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第14話 盃を満たせば、天下が見える【ジャンル:ゲーム】

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「あぁ、もう!」

シンの父親が、書斎で頭を抱えて。
あれこれと悩んでいた。
仕事に行き詰っている訳では無い。
息抜きにプレイしている戦国シミュレーションゲームが、上手く行っていないのだ。
内容は、この手に良く有る〔天下統一物〕で。
有名武将から始めると、強過ぎて甲斐がいが無いので。
大抵は、辺境の弱小武将から始めるのだが。
これがまた、面倒臭い。
土地はせている、町は小さく発展しづらい。
家臣が弱いので他国に攻め入りにくい、等々。
だからこそ、遣りごたえが有るのだが。
最近のシミュレーションゲームは、パラメーターが多過ぎて。
時々、ややこしくなるのだ。
書斎の前を通り掛かった姫が、ドアの隙間からその様子を覗いている。
『何とかしてあげたいなあ』と、姫は思っていた。
普段世話になっている事への、感謝の気持ちからだった。
そこへ、シンも通り掛かる。

「何やってんだ?」

「きゃっ!」

シンから、不意に声を掛けられた姫は。
思わず叫んでしまう。

「ん?」

廊下の様子に気が付いた父親。
丁度良い、休憩するか。
そんな感じで、父親は椅子から立ち上がると。
キッチンの方へと向かって行った。



父親が居ない内に、勝手に書斎に入る姫。
仕事用だろうか、色々な資料が整然と本棚に並んでいる。
それと同じ位に、ゲームや単行本・DVDも並んでいた。
シンは棚を見ながら、『やれやれ』と言った感じで言う。

「父さん、良く母さんに呆れられないな。」

「お父様がしっかりと仕事をしているからでしょう。責任はきちんと果たしているのですから、これ位は大目に見てあげてるんですよ。」

フォローする姫、対してシンは『それにしては、尋常じゃない量だけどな』とボヤく。
『それよりですねぇ』と姫は、モニターを指差しながら言う。

「あれ、代わりに進めておきませんか?普段の恩返しがしたいんです。」

「それなら、今度じっくり。話し相手にでもなってあげれば良いじゃないか。」

ここからは。
姫とシンの言い合いへ。

「それじゃあダメなんです。私にしか出来ない事じゃないと。」

「でも、俺の力で入るんだろ?それに、勝手に進めると。父さんの楽しみを奪う事になるんだぞ?」

「あんなに悩んでるのにですか?」

「それもプレイの内なんだよ。サクサク進むゲーム程、詰まらん物は無いしな。」

これは、ゲーマーとしての意見。
それでも姫はまだ、シンに食い下がる。

「でも、ほんの少し位……。」
「だーめ。」
「でも……。」

「どうしたんだ、一体。」

そこへ父親が、カフェラテをマグカップに入れて戻って来た。
『いや、あの……』と何とか誤魔化そうとするシン。
『……そう!シンが、このゲームを遣りたいって言うんです!』と。
姫が咄嗟とっさに、適当な嘘を付いた。

『おい、勝手にそんな設定作るなよ。』

シンが姫に、小声でささやく。
姫の言葉に、シンの父親はうんうん頷いて。

「そうか、そんなに遣りたいか。」

「ま、まあ。」

姫に合わせて、シンはそう言ってしまう。
すると、父親は。

「じゃあ、貸してやるよ。丁度、行き詰ってたしな。頭の中を整理したかったんだ。」

そう言って、こころよくゲームを貸してくれた。

「ど、どうも……。」

ゲームをその手に抱えながら。
こうなったら、プレイするしか無いじゃないか。
不意に厄介事が舞い込んで、困惑するシンだった。



成り行きで、ゲームをプレイする事になったシン。
しかしシンも、ゲーマーのはしくれ。
遣るからには真剣勝負だ。
取り敢えず、群雄割拠の時代を選択して。
そこに有る沢山の武将の中から、かなり弱い者を選んだ。
これは、父親譲り。
しかしシンも、最初の壁にぶつかった。
内政を行って町を発展させようにも、資金が足りず。
徴兵を掛けても、人口の少なさに。
兵が思う様に集まらない。
かなり時間を掛けて、国を育てる必要が有った。
それでも一国、また一国と。
着実に勢力を拡大させて行くシン。
最初に選んだ武将の能力値が低いせいで、家臣の忠誠心も中々上がらず。
戦況が二転三転する事もしばしば。
シンは段々イライラして来た。
そしてとうとう、我慢が出来なくなる。

