【R-18/番外編】この狂った世界で私達はささやかな幸せを求める

花草青依

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この想いは永遠

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 ティアが私に恐怖するように仕向けたのは、私自身だ。
 でも、露骨にそれを表現されると腹が立ってしょうがない。

 ━━こんなにも簡単に、私に恐怖心を抱くなんて・・・・・・。本当にかわいくないやつ。どうやって躾けてやろうか。

 私なしでは生きられない弱い者のくせに。今まで散々私に頼って、守られて、それを喜んで享受していたくせに。
 それを忘れてしまうなんて、ティアはとんだ愚か者だ。

 そんな事を私が考えているとも知らず、ティアは話の催促をしてきた。
「大事な話って何?」
「せっかちだね」
 私がそう言うと、ティアは睨みつけてきた。生意気な彼女の顎を掴んで睨み返すとティアは暴力に対する恐怖で目を閉じた。

「安心して? 私はあいつらのような加虐趣味はないんだ」
 そう言えばティアはゆっくりと目を開けた。
「ただ、あんまり生意気だとお仕置きが必要になってくるから身の振り方は考えた方がいい」
 私が顎から手を離すと、ティアは身を引き、まるで自分を守るかのように腹の上で腕を組んだ。

 "━━お仕置きって、結局、フィアロン公爵達とやることは変わらないってことじゃない"

 ティアの心からそんな声が漏れた。
 今までお仕置きと称して散々彼女の身体を弄んできたというのに、彼女はやはり何も覚えていないらしい。

 ━━ああ。でも、この生意気で強情な女が、お仕置きされた時にどんな反応をするんだろう。楽しみだな。

 そんな事を考えながら、私は話の続きを始めた。

「大事な話っていうのは、私とお前の契約に関することさ」
「契約? そんなものはした覚えがないわ」
 確かにティアには今までの人間とは違い、契約前の段階でその説明をしていなかった。
「そうだね。そんな事をしている暇は、あの時のお前にはなかったから」
 死を間際にした人間を前にしてマニュアル通りの行動をする馬鹿などいない。
 事情を理解したティアは文句を言わなかった。
「契約の内容を話そう。私はお前の願いを叶えるためにこの世界に喚ばれた。ただ、私がこの世界に顕在し続けるにはそれなりの魂が必要でね」
「つまり、私に生贄を捧げろって言うの?」
 思った通りの誤解をしてくれて、笑ってしまった。
 確かに今の狂った世界で私が生命神としての力を使うのであれば、既存の生命から魂を奪わなければならない。
 だが、それはわざわざティアを介する必要などないのだ。私はいつでもどこでだって必要なだけ魂を奪えるのだから。
 あえて"ティアを介する必要がある"と誤解させたのは、やはり、彼女の恐怖心と罪悪感を煽るためだ。精神的に彼女を私の支配下に置くにはこれくらいがちょうどいいだろう。

 ティアは私の嘘に気付ず、眉を顰めて考え込んでいた。本来の人格を取り戻した彼女は、今までとは違って少しは考える能があるらしい。
「もし、嫌だと言ったら?」
「生贄がもらえないなら私はこの世界にいられない。だから、私はお前の願いを叶えられずに天界へと去っていくことになる」
「それじゃあ、帰って。私はあなたに生贄なんて捧げないわ」
「でも、それだとお前は死ぬことになるよ?」
 "死ぬ"という言葉にティアの心は揺れ動いた。
「お前はあの時、"生きたい"と願った。だから、私は死ぬはずだったお前の身体を無理矢理な形で生かしたんだ。今のお前は私の眷属でなければ生きる事ができない。つまり、普通の人間じゃないんだよ」
「普通じゃないって・・・・・・」
「お前は普通の人間の様に腹は減らない。何日飲まず食わずでいても、それが原因で死ぬことはない」
「嘘・・・・・・」
 そう呟いたものの、ティアには思い当たる節があった。意識を取り戻した昨日の夜から何も食べていないのに、空腹はおろか喉の渇きも感じていない事に違和感を覚えたのだ。

「それから、私の眷属であるから、病に侵される事はない。それに、どれだけ傷つけられて大怪我を負おうとも死なないよ」
 ティアは突然、自分の頬を強くつねった。

 "━━痛いっ!"

 声にこそ出さなかったけれど、彼女は痛がっていた。
「言っておくけど、死なないだけで痛みは感じるから。だから、悪い人間に襲われて首と胴体が分かれる・・・・・・、なんてことにならないように注意しときなよ」
 警告してやれば、ティアは首を手で押さえた。からかいがいのある反応に私は思わず吹き出してしまった。
 そんな私をティアはまた睨んで来たけど、今度は無視して話を続けることにした。

「後は、歳を取らないことかな。あ・・・・・・、でも、この世界の状況なら、あまり関係のない話か」
「どういう事?」

 ━━いけない。不必要な事までうっかり喋ってしまった。

 ティアの気を逸らすために、彼女が嫌がるであろう事をさっさと話すことにした。
「お前は普通の食事が摂れない代わりに、別の方法でエネルギーを摂取する必要がある」
「何? 別の方法って」
 怪訝そうな顔をするティアに向かって、私ははっきりと言ってやった。
「私とセックスするんだよ。私の眷属であるお前は私の体液でしか腹が満たされないから」
 本当はシトレディスの敬虔な信徒達の体液であってもいいけど。ただ、それを教えてやるつもりはない。

 セックスが"食事"にあたる行為だと聞かされたティアは、思った通り動揺していた。

 "━━そんなの嘘よ。・・・・・・適当な口実を並べて私を騙そうとしてるんだわ!"

 ティアの心の叫びが耳をつんざく。
「嘘じゃないという事は数日経てば分かるよ。腹が減ったらさっさと私の所に来るんだね」
「嫌! 絶対にそんな事しない」
「おいおい、しないと死ぬんだよ?」
「うるさい! そんな嘘に騙されないんだから!!」
 ティアは怒鳴り付けると立ち上がり、部屋から出て行った。

 ━━本当に生意気なやつ。

 彼女は私とセックスをしないと決心したようだ。しないと生きられないのに。愚かにも程がある。
 私は念の為に屋敷の周りに強い結界を張り、出入りを封じた。これで、万が一、ティアが屋敷の外に出ようと思っても逃げられない。

 私はしばらく様子を見てティアにどういう罰を与えるべきか考える事にした。
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