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28-4 昔の私
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「幸せは色々な形であるものだけれど、例えば、夢を叶える事じゃないかしら?」
「夢?」
「そう。なりたいものになるの」
「なりたいものかあ」
そんな事を言われてもすぐには思いつかなかった。
城にいた頃は、「大人になったら聖女として立派な働きをしなさい」と言われた。それがジョルネスの娘として生まれてきた私にとっての使命なのだと教えられてきたのだ。
私はそれを嫌だと思った事はなかった。ジョルネス家に伝わる歴代の聖女達の活躍を聞いて、彼女達を尊敬していた。そして、私も彼女達のように困った人々を助けたいと思っていた
でも、"ジョルネスの娘"としての生き方はできない。
私が聖女として活躍をしてしまえば、いずれはお父様の耳に入る事となるだろう。そうなってしまえば、お父様は私達を連れ戻そうとするに違いない。今のようにお母様とジェシカと暮らしていきたいのなら、神聖力は絶対に使ってはいけない。
「聖女になって困っている人の助けをしたかった事くらいかな。でも、それはできないし・・・・・・。他には思いつかないわ」
素直に思っている事を言えば、フェイは「羨ましい悩みね」と呟いた。それから彼女は困ったような顔で笑った。
「何が羨ましいの?」
「シアは私が欲しくて欲しくてたまらない才能を持ってるのに使わないなんて、宝の持ち腐れだと思ったの」
そんな事を言われても、神聖力を使うわけにはいかない。そう思っているとフェイは苦笑いを浮かべた。
「困らせてごめんね。ただの嫉妬よ」
思ってもみない言葉に面を食らった。
「嫌な気持ちになった?」
「ううん」
私は首を振った。
「でも、驚いたわ。フェイに嫉妬されるなんて思ってもみなかったから」
今まで見てきたどんな生き物よりも美しくて、素敵な魔法を使いこなせる彼女に嫉妬されるなんて。それは、ある意味で名誉な事のように思えた。
「シアは優しいわね」
「そんな事ないよ。それより、どうして神聖力が欲しいの?」
「笑わないで聞いてくれる?」
硬い表情でフェイが言った。
「勿論よ」
微笑みかけると、フェイは意を決したのか、軽く頷いた。
「私はティターニアになりたいの」
「さっき話ていた妖精の女王様?」
「うん。それになるのが私の夢なんだ」
「へぇ。フェイが女王様か」
フェイがティターニアになれば、どんな物語の女王にも優るものになるだろうと思った。彼女は誰よりも美しくて、それでいて優しい魅力的な女性だ。そんなフェイなら、王冠がよく似合うだろうなと思った。
そんな事を考えていると、いつの間にか、フェイは不機嫌そうに口をへの字に曲げていた。
「フェイ? どうしたの?」
「別に。何でもないわよ」
言っている言葉とは裏腹に、フェイの機嫌はあからさまに悪かった。何が彼女の機嫌を損ねたのかは分からない。
私は一先ず話題をずらしてみることにした。
「そういえば、妖精の女王様も王冠をかぶるものなのかしら?」
妖精は人間と異なる文化や価値観を持つ生き物だ。女王が妖精達を統治しているからといって、人間のように王冠をかぶるとは限らない。
興味本位で聞いてみると、フェイは不機嫌なままではあるものの、答えてくれた。
「かぶるわよ」
「そうなの? やっぱり金細工の冠なのかしら?」
「人間の女王は金細工の冠をかぶるの?」
怪訝そうな顔でフェイが聞いてくる。
「うん。人間の王様は金の冠をかぶるって決まっているんだから!」
断言したけれど、私は王家の金の冠どころか、王様だって見たことがない。でも、物語の王様はどれも金の冠をかぶった威厳のある人だった。だから、間違いはないだろう。
「頭に金細工のものをのっけるなんて、人間ってやっぱり趣味が悪いわ」
フェイは呟いた。
「そうかな? それより、ティターニアの冠はどんなものなの?」
「精巧な銀細工の冠よ」
「銀かぁ」
頭に銀の冠をかぶったフェイを想像すると自然と笑みがこぼれた。
