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第319話 為政者の間にも、変化が

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これからこの様なトップ会談、いや会議を。
何回も開催する事になる。
そう予想されたので。
町の東側を新たに切り開き、大規模な会議場を建設する事となった。
建物は、最初の会議には間に合わなかったので。
第1回は、空き地に椅子を並べた簡易的な空間で。
そこに会する一同。
ヘルメシア側からは。
皇帝を初めとする王族、元12貴族、それに準ずる地位の騎士達。
グスターキュ側からは。
国王を初めとする王家、領主達、小人族代表。
加えて、両国に在籍する錬金術師のトップと。
皆には見えないが、妖精の代表も。
魔物を代表して、ユーメントやマリーと交友関係にあるメイが出席。
使い魔だった者達は、『魔法使い』と言う強力な後ろ盾を無くしていたので。
地位的に不安定だった。
それを保障したのが、両国の王達。
これまで陰から支えてくれた、せめてもの感謝の印。
使い魔は今でもこっそり、この世界のパトロールを続けている。
お互い協力関係を維持する事で、利害が一致。
それはあくまで、世間的な建前だが。



話し合われたテーマは。
これからこの世界で、どう生き抜くか。
ウェロムによる壮大な実験は終わった。
この世界の人間は、生きる事を許された。
だから魔法使いは、元の世界と繋げ。
『外側の住人と手を取り合う』と言う選択肢を提示した。
それを受け入れるか、拒絶するか。
『外敵から身を守る』と言う大義を掲げ、保身に走る者も居た。
逆に、勢力拡大のチャンスと捉える者も居た。
しかし色々な意見が飛び交う中、一致した事項が。
それは。
グスターキュとヘルメシア、双方がいがみ合っていては。
そこに付け込まれ、共倒れになってしまう。
だから両国は、平和条約を結んだ。
団結して、これから対処して行こう。
繋がった世界へ、安易に飲み込まれぬ様に。
これに対して反対する者は、流石に居なかった。
数百人の出席者が居たのに、だ。
それ程目の前に突き付けられた現実が、脅威であったと言える。
未知のモノに対して、真っ直ぐ向き合えるか。
今正に、試されようとしていた。
或る意味、これが。
魔法使いの示した《最初で最後の試練》だったのかも知れない。
出席者は皆、そう考えた。



かくして。
マリーの野望である【世界統一】は、無事果たされた。
しかし、見届け人と名指しされたエリーは不満顔。
それもその筈。
【世界】の定義そのものが変わってしまったからだ。
マリーがかつてそれを望んた時は。
グスターキュとヘルメシア、後は魔境位の規模でしか無かった物が。
範囲が一気に広がってしまった。
しかも周りは、こちらに対して友好的とは限らない。
これでは『達成された』と言えないのではないか?
一方で、メグの言葉は。
これから先に何が起ころうとも、相手と仲良くやっていけるさ!
そんな激励にも取れると考えられる。
今となっては、メグの真意は分からない。
確かめ様が無い。
もうこの世界には居ないのだから。
そこまで考えて、エリーはふと思う。
魔法使いは、どの世界に移動したのだろう?
この世界に来ている可能性も……。
まさか、ねえ。
でももし、また会えるなら……。
エリーはほんの少し、期待を残す事にした。



会議は半年に1回、定期的に行われた。
それとは別に、為政者レベルでちょこちょこと会談が行われているらしい。
地理的に危機感を持つ者は。
情報交換をこまめにしないと、急な出来事に対応出来ない。
外の世界から距離の有る、少し心に余裕が有る者は。
境目の変化を頭に入れながら、立ち回りを画策する。
為政者間で、思惑の違いも有る様だ。
グスターキュ王家と、ヘルメシア王族。
このまま座して事態を見守るつもりは、毛頭無い。
寧ろ積極的に動かねば。
ヘルメシアの王族は、色々有ったが今は結束している。
半数以上がクライスの子孫であると発覚した後は、尚更。
そうでは無い血筋のソーティとワンズは、孤立しそうなものだが。
ソーティの元には、トクシーが居る。
ワンズには、幼馴染のハリーが。
トクシーの事を慕っているハリーは、ワンズを連れて。
しょちゅうソーティの所を訪れていた。
それも功を奏してか、ソーティとワンズの仲は良くなった。
その報告をトクシーから受け、ユーメントも安心する。
弟2人も大事な家族。
温かく見守りたい。
兄として、そう思っていた。
対してグスターキュ王家は。
マリーをいびって来た継母達の中心的存在が、突然居なくなった。
しかも、この世界の人間達に仇名あだなす敵として。
陰で君臨していた。
その事実が明らかとなった事と、マリーが平和条約に貢献した事で。
継母達の影響力は低下。
逆に、民から弾圧されないかと怯える日々。
今や英雄的な地位に、マリーは居た。
本人はそんな事を、意に介さず。
継母達と和解し、『本当の家族になれる様努力しよう』と声を掛けた。
確かに、自分も功労者かも知れない。
でも英雄と呼ぶに値する者は、他に居る。
その事を知っていたから。
肝心の《彼》は、未だに姿を見せない。
前に行方が掴めなかった時は、体力を回復させる為。
メグの所で厄介になっていたらしいが。
今回は、隠れ家になりそうな場所は無い。
〔妖精の暮らしていた場所〕は、全て民に公開された。
メグが管理していた魔力の噴出スポットも、世界が元に戻った後に消失した。
魔境も幻の湖も無くなったと、風の噂で聞いた。
錬金術師の情報網と、リゼの組織する諜報機関の情報網も相まって。
流石のクライスも、こそこそ身を隠す空間は無い。
ただ1つ、シルフェニア以外は。
この世界に変化をもたらす情報が、そのシルフェニアからやって来た。



3回目の全体会議の後。
マリーの元へ、3体の妖精がやって来た。
代表として来ていた、エミルと。
老妖精の、オッディ。
そしてもう1体は、何か異様な雰囲気を纏った妖精。
どうやら、シルフェニアで暮らす者では無いらしい。
宮殿の応接間で、マリーと面会する事になった。
何でも、それがその妖精たっての願いだとか。
そこで意外な言葉を耳にする事となる。
それは……?
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