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20-2 赤いドレス
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朝食を済ませると、私はアンドリュー卿とともに仕立て屋に行くことになった。
仕立て屋は王都の一等地であろう、大通りに面した場所にあった。華やかな街の一角にある大きな建物に圧倒されているのは私だけで、アンドリュー卿は躊躇いもなく店のドアを開いた。そして、彼は遠慮なく店の中に入っていく。私は自分がここに来るのは場違いではないかと思いながらもアンドリュー卿の後ろに続いた。
「いらっしゃいませ」
朗らかな声で挨拶をした壮年の女性は、私を見てぱっと明るい笑みを浮かべた。
「カルベーラ卿の奥様でいらっしゃいますよね?」
「は、はい」
彼女は誰だろう。彼女はどうして私をアンドリュー卿の妻と認識したのかしら。
アンドリュー卿をちらりと見ても、彼は何の素振りもみせない。アンドリュー卿は彼女の事を知っているはずなのに、紹介してくれないなんて酷い人だ。
「ああ、すみません。申し遅れました。私はこの店のオーナーのレナ・ヒルデンと申します」
「はじめまして、ヒルデン夫人。シアリーズ・カルベーラです」
挨拶をすると夫人は再びにこにこと笑った。
「お洋服は気に入ってくれましたか」
「はい?」
言っていることが理解できなくて戸惑っていると、夫人はちらりとアンドリュー卿を見た。
でも、アンドリュー卿は相変わらず何の反応もしない。
「すみません、アンドリューから聞いているものとばかり思っていました。奥様が着ていらっしゃるお洋服は、私がデザインしたものなんです」
「そうだったんですか。とても素敵なドレスを作っていただいてありがとうございます」
「いえいえ。気に入っていただけたようで嬉しいですわ」
ヒルデン夫人はそう言うと、続けて「今日はどんな服をお求めでしょう」と聞いてきた。
「妻の服を買いたい。普段着で彼女の好みに合わせて欲しい」
「かしこまりました」
ヒルデン夫人がそう言った時、店の扉が開いた。店の中に入ってきた人を見て、私は目を丸くした。
そこにはジェシカがいた。彼女は見覚えのない若い男性とともに店の中に入って来た。
「ジェシカ・・・・・・」
━━ジェシカがどうしてここに?
驚いているのはジェシカも同じだった。ジェシカは大きな青い瞳を見開いて私を凝視していた。そして、彼女は持っていた手荷物を投げ捨てて私の下に駆け寄ってきた。そして直ぐ様私を抱きしめた。
「お姉様!」
ぎゅっと抱きしめられて身動きが取れない。
「ジェシカ」
放してと言おうとした時、ジェシカが泣いていることに気がついた。声こそ出していないものの、鼻をグズグズと言わせている。
「ジェシカ嬢」
ジェシカと同伴していた男性が言った。彼は何が起こっているのか分からず困惑している。
するとようやくジェシカは私の身体から離れた。
「カーライル殿下、姉です。シアリーズお姉様に会えたんです」
ジェシカが涙を拭いながら言った。
━━王族の方? なぜそんな人とジェシカが?
