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28-6 昔の私

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「大切な事なのに、詳しく聞かずに決めちゃう何て、困った子」
 フェイはそう言いながらも嬉しそうに笑った。
「じゃあ、一応説明して?」
「いいわよ、ちゃんと聞いてね」
 私はしっかりと背筋を伸ばして彼女の言葉に耳を傾ける。
「妖精は生涯に一度だけ、他種族と契約を結ぶ事ができるわ。妖精は契約を結んだ対象と・・・・・・、私ならシアのことね。だから、私はシアと能力を共有する事になるの」
「もしかして、私もフェイみたいに空を飛んだりキラキラを宙に舞わせたりできるの?」
 フェイはにこりと笑って「勿論よ」と言った。
「生き物を木にしたり、惑わせて森の外に出さないようにしたり、記憶を消したりすることだってできるわ」
 フェイの物騒な発言に私は思わず苦笑いをしてしまった。
「私の魔力でできることなら、シアは妖精の魔法を何でも使う事ができるの。それと同じように、私もシアが神聖力でできる事なら、何だってできるようになるわ。そういえば、シアは治癒の力を使えるの? それとも案外、ホーリーみたいな攻撃魔法だったりするのかしら?」
 フェイは目を輝かせて質問をしてきた。
「まだ分からないわ」
 最近、胸の奥から温かい物が湧いてくる感覚はある。ただ、今は治癒や攻撃といったはっきりとした形で表に出すことはできない。
「きっともう少し大人にならないと分からないわ。歴代のジョルネスの娘の力の発現は、15歳前後だって聞いているもの」
「ふぅん。そうなのね。それなら、シアの力がどんなものなのか、楽しみにしておくわ」
 フェイはにこりと笑うと、今度は真面目な顔で「ここからがとても大事な話よ」と言った。
「契約はね、互いが死ぬまで消えることはないの。私が死んだ後もシアは私の力を使えるし、逆だって同じだわ」
「そうなのね」
「もう! シアったら、考えが足りないわ!」
 そう言われても何が何だか分からない。首を傾げるとフェイは詳しく教えてくれた。
「悪い人間や妖精だと、相手を殺して能力だけを奪い取ろうとするのよ? だから契約は安易に結んじゃだめ。慎重にならないと!」
「それなら心配無用だわ。フェイは悪い妖精じゃないもの」
 私はそう言ってフェイの不安を笑い飛ばした。
「フェイは落ち込んだ私を慰めてくれた優しい妖精さんだもの。それに、悪い妖精ならそんな話をせずに黙って私を殺してしまうと思うの。そうでしょう?」
「私はシアが思ってる程、優しくていい妖精ではないけど・・・・・・。でも、あなたを殺すつもりがないことは確かね」
 フェイはそう言って苦笑した。
「フェイこそ、私を悪い人間だとは思わないの?」
「シアは嘘を吐けない人だから。心配していないわ」

 ━━私って、嘘が下手なのかしら?

 そんな疑問が頭を過ったけれど、今、それは重要な事じゃなかった。
「それなら、早く契約を結びましょうよ」
 私が言うと、フェイは「そうね」と言った。
「手を出して」
 私は素直に手を出した。その上にフェイの小さな手が乗った。
「まずは私の魔力を受け止めてね」
「どうやって?」
「手の平から私の魔力が流れ出るのを感じると思うから、それを心臓にまで流し込むようにイメージするの。集中する必要があるから目を閉じて」
 目を閉じると、フェイは妖精語の呪文を唱え始めた。すると、重ねた手の平が温かくなるのを感じた。

 ━━これが、フェイの力なのね。

 ぽかぽかした温かさは手の平から私の内側に徐々に入り込んでくる。ゆっくりと優しく伝っていくその力を、私は言われた通りに心臓へと向かわせるようにイメージした。
 手から腕、腕から胸に温かみが伝わると、そこから一気に全身へと力が駆け巡った。
「もう目を開けてもいいわよ」
 フェイに言われて目を開ける。
「次は私の力をフェイにあげるの?」
「そうね」
 フェイはそう言うと、目を閉じた。きっとさっきの私と同じ事をしているのだろう。
 それからしばらくして、フェイは目を開けた。
「これで契約は終了よ」
「うん。それにしても、案外、何も変化がないのね」
「そんな事はないわよ。あなたはもう空を駆け巡る事ができるんだから」
 そう言うと、フェイは私の遥か頭上に飛び立った。
「ほら、早く飛んでご覧なさいな」
「飛ぶってどうやって?」
「難しく考える必要はないわ。人間が地面を歩くのと大差ないはずよ。空を飛ぶと思うだけだから」

 ━━そんな事、できるわけがないじゃない。

 そう思っていたのに、私の身体は自然と宙に浮いた。フェイの隣に行きたい。そう思っただけで特別な事はしていないのに、だ。
 空高く舞い上がった事に最初こそ戸惑った。でも、それは喜びから来る興奮によってすぐに掻き消されてしまった。

「すごい!」

 フェイの隣に駆け寄ると、私は日頃彼女がやるようにくるりと回ってみせた。それを見たフェイも私と同じように回る。
「きっと、アンディが見たら驚くわね」
 私がそう言うと、フェイはあははと笑った。
「そうね。心配性なあの子は卒倒しちゃうかも」
 フェイの言う通りかもしれない。
 アンディは無骨で愛想のない人だけれど、とっても優しい心を持っている。私が怪我をしないようにいつも気を遣ってくれて、怖い思いをしないように守ろうとしてくれるのをひしひしと感じる。
 アンディは「自分はただの平民の子だ」と言っていたけれど、とてもそんな風には思えない。彼は腕っぷしも強くて心の優しい、まるで物語の騎士のような人だった。

「本当に見せちゃだめよ」
 先程までとは打って変わってフェイが真面目な顔で言った。
「うん・・・・・・」
 本当はアンディにもこの感動を伝えたかったけれど・・・・・・。この事はフェイと私だけの秘密にしておく事にした。

 妖精の魔法を使える事が噂になって広がってしまったら、きっとお母様とジェシカとこの地で静かに暮らす事が難しくなるだろう。最悪、お父様に私の居場所がバレてしまうかもしれない。この平穏な日々を守るために、アンディにすらこの事は話さない。
 彼は私の大切な友達だ。大切な友達だからこそ、言いたくなかった。アンディに迷惑をかけたくないし、何よりも彼となるべく長く一緒にいたかったからだ。

「仲間外れみたいになっちゃうけど・・・・・・、これは私達二人だけの秘密ね」
 苦笑いを浮かべて言えば、フェイも少し困ったような顔をして笑った。
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