5 / 31
第3話 どんな時でも日常系【ジャンル:アニメ】
しおりを挟む
「面白いから見てみろよー。」
時々シンは、リョウに追い駆けられる。
執拗に、自分の好きなモノ(大抵2次元)を貸そうとして。
シンを同志にしようと言うのだ。
所謂、〔布教〕と言う奴だ。
今回は日常物のDVD、それも。
女の子だけ出て来る、今流行りの作品。
「ちょっとだけでも良いからさ、な。損はさせないって。」
この前も、その台詞を聞いたぞ。
シンは、そう突っ込みたくなったが。
何だかんだで今回は、リョウに押し切られた。
事も有ろうに、姫が興味を持ってしまったのだ。
「姫ちゃんも、お目が高いねえ。ハマる事、間違い無しさ。」
リョウのお世辞も、今日は3割増し。
ご機嫌のまま、リョウは帰って行った。
「女の子達の日常を、ただ見てるだけなんて。本当に面白いのかしら?」
帰る途中で、姫が呟く。
智花が、それに同意する。
「さあ。あいつ、良く分かんないとこが有るんだよねー。」
姫が転入してきてから暫く経ち。
姫と智花も、或る程度仲良くなっていた。
心の奥底までは分からないが。
それに伴って。
シン・姫・智花の3人で帰る事が多くなった。
投げやりな感じで、智花が言う。
「取り敢えず見てみたら?それであいつも納得するでしょ。」
「まあな。あいつも、変な所で勘が良いからな。見てないかは直ぐバレる。」
シンも半分同意する。
『そうですねー』と、姫は能天気。
気が付いたら、シンの家に着いていた。
「じゃ、またね。」
ちらっとシンの方を見て、智花は別れた。
それにシンが、気付く訳も無く。
さて、今日の夕食は何だろなぁ。
呑気に、そんな事を考えていた。
見終わりましたけど、何か既視感が……そうだ!
〔私がこの世界で散歩してる光景〕に似てるんですわ!
姫は気が付いた。
「そうか。時々天界から降りて来て、世界の様子を見て回ってたんだっけ。」
シンは、初めて会った時の姫の言葉を思い出していた。
姫は妙に納得している。
「それで親近感が湧いてたんですね。いつも、皆さんの暮らし振りを。こうやって、遠くから見守ってましたから。」
でも……。
そこまで言って、姫は急に考え込む。
「この、映っていない時の主人公達の生活も。こんな、ゆったりした物なんでしょうか?」
「どうしてそう思う?」
また変な事を言い出したぞ?
シンは考えながら、姫に尋ねる。
神様らしい事を、姫は告げる。
「人は、何かしら。〔真剣に取り組んでいる時〕と〔まったり過ごしている時〕が、必ず有ります。」
「まあな。」
「でもこの作品の内容は、ずっとまったりしています。変では無いですか?」
「幾ら何でもだらけ過ぎ、と言いたいのか?」
「はい。これ程メリハリの無い生活を送っているとは、到底思えません。そこでですね……。」
嫌な予感がするシン。
姫の目は、爛々と輝いている。
これは、例の展開か?
