34 / 44
この想いは永遠
5
しおりを挟む
ティアが目を覚ましたのは部屋に朝日が射し込んで来た頃だった。
彼女は自分が私にぴったりとくっついて眠っていたことに気づくと慌てて起き上がって離れた。
「おはよう、ティア」
声をかけても彼女は知らんぷりだ。やっぱり可愛くない。
「返事くらいしたら?」
催促するとティアはようやく「おはよう」と言った。
私が身体を起こすと、シーツがめくれてティアの胸が見えた。彼女はそれに気がつくと慌てて胸を隠した。
「私、なんで昨日から何も着てないの?」
「ああ・・・・・・」
昨日は満月だったから庭で月光浴させていたんだった。
大気に漂う4属性を少しでも効率良く身体に吸収させようと服を脱がせたんだけど。今のティアにそれを言った所で、理解するとは思えない。
「服を着させて」
不機嫌そうに言う彼女はベッドの脇に落ちているそれが自分の物だと認識できないらしい。「そこにあるのを着れば?」なんて言えば、きっと怒るに違いない。面倒だけど、新しい物を用意してやろう。
「待ってて。取ってくるから」
私は命令をすると、寝室を後にした。それからすぐにドレスルームから服と下着を取ってくると、ティアに渡した。
ティアは黙って受け取ると私に背を向けて服を着始めた。その様子を観察していたら、ティアはくるりと振り返った。
「見ないで」
一言だけ言うと彼女はまた服を着る作業に戻る。
━━やっぱり、私に裸を見られることも嫌なのか。
羞恥心は随分前から彼女の心に芽生えていた。だが、それでも今までなら、私にだけは身体を見られることを嫌がらなかった。
━━面倒な女になったな。これからの生活が思いやられるよ。
そんなことを考えていたら、着替えを終えたティアが私に向き直った。
「説明して」
「何の話?」
「昨日、眠る前に言ったじゃない。朝が来たら説明をするって」
「ああ・・・・・・、そうだったね」
前みたく眠れば忘れてくれるかと思ったが、そうもいかないらしい。
私は彼女をしっかりと見据えると説明を始めた。
「まずは昨日した話をもう一度、詳しくしよう。ティアが私を喚び出したから私はこの世界に来た。その時、お前は薄汚い男によって殺されそうになっていた。だから、私はその男とそれに従う人間達の魂を消した。そしてその魂を贄にしてお前を私の眷属にしたんだ」
「フィアロン公爵達を生贄したってこと?」
「そう。お前のためにね」
私の嘘にティアは顔を青くした。
フィアロンとかいうあの薄汚い男と、それに仕えていた人間どもを消したのは事実だ。でも、そうしたのはティアのためではなかった。
彼らの魂はシトレディスよって酷く汚されていた。最早、人間とは呼べないものに成り果てた彼らは、世界にとって悪影響をもたらす存在でしかない。
おまけに、彼らはか弱い女を死ぬまで嬲ることを良しとする程の外道達だ。そんな碌でもない人間は、生まれ変わる必要もないだろう。
だから、私は彼らの魂を一人残らずバラバラにして、私の元に返したのだ。
でも、本当のことをティアに教えてやるつもりなど毛頭ない。
彼女は、私への信仰心を失い、敬う事を忘れてしまった。それどころか、私を嫌って逃げようとする。
彼女がそうであるなら、こちらは恐怖心や罪悪感を煽って私の下に繋ぎ止めるまでだ。
「どうして私のためにそんなことを?」
「お前はかわいい私の信徒だ。私は自分の物が誰かに壊されるなんて我慢できないんだよ」
怯えるティアの頭を撫でてやったというのに、彼女はその手を張り払ってきた。
「不満があるの? お前は二度とあんなやつらに会わなくて済むのにさ」
「・・・・・・」
ティアは何も言わない。
でも、私には彼女の思考が分かる。
"━━怖い。私も逆らったら殺されるの? ・・・・・・そもそも、この人は私をどうする気なんだろう"
彼女は私の嘘に気付いていない。そして、私の画策通り、私に恐怖心を抱いた。これで、しばらくは安易に私の下から逃げ出そうとはしないだろう。
私は彼女の考えに気づいていないふりをして、話を続けた。
「それに、ここの屋敷のやつらがみんないなくなれば、私達が彼らの財産を全て手に入れられるでしょ? 住み心地の良い家に高貴な身分、ありあまる金銀財宝の全てが私とお前の物だ。最高じゃないか。だから、文句は言わせないよ」
「待って。家や財産はともかく、高貴な身分っていうのはどういうことなの?」
「そのままの意味さ。今のお前はティア・フィアロン公爵だ。不幸にも両親を亡くし、若くして公爵の身分を継いだ、フィアロン前公爵の一人娘だよ」
私の発言にティアは目を丸くする。そんな顔をしたティアを見たのは初めてで、こんな表情もできるのかと感心した。
