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19-2 愛おしい人

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 その日から、俺とシアとの関係は始まった。あの楽しかった日々を俺は忘れられなかったのに、彼女は違ったようだ。
 ようやく再会し、手に入れた彼女は、俺のことなど微塵も覚えていなかった。俺のことをアンディと呼んでくれないし、"シア"と呼べばおかしなものを見る目で俺を見てくる。

 ━━酷いやつ。

 そう思うのに、俺は彼女のことを少しも嫌いになれそうにもない。



「シア」
 呼びかけても反応はない。王都の宿に着いて、昼寝をしてからずっと眠り続けている。
「晩飯の時間だぞ」
 頬をつついてみてもやはり反応はなかった。

 ━━長旅の疲れが相当溜まってたんだな。

 長年、城から外に出ることのなかった彼女にとって長距離の移動は辛かっただろう。それなのにあいつらときたらシアに対して陰で文句ばかり言いやがって・・・・・・。
 怒りのあまり、ため息が出そうになったが、そうしないように堪えた。そんなことをしたら妙に迷信深いあの妖精が文句を言いにやって来かねない。今は彼女の小言を聞きたい気分じゃない。

 俺は眠るシアの隣に寝転んで彼女の頬を撫でた。眠る顔は昔と変わらず、穏やかなことにほっとする。

 ━━また、昔みたいに笑って欲しい。

 再会してからのシアは、笑顔を見せてくれない。暗い顔でどこか遠くを見つめるか、怯えた表情で俺を見るだけだ。

「私ね、素敵な騎士様と結婚して世界で一番幸せなお姫様になるの」

 いつだったか、シアがそんなことを言った。小さな彼女の夢は、俺達が離れ離れになることが分かった時、俺の夢になった。

 ━━いつか、騎士になってシアを迎えに行こう。

 そう決意したから、俺は長い時間をかけて人の何十倍も努力した。幾重もの戦闘を続け、ブラックドラゴンを倒すと、俺は漸く誰しもが認める騎士になれた。
 その時には身体中が傷まみれで醜くなっていたが、俺は俺の夢が叶うのだから全く気にならなかった。

 でも、そうしてやっとシアを手に入れたというのに、俺の夢は叶うことはなかった。俺が彼女を"世界で一番幸せなお姫様"にしてやれなかったからだ。

 ━━何がだめなんだ? どうすればシアは満足してくれる?

 足りない頭で毎日考えてみても、その答えがでることはない。
 フェイならその答えを知っていそうだが・・・・・・。あの妖精にこれ以上の借りを作るのはごめんだ。
 だから、俺は今日もフェイを呼ばない。いつも通り、足りない頭でシアを満足させる方法を考えるだけだった。
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