そう思いながらも、シンから敢えて言う。
「入って観察してみよう、と?」
「正解です!」
姫はシンに、にっこり笑う。
こう言う時の姫の表情は、本当に可愛いから困る。
シンは少し、姫から目を背けた。
しかしここで、とある問題が。
「でもこれ、【設定が女子高】だぞ。俺はどうするんだよ?」
「そこは、お気になさらず。どうにでもなる事は、前回で証明済みでしょう?」
「ま、まさかな……。」
姫は、アニメのオープニング曲が流れる所で一時停止ボタンを押す。
そして、声高らかに宣言する。
「いざ!参りましょう!」
「参りたく無いんだけど……。」
この先の事を想像すると、シンは頭が痛くなり。
『はあっ』とつい、大きなため息を付いてしまうのだった。
アニメの世界に入り、2人が出現した先は。
舞台となる女子高の屋上だった。
「ここなら、潜入出来そうですね。」
姫は、いつもとは違う格好に身を包んでいた。
これは明らかに、主人公達が通う女子高の制服。
勿論シンも、制服姿。
しかも性転換して、〔女の子〕になっていた。
『うわぁっ』と思わず漏らした後、シンならぬシン子は。
「だから嫌な予感がしたんだよなあ、トホホ。」
声も甲高くなっていた。
脳内で、自分の言った台詞を考える分には。
男のままなのに。
「くよくよしていても、仕方有りませんよ。さあ。」
姫に促されて、シン子は。
主人公達が居るであろう教室へ向かった。
教室に着くと、女の子5人組が。
主人公オーラ全開で、仲良く話していた。
どうやら今は、昼休みの様だ。
「俺た……私達は〔その他大勢〕になってる筈。自然な感じで行動しましょう。」
「それは分かりましたけど。私と話す時は、無理して女言葉にしなくても良いですよ。」
姫は、『ふふっ』と笑いながら。
シン子へ対し、気を遣う。
「そうしてくれると助かる。自分で言ってて、背中がかゆくなるからなぁ。」
ホッとしたシン子。
すると、姫が。
「あ、授業が始まるみたいですよ。」
慌てて自分の席を確かめ、着席する2人。
主人公達を観察するのに、適度に離れた場所だ。
これなら、怪しまれる事も有るまい。
シン子は、主人公達を眺めながら。
そう思うのだった。
午後の授業中。
先生の説明なんかそっちのけで、2人は主人公達を観察していた。
真剣にノートを取っている子、窓の外をぼんやり眺めている子。
こっくりこっくりしている子も居る。
授業態度は、左程現実と変わらなかった。
しかし、日常系の本番は放課後である。
アニメ中では、いつも1か所に集まって。
何やらお喋りをしていた。
耳に意識を集中すると、主人公達の会話が聞こえて来た。
『もう直ぐテストだねー。みんな大丈夫?』
『私、自信無ーい。』
『私もー。』
『じゃあ、誰かん家で勉強会しよっか。』
『そだねー。』
『そろそろ帰ろっか。』
そんな事を言いながら、主人公達は。
三々五々と、教室を後にしていった。
「あの子達、いつもあんなんだっけ?」
周りの子達にシン子は、さりげなく尋ねる。
するとすんなりと、答えが返って来る。
『そうよ。今更、何言ってんの。』
『仲良いよねー、あの5人。』
『ねー。』
『最初は、あんなんじゃ無かったんだけどねえ。』
「え?そうでしたっけ?」
最後の言葉に、姫が反応した。
周りの子達は、こう続ける。
『最初は、別々のグループに居たんだけど。マラソン大会やら体育祭やらで、それぞれのリーダーにされて。色々駆り出されてる内に、仲良くなったんだっけ?』
『そうそう。性格的には、かなり違うのにねー。案外その方が、お似合いなのかもだけど。』
『去年同じクラスだったでしょ?あなた達、覚えて無いの?』
「いやー、ちょっと記憶力が悪くって。ははは……。」
シン子が何とか誤魔化した。
ここからは、シン子と姫のひそひそ話。
『おい、どうする?後を付けるか?』
『いえ、屋上に行きましょう。目に力を集中すれば、遠くからでも様子が見える筈です。』
『何でも有りだな、この世界では。』
『そうでないと、夜中それぞれ何をしてるのかとか描けないでしょう?〔マルチ視点?〕とか言う物ですよ。』
姫よ、それは所謂【ご都合主義】って奴だぞ。
そう突っ込みたくなった、シン子だったが。
『まあ良いや』と思いつつ。
『バイバーイ!』と挨拶し、クラスの人達と別れると。
急いで姫と、屋上へ向かった。
シン子が屋上のドアノブに手を翳すと、カチャリと音がして鍵が開いた。
屋上に出ると、誰も来ない様に。
開けた時と同じ要領で、鍵を閉めた。
〔万能の力、発揮〕の瞬間である。
高いフェンス越しに、気配を探る2人。
確かに主人公達は、仲良く買い物をした後。
誰かの家へと向かっていた。
シン子は少し考え込む様に、姫へ言う。
「流石に今日は、このままなんじゃないか?」
「そうですね。」
姫もそう思っているらしい。
続けて、姫が言う。
「でも、意外ですね。出会ったその時から、仲が良いのかと思ってました。どうして、その場面を描いていないのでしょうか?」
姫が不思議がるのも、無理は無かった。
アニメの格好の題材になるからだ。
シン子は、自分なりの見解を述べる。
「多分日常系には、そう言うのは不必要なんだよ。美少女達がキャッキャウフフしてるのが需要なんだろう。こう言った話を好む層は、現実のせせこましい場面を見たくないだろうからな。」
普段のリョウを見るに、シン子はそう考えていた。
ここだけは、姫も同意する。
そんな姫が、ポツリと。
「ついでにもう一日、観察してみましょうか。」
「良いけど、どうやるのさ?」
「時間跳躍ですよ、ほら!」
え、そんな事も出来んのかよ!
