【R-18/番外編】この狂った世界で私達はささやかな幸せを求める

花草青依

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お人形に恋をした

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 翌日、予定通り調査団が屋敷に来た。今回は横領の疑いがあるという名目で家宅捜索をするらしい。面倒事はティアと用意していた泥人形たちに任せて、私は聖女のもとに向かった。

「こんにちは。聖女様」
 所在なさげに立ち尽くしていた彼女は私が声をかけると顔を真っ赤にした。目を見たら不自然なくらいに逸らされた。どうやらこの女は私のことが好きらしい。
「少し二人で話をしたいんだけど、大丈夫?」
 小声で囁くと彼女はこくこくと頭を振った。彼女の手を取って歩こうとした途端、ジブリデに止められた。

「聖女様に何をするつもりです?」
 "セックスだけど?"と言えば、この生真面目そうな男は卒倒するのだろうか。勿論、そんなことはしないけど。
「大丈夫。少し二人でお話をするだけだから」
 私が返事をする前に聖女が言った。
 ジブリデは私を睨みつけながらも聖女を止めることをしなかった。どうやら調査団の団長よりも聖女の方が格上扱いらしい。

 聖女の手を引いて、ゲストルームに入る。ベッドに腰掛けて彼女に横に座るように促す。聖女は戸惑いながらも座った。
「あの、エルドノア」
 聖女は当然のように私の名前を呼んだ。この世界では、私の名前は今や悪の権化だ。正直に名乗ろうものなら面倒なことになる。だから、"ノア"と名乗っているのに。なぜこの女は私を"エルドノア"だと分かった?

「あっ、ごめん。ノアって呼んだ方がいいのかな」
 カマをかけているのか? それとも単純に口を滑らせただけ? 分からないからここは泳がせておこう。
「二人っきりの時ならいいよ」
 微笑むと聖女は大胆にも私の胸に抱きついた。
「聖女様?」
「アカリって呼んで」
 この世界では聞き馴染みのない語感だ。
「アカリ」
 名前を呼んでやったら抱きしめる力が強くなった。ティアといい、この女といい、名前を呼ばれたくらいで何が嬉しいんだろう。

 どういう訳かは知らないが、この女は私のことを相当好きみたいだ。少し優しくして特別扱いをすれば何か情報を得られるかもしれない。思ったよりも楽な作業になりそうだ。
 私は彼女の背中にそっと腕を回した。
「どうしてかな。初めて会ったはずなのにそんな気がしない」
 勿論、嘘だ。彼女の薄い顔はこの世界では異質だった。それに黒髪と黒い瞳を合わせ持つのはこの世界ではとても珍しい。物珍しい見た目をした彼女はどこからどうみても、"はじめまして"だった。

「それだけじゃない。私は、もっと君のことを知りたいって思ってしまう」
 抱きしめた身体をそっと離して聖女と見つめ合う。しばらくじっと見つめてからキスをした。優しく丁寧に。そうしていたら聖女は私の背に手を回した。

 ━━チョロいものだな。

 それにしても、この女はこの世界の人間と身体の根本的な部分がまるで違った。
 聖女の身体の中には4つの属性が流れていない。彼女の身体を流れる時間はシトレディスの力とは異なるようだし、魂だって見たことのない輝きをしている。
 この世界でこいつが死ねば私の中にこの女の魂が混入するのだろうか? もしそうなるなら、生命の法則に悪い影響を及ぼしそうだ。

 ━━殺すのは厳禁だな。

 キスを終えると、聖女はトロンとした目で私を見つめていた。その目には恥じらいと期待が交じっている。
 私はベッドに彼女を押し倒した。
「このまま、してもいい?」
 断らないことは分かりきっている。紳士を装って聞いてみただけだ。
「うん」
 案の定、聖女は私を受け入れた。
 私は微笑んで聖女の頬を撫でた。そして、彼女の服を脱がしていく。面倒だけどそれに合わせて自分の服も脱いでいく。

 ━━私にここまでさせるんだから、有益な情報の一つや二つ、渡してほしいな。

 もし、この女が何も与えてくれなかったらどうしてくれようか。殺すのはだめだ。腕でも折る? でも、それだとあまり楽しくない。
 "エルドノアと寝た裏切り者だ"と信徒たちに公表するのが良いかもしれない。シトレディスは裏切り者を許されないから、どこかの次元にでも飛ばしてくれるだろう。

 そんなことを考えながら、聖女を抱いた。
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