【R-18/番外編】この狂った世界で私達はささやかな幸せを求める

花草青依

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お人形に恋をした

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 ━━エルドノアさまの役に立たなきゃ。

 1人じゃだめなの。1人からもらえる量は少ないから。3、4人くらいから精液を貰えれば、いいのかな?
 今日はたくさん男の人の相手をしよう。褒めてもらえるといいんだけど。
 視界がぐらぐらと歪む。気持ち悪くてベッドの中で眠りたくなる。

 ━━だめ、寝ちゃだめなの。

 こういう感覚に陥った後に眠ったら頭の中がぐちゃぐちゃになるから。いろんなことを忘れたり分からなくなったりするから。忘れたら、また、エルドノアさまに嫌われちゃう。
 早く、お仕事をしないと。動ける間に、早く。
 ぐらりと視界が歪んで、世界がぐるぐると回った。転びそうになって咄嗟に誰かに捕まったら突き飛ばされた。

「気安く触らないで」
 そう呟いたのは聖女だった。私が彼女の腕を掴んだことが気に入らなかったみたい。
「何よ、わざとらしく転んでみせて。さっさと起き上がりなさいよ」
 ふくらはぎを蹴られた。
「ごめんなさい」
 もっとひどいことをされるかと思ったけど、聖女はぶつぶつと言いながら立ち去っていった。

「大丈夫ですか」
 赤い髪の男の人が駆け寄ってきた。若くて整った顔をした人だった。男らしくてすごくかっこいい。彼は私の肩に腕を回して上体を起こしてくれた。
「ごめんなさい。めまいがして、転んだだけなの」
 立ち上がろうとしたけど、上手く起き上がれなかった。
「失礼しますよ」
 赤い髪の男の人はそう言うなり私の身体を楽々と持ち上げた。しがみついたら彼の胸板が厚いのが分かった。すごくいい身体をしている。

「公爵様のお部屋はどちらですか」
「あっち」
 寝室に知らない男の人に来てほしくなかったから嘘を吐いた。男は指を差した部屋に私を連れて行った。



 私をベッドに降ろすと男は傍らの椅子に腰を掛けた。
「聖女様が失礼を働き申し訳ございません」
「いいの」
 聖女の意地悪は今に始まったことじゃないから。
 男は悲しそうな顔で私を見た。この人は、聖女が意地悪な人だと知っているのかもしれない。
 エルドノアさまの邪魔をしたらいけないから、私は聖女とはなるべく関わらないようにしていた。でも、彼女はわざわざ私に近づいてきて、ちょっとした嫌なことをしてくる。足を踏んできたり、つねったり、酷い言葉を投げかけてきたり。
 どうして彼女がそんなことをするのか分からない。エルドノアさまに聞いてみようかとも思った。でも、そんなことをしたらエルドノアさまに嫌われるような気がして、結局何も言わなかった。

 また頭がクラクラした。身体に思うように力が入らない。
「公爵様?」
 男は気遣ってくれているのだろう。私の身体を擦ってきた。
「貧血かもしれませんね。マッサージしてもいいですか」
「好きにして」
 ヒンケツというものが何なのか分からないけど、多分違う。私はエルドノアさまの眷属だから人間の病気には罹らないらしい。だから、この症状は、病気じゃなくて・・・・・・。病気じゃなくて?

 ━━前にお話を聞いたのに。思い出せない。

 足裏を揉んでいた男の手が徐々に上にあがってくる。足首からふくらはぎを優しく擦られる。

「ふぁっ」
 くすぐったくて足を動かした。
「公爵様は、くすぐったがりですね」
 男はそう言って笑うと私の脚に口づけをした。

 ━━チャンスだ。

 よくわからないけど、この人は私に興味を持っているみたい。少し誘惑したら抱いてくれるかも。

「そこじゃないの」
 私の言葉に男はぴくりと反応した。
「キスして欲しいところは、そこじゃないの」

 目をじっと見つめたら、男は私の身体を抱きしめて口づけをした。
 荒々しく口の中を貪られる。まるで私の口の中を蹂躙して味わい尽くさないと気が済まないみたいだ。
 激し過ぎて上手く息ができない。苦しくてたまらなかった。顔を逸らしてもしつこく追いかけてくる。

 長いことキスをさせられて、彼はやっと私を解放してくれた。
「今日も、してもいいですか?」

 ━━今日も?

 男は熱っぽい目で私を見てくる。だめと言っても襲いかかって来そうだ。
 私は息が絶え絶えの中、頷いた。男は心底嬉しそうに笑うと私の上に跨ってきた。

 彼は私の胸のリボンを解くと下着を乱暴にずらした。顕になった胸をぎゅっと掴んできた。無骨な彼の指が食い込んで痛い。

「やさしく、して」
 懇願すれば、あっさりと手の力を弱めてくれた。
「ありがとう」
 彼の首筋にキスをしたら男は鼻息を荒くして私の胸にしゃぶりついてきた。
「やっ、んぅ」
 舌で胸の先を転がされて思わず身体が跳ねた。
「あぁ、やっ、やあっ」
 身を捩ると男は私の胸から離れて、シャツを脱ぎ捨てた。筋肉質で、それでいて傷だらけの身体が露わになる。
 脇腹に特に深い傷痕があった。それが気になって指でなぞった。
 
「公爵様」
 男は私の手を掴むと、手の甲にキスをした。
「昨日みたいに、してくれませんか」

 ━━昨日? 

 ・・・・・・ああ、そうだった。昨日もこの人としたんだった。

 私は起き上がって服を脱ぎ捨てると、今度は彼の上に跨った。そして彼の身体についた傷痕にキスを落としていく。その間、男は私の背中を優しく撫でてくれた。

 ━━名前、なんだったかな。

 身体中、至る所にキスを落としている間、ずっと考えた。
 でも、結局、彼の名前を思い出すことはなかった。
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