シン子は驚いているが、姫は話を続ける。
「この様な世界では、急に何日も過ぎたりしてましたよ?見たアニメ、つまりこの世界では。少なくともそうでした。ですから、シン子にも出来る筈です。」
〔シン子〕と自分で言っておいて、『プッ』と吹き出す姫。
それは失礼じゃ無いか?
そう思いながらも、シン子は呟く。
「安直だなあ。」
その言葉と同時に、姫が腕にしがみ付いて来た。
お、おい!
いきなり何すんだ!
動揺するシン子、それに構わず姫は。
「さあ、次の場面を頭に浮かべて下さい!せーのっ!」
その瞬間。
屋上から、2人の姿が消えた。
辿り着いた先は、テスト結果の発表日だった。
屋上から2人が、2階の渡り廊下へ降りて来ると。
テストの結果が張り出される場所の前に、例の5人組が。
『ぐぬぬ』とした顔で、前のめりになって立っていた。
『どうかなどうかなー。』
『やっぱり見ない!教室に帰る!』
『大丈夫だって。あんなに勉強したじゃない。』
『お喋りばかりで、殆ど一夜漬けみたいなもんだけどねー。』
『不安になる様な事、言わないで!』
『でも、或る意味さぁ。〔公開処刑〕だよねー、これ。』
どうやら在校生の人数が少なく、全員の結果が張り出されるらしい。
そこでシン子は、ふと気付く。
「あれ?俺達、テスト受けてないぞ?どうなるんだ?」
シン子が首をかしげる。
姫が、その辺りの事に付いて説明する。
「目立たない様に、中間位の順位になると思いますよ。」
「そりゃそうだ。俺達は何しろ、〔その他大勢〕だからな。目立つ筈無いか。」
シン子は安心する。
そしてとうとう、テスト結果が張り出された。
主人公達は、何とか恥を掻かずに済んだらしい。
トップに近い成績の子も居た。
みんな、すごく喜んでいる。
アニメの画面では見せない表情、これもきっとカットされるんだろうな。
シン子はそう思った。
使われるのは。
『あー良かった』と、教室でホッとして。
のんびりしている場面からだろう。
女子高の屋上から、現実世界に戻って来た2人は。
つくづく思った。
日常系でも、中の世界は。
現実と、大して違いが無い。
でも視聴者が、このアニメに望んでいる事は。
【どんな時でも、のんびりまったり】。
それが日常系なのだ。
それで良いじゃないか。
最後に姫から、一言。
「何か勘ぐった考え方で、この手のジャンルを見てる君達!それじゃあちっとも楽しめないぞっ!シンと私からのお願いですっ!」
因みに。
姫がこのアニメにハマる事は無く、リョウは大層残念がった。
リョウは、心の雄叫びを上げる。
「同志が増えると思ったのに……何故だっ!」
寧ろ何故、そう思った?
