【R-18/番外編】この狂った世界で私達はささやかな幸せを求める

花草青依

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月夜の人形

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 後日、俺はエルドノアの領域であるフィアロン公爵領へと向かった。
 エルドノアをなるべく刺激をしないように。かつ、俺を守るということで、「調査団がフィアロン公爵領の視察に行く」という体になった。事前に公爵邸へと向かう旨を伝えると、エルドノアはあっさりと了承した。

 フィアロン公爵領に入って驚いた。手元にある計測器で、"生命・魂"を表す数値がぐんと上がったのだ。この数字が伸びるということは、理論上は出生率が上がり、病気で命を落とす者が減ることになるが・・・・・・。領民たちの見た目だけでは、その違いは分からなかった。彼らを観測し、検証してみたいところだが、残念ながら今回の旅の目的に沿わない。俺達は、エルドノアのいるであろうフィアロン公爵邸へと進んだ。

 フィアロン公爵領に入ってから数日後、ようやく目的地である公爵邸へとたどり着いた。
 屋敷につくと、魔法人形達が俺達を出迎えた。一見人間にしか見えないが、計測器で測ると土と生命の力で構成されていることがまるわかりだ。
 どうやらこの屋敷に仕える全ての使用人は魔法人形のようだ。

「皆さま、お待ちしておりましたわ」
 ティア・フィアロンと名乗った魔法人形がそう言った。
 その魔法人形は、ブラウンの髪に琥珀色の瞳をした、あどけなさの残る若い女性だった。それは、本物のティア・フィアロンを模して作られたものなのだろうか。
 魔法人形は困ったと言わんばかりにわざとらしい表情を浮かべると、片手を頬に手を当てた。
「『国王陛下の許可なしに軍隊を編成した』など、私としては、覚えのないことですが・・・・・・。皆さまがそう思われるのであれば、しかたがありませんわ。捜査に協力致します。どうぞ、屋敷の中を好きなだけ調べて下さいませ」
 魔法人形は自信満々に言うと、調査団の隊員の静止の言葉を無視してどこかに行ってしまった。
 人形には特別用事はない。でも、念には念を入れる必要がある。だから、隊員達には一先ず、あの魔法人形を見つけるように指示をした。「人形に怪しい動きがあれば俺に報告するように」と手配をすると、ようやく俺はエルドノアを探すことを始めた。







 エルドノアを探し始めてから約3時間。屋敷の中を隈なく探したのに、エルドノアらしき人物はいなかった。それはおろか、ティア・フィアロン本人やその偽物である魔法人形すらいなかった。

 ━━何か魔法を使ったのか?

 計測器を使ってもう一度屋敷の中を探索すると、おかしな数値を示す場所があった。
 だが、そこは廊下の突き当たりで、何の変哲もない壁があるだけだった。

 ━━ただの壁にしか見えないが。

 念のために手をかざして幻影を解く魔法を使ってみる。すると、さっきまで壁だったところに、扉が出てきた。
 扉をじっくりと、そして慎重に観察する。

 ━━普通の扉だな。扉に罠は仕掛けられてなさそうだ。

 俺はドアノブを手に取ると、慎重に、そして物音を立てないようにそっと回した。それから、ゆっくりと、少しだけ扉を開けて中の様子を伺った。

 まず目に入ったのは、床に転がったティア・フィアロンだった。彼女は手足を力なく放り出して横たわっている。先程とは違って随分と作り物めいていて、到底生きた人間とは思えない。
 さっき俺たちを出迎えたティア・フィアロンはやはり魔法人形だったようだ。

「んあっ」
 部屋の中から甘い女の声が聞こえた。

 ━━部屋の中に、本物がいるのか?

 それを確かめるために、また慎重に、扉をもう少しだけ開けた。

 大きくなった隙間から見えたのは、裸の男女だった。
 ベッドで寝そべる女とそれに跨る男。彼らは扉側に足を向けている状態だった。彼らは激しくまぐわりあっていて、俺が見ていることに気づいてはいないようだ。

「あんっ、うぁっ」
 男が動く度に女は小さく喘ぎ声を漏らしていた。
「ひゃっ、うあっ、んあっ」 
 男の太くて長いものが女の中に出し入れされるのがよく見える。女は細くて小さな身体をしているのに、よくあんなものを受け止められるなと感心してしまった。

「あぅっ!! あんっ、ひゃっ!」
 男の動きが激しくなると、パンパンという破裂音と女の喘ぎ声がどんどん激しくなっていく。
「あ"、あ"んっ、あっ、うぅっ」
「イキたい?」
 男は女に尋ねたが、女は返事をしない。ただただ喘ぎ声をあげて快楽に浸っているだけだ。
「そう。ならイこうね」
 男はそう言うと女の中に深く腰を落とした。
「ん"あっ」
 男がぐりぐりと押し付けると女は足をぴくぴくと痙攣させた。

 やがて男は女の穴から自身のものを引き抜いた。その際、男が女の腹の中で放った白いものがどろりと溢れ出てきた。
 男はその液体を指に絡ませると、その手を女の顔のあたりに近づけた。すると、びちゃびちゃと汚らしい水音が聞こえた。ここからは見えないが、どうやら女は精液にまみれた男の指を舐めているらしい。

 不意に男が振り返った。突然の事で俺は身を隠すことができず、男とばっちりと目が合ってしまった。
 その男は、シトレディス様よりも美しい顔をしていた。あまりの美貌に俺が見とれている中、彼はにやりと笑った。その途端、扉が突然、ぱたりと閉まった。

 ━━気づいていたのか?

 見られているのを知った上で行為を続けていたとなると・・・・・・。とんだ痴態を見せられたものだ。
 美しい男と謎めいた女の淫靡なまぐわい。先程の彼らの行為が脳裏に浮かんでくる。俺は首を振ってそれを打ち消した。

 "エルドノアの特徴? 彼はすごく綺麗な顔をしていて体格も優れてるの。見た目はパーフェクトなんだけど。ただ、とても破廉恥で性格の悪い男よ" 

 出発前にシトレディス様がそんなことを言っていたのを思い出した。

 ━━あの男がエルドノアに違いないだろう。

 シトレディス様の言っていたエルドノアの特徴に合致している上、俺でも見抜けないような高度な魔法の使い手だ。彼がエルドノアで間違いないと思うが、もっと明確な根拠が欲しい。

 そう思ったから、もう一度扉を開けて中を確認しようとした。
 だが、ドアノブは何かに押さえつけられているかのようにピクリとも動かない。魔法を使って色々と試してみたものの、その扉が開くことは二度となかった。

 これ以上ここにいても、新たな収穫は得られない。俺はそう判断して、一先ずこの場を離れることにした。
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