【R-18/番外編】この狂った世界で私達はささやかな幸せを求める

花草青依

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この想いは永遠

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 ティアが目を覚ましたのは部屋に朝日が射し込んで来た頃だった。
 彼女は自分が私にぴったりとくっついて眠っていたことに気づくと慌てて起き上がって離れた。

「おはよう、ティア」
 声をかけても彼女は知らんぷりだ。やっぱり可愛くない。
「返事くらいしたら?」
 催促するとティアはようやく「おはよう」と言った。
 私が身体を起こすと、シーツがめくれてティアの胸が見えた。彼女はそれに気がつくと慌てて胸を隠した。
「私、なんで昨日から何も着てないの?」
「ああ・・・・・・」
 昨日は満月だったから庭で月光浴させていたんだった。
 大気に漂う4属性を少しでも効率良く身体に吸収させようと服を脱がせたんだけど。今のティアにそれを言った所で、理解するとは思えない。

「服を着させて」
 不機嫌そうに言う彼女はベッドの脇に落ちているそれが自分の物だと認識できないらしい。「そこにあるのを着れば?」なんて言えば、きっと怒るに違いない。面倒だけど、新しい物を用意してやろう。
「待ってて。取ってくるから」
 私は命令をすると、寝室を後にした。それからすぐにドレスルームから服と下着を取ってくると、ティアに渡した。

 ティアは黙って受け取ると私に背を向けて服を着始めた。その様子を観察していたら、ティアはくるりと振り返った。
「見ないで」
 一言だけ言うと彼女はまた服を着る作業に戻る。

 ━━やっぱり、私に裸を見られることも嫌なのか。

 羞恥心は随分前から彼女の心に芽生えていた。だが、それでも今までなら、私にだけは身体を見られることを嫌がらなかった。

 ━━面倒な女になったな。これからの生活が思いやられるよ。

 そんなことを考えていたら、着替えを終えたティアが私に向き直った。
「説明して」
「何の話?」
「昨日、眠る前に言ったじゃない。朝が来たら説明をするって」
「ああ・・・・・・、そうだったね」
 前みたく眠れば忘れてくれるかと思ったが、そうもいかないらしい。
 私は彼女をしっかりと見据えると説明を始めた。

「まずは昨日した話をもう一度、詳しくしよう。ティアが私を喚び出したから私はこの世界に来た。その時、お前は薄汚い男によって殺されそうになっていた。だから、私はその男とそれに従う人間達の魂を消した。そしてその魂を贄にしてお前を私の眷属にしたんだ」
「フィアロン公爵達を生贄したってこと?」
「そう。お前のためにね」
 私の嘘にティアは顔を青くした。

 フィアロンとかいうあの薄汚い男と、それに仕えていた人間どもを消したのは事実だ。でも、そうしたのはティアのためではなかった。
 彼らの魂はシトレディスよって酷く汚されていた。最早、人間とは呼べないものに成り果てた彼らは、世界にとって悪影響をもたらす存在でしかない。
 おまけに、彼らはか弱い女を死ぬまで嬲ることを良しとする程の外道達だ。そんな碌でもない人間は、生まれ変わる必要もないだろう。
 だから、私は彼らの魂を一人残らずバラバラにして、私の元に返したのだ。

 でも、本当のことをティアに教えてやるつもりなど毛頭ない。
 彼女は、私への信仰心を失い、敬う事を忘れてしまった。それどころか、私を嫌って逃げようとする。
 彼女がそうであるなら、こちらは恐怖心や罪悪感を煽って私の下に繋ぎ止めるまでだ。

「どうして私のためにそんなことを?」
「お前はかわいい私の信徒だ。私は自分の物が誰かに壊されるなんて我慢できないんだよ」
 怯えるティアの頭を撫でてやったというのに、彼女はその手を張り払ってきた。
「不満があるの? お前は二度とあんなやつらに会わなくて済むのにさ」
「・・・・・・」
 ティアは何も言わない。
 でも、私には彼女の思考が分かる。

 "━━怖い。私も逆らったら殺されるの? ・・・・・・そもそも、この人は私をどうする気なんだろう"

 彼女は私の嘘に気付いていない。そして、私の画策通り、私に恐怖心を抱いた。これで、しばらくは安易に私の下から逃げ出そうとはしないだろう。

 私は彼女の考えに気づいていないふりをして、話を続けた。

「それに、ここの屋敷のやつらがみんないなくなれば、私達が彼らの財産を全て手に入れられるでしょ? 住み心地の良い家に高貴な身分、ありあまる金銀財宝の全てが私とお前の物だ。最高じゃないか。だから、文句は言わせないよ」
「待って。家や財産はともかく、高貴な身分っていうのはどういうことなの?」
「そのままの意味さ。今のお前はティア・フィアロン公爵だ。不幸にも両親を亡くし、若くして公爵の身分を継いだ、フィアロン前公爵の一人娘だよ」
 私の発言にティアは目を丸くする。そんな顔をしたティアを見たのは初めてで、こんな表情もできるのかと感心した。

「そんな嘘を吐いても、すぐにバレるわ」
「誰に?」
「誰って・・・・・・、フィアロン公爵は有名な貴族で『本当はこんな田舎で暮らすべき一族ではない』って言われてるじゃない? それに、他の貴族に対しても、すごい影響力をもっているとも聞いたわ。だから、公爵が急にいなくなって、存在するはずのない娘が身分を継いだりしようものなら、誰かしらが不審に思うはずよ」
 ふふっと声を漏らして笑うと、ティアが睨みつけてきた。私にそんな目を向けるだなんて生意気なやつだ。
「大丈夫。貴族であろうとも所詮は人間だ。私の魔法に気が付ける存在ではないよ」
 ティアは首を傾げた。
「言っている事が分からない? 私の魔法で、フィアロン公爵に関するありとあらゆる記録と記憶を改竄したんだ。それに気が付ける人間なんて、この世にはいないね」
 正確には、シトレディスの眷属であるアルとかいう男だけは、その事実に気づいているはずだ。彼はシトレディスの駒であり、調査団に参加していた。アルはシトレディスからその情報を与えられていたからこそ、私とティアの事を確認に来ていたのだろう。
 でも、私はその事実をティアに言うつもりがなかった。
 彼に会ったのは随分昔の事で、今のティアは彼の事を覚えていない。それに加えて、アルの事を話すとなると、様々な事を説明しなければならなくなる。私がどんな存在で、シトレディスと対立関係にあること、そして、この世界の狂った状況にあることを伝えることとなるだろう。
 だが、ティアがそんな事を知る必要などないのだ。この世界で私と永遠に生きるのなら、難しい事は何も知らずに気楽に生きればいいんだ。中途半端に関与させても良いことはなにもないだろう。

「だから、貧民街で生まれ育った賤しいティアなんてこの世には存在しない。みんな、お前のことをフィアロン公爵と信じて疑わないから、その身分から得られるものを享受すればいいんだ」
「そんなはずは・・・・・・」
「信じられなくても、そのうち分かる日が来るよ」
 どうせ、遅かれ早かれ調査団の人間がやってくる。彼らの態度を見ればティアが身分の低い者として扱われていないことくらい、彼女にも理解できるはずだ。
「だから、この話は終わりにしよう。もっと大切な事を話さないといけないから」
 私がそう言うと、ティアは恐怖を感じて身構えた。
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