呆れるばかりの、シンなのだった。
時々シンは、リョウに追い駆けられる。
執拗に、自分の好きなモノ(大抵2次元)を貸そうとして。
シンを同志にしようと言うのだ。
所謂、〔布教〕と言う奴だ。
今回は日常物のDVD、それも。
女の子だけ出て来る、今流行りの作品。
「ちょっとだけでも良いからさ、な。損はさせないって。」
この前も、その台詞を聞いたぞ。
シンは、そう突っ込みたくなったが。
何だかんだで今回は、リョウに押し切られた。
事も有ろうに、姫が興味を持ってしまったのだ。
「姫ちゃんも、お目が高いねえ。ハマる事、間違い無しさ。」
リョウのお世辞も、今日は3割増し。
ご機嫌のまま、リョウは帰って行った。
「女の子達の日常を、ただ見てるだけなんて。本当に面白いのかしら?」
帰る途中で、姫が呟く。
智花が、それに同意する。
「さあ。あいつ、良く分かんないとこが有るんだよねー。」
姫が転入してきてから暫く経ち。
姫と智花も、或る程度仲良くなっていた。
心の奥底までは分からないが。
それに伴って。
シン・姫・智花の3人で帰る事が多くなった。
投げやりな感じで、智花が言う。
「取り敢えず見てみたら?それであいつも納得するでしょ。」
「まあな。あいつも、変な所で勘が良いからな。見てないかは直ぐバレる。」
シンも半分同意する。
『そうですねー』と、姫は能天気。
気が付いたら、シンの家に着いていた。
「じゃ、またね。」
ちらっとシンの方を見て、智花は別れた。
それにシンが、気付く訳も無く。
さて、今日の夕食は何だろなぁ。
呑気に、そんな事を考えていた。
見終わりましたけど、何か既視感が……そうだ!
〔私がこの世界で散歩してる光景〕に似てるんですわ!
姫は気が付いた。
「そうか。時々天界から降りて来て、世界の様子を見て回ってたんだっけ。」
シンは、初めて会った時の姫の言葉を思い出していた。
姫は妙に納得している。
「それで親近感が湧いてたんですね。いつも、皆さんの暮らし振りを。こうやって、遠くから見守ってましたから。」
でも……。
そこまで言って、姫は急に考え込む。
「この、映っていない時の主人公達の生活も。こんな、ゆったりした物なんでしょうか?」
「どうしてそう思う?」
また変な事を言い出したぞ?
シンは考えながら、姫に尋ねる。
神様らしい事を、姫は告げる。
「人は、何かしら。〔真剣に取り組んでいる時〕と〔まったり過ごしている時〕が、必ず有ります。」
「まあな。」
「でもこの作品の内容は、ずっとまったりしています。変では無いですか?」
「幾ら何でもだらけ過ぎ、と言いたいのか?」
「はい。これ程メリハリの無い生活を送っているとは、到底思えません。そこでですね……。」
嫌な予感がするシン。
姫の目は、爛々と輝いている。
これは、例の展開か?
そう思いながらも、シンから敢えて言う。
「入って観察してみよう、と?」
「正解です!」
姫はシンに、にっこり笑う。
こう言う時の姫の表情は、本当に可愛いから困る。
シンは少し、姫から目を背けた。
しかしここで、とある問題が。
「でもこれ、【設定が女子高】だぞ。俺はどうするんだよ?」
「そこは、お気になさらず。どうにでもなる事は、前回で証明済みでしょう?」
「ま、まさかな……。」
姫は、アニメのオープニング曲が流れる所で一時停止ボタンを押す。
そして、声高らかに宣言する。
「いざ!参りましょう!」
「参りたく無いんだけど……。」
この先の事を想像すると、シンは頭が痛くなり。
『はあっ』とつい、大きなため息を付いてしまうのだった。
アニメの世界に入り、2人が出現した先は。
舞台となる女子高の屋上だった。
「ここなら、潜入出来そうですね。」
姫は、いつもとは違う格好に身を包んでいた。
これは明らかに、主人公達が通う女子高の制服。
勿論シンも、制服姿。
しかも性転換して、〔女の子〕になっていた。
『うわぁっ』と思わず漏らした後、シンならぬシン子は。
「だから嫌な予感がしたんだよなあ、トホホ。」
声も甲高くなっていた。
脳内で、自分の言った台詞を考える分には。
男のままなのに。
「くよくよしていても、仕方有りませんよ。さあ。」
姫に促されて、シン子は。