フェイのキラキラと輝く金の髪を彩る銀の冠は彼女の美しさを際立たせるだろうと思ったからだ。
「夢?」
「そう。なりたいものになるの」
「なりたいものかあ」
そんな事を言われてもすぐには思いつかなかった。
城にいた頃は、「大人になったら聖女として立派な働きをしなさい」と言われた。それがジョルネスの娘として生まれてきた私にとっての使命なのだと教えられてきたのだ。
私はそれを嫌だと思った事はなかった。ジョルネス家に伝わる歴代の聖女達の活躍を聞いて、彼女達を尊敬していた。そして、私も彼女達のように困った人々を助けたいと思っていた
でも、"ジョルネスの娘"としての生き方はできない。
私が聖女として活躍をしてしまえば、いずれはお父様の耳に入る事となるだろう。そうなってしまえば、お父様は私達を連れ戻そうとするに違いない。今のようにお母様とジェシカと暮らしていきたいのなら、神聖力は絶対に使ってはいけない。
「聖女になって困っている人の助けをしたかった事くらいかな。でも、それはできないし・・・・・・。他には思いつかないわ」
素直に思っている事を言えば、フェイは「羨ましい悩みね」と呟いた。それから彼女は困ったような顔で笑った。
「何が羨ましいの?」
「シアは私が欲しくて欲しくてたまらない才能を持ってるのに使わないなんて、宝の持ち腐れだと思ったの」
そんな事を言われても、神聖力を使うわけにはいかない。そう思っているとフェイは苦笑いを浮かべた。
「困らせてごめんね。ただの嫉妬よ」
思ってもみない言葉に面を食らった。
「嫌な気持ちになった?」
「ううん」
私は首を振った。
「でも、驚いたわ。フェイに嫉妬されるなんて思ってもみなかったから」
今まで見てきたどんな生き物よりも美しくて、素敵な魔法を使いこなせる彼女に嫉妬されるなんて。それは、ある意味で名誉な事のように思えた。
「シアは優しいわね」
「そんな事ないよ。それより、どうして神聖力が欲しいの?」
「笑わないで聞いてくれる?」
硬い表情でフェイが言った。
「勿論よ」
微笑みかけると、フェイは意を決したのか、軽く頷いた。
「私はティターニアになりたいの」
「さっき話ていた妖精の女王様?」
「うん。それになるのが私の夢なんだ」
「へぇ。フェイが女王様か」
フェイがティターニアになれば、どんな物語の女王にも優るものになるだろうと思った。彼女は誰よりも美しくて、それでいて優しい魅力的な女性だ。そんなフェイなら、王冠がよく似合うだろうなと思った。
そんな事を考えていると、いつの間にか、フェイは不機嫌そうに口をへの字に曲げていた。
「フェイ? どうしたの?」
「別に。何でもないわよ」
言っている言葉とは裏腹に、フェイの機嫌はあからさまに悪かった。何が彼女の機嫌を損ねたのかは分からない。
私は一先ず話題をずらしてみることにした。
「そういえば、妖精の女王様も王冠をかぶるものなのかしら?」
妖精は人間と異なる文化や価値観を持つ生き物だ。女王が妖精達を統治しているからといって、人間のように王冠をかぶるとは限らない。
興味本位で聞いてみると、フェイは不機嫌なままではあるものの、答えてくれた。
「かぶるわよ」
「そうなの? やっぱり金細工の冠なのかしら?」
「人間の女王は金細工の冠をかぶるの?」
怪訝そうな顔でフェイが聞いてくる。
「うん。人間の王様は金の冠をかぶるって決まっているんだから!」
断言したけれど、私は王家の金の冠どころか、王様だって見たことがない。でも、物語の王様はどれも金の冠をかぶった威厳のある人だった。だから、間違いはないだろう。
「頭に金細工のものをのっけるなんて、人間ってやっぱり趣味が悪いわ」
フェイは呟いた。
「そうかな? それより、ティターニアの冠はどんなものなの?」
「精巧な銀細工の冠よ」
「銀かぁ」
頭に銀の冠をかぶったフェイを想像すると自然と笑みがこぼれた。
フェイのキラキラと輝く金の髪を彩る銀の冠は彼女の美しさを際立たせるだろうと思ったからだ。
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