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23-1 謎の聖女

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 私の疑問に答えたのはカーライル殿下だった。
「君達には、"ジョルネス公爵の不正"という背景がある。カルベーラ卿は公爵に騙されていて、シアリーズ嬢はその嘘に加担せざるを得なかったと主張すれば大丈夫だ」
「お父様の不正?」
 何のことか分からずに首を傾げると、ジェシカはお父様が脱税を始めとする様々な不正を行っていたと教えてくれた。
「ジェシカ嬢が持って来てくれた資料には、到底見過ごせない不正も多くてね。だから国王陛下はジョルネス公爵にそれ相応の処分を下すつもりだ」
「では、お父様は」
「・・・・・・悪いが、これ以上詳細は語れない。ただ、君達姉妹の立場が悪くなるようなことはないこは明言しておくよ」

 ━━本当にそうなんだろうか。事はそんなに簡単に進むものなの?

「お姉様、大丈夫ですよ」
 私の不安を拭うようにジェシカが手を握ってきた。
「それより、お姉様とカルベーラ卿の婚姻関係を早く終わらせましょう。カルベーラ卿にも早く説明をしないと」
 あの頑固なアンドリュー卿が簡単に認めてくれるとは思えない。それに、私は彼を騙してきた身だ。今日だって、嘘を明かさずに高い毛皮のコートを買わせてしまった。
「アンドリュー卿は認めてくれるかしら。私、彼から高価な物をもらったから。・・・・・・きっと、とても怒るわ」
「大丈夫です。カルベーラ卿からもらったものは全て返しましょう。お姉様から預かったダイヤのイヤリングとネックレスはちゃんと持って来ていますから、安心して下さい」
 ジェシカがあれをわざわざ王都にまで持って来ているとは思わなかった。ジェシカは本気で私とアンドリュー卿の婚姻を認めたくないらしい。現に、彼女は「絶対に婚姻の無効を認めさせますから」と言葉を続けた。
「どうやって?」
「カルベーラ卿は教会に対して背信的な行動を取っていたんです。それをバラすと言えば彼は応じてくれるはず」
「何、背信的な行動って」
 私が質問すると、ジェシカは一瞬、顔を顰めて黙った。でも、意を決したのだろう。ジェシカは私の顔を真っ直ぐに見据えた。
「お姉様。・・・・・・これからお姉様にとってショッキングなことをお話します」
 ジェシカはとても真剣な眼差しで私を見た。
「どうやらカルベーラ卿にはとても親しくしている女性がいるんです。愛人じゃないかと噂されるくらいの」

 ━━何だ、そんなことか。

 その噂ならジョルネス城にいる時にも聞いたことがある。アンドリュー卿には、とても美しい恋人がいるのだと。彼女はとても身分が低いからアンドリュー卿と結婚できなかったそうだ。
 だから、アンドリュー卿は私と政略結婚することにしたのではないかとみんなは言っていた。ジョルネス家から得た私の持参金で恋人を養おうとしたんだろうって。

 ━━でも、本当にそうなのかしら。

 みんなが噂をしている時は、私もその噂を信じて疑わなかったけれど。でも、今になってそんなことはないんじゃないかと思えてきた。

 私は、領地にいるというアンドリュー卿の恋人について、彼の部下達が言及している所を見たことがなかった。それに、アンドリュー卿が、恋人を慮ったり連絡を取ろうとしたりする所も。噂が事実なら、今までそういった素振りを一度も見ていないのはあり得ないと思う。
 それに、アンドリュー卿は器用な人じゃない。彼は気持ちがすぐに顔に出る所があるから、恋人の存在を隠せないと思う。

「お姉様、私の言っていることが信じられませんか」
「そうね。彼がそんな事をする人には思えないわ」
 私が答えるとジェシカは頭を抑えて俯いた。
「お姉様ったら、人が良すぎます」
 少し否定したくらいでどうしてそんな反応をするのかしら。
「お姉様、いいですか? カルベーラ卿の愛人はただの人ではないんです」
 固い表情でジェシカが言う。
「どういうこと?」
「その愛人は"聖女"なんです」
 私はジェシカの言葉に目を丸くした。
「聖女?」
 強い神聖力を身に着けた人ならジョルネスの娘でなくても聖女と呼ばれる。
 だから、アンドリュー卿が聖女と付き合っていたとしてもおかしくはない。ただ、その聖女の存在が知れ渡っていないのはあまりにも不自然だった。
 聖女と認められる程の能力を持っているのであれば、多くの人を救える。そして、その力を発揮したのであれば、すぐに名声は広まるだろう。
 実際、ジェシカが聖女として覚醒し、その力で人々を助けると、その名声は瞬く間に広まった。下々の人々のジェシカに対する感謝と敬意の言葉は、噂となって広まっていった。そして、領主や国王陛下からその功績を表彰されたことだってある。
 だから、アンドリュー卿の愛人だという人が本当に聖女というのなら、名前が知れ渡っているはずだった。
 でも、実際はそうではない。今現在、聖女と呼ばれるのはジェシカだけだ。
 
「そんなこと、あるわけないじゃない。今、聖女と認められるのはあなただけなのよ」
「いや、それがどうも聖女のようでな」
 私の言葉を否定したのはカーライル殿下だった。
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