が私の指先に触れる。言葉にはできなくても、それを振り払ってしまえばフェイの言っていることを拒否できる。頭では分かっていても、それができなかった。
「絶対、迎えに行くから。それまで元気でね」
フェイの紫の瞳から涙が溢れた。それを見ていたら我慢できなくなって私も涙を流した。
「私達、またアンドリューに怒られるわね」
フェイが自嘲気味に言った。
「そうね。・・・・・・アンディにお別れの言葉を言っておいて」
「うん」
フェイが小さく頷いた。
「さあ、準備を済ませないと。妹に話をつけたら私はシアの記憶を消すわ」
「うん・・・・・・」
私は隣の部屋にいるジェシカの元に向かった。彼女はお母様を亡くしたショックで泣きつかれて眠っている。
━━ジェシカも、お父様から守らないと。
お父様はお母様や使用人達に暴力を振っていた。今まで私達姉妹にそれが降りかかった事はなかったけれど、今後もそうだとは限らない。
━━ジェシカには何があっても酷い事をさせない。あの子は私に残った唯一の家族だもの。何かあったらお母様に顔向けできないわ。
だから、私は胸の中で静かに誓った。
━━例え私が殴られて大怪我を負おうとも、ジェシカにだけは暴力を振るわせないわ。
※
クラクラする感覚が治まらない中、私は目を開けた。
私は宿の寝室にいて、目の前には私を心配そうに見つめるフェイがいた。
「思い出した?」
「うん」
思い出せた記憶は断片的で曖昧な部分もあったけれど、過去に何があったのかを思い出すには十分だった。
「シア、泣かないでよ」
そんな事を言われても無理だった。どれだけ拭っても目から涙が溢れてきて止まることはなかった。
「私達は無事に再会できて、シアは私達の事を思い出したんだから。悲しまなくてもいいじゃないの」
━━そうじゃないの。私は忘れていた事を悲しんでいるんじゃない。
「私、夢を叶えられてないわ」
私の呟きにフェイは首を傾げた。
「そんなの、認められないわ」
フェイは眉を逆立てて私を睨みつけた。握りしめた拳がわなわなと震えている。こんなに怒ったフェイを初めて見た。
「シアは私の一番の友達で、契約まで結んだ仲よ。叶うはずのなかった私の夢を叶えてくれた恩人でもあるわ。それなのに、あなたを見捨てて、全てなかったように振る舞うなんてできない」
フェイの気持ちは痛い程よく分かった。もし、彼女が私と同じ目にあっていたとしたら、私も同じ事を言うに決まっている。
私達は互いの不幸を簡単に見過ごせるような関係ではなかった。
でも、フェイには諦めてもらわないといけない。
「ありがとう、私のために真剣に怒ってくれて。・・・・・・でもね、私は私の地獄に友達を・・・・・・、あなた達二人を巻き添えにするつもりはないの」
「そう・・・・・・」
フェイは半ば投げやりに返事をした。
「分かったわ。シアの言う通り、あなたの記憶を消してあげる」
「ありがとう」
「ただ、私はこのままシアとの関係をおしまいにするつもりはないから! それはきっと、アンドリューだって同じよ」
「・・・・・・」
嬉しい言葉だった。涙がこぼれそうになるくらい嬉しかった。
しかし、それを喜んではいけない。二人には、私と関わらず幸せに暮らして欲しかったから。
だから、私は拒絶の言葉を言わなければいけなかった。でも、涙を堪えるのが精一杯で言葉に詰まってしまう。
何も言えない私に対してフェイは言葉を紡いでいく。
「私は妖精の女王ティターニアで、アンドリューはシアのための騎士だから。どんな悪い物に勝てるわ」
「・・・・・・」
「少しだけ時間をもらうことになるけれど、それまで、待っていてね」
フェイの小さな手が私の指先に触れる。言葉にはできなくても、それを振り払ってしまえばフェイの言っていることを拒否できる。頭では分かっていても、それができなかった。
「絶対、迎えに行くから。それまで元気でね」
フェイの紫の瞳から涙が溢れた。それを見ていたら我慢できなくなって私も涙を流した。
「私達、またアンドリューに怒られるわね」
フェイが自嘲気味に言った。
「そうね。・・・・・・アンディにお別れの言葉を言っておいて」
「うん」
フェイが小さく頷いた。
「さあ、準備を済ませないと。妹に話をつけたら私はシアの記憶を消すわ」
「うん・・・・・・」
私は隣の部屋にいるジェシカの元に向かった。彼女はお母様を亡くしたショックで泣きつかれて眠っている。
━━ジェシカも、お父様から守らないと。
お父様はお母様や使用人達に暴力を振っていた。今まで私達姉妹にそれが降りかかった事はなかったけれど、今後もそうだとは限らない。
━━ジェシカには何があっても酷い事をさせない。あの子は私に残った唯一の家族だもの。何かあったらお母様に顔向けできないわ。
だから、私は胸の中で静かに誓った。
━━例え私が殴られて大怪我を負おうとも、ジェシカにだけは暴力を振るわせないわ。
※
クラクラする感覚が治まらない中、私は目を開けた。
私は宿の寝室にいて、目の前には私を心配そうに見つめるフェイがいた。
「思い出した?」
「うん」
思い出せた記憶は断片的で曖昧な部分もあったけれど、過去に何があったのかを思い出すには十分だった。
「シア、泣かないでよ」
そんな事を言われても無理だった。どれだけ拭っても目から涙が溢れてきて止まることはなかった。
「私達は無事に再会できて、シアは私達の事を思い出したんだから。悲しまなくてもいいじゃないの」
━━そうじゃないの。私は忘れていた事を悲しんでいるんじゃない。
「私、夢を叶えられてないわ」
私の呟きにフェイは首を傾げた。
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