「こうなったら、中に入って!俺が直接、命令した方が早い!」

シンは、ゲームの中へ入ろうとする。
姫は、『さっきと言ってる事が違う!』と思いながも。
シンをいさめる。

「良いんですか?楽しみが無くなるんでしょう?」

「俺はあの力を使って、中で楽しめるから良いんだよ!それよりステータスの問題を、何とかクリアしないと……!」

ぶつぶつ言いながら、画面内へ入るシン。
呆れながら付いて行く姫。
戦況の行方はさて、どうなることやら。



「頼もー。」

居城の入り口で、大声を上げるシン。
何やらきらめく物が積まれた台車をいて。
警護に当たっている足軽衆の制止を無視し、勝手にズンズン入って行く。
止められようとする度に、シンが『邪魔をするな』と命ずると。
足軽は何故が、それに従わねばならない気がして。
それ以上、何も出来なかった。
シンが姫に説明する。

言霊ことだまって奴だな。これを使って、領主の座を明け渡して貰おう。」

「上手く行きますかね?」

姫は半信半疑。
シンは積み荷に目を遣りながら、『その為にこれが有るんだよ』と自信満々。
本丸まで辿り着き、領主にお目通りを願う2人。
言霊の力で、すんなりと通された。
領主に謁見するなり、シンはこう言った。

「いきなりで申し訳有りませんが、領主の座を俺に明け渡して頂きたい。」

『何と無礼な!殿!この者の言葉に、耳を貸す事は有りませぬ!』

家老が声を荒げる。
『まあ良いではないか』と言いつつも、領主が尋ねる。

『して、そのほう。何故、その様な戯言ざれごとを?』

「はっきり申し上げましょう。あなたは、人の上に立つ器ではございません。」

『この者を切り捨てましょう!』

他の家臣がガタッと立ち上がり、刀を抜こうとする。
それを見てシンは、力を込めて言う。

「刀を収められよ!まだ続きが有ります!」

すると家臣は、自分の意思に関係無く刀を収めた。
『最後まで申してみよ』と、領主は聞く用意が有る様だった。
シンは、話を続ける。

「はい。あなたは優し過ぎて、この乱世を生き抜く為の決意が足りません。その為に処々の決断で迷いが生じ、他の勢力に後れを取る結果となっているのです。」

これは、この領主の能力値が低い事への間接的な説明だった。
領主は図星を突かれたらしく、コクンと頷いていた。

『確かにそうだ。私は悩み過ぎていて、後手後手に回っていた。それが、この様な現状を招いたのかも知れん。』

「しかし、俺には。敵味方の状況を、常に把握出来るすべが有ります。ですから、いっその事。俺に全権を委ねて頂きたい。」

『ほう。思い切った提案だな。』

「その代わり、あなたには。俺の代わりに、現場で指揮をって頂きます。」

『私は余り、城の外へ出ない方が……。』

賞金首が歩いている様な物だから、領主の意見は当然だった。
それでもシンは尚も、話を続ける。

「その方が、皆の士気も上がりましょう。作戦は俺が立てます。大丈夫、上手く行きます。」

『そんな事の為に、殿を遣わす気か!』

思わず家臣が、シンへ怒鳴る。
そこへニヤリと笑みを浮かべ、シンが言う。

「ただでとは申しません。運んで来た積み荷を、どうぞ御確認下さい。」

シンにそう言われた家老は、すんなりとシンに従った。
台車の上に載っている荷物を見て、領主や家臣は驚いた。
それは、〔大量の金銀〕だったのだ。
シンが皆へ言い放つ。

「これで諸国から兵糧を集めたり、庶民へこちらへの寝返りを勧めたりします。この量で足りなければ、更にご用意します。」

これだけの財力を見せつけられては、家臣も従う他無かった。
実際、今の領主では。
ここまでは出来ない、そう分かっていたからだ。

「これが切り札だったんですね。」

姫は、シンのやり取りに納得する。
人間は、多少の富では心を動かさない。
しかし予想も付かない圧倒的財力の前では、判断力が鈍るのだ。
シンはそこを突いた。
領主は少し考えた後、決断する。

『分かった、そちに座を譲ろう。』

『宜しいのですか!この様な無法者を招き入れて!』

家臣は反対するが、領主は覚悟を決めていた。

いのだ。遅かれ早かれ、こうなる様な気がしていた。これも下剋上よ。』

「建前上はあくまでも、あなたが領主です。家臣やこの国の民の為にも、それが良いでしょう。」

シンがそう告げた、この言葉は。
下剋上でシンが国を率いるよりも、皆が従い易いと言う考えの他に。
シンがプレイヤーとしてゲーム内に残る事を防ぐ、と言った意味合いも有った。
シンの言葉に、領主が驚く。

『影武者で良い、と言う事か?』

「事態を仕切るのは俺です。ですが、実際行動するのはあなたです。その方が、互いにとって都合が良いでしょう。」

『相分かった。そなたを信じよう。しかし……。』

領主には1つ、疑問が有った。
敢えてそれを、シンに問う。

「何故、そこまでしてくれるのだ?この様な弱小の国に……。」

「それは……」

領主の問いに対し。
シンは声高らかに、こう答えた。

「どの領主よりもあなたが、この国々の平和と安寧を望んでいるからですよ。」

それは、或る意味。
シンによる、天下統一宣言だった。



それからのシンは、忙しかった。
ゲームのステータスを空中に表示し、少し考えては。
領主へ伝令を出し、それを元に領主達は動いた。
それはまんまと上手く行った。
それもその筈、シンは。
どの国にどれだけの国力と兵力が有るか、武将の能力値から城の耐久度まで全て把握出来たからだ。
手柄は全て、領主の物にした。
そうする事で、『優れた領主だ』と民に知らしめ。
領主に従い易くしたのだ。
お陰で領内は、平和そのものだった。
〔民が平和に暮らせる様尽力する領主〕、そんな評判が他国にも知れ渡り。
寝返ったり従ったりする国が、自然と増えて行った。
なるべく戦わずして勝利する、そう言うスタイルをシンは貫いた。
ゲーム内でも、出来るだけ殺し合いはしたく無かったのだ。
それでも、戦わなくてはならない時はやって来る。
或る程度プレイが進み、領主の淘汰が進んで。
領土が集約されつつある時、シンはとうとう動いた。
トップ同士の会談を、各国に持ち掛けたのだ。
『同じ天下統一を目指す身ならば、一度面と向かって話し合おう』と。
この頃には、領主の人気は絶頂期で。
それと同時に、領主の能力値もトップレベルになっていた。
シンが直接関与したからこそ出来た、言わば〔チート〕だった。
会談場所には、京に在る大きな寺がてられた。
そこへ大大名6名が集まった。
シンも側近として、その場に参加。
不測の事態に備える為だ。
会談の流れは、領主と或る程度打ち合わせていた。
恐らくどの大名もプライドが高く、天下統一を譲らないだろう。
そこで、領主の力を見せつけるのだ。
どの様にするかは、シンに任されていた。

『本当に、上手く行くだろうか?』

「信じて下さい。共に頑張りましょう。ここが正念場です。」

シンは領主を、懸命に励ます。
かくして会談は始まが、早速紛糾。
誰もが権力を握りたい、当然だった。
領主だけは、シンの力でここまで来た事を自覚していたので。
権力に対し、しがらみは無かった。
これが領主に、心の余裕を生んだ。
激しいやり取りの中、『まあまあ』となだめる領主。
権力者としてのゆとりを見せつける格好になっていた。
そこへあらかじめ仕込んで置いた、シンの取って置きが。

『た、大変です!【朝廷から使者が来られました】!』

出席者は皆びっくりする。
シンから事前に、それを聞かされていた領主は。
おもむろに立ち上がり、『そうか、通せ』と命じる。
朝廷からの使者が、会議中の輪の中にドカッと座り。
手紙らしき物を読み上げる。

『これは朝廷の意志であり、統べる方の意志である。その者に天下を収める様、命が下された。』

そう言って死者は、領主を見やる。
シンは前もって、場の紛糾を予見し。
民に好かれる様領主の立場を良くさせ、その評判が朝廷へ届くまでにした。
そして自ら朝廷に直接出向き、領主が如何いかに素晴らしい人物かをとう々と説いた。
言霊の威力も相まって、朝廷を味方に付ける事に成功したのだ。
領主の人気は、今や全国レベルだ。
それに加え、朝廷も領主の味方と来た。
ここで刃向えば逆賊となりかねず、民や家臣の心まで離れて自分の命すら危うくなる。
他の大名は、その勅令に従う他無かった。
こうして天下は統一され、領主がまつりごとを行う事になった。
シンがここまで丹精込めて育てたのだ、もう民の暮らしを預けても大丈夫だろう。
別れの時が来た。



会談を終え帰国の途に就く中、シンは領主に切り出した。

「俺の役目は終わりました。ここでお別れです。」

『そんな……!』

領主を始め、家臣一同が驚く。
シンの手腕は、今や誰もが認める程凄い物だった。
天下統一が成った今では、シンは掛け替えの無い存在だった。

「俺は在るべき場所へ帰らねばなりません。短い間でしたが、お世話になりました。」

『それは何処だ?』

「遠い遠い場所です。時間さえも超える様な……。」

『そうか……残念だ……。』

領主は、『彼を止められない』と感じた。
それ程、シンの表情が真剣だったのだ。

『世話になったな。せめて、これを持って行ってくれ。』

領主は、先祖代々受け継がれて来た盃を箱に仕舞って。
シンへと渡した。

『例え遠くに離れていても。これを見て、私を思い出して欲しい。』

涙を浮かべて、領主は告げる。
半人前の自分を、ここまで連れて来てくれた。
領主の心は、感謝で一杯だった。

「ありがとうございます。謹んでお受け致します。」

シンは深々と頭を下げて、盃入りの箱を受け取った。

『それと、これは勝手な願いだが……。』

領主は続ける。

『そなたを、生涯の友と呼ばせて欲しい。宜しいか?』

「この上無い喜びです。」

領主の言葉に、シンは笑顔で答えた。
『それでは』とシンは、姫を連れて。
近くの林の中へと消える。
そして、林の奥がピカッと光った。

『あの者は、神の使いだったのかも知れぬな……。』

領主は寂しそうに、そう呟く。
今生こんじょうの別れと成ろうとも、その絆は切れる事は無い。
そう確信する、領主だった。



シンは無事、姫と元の世界へ戻って来た。
このゲームはターン制で、しかも一月ひとつきごとに行動する為。
ゲーム内で過ごした時間は、実時間で一週間程だった。
それでも2人には長かったが。
姫は活躍する場が無くて、暇をあましていた。
なので、姫は姫で。
臣下の武将をねぎらったり、その家族の話し相手になったりしていた。
実はそれも、立派に天下統一に貢献していたのだが。
姫は気付かなかった。
しみじみとした表情で、シンは呟く。

「やっとゲームクリアか。長かったな……。」

「シンが余り、相手してくれなかったから。私、寂しかったんですからね!」

姫はここぞとばかりに、シンの傍に寄り添う。
それに対し、『悪かったよ』とシンの言葉。
最後まで付き合ってくれた姫に、心から感謝していた。
手元に残った盃を見て、懐かしそうに窓の外を見やるシン。
とても満足した笑みを浮かべていた。



ゲーム画面は、スタッフロールが流れていた。
そして最後に、こう表示された。

《ゲームクリア時、8年5か月目。》
《ボーナスとして【絆の盃】をゲット!》
《最後まで遊び頂き、感謝申し上げる。》
《主君の働きにより、この国に平和が訪れた。》
《我が主君に栄光あれ!》
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