疑問を口にする前に、私の身体はアンドリュー卿に引き寄せられた。驚いて彼を見たら、アンドリュー卿は不機嫌な顔つきでジェシカを見ていた。
「アンドリュー卿?」
どうしたのかと尋ねてもいいのかと考えあぐねていると、アンドリュー卿は私に目を向けた。
「シア、服を選んでこい」
「え? でも・・・・・・」
折角ジェシカと会えたのだから話がしたかった。
「服を買いに来たんだ。このままここで話し込んでいたら店に迷惑をかける」
ちらりとヒルデン夫人を見たら、困ったような顔で私達の様子を伺っていた。
確かに、アンドリュー卿の言う通りだ。私は頷いてからジェシカに向かって言った。
「服を見て来るわ。その後に話をしましょう」
「はい。・・・・・・お姉様」
ジェシカは少し不満そうな顔で返事をした。どうしてそんな顔をするのか気になったけれど、私はヒルデン夫人に向き直った。
「すいません、お待たせしました」
「いえ、気にしないで下さいませ」
夫人は作り笑いを浮かべると、私を服のサンプルが置いてあるというドレスルームへと案内してくれた。
仕立て屋は王都の一等地であろう、大通りに面した場所にあった。華やかな街の一角にある大きな建物に圧倒されているのは私だけで、アンドリュー卿は躊躇いもなく店のドアを開いた。そして、彼は遠慮なく店の中に入っていく。私は自分がここに来るのは場違いではないかと思いながらもアンドリュー卿の後ろに続いた。
「いらっしゃいませ」
朗らかな声で挨拶をした壮年の女性は、私を見てぱっと明るい笑みを浮かべた。
「カルベーラ卿の奥様でいらっしゃいますよね?」
「は、はい」
彼女は誰だろう。彼女はどうして私をアンドリュー卿の妻と認識したのかしら。
アンドリュー卿をちらりと見ても、彼は何の素振りもみせない。アンドリュー卿は彼女の事を知っているはずなのに、紹介してくれないなんて酷い人だ。
「ああ、すみません。申し遅れました。私はこの店のオーナーのレナ・ヒルデンと申します」
「はじめまして、ヒルデン夫人。シアリーズ・カルベーラです」
挨拶をすると夫人は再びにこにこと笑った。
「お洋服は気に入ってくれましたか」
「はい?」
言っていることが理解できなくて戸惑っていると、夫人はちらりとアンドリュー卿を見た。
でも、アンドリュー卿は相変わらず何の反応もしない。
「すみません、アンドリューから聞いているものとばかり思っていました。奥様が着ていらっしゃるお洋服は、私がデザインしたものなんです」
「そうだったんですか。とても素敵なドレスを作っていただいてありがとうございます」
「いえいえ。気に入っていただけたようで嬉しいですわ」
ヒルデン夫人はそう言うと、続けて「今日はどんな服をお求めでしょう」と聞いてきた。
「妻の服を買いたい。普段着で彼女の好みに合わせて欲しい」
「かしこまりました」
ヒルデン夫人がそう言った時、店の扉が開いた。店の中に入ってきた人を見て、私は目を丸くした。
そこにはジェシカがいた。彼女は見覚えのない若い男性とともに店の中に入って来た。
「ジェシカ・・・・・・」
━━ジェシカがどうしてここに?
驚いているのはジェシカも同じだった。ジェシカは大きな青い瞳を見開いて私を凝視していた。そして、彼女は持っていた手荷物を投げ捨てて私の下に駆け寄ってきた。そして直ぐ様私を抱きしめた。
「お姉様!」
ぎゅっと抱きしめられて身動きが取れない。
「ジェシカ」
放してと言おうとした時、ジェシカが泣いていることに気がついた。声こそ出していないものの、鼻をグズグズと言わせている。
「ジェシカ嬢」
ジェシカと同伴していた男性が言った。彼は何が起こっているのか分からず困惑している。
するとようやくジェシカは私の身体から離れた。
「カーライル殿下、姉です。シアリーズお姉様に会えたんです」
ジェシカが涙を拭いながら言った。
━━王族の方? なぜそんな人とジェシカが?
疑問を口にする前に、私の身体はアンドリュー卿に引き寄せられた。驚いて彼を見たら、アンドリュー卿は不機嫌な顔つきでジェシカを見ていた。
「アンドリュー卿?」
どうしたのかと尋ねてもいいのかと考えあぐねていると、アンドリュー卿は私に目を向けた。
「シア、服を選んでこい」
「え? でも・・・・・・」
折角ジェシカと会えたのだから話がしたかった。
「服を買いに来たんだ。このままここで話し込んでいたら店に迷惑をかける」
ちらりとヒルデン夫人を見たら、困ったような顔で私達の様子を伺っていた。
確かに、アンドリュー卿の言う通りだ。私は頷いてからジェシカに向かって言った。
「服を見て来るわ。その後に話をしましょう」
「はい。・・・・・・お姉様」
ジェシカは少し不満そうな顔で返事をした。どうしてそんな顔をするのか気になったけれど、私はヒルデン夫人に向き直った。
「すいません、お待たせしました」
「いえ、気にしないで下さいませ」
夫人は作り笑いを浮かべると、私を服のサンプルが置いてあるというドレスルームへと案内してくれた。
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