主人公達が居るであろう教室へ向かった。
教室に着くと、女の子5人組が。
主人公オーラ全開で、仲良く話していた。
どうやら今は、昼休みの様だ。
「俺た……私達は〔その他大勢〕になってる筈。自然な感じで行動しましょう。」
「それは分かりましたけど。私と話す時は、無理して女言葉にしなくても良いですよ。」
姫は、『ふふっ』と笑いながら。
シン子へ対し、気を遣う。
「そうしてくれると助かる。自分で言ってて、背中がかゆくなるからなぁ。」
ホッとしたシン子。
すると、姫が。
「あ、授業が始まるみたいですよ。」
慌てて自分の席を確かめ、着席する2人。
主人公達を観察するのに、適度に離れた場所だ。
これなら、怪しまれる事も有るまい。
シン子は、主人公達を眺めながら。
そう思うのだった。
午後の授業中。
先生の説明なんかそっちのけで、2人は主人公達を観察していた。
真剣にノートを取っている子、窓の外をぼんやり眺めている子。
こっくりこっくりしている子も居る。
授業態度は、左程現実と変わらなかった。
しかし、日常系の本番は放課後である。
アニメ中では、いつも1か所に集まって。
何やらお喋りをしていた。
耳に意識を集中すると、主人公達の会話が聞こえて来た。
『もう直ぐテストだねー。みんな大丈夫?』
『私、自信無ーい。』
『私もー。』
『じゃあ、誰かん家で勉強会しよっか。』
『そだねー。』
『そろそろ帰ろっか。』
そんな事を言いながら、主人公達は。
三々五々と、教室を後にしていった。
「あの子達、いつもあんなんだっけ?」
周りの子達にシン子は、さりげなく尋ねる。
するとすんなりと、答えが返って来る。
『そうよ。今更、何言ってんの。』
『仲良いよねー、あの5人。』
『ねー。』
『最初は、あんなんじゃ無かったんだけどねえ。』
「え?そうでしたっけ?」
最後の言葉に、姫が反応した。
周りの子達は、こう続ける。
『最初は、別々のグループに居たんだけど。マラソン大会やら体育祭やらで、それぞれのリーダーにされて。色々駆り出されてる内に、仲良くなったんだっけ?』
『そうそう。性格的には、かなり違うのにねー。案外その方が、お似合いなのかもだけど。』
『去年同じクラスだったでしょ?あなた達、覚えて無いの?』
「いやー、ちょっと記憶力が悪くって。ははは……。」
シン子が何とか誤魔化した。
ここからは、シン子と姫のひそひそ話。
『おい、どうする?後を付けるか?』
『いえ、屋上に行きましょう。目に力を集中すれば、遠くからでも様子が見える筈です。』
『何でも有りだな、この世界では。』
『そうでないと、夜中それぞれ何をしてるのかとか描けないでしょう?〔マルチ視点?〕とか言う物ですよ。』
姫よ、それは所謂【ご都合主義】って奴だぞ。
そう突っ込みたくなった、シン子だったが。
『まあ良いや』と思いつつ。
『バイバーイ!』と挨拶し、クラスの人達と別れると。
急いで姫と、屋上へ向かった。
シン子が屋上のドアノブに手を翳すと、カチャリと音がして鍵が開いた。
屋上に出ると、誰も来ない様に。
開けた時と同じ要領で、鍵を閉めた。
〔万能の力、発揮〕の瞬間である。
高いフェンス越しに、気配を探る2人。
確かに主人公達は、仲良く買い物をした後。
誰かの家へと向かっていた。
シン子は少し考え込む様に、姫へ言う。
「流石に今日は、このままなんじゃないか?」
「そうですね。」
姫もそう思っているらしい。
続けて、姫が言う。
「でも、意外ですね。出会ったその時から、仲が良いのかと思ってました。どうして、その場面を描いていないのでしょうか?」
姫が不思議がるのも、無理は無かった。
アニメの格好の題材になるからだ。
シン子は、自分なりの見解を述べる。
「多分日常系には、そう言うのは不必要なんだよ。美少女達がキャッキャウフフしてるのが需要なんだろう。こう言った話を好む層は、現実のせせこましい場面を見たくないだろうからな。」
普段のリョウを見るに、シン子はそう考えていた。
ここだけは、姫も同意する。
そんな姫が、ポツリと。
「ついでにもう一日、観察してみましょうか。」
「良いけど、どうやるのさ?」
「時間跳躍ですよ、ほら!」
え、そんな事も出来んのかよ!
シン子は驚いているが、姫は話を続ける。
「この様な世界では、急に何日も過ぎたりしてましたよ?見たアニメ、つまりこの世界では。少なくともそうでした。ですから、シン子にも出来る筈です。」
〔シン子〕と自分で言っておいて、『プッ』と吹き出す姫。
それは失礼じゃ無いか?
そう思いながらも、シン子は呟く。
「安直だなあ。」
その言葉と同時に、姫が腕にしがみ付いて来た。
お、おい!
いきなり何すんだ!
動揺するシン子、それに構わず姫は。
「さあ、次の場面を頭に浮かべて下さい!せーのっ!」
その瞬間。
屋上から、2人の姿が消えた。
辿り着いた先は、テスト結果の発表日だった。
屋上から2人が、2階の渡り廊下へ降りて来ると。
テストの結果が張り出される場所の前に、例の5人組が。
『ぐぬぬ』とした顔で、前のめりになって立っていた。
『どうかなどうかなー。』
『やっぱり見ない!教室に帰る!』
『大丈夫だって。あんなに勉強したじゃない。』
『お喋りばかりで、殆ど一夜漬けみたいなもんだけどねー。』
『不安になる様な事、言わないで!』
『でも、或る意味さぁ。〔公開処刑〕だよねー、これ。』
どうやら在校生の人数が少なく、全員の結果が張り出されるらしい。
そこでシン子は、ふと気付く。
「あれ?俺達、テスト受けてないぞ?どうなるんだ?」
シン子が首をかしげる。
姫が、その辺りの事に付いて説明する。
「目立たない様に、中間位の順位になると思いますよ。」
「そりゃそうだ。俺達は何しろ、〔その他大勢〕だからな。目立つ筈無いか。」
シン子は安心する。
そしてとうとう、テスト結果が張り出された。
主人公達は、何とか恥を掻かずに済んだらしい。
トップに近い成績の子も居た。
みんな、すごく喜んでいる。
アニメの画面では見せない表情、これもきっとカットされるんだろうな。
シン子はそう思った。
使われるのは。
『あー良かった』と、教室でホッとして。
のんびりしている場面からだろう。
女子高の屋上から、現実世界に戻って来た2人は。
つくづく思った。
日常系でも、中の世界は。
現実と、大して違いが無い。
でも視聴者が、このアニメに望んでいる事は。
【どんな時でも、のんびりまったり】。
それが日常系なのだ。
それで良いじゃないか。
最後に姫から、一言。
「何か勘ぐった考え方で、この手のジャンルを見てる君達!それじゃあちっとも楽しめないぞっ!シンと私からのお願いですっ!」
因みに。
姫がこのアニメにハマる事は無く、リョウは大層残念がった。
リョウは、心の雄叫びを上げる。
「同志が増えると思ったのに……何故だっ!」
寧ろ何故、そう思った?
呆れるばかりの、シンなのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです
一色孝太郎
ファンタジー
前世でとあるソシャゲのガチャに全ツッパして人生が終わった記憶を持つ 13 歳の少年ディーノは、今世でもハズレギフト『ガチャ』を授かる。ガチャなんかもう引くもんか! そう決意するも結局はガチャの誘惑には勝てず……。
これはガチャの妖精と共に運を天に任せて成り上がりを目指す男の物語である。
※作中のガチャは実際のガチャ同様の確率テーブルを作り、一発勝負でランダムに抽選をさせています。そのため、ガチャの結果によって物語の未来は変化します
※本作品は他サイト様でも同時掲載しております
※2020/12/26 タイトルを変更しました(旧題:ガチャに人生全ツッパ)
※2020/12/26 あらすじをシンプルにしました
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる