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14 罪悪感
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教会に着くと部下の人達を待機させて、私とアンドリュー卿は司祭様に初夜を終えたと報告をした。
司祭様は、神様に私達が本物の夫婦になったことを宣言してくださった。
これで私達はもう離婚できない。そのことを司祭様が遠回しかつ丁寧に言うとアンドリュー卿は嬉しそうに笑った。いつも怖い顔をしている彼が私に向かって満面の笑みを浮かべたのだ。
━━きっと、ジョルネスの聖女を手中に収めたと思っているのよね。
そんなアンドリュー卿を見ていたら、彼を騙していることの罪悪感が込み上げてくる。そして、いつか嘘がバレた時を思うと、怖くてたまらなかった。
アンドリュー卿は嫌味を言ったり怖い顔をしたりすることはあってもお父様のように暴力を振るうことはなかった。
でも、それは私が聖女として扱われているからだ。もし、私が聖女じゃないと知れたらお父様のように・・・・・・。
「シア」
アンドリュー卿に呼ばれてはっとする。
「誰よりも幸せにするから」
彼はそう言って私の手を取った。
━━私が聖女なら素直に喜べたのに。
私は、偽物の聖女だ。この罪悪感と恐怖心が消えない限り、到底幸せになんてなれるはずがなかった。
※
教会で報告を済ませてからというものの、アンドリュー卿は見るからに機嫌が良くなった。怖い顔をされることはなくなり、馬車での移動の最中に重い空気にならなくて済んだ。
でも、そんな彼を見ていると罪悪感はさらに深まった。
私はそんなにいいものじゃないのに。聖女じゃないと分かったら彼はどれだけがっかりするだろう。彼の顔を見る度に、そんな考えが頭の中でぐるぐると回った。
数日間の野宿を経てたどり着いた宿でアンドリュー卿は夜の営みをしようと誘ってきた。この間のように余計なことを言って彼を怒らせてはいけないから、私は黙って彼を受け入れる。
アンドリュー卿はベッドの中ではとても優しかった。私が痛くないように、気持ちよくなれるようにと熱心に身体の隅々まで愛撫してくれる。そのせいで私ははしたない声を上げ続けることになった。
だから、行為の最中は罪悪感や恐怖を忘れることができた。行為の最中だけは、気持ちよくて幸せな気分になっていると思うと、下品な女だと思う。
行為を終えて身体を清めた後、アンドリュー卿は問答無用で私を抱きしめて床に就いた。
彼の胸に頭を乗せて頭を撫でられると、さっきまでの幸せだった気持ちが徐々に引いていくのが分かる。
━━私はこんな風にされるような価値のある女じゃないのに。
「シア」
「はい」
「俺はずっと勘違いしていたんだ」
「何を、ですか」
「お前が俺と離婚したいものだとばかり思っていたんだ。でも、違ったんだな」
「はい」
「今までごめんな」
何のことについて謝っているのだろう。そう思ったところで、私は「はい」と答えるだけだった。
私はただ、彼に従っていればいいんだ。生意気なことを言って彼を怒らせたら怖いとこの間学んだから。
※
その翌日、私達は盛大に寝坊した。
「アンドリュー! おい、いつまで寝てんだ!!」
ドアをドンドンと激しく叩き、叫ぶ男の声で私は目を覚ました。
時計を見たら告げられていた出発の時間になっている。起き上がりたいのだけれど、アンドリュー卿の腕に抱かれているせいで身体が動かない。
「アンドリュー卿、起きて」
必死にもがいて何とか左手で彼の頬を撫でると、アンドリュー卿のまぶたが開いた。
「シア」
彼は私の頬にキスをした。
その間にも、アンドリュー卿を呼ぶ男の声は続いている。
「アンドリュー卿、遅刻してるから急いで」
「んっ」
彼はようやく身体を起こして服を着替え始めた。
「おい、アンドリュー! いい加減に」
「うるせぇ! 今から準備するからガタガタ言ってんじゃねえ!」
アンドリュー卿の怒鳴り声に思わず身がすくんだ。
「さっさとしろ! 外で待ってるからな!」
部下の男がそう言うと遠退く足音が聞こえた。
「ったく、朝から何なんだよ」
悪いのは寝坊をした私達の方なのにアンドリュー卿は不機嫌にそう言い放った。
私は急いで服を着替えたかったのだけれど、背中の紐がなかなか上手く結べなかった。私が紐と格闘している最中にアンドリュー卿は着替えを終えていた。
「手伝うよ」
彼はドレスの紐を素早く結んでくれた。
「ありがとう」
お礼を言ったらアンドリュー卿は照れくさそうに笑った。
荷物をまとめて馬車の下にたどり着くと、部下の一人がアンドリュー卿に文句を言い始めた。
「旅程が大幅に過ぎてるのに寝坊するやつがあるか!」
「大げさだな。多少の遅れに何を言ってるんだか」
「は? それは旅程についてか? それともお前が寝坊してきたことか?」
「どっちもだよ」
喧嘩になりそうなのに、周りの人達は誰も止めない。黙って見守っていると二人の言い争いがどんどん激しくなっていく。私は悩んだ末にアンドリュー卿に声をかけた。
「時間が押しているみたいだから早く乗りましょう」
「ああ、そうだな」
幸い、アンドリュー卿は急かした私に対して怒ることはなかった。
アンドリュー卿は馬車の扉を開けて私に入るようにエスコートしてくれた。そして、馬車に乗り込んだ瞬間だった。
「元はといえば、誰のせいで時間が押してるんだか」
誰が言ったのかは分からない。でも、はっきりとそう言った聞こえた。
「あぁ!?」
振り返ったアンドリュー卿が大きな声を上げる。
「もう一回言ってみろ? ぶっ殺すからな」
アンドリュー卿はそう言うと馬車に乗り込み扉を閉めた。
「シア、あいつらの言葉を気にするんじゃないぞ」
「はい」
そう返事をしたけれど、気にしないことなどできなかった。
司祭様は、神様に私達が本物の夫婦になったことを宣言してくださった。
これで私達はもう離婚できない。そのことを司祭様が遠回しかつ丁寧に言うとアンドリュー卿は嬉しそうに笑った。いつも怖い顔をしている彼が私に向かって満面の笑みを浮かべたのだ。
━━きっと、ジョルネスの聖女を手中に収めたと思っているのよね。
そんなアンドリュー卿を見ていたら、彼を騙していることの罪悪感が込み上げてくる。そして、いつか嘘がバレた時を思うと、怖くてたまらなかった。
アンドリュー卿は嫌味を言ったり怖い顔をしたりすることはあってもお父様のように暴力を振るうことはなかった。
でも、それは私が聖女として扱われているからだ。もし、私が聖女じゃないと知れたらお父様のように・・・・・・。
「シア」
アンドリュー卿に呼ばれてはっとする。
「誰よりも幸せにするから」
彼はそう言って私の手を取った。
━━私が聖女なら素直に喜べたのに。
私は、偽物の聖女だ。この罪悪感と恐怖心が消えない限り、到底幸せになんてなれるはずがなかった。
※
教会で報告を済ませてからというものの、アンドリュー卿は見るからに機嫌が良くなった。怖い顔をされることはなくなり、馬車での移動の最中に重い空気にならなくて済んだ。
でも、そんな彼を見ていると罪悪感はさらに深まった。
私はそんなにいいものじゃないのに。聖女じゃないと分かったら彼はどれだけがっかりするだろう。彼の顔を見る度に、そんな考えが頭の中でぐるぐると回った。
数日間の野宿を経てたどり着いた宿でアンドリュー卿は夜の営みをしようと誘ってきた。この間のように余計なことを言って彼を怒らせてはいけないから、私は黙って彼を受け入れる。
アンドリュー卿はベッドの中ではとても優しかった。私が痛くないように、気持ちよくなれるようにと熱心に身体の隅々まで愛撫してくれる。そのせいで私ははしたない声を上げ続けることになった。
だから、行為の最中は罪悪感や恐怖を忘れることができた。行為の最中だけは、気持ちよくて幸せな気分になっていると思うと、下品な女だと思う。
行為を終えて身体を清めた後、アンドリュー卿は問答無用で私を抱きしめて床に就いた。
彼の胸に頭を乗せて頭を撫でられると、さっきまでの幸せだった気持ちが徐々に引いていくのが分かる。
━━私はこんな風にされるような価値のある女じゃないのに。
「シア」
「はい」
「俺はずっと勘違いしていたんだ」
「何を、ですか」
「お前が俺と離婚したいものだとばかり思っていたんだ。でも、違ったんだな」
「はい」
「今までごめんな」
何のことについて謝っているのだろう。そう思ったところで、私は「はい」と答えるだけだった。
私はただ、彼に従っていればいいんだ。生意気なことを言って彼を怒らせたら怖いとこの間学んだから。
※
その翌日、私達は盛大に寝坊した。
「アンドリュー! おい、いつまで寝てんだ!!」
ドアをドンドンと激しく叩き、叫ぶ男の声で私は目を覚ました。
時計を見たら告げられていた出発の時間になっている。起き上がりたいのだけれど、アンドリュー卿の腕に抱かれているせいで身体が動かない。
「アンドリュー卿、起きて」
必死にもがいて何とか左手で彼の頬を撫でると、アンドリュー卿のまぶたが開いた。
「シア」
彼は私の頬にキスをした。
その間にも、アンドリュー卿を呼ぶ男の声は続いている。
「アンドリュー卿、遅刻してるから急いで」
「んっ」
彼はようやく身体を起こして服を着替え始めた。
「おい、アンドリュー! いい加減に」
「うるせぇ! 今から準備するからガタガタ言ってんじゃねえ!」
アンドリュー卿の怒鳴り声に思わず身がすくんだ。
「さっさとしろ! 外で待ってるからな!」
部下の男がそう言うと遠退く足音が聞こえた。
「ったく、朝から何なんだよ」
悪いのは寝坊をした私達の方なのにアンドリュー卿は不機嫌にそう言い放った。
私は急いで服を着替えたかったのだけれど、背中の紐がなかなか上手く結べなかった。私が紐と格闘している最中にアンドリュー卿は着替えを終えていた。
「手伝うよ」
彼はドレスの紐を素早く結んでくれた。
「ありがとう」
お礼を言ったらアンドリュー卿は照れくさそうに笑った。
荷物をまとめて馬車の下にたどり着くと、部下の一人がアンドリュー卿に文句を言い始めた。
「旅程が大幅に過ぎてるのに寝坊するやつがあるか!」
「大げさだな。多少の遅れに何を言ってるんだか」
「は? それは旅程についてか? それともお前が寝坊してきたことか?」
「どっちもだよ」
喧嘩になりそうなのに、周りの人達は誰も止めない。黙って見守っていると二人の言い争いがどんどん激しくなっていく。私は悩んだ末にアンドリュー卿に声をかけた。
「時間が押しているみたいだから早く乗りましょう」
「ああ、そうだな」
幸い、アンドリュー卿は急かした私に対して怒ることはなかった。
アンドリュー卿は馬車の扉を開けて私に入るようにエスコートしてくれた。そして、馬車に乗り込んだ瞬間だった。
「元はといえば、誰のせいで時間が押してるんだか」
誰が言ったのかは分からない。でも、はっきりとそう言った聞こえた。
「あぁ!?」
振り返ったアンドリュー卿が大きな声を上げる。
「もう一回言ってみろ? ぶっ殺すからな」
アンドリュー卿はそう言うと馬車に乗り込み扉を閉めた。
「シア、あいつらの言葉を気にするんじゃないぞ」
「はい」
そう返事をしたけれど、気にしないことなどできなかった。
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