「そんな嘘を吐いても、すぐにバレるわ」
「誰に?」
「誰って・・・・・・、フィアロン公爵は有名な貴族で『本当はこんな田舎で暮らすべき一族ではない』って言われてるじゃない? それに、他の貴族に対しても、すごい影響力をもっているとも聞いたわ。だから、公爵が急にいなくなって、存在するはずのない娘が身分を継いだりしようものなら、誰かしらが不審に思うはずよ」
ふふっと声を漏らして笑うと、ティアが睨みつけてきた。私にそんな目を向けるだなんて生意気なやつだ。
「大丈夫。貴族であろうとも所詮は人間だ。私の魔法に気が付ける存在ではないよ」
ティアは首を傾げた。
「言っている事が分からない? 私の魔法で、フィアロン公爵に関するありとあらゆる記録と記憶を改竄したんだ。それに気が付ける人間なんて、この世にはいないね」
正確には、シトレディスの眷属であるアルとかいう男だけは、その事実に気づいているはずだ。彼はシトレディスの駒であり、調査団に参加していた。アルはシトレディスからその情報を与えられていたからこそ、私とティアの事を確認に来ていたのだろう。
でも、私はその事実をティアに言うつもりがなかった。
彼に会ったのは随分昔の事で、今のティアは彼の事を覚えていない。それに加えて、アルの事を話すとなると、様々な事を説明しなければならなくなる。私がどんな存在で、シトレディスと対立関係にあること、そして、この世界の狂った状況にあることを伝えることとなるだろう。
だが、ティアがそんな事を知る必要などないのだ。この世界で私と永遠に生きるのなら、難しい事は何も知らずに気楽に生きればいいんだ。中途半端に関与させても良いことはなにもないだろう。
「だから、貧民街で生まれ育った賤しいティアなんてこの世には存在しない。みんな、お前のことをフィアロン公爵と信じて疑わないから、その身分から得られるものを享受すればいいんだ」
「そんなはずは・・・・・・」
「信じられなくても、そのうち分かる日が来るよ」
どうせ、遅かれ早かれ調査団の人間がやってくる。彼らの態度を見ればティアが身分の低い者として扱われていないことくらい、彼女にも理解できるはずだ。
「だから、この話は終わりにしよう。もっと大切な事を話さないといけないから」
私がそう言うと、ティアは恐怖を感じて身構えた。
彼女は自分が私にぴったりとくっついて眠っていたことに気づくと慌てて起き上がって離れた。
「おはよう、ティア」
声をかけても彼女は知らんぷりだ。やっぱり可愛くない。
「返事くらいしたら?」
催促するとティアはようやく「おはよう」と言った。
私が身体を起こすと、シーツがめくれてティアの胸が見えた。彼女はそれに気がつくと慌てて胸を隠した。
「私、なんで昨日から何も着てないの?」
「ああ・・・・・・」
昨日は満月だったから庭で月光浴させていたんだった。
大気に漂う4属性を少しでも効率良く身体に吸収させようと服を脱がせたんだけど。今のティアにそれを言った所で、理解するとは思えない。
「服を着させて」
不機嫌そうに言う彼女はベッドの脇に落ちているそれが自分の物だと認識できないらしい。「そこにあるのを着れば?」なんて言えば、きっと怒るに違いない。面倒だけど、新しい物を用意してやろう。
「待ってて。取ってくるから」
私は命令をすると、寝室を後にした。それからすぐにドレスルームから服と下着を取ってくると、ティアに渡した。
ティアは黙って受け取ると私に背を向けて服を着始めた。その様子を観察していたら、ティアはくるりと振り返った。
「見ないで」
一言だけ言うと彼女はまた服を着る作業に戻る。
━━やっぱり、私に裸を見られることも嫌なのか。
羞恥心は随分前から彼女の心に芽生えていた。だが、それでも今までなら、私にだけは身体を見られることを嫌がらなかった。
━━面倒な女になったな。これからの生活が思いやられるよ。
そんなことを考えていたら、着替えを終えたティアが私に向き直った。
「説明して」
「何の話?」
「昨日、眠る前に言ったじゃない。朝が来たら説明をするって」
「ああ・・・・・・、そうだったね」
前みたく眠れば忘れてくれるかと思ったが、そうもいかないらしい。
私は彼女をしっかりと見据えると説明を始めた。
「まずは昨日した話をもう一度、詳しくしよう。ティアが私を喚び出したから私はこの世界に来た。その時、お前は薄汚い男によって殺されそうになっていた。だから、私はその男とそれに従う人間達の魂を消した。そしてその魂を贄にしてお前を私の眷属にしたんだ」
「フィアロン公爵達を生贄したってこと?」
「そう。お前のためにね」
私の嘘にティアは顔を青くした。
