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4 突然の迎え
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「今更何をしに来たのかしら!」
ジェシカはメイドが言い終わるや否や、声を荒げて不快感を露わにした。
━━本当に、ジェシカの言う通りだ。
今までずっと放っておいたのだから、そのままにしてくれればよかったのに。そうしてくれれば、また離婚の恐怖に怯えることもなかった。
離婚となればお父様は怒り狂うだろう。そうなれば、今度は腕の痣では済まないはずだ。
「シアリーズ様、一先ず準備をなさってください」
今着ている服は他人と会うには地味すぎる。もう少し着飾れと言っているのだろう。
私は頷いて自室へと向かった。
自室で着替えをしている最中にアンドリュー卿は城にやって来た。彼はお父様の所に案内されたそうで、私は着替えを終えた後も自室で待機していた。
彼が離婚したいと言ってきた時、どう振る舞えばいいのかを考える。泣いてすがればいい? それとも愛しているから嫌だと説得する? それとも・・・・・・。
ノックもなしにドアが開いた。部屋に入って来たのはアンドリュー卿だった。彼を前にした途端、頭の中が真っ白になった。さっきまで考えていた離婚を回避するための釈明と謝罪の言葉が何も出てこない。
「ただいま」
アンドリュー卿はぽつりと呟いた。
「お、おかえりなさい」
返事をしたらアンドリュー卿が近づいて来て、私の腕を掴んだ。
「シア、行くぞ」
「行くってどこにですか?」
「俺の領地」
「領地?」
アンドリュー卿が領地を持っていたなんて初めて知った。
「行きたくないって言ってもだめだ」
彼の手の力が強まる。私は彼に手を引かれて部屋を出た。そして、廊下を歩いていた所で私達はジェシカと鉢合わせになった。
「お久しぶりですね、アンドリュー卿」
彼女は7歳も年上のアンドリュー卿の前に立ふさがり、臆さずに堂々と挨拶をした。きっとジェシカはアンドリュー卿に言いたいことがあるのだろう。
「ああ。久しぶりだな」
「お姉様を連れてどこに行こうとしているんです?」
「これから俺の領地に行くところだ」
ジェシカは目を見開いてぽかんとした表情になった。でも、それは一瞬のことで、彼女の眉間に皺が寄った。
「ずっと連絡もせずに放ったらかしておいて、急に連れて行こうなんておかしいですわ!」
「連絡しなかったのはシアの方だ」
アンドリュー卿は不快だと言わんばかりに顔を歪めた。確かに私から連絡したことはなかったけれど、アンドリュー卿だって何もしなかった。それなのに私に責任があるような言い方をするなんて。
「もう行かないといけない。失礼させてもらう」
アンドリュー卿は私の腕を引いて再び歩き始めた。
「お父様の許可は取ったのですか!」
後ろからジェシカが叫んだ。
「そんなものは必要ない」
アンドリュー卿は足を振り返りもせずそう答えた。
妻は夫のものだから、この国の法律においては、アンドリュー卿の言い分が正しい。でも、もしお父様に見つかってしまったら、すごく怒るに違いない。お父様は自分の所有物の管理を徹底する人だから。
━━もし、お父様に見つかったらまたひどいことをされるわ。
お父様はアンドリュー卿に対する怒りを私に向けてくるだろう。私は彼にとって八つ当たりをするためのちょうどいい道具でもあるから。
━━殴られるのはもう嫌!
私は静止の声をあげるジェシカを無視して足を早め、必死になってアンドリュー卿について行った。
ジェシカはメイドが言い終わるや否や、声を荒げて不快感を露わにした。
━━本当に、ジェシカの言う通りだ。
今までずっと放っておいたのだから、そのままにしてくれればよかったのに。そうしてくれれば、また離婚の恐怖に怯えることもなかった。
離婚となればお父様は怒り狂うだろう。そうなれば、今度は腕の痣では済まないはずだ。
「シアリーズ様、一先ず準備をなさってください」
今着ている服は他人と会うには地味すぎる。もう少し着飾れと言っているのだろう。
私は頷いて自室へと向かった。
自室で着替えをしている最中にアンドリュー卿は城にやって来た。彼はお父様の所に案内されたそうで、私は着替えを終えた後も自室で待機していた。
彼が離婚したいと言ってきた時、どう振る舞えばいいのかを考える。泣いてすがればいい? それとも愛しているから嫌だと説得する? それとも・・・・・・。
ノックもなしにドアが開いた。部屋に入って来たのはアンドリュー卿だった。彼を前にした途端、頭の中が真っ白になった。さっきまで考えていた離婚を回避するための釈明と謝罪の言葉が何も出てこない。
「ただいま」
アンドリュー卿はぽつりと呟いた。
「お、おかえりなさい」
返事をしたらアンドリュー卿が近づいて来て、私の腕を掴んだ。
「シア、行くぞ」
「行くってどこにですか?」
「俺の領地」
「領地?」
アンドリュー卿が領地を持っていたなんて初めて知った。
「行きたくないって言ってもだめだ」
彼の手の力が強まる。私は彼に手を引かれて部屋を出た。そして、廊下を歩いていた所で私達はジェシカと鉢合わせになった。
「お久しぶりですね、アンドリュー卿」
彼女は7歳も年上のアンドリュー卿の前に立ふさがり、臆さずに堂々と挨拶をした。きっとジェシカはアンドリュー卿に言いたいことがあるのだろう。
「ああ。久しぶりだな」
「お姉様を連れてどこに行こうとしているんです?」
「これから俺の領地に行くところだ」
ジェシカは目を見開いてぽかんとした表情になった。でも、それは一瞬のことで、彼女の眉間に皺が寄った。
「ずっと連絡もせずに放ったらかしておいて、急に連れて行こうなんておかしいですわ!」
「連絡しなかったのはシアの方だ」
アンドリュー卿は不快だと言わんばかりに顔を歪めた。確かに私から連絡したことはなかったけれど、アンドリュー卿だって何もしなかった。それなのに私に責任があるような言い方をするなんて。
「もう行かないといけない。失礼させてもらう」
アンドリュー卿は私の腕を引いて再び歩き始めた。
「お父様の許可は取ったのですか!」
後ろからジェシカが叫んだ。
「そんなものは必要ない」
アンドリュー卿は足を振り返りもせずそう答えた。
妻は夫のものだから、この国の法律においては、アンドリュー卿の言い分が正しい。でも、もしお父様に見つかってしまったら、すごく怒るに違いない。お父様は自分の所有物の管理を徹底する人だから。
━━もし、お父様に見つかったらまたひどいことをされるわ。
お父様はアンドリュー卿に対する怒りを私に向けてくるだろう。私は彼にとって八つ当たりをするためのちょうどいい道具でもあるから。
━━殴られるのはもう嫌!
私は静止の声をあげるジェシカを無視して足を早め、必死になってアンドリュー卿について行った。
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