【R-18/番外編】この狂った世界で私達はささやかな幸せを求める

花草青依

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この想いは永遠

11(終)

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 気が付くと私はベッドの中にいた。月夜の日にエルドノアと一緒に寝たベッドだった。
 私の隣りには衣服の乱れたエルドノアが寝ていて、私は布一枚も与えられず、素っ裸だった。

 私は慌てて起き上がると、自分の身体の状態を確認した。
 身体を動かすと腰が痛む上、下腹部と股にもなんとも言えない違和感がある。それに、口と股の周りがカピカピになっていた。

「おはよう、ティア」
 呑気な声でエルドノアが挨拶をしてきたけど、構わずに放って置く。今はそれどころじゃなかった。

 ━━昨日は、私、何をした?

 考えたくはないけど、思い出さないといけなかった。
 身体が勝手に動いてエルドノアの下に行ったのは確実だ。そこで裸になって彼の膝の上に乗ったのもはっきりと覚えている。
 彼にキスされたあたりから記憶が曖昧だけど、・・・・・・卑猥な事をされた気がする。それから、彼のものを口にして・・・・・・。
 おぞましい記憶に身を震わせながら、それでも必死になって記憶を辿る。
 でも、そこから先の記憶がどうしても思い出せなかった。

「おぞましいだなんて、酷いな。あれだけ気持ちよくなっておいて」
「違う! あれは」
「いいよ。お前がセックスを嫌いなのは十分、理解した」
 エルドノアは面倒くさそうに言うと起き上がる。
「ただ、それを定期的にしないとお前は死ぬし、お前の身体も私の精を求めて苦しむ事になる。今後はもっと早く、セックスをすることだね」
「・・・・・・」
 私が何も言わずにいると、エルドノアは美しい顔を歪めた。
「何がそんなに不満なの?」

 ━━ああ。そういえば、この男は邪神だった。

 とても美しい人間の男の見た目をしているから、勘違いをしていた。彼は人間の常識を持ち合わせていない。だから、それを前提にして考えてしまってはいけないのだ。

「そういう行為は、本当に好きな人としかしたくないの」
 人間の女の大半は、好きでもない男と寝たいとは思わないだろう。貧しさのあまり身体を売る人だって、それ以外の収入が保証されるのなら、好きな人とだけそういう行為をするはずだ。
 でも、エルドノアにはそれが理解できないらしい。彼は私の言葉を鼻で笑った。
「随分としっかりした貞操観念の持ち主だったんだね」
 馬鹿にされて私は唇を噛んだ。
「でも、残念。お前は私の体液なしでは生きられないからセックスするしか方法はない。背に腹は代えられないだろう?」
「・・・・・・」
 彼の言う通り、その行為は私が生きるためには絶対に必要なものなのだろう。
 このクソみたいな世界には、辛くて嫌な事は山程ある。そして、それを受け入れないと生きていけないことも私は知っている。
 その"辛くて嫌な事"の中に彼との行為が加わっただけだ。頭では分かっている。
 でも、心ではどうしても受け入れられない。

 はあと溜め息を吐く音が聞こえた。
「難しく考えるな。私達のセックスはお前にとって、ただの"食事"に過ぎない」
「ただの食事って・・・・・・」
「話を最後まで聞いて」
 真剣な顔で言われたから、彼の言う通り一先ず話を聞いてみることにした。
「つまり、私達のセックスは貞操観念的に言って、やったうちに入らない。ノーカウントだ。だからお前にとっての初めての男は私の次にやった人間になるよ」
 何を言い出すのかと思えば、くだらない。
「そんなのただの屁理屈だわ」
「人間はくだらない屁理屈を言い訳にしながら生きていくものだよ? お前がそうしていても、何の問題もない」
 エルドノアはそう言うと私を抱き寄せた。そして、駄々をこねる子供をあやすかのように私の髪を撫でる。

 エルドノアの話を聞いていると、一つの疑問が浮かんだ。
「ねえ」
「何?」
「私達の行為が私にとっての"食事"なら、あなたにとって、それは何なの?」
 エルドノアの顔が真顔になった。
 でも、それは一瞬の事で、すぐに穏やかな表情に戻る。
「我が唯一の信徒であり、眷属であるお前を生かすための行為。別の言い方をすれば、"信徒の願いを叶える行為"かな」
「本当に、そう思ってる?」
「勿論」
 エルドノアは私の手を取った。
。私はお前の願いを叶えるためにこの世界にいるんだ。だから、どうか、これからはしっかりと"食事"を摂ってくれ」
 彼はそう言うと私の手の甲にキスをした。

 ━━あのはしたない行為は、神とその信徒の間において成立する、私が生きるために必要な行為。私は好きでもない男と寝る不潔な女じゃない。

 頭の中で屁理屈を並べてもっともらしい言い訳をする。

 ━━今までだって、生きるためならどんなに辛いことでも耐えてきたじゃない。大丈夫、今回だってきっと・・・・・・。

 私は私自身に言い聞かせた。
「あなたが、神として私と行為をするというのなら、・・・・・・頑張って耐えてみるわ」
 私がそう言うと、彼は穏やかな笑みを浮かべた。でも、少し、寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「私の感情を読もうだなんて生意気な信徒だ。お前は本当に礼儀がなってない」
 私の神は敬意を払われないことに酷く敏感らしい。
「これからは敬いますよ。
 そう言って笑うと、エルドノア様は私を強く抱きしめた。



「この想いは永遠」 了
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