フィアロンとかいうあの薄汚い男と、それに仕えていた人間どもを消したのは事実だ。でも、そうしたのはティアのためではなかった。
彼らの魂はシトレディスよって酷く汚されていた。最早、人間とは呼べないものに成り果てた彼らは、世界にとって悪影響をもたらす存在でしかない。
おまけに、彼らはか弱い女を死ぬまで嬲ることを良しとする程の外道達だ。そんな碌でもない人間は、生まれ変わる必要もないだろう。
だから、私は彼らの魂を一人残らずバラバラにして、私の元に返したのだ。
でも、本当のことをティアに教えてやるつもりなど毛頭ない。
彼女は、私への信仰心を失い、敬う事を忘れてしまった。それどころか、私を嫌って逃げようとする。
彼女がそうであるなら、こちらは恐怖心や罪悪感を煽って私の下に繋ぎ止めるまでだ。
「どうして私のためにそんなことを?」
「お前はかわいい私の信徒だ。私は自分の物が誰かに壊されるなんて我慢できないんだよ」
怯えるティアの頭を撫でてやったというのに、彼女はその手を張り払ってきた。
「不満があるの? お前は二度とあんなやつらに会わなくて済むのにさ」
「・・・・・・」
ティアは何も言わない。
でも、私には彼女の思考が分かる。
"━━怖い。私も逆らったら殺されるの? ・・・・・・そもそも、この人は私をどうする気なんだろう"
彼女は私の嘘に気付いていない。そして、私の画策通り、私に恐怖心を抱いた。これで、しばらくは安易に私の下から逃げ出そうとはしないだろう。
私は彼女の考えに気づいていないふりをして、話を続けた。
「それに、ここの屋敷のやつらがみんないなくなれば、私達が彼らの財産を全て手に入れられるでしょ? 住み心地の良い家に高貴な身分、ありあまる金銀財宝の全てが私とお前の物だ。最高じゃないか。だから、文句は言わせないよ」
「待って。家や財産はともかく、高貴な身分っていうのはどういうことなの?」
「そのままの意味さ。今のお前はティア・フィアロン公爵だ。不幸にも両親を亡くし、若くして公爵の身分を継いだ、フィアロン前公爵の一人娘だよ」
私の発言にティアは目を丸くする。そんな顔をしたティアを見たのは初めてで、こんな表情もできるのかと感心した。
「そんな嘘を吐いても、すぐにバレるわ」
「誰に?」
「誰って・・・・・・、フィアロン公爵は有名な貴族で『本当はこんな田舎で暮らすべき一族ではない』って言われてるじゃない? それに、他の貴族に対しても、すごい影響力をもっているとも聞いたわ。だから、公爵が急にいなくなって、存在するはずのない娘が身分を継いだりしようものなら、誰かしらが不審に思うはずよ」
ふふっと声を漏らして笑うと、ティアが睨みつけてきた。私にそんな目を向けるだなんて生意気なやつだ。
「大丈夫。貴族であろうとも所詮は人間だ。私の魔法に気が付ける存在ではないよ」
ティアは首を傾げた。
「言っている事が分からない? 私の魔法で、フィアロン公爵に関するありとあらゆる記録と記憶を改竄したんだ。それに気が付ける人間なんて、この世にはいないね」
正確には、シトレディスの眷属であるアルとかいう男だけは、その事実に気づいているはずだ。彼はシトレディスの駒であり、調査団に参加していた。アルはシトレディスからその情報を与えられていたからこそ、私とティアの事を確認に来ていたのだろう。
でも、私はその事実をティアに言うつもりがなかった。
彼に会ったのは随分昔の事で、今のティアは彼の事を覚えていない。それに加えて、アルの事を話すとなると、様々な事を説明しなければならなくなる。私がどんな存在で、シトレディスと対立関係にあること、そして、この世界の狂った状況にあることを伝えることとなるだろう。
だが、ティアがそんな事を知る必要などないのだ。この世界で私と永遠に生きるのなら、難しい事は何も知らずに気楽に生きればいいんだ。中途半端に関与させても良いことはなにもないだろう。
「だから、貧民街で生まれ育った賤しいティアなんてこの世には存在しない。みんな、お前のことをフィアロン公爵と信じて疑わないから、その身分から得られるものを享受すればいいんだ」
「そんなはずは・・・・・・」
「信じられなくても、そのうち分かる日が来るよ」
どうせ、遅かれ早かれ調査団の人間がやってくる。彼らの態度を見ればティアが身分の低い者として扱われていないことくらい、彼女にも理解できるはずだ。
「だから、この話は終わりにしよう。もっと大切な事を話さないといけないから」
私がそう言うと、ティアは恐怖を感じて身構えた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる