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あのやり取りからモンスターに遭遇することはなくなった。そのおかげで私が聖女ではないという部下の人達の疑惑はうやむやになったように思う。
まだ疑念を持たれているのかもしれないけれど、少なくとも誰もあの話題に触れることはなかった。
「これからの道のりは安全になるだろう」
アンドリュー卿がそう言ってからは、本当にモンスターが出なくなった。
王都に近づいているから、人に害をなすモンスターは排除されているのだとアンドリュー卿は教えてくれた。
それから数日すると、馬車は整備された道を進み始めた。
「見慣れた景色だ」
揺れる馬車の中、アンドリュー卿は外を見つめながらぽつりとこうつぶやいた。
「後、数時間で王都にたどり着く」
アンドリュー卿の言う通り、数時間後に王都にたどり着いた。堅牢な関門を通過すると、華やか街がすぐに目に入った。
王都の話はジェシカから聞いていた。下々の人々が暮らす場所でさえ豊かで活気があると。ジョルネス公爵領も豊かだけれど、王都では何もかもが洗練されていてレベルが違うとも言っていた。
ジョルネス公爵領の市街にさえ出られなかったあの時の私にはよく分からなかった。でも、この街並みを見たら、ジェシカが興奮気味に語っていた理由が理解できた。
多くの人が行き交う街の中を馬車が走ること数十分、私達が泊まる宿にたどり着いた。
私達が通された部屋は、とても広い上に豪華な部屋だった。
「折角王都まで来たのにこの程度の部屋で済まないな」
「この程度?」
毛皮の絨毯にシルクのシーツ、蝋燭は蜜蝋で装飾までしてある。
それなのに「この程度」だなんて。英雄となったアンドリュー卿はもっといい部屋を使うことが当たり前になったのだろうか。
「十分、素敵な部屋だと思いますけど」
「お前の家の部屋はもっと立派だろう?」
「いえ、そんなことは」
私の部屋はもっと質素だった。装飾品で部屋を飾ることなんてないし、家具の質は使用人の物と変わらなかった。
そのことをお父様に抗議をしたジェシカに対してお父様はこう言ったそうだ。
「無能で役立たずのシアリーズをお前と同じように大切にするはずがないだろう?」
ジェシカはお父様にとても怒っていた。私を憐れんで物を譲ってくれようとしたこともあったけれど、お父様にバレたら怒られるから受け取らなかった。
「嘘を吐くな。シアの部屋は俺が見ても分かるくらいの高価な物で溢れていたじゃないか」
何のことを言っているのか、一瞬分からなかった。
━━結婚式の後の初夜で使った部屋のことを言っているのね。
あれは客間の一つだ。私が聖女として大切に育てられていたと思わせるために使った部屋だった。
アンドリュー卿は私が城でどんな扱いを受けていたのかを知らない。ジェシカと同じように大切にされて豪勢な暮らしを堪能していたと思っているのだ。
「俺の領地でのシアの部屋はもっと豪華だから、今は我慢してくれ」
アンドリュー卿は申し訳なさそうにしていた。
━━自分が引き受けた女にそうする価値がないと気づかれたらいけない。
私は黙って頷いた。嘘に嘘を重ねてまた罪悪感が込み上げてくるけれど、それは自業自得だから我慢するしかない。
「王都には10日間ほど滞在する予定だ。観光は明日からにする」
「はい」
「今日は一日、ここでゆっくりしよう」
アンドリュー卿はそう言うと私の手を引いてベッドへ連れて行った。
昼間なのに夜の営みをするのかと身構えたのだけれど、そんなことはなかった。
「最近、野営ばかりで疲れだろう?」
そう言いながら彼は横になって私の頭を撫でる。彼には邪な気持ちなどなく、私を寝かしつけるために添い寝をしてくれただけだった。
襲われると勘違いした自分が恥ずかしい。私は早く眠りに就こうと、目を閉じて必死に羊を数えた。
まだ疑念を持たれているのかもしれないけれど、少なくとも誰もあの話題に触れることはなかった。
「これからの道のりは安全になるだろう」
アンドリュー卿がそう言ってからは、本当にモンスターが出なくなった。
王都に近づいているから、人に害をなすモンスターは排除されているのだとアンドリュー卿は教えてくれた。
それから数日すると、馬車は整備された道を進み始めた。
「見慣れた景色だ」
揺れる馬車の中、アンドリュー卿は外を見つめながらぽつりとこうつぶやいた。
「後、数時間で王都にたどり着く」
アンドリュー卿の言う通り、数時間後に王都にたどり着いた。堅牢な関門を通過すると、華やか街がすぐに目に入った。
王都の話はジェシカから聞いていた。下々の人々が暮らす場所でさえ豊かで活気があると。ジョルネス公爵領も豊かだけれど、王都では何もかもが洗練されていてレベルが違うとも言っていた。
ジョルネス公爵領の市街にさえ出られなかったあの時の私にはよく分からなかった。でも、この街並みを見たら、ジェシカが興奮気味に語っていた理由が理解できた。
多くの人が行き交う街の中を馬車が走ること数十分、私達が泊まる宿にたどり着いた。
私達が通された部屋は、とても広い上に豪華な部屋だった。
「折角王都まで来たのにこの程度の部屋で済まないな」
「この程度?」
毛皮の絨毯にシルクのシーツ、蝋燭は蜜蝋で装飾までしてある。
それなのに「この程度」だなんて。英雄となったアンドリュー卿はもっといい部屋を使うことが当たり前になったのだろうか。
「十分、素敵な部屋だと思いますけど」
「お前の家の部屋はもっと立派だろう?」
「いえ、そんなことは」
私の部屋はもっと質素だった。装飾品で部屋を飾ることなんてないし、家具の質は使用人の物と変わらなかった。
そのことをお父様に抗議をしたジェシカに対してお父様はこう言ったそうだ。
「無能で役立たずのシアリーズをお前と同じように大切にするはずがないだろう?」
ジェシカはお父様にとても怒っていた。私を憐れんで物を譲ってくれようとしたこともあったけれど、お父様にバレたら怒られるから受け取らなかった。
「嘘を吐くな。シアの部屋は俺が見ても分かるくらいの高価な物で溢れていたじゃないか」
何のことを言っているのか、一瞬分からなかった。
━━結婚式の後の初夜で使った部屋のことを言っているのね。
あれは客間の一つだ。私が聖女として大切に育てられていたと思わせるために使った部屋だった。
アンドリュー卿は私が城でどんな扱いを受けていたのかを知らない。ジェシカと同じように大切にされて豪勢な暮らしを堪能していたと思っているのだ。
「俺の領地でのシアの部屋はもっと豪華だから、今は我慢してくれ」
アンドリュー卿は申し訳なさそうにしていた。
━━自分が引き受けた女にそうする価値がないと気づかれたらいけない。
私は黙って頷いた。嘘に嘘を重ねてまた罪悪感が込み上げてくるけれど、それは自業自得だから我慢するしかない。
「王都には10日間ほど滞在する予定だ。観光は明日からにする」
「はい」
「今日は一日、ここでゆっくりしよう」
アンドリュー卿はそう言うと私の手を引いてベッドへ連れて行った。
昼間なのに夜の営みをするのかと身構えたのだけれど、そんなことはなかった。
「最近、野営ばかりで疲れだろう?」
そう言いながら彼は横になって私の頭を撫でる。彼には邪な気持ちなどなく、私を寝かしつけるために添い寝をしてくれただけだった。
襲われると勘違いした自分が恥ずかしい。私は早く眠りに就こうと、目を閉じて必死に羊を数えた。
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