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第318話 歩み出した世界、歩み出した者達

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元の世界と繋がったは良いが。
マリーの居る世界は、不安定な状態へと置かれる事になる。
そんな中、あちこちで様々な動きが見られた。



揺れが収まった後、〔エッジス〕の人達は見た。
魔境もテューアも消え去った後、代わりに地続きの大地が広がっているのを。
そこには黒い空間も無く、至って普通の風景。
だからこそ警戒心を増大させる。
今まで在った物が突然消え、入れ替わりに見た事も無い物が現れたのだから。
勇気有る者が、かつてテューアの在った付近から一歩足を踏み出してみる。
感触は、こちらの地面と変わらない。
試しに錬金術で、小さな金属の柱を作る。
すると、こちらとたがわず術が行使出来た。
これは、向こうの地面にも魔力の道が存在する事の証明。
そうやって徐々に、向こう側を探って行く。
錬金術師は確かに好奇心は強いが、同じ位に未知の物に対しての猜疑さいぎ心も有る。
君主、危うきに近寄らず。
安全安心が保証されないと、大手を振って歩けない。
石橋を叩いて渡る様に、念入りにチェックしながら。
エッジスの住民は、行動範囲を広げようと慎重に確認して行った。



メグが力を行使する前。
魔境に暮らす魔物達は、選択を迫られた。
魔境に留まり、そのまま闇に飲まれるか。
テューアの向こう側へ渡り、大人しく生を全うするか。
魔境の行く末を、メグは保証出来ない。
再び、次元の狭間を漂う事になるか。
多大なエネルギーの影響で、消え去ると言う末路を迎えるか。
分からないし、把握出来ない。
魔境は、不安定要素の塊なのだ。
どちらにせよ、何らかの影響が考えられるので。
悩みに悩んだ結果。
魔物は皆テューアを越え、或る土地でひっそりと暮らす事になった。
それは、同じ魔物の〔フェイレン〕が暮らす場所。
クライスとセメリトとの戦闘で開いた、大きな穴。
罪を背負い、この辺りの緑が元通りに回復するまで。
独り、孤独に暮らすと決めていた。
そんなフェイレンのもとに、魔物達が殺到したのだ。
メグの勧めと聞き、フェイレンは喜んで受け入れた。
仲間はやはり、多い方が良い。
ここなら、人間もしばらく立ち入らないだろう。
呑気に、賑やかに。
魔物達は過ごして行く。
土に還り、再び人へ生まれ変わる事を夢見て。



〔シキロ〕で漂っていた〔幻の湖〕も、揺れの後に消滅した。
居心地が余程良かったのか、中々離れようとしない水の精霊。
そこを何とか、メグが説き伏せた。
君が居なくなったら、この世界のエネルギーバランスがまた狂ってしまう。
それはボクの望む事じゃ無い。
頼むよ、君にしか出来ない事を成し遂げてくれないか?
そこまで言われると、従わざるを得ない。
渋々、揺らぐ空間から出ると。
地脈へともぐって行った。
こうして、この世界に水をもたらしていた源泉が消えてしまった訳だが。
世界が繋がったと言う事は、大気の対流範囲も広がったと言う事。
空に沸き出す雲の量も、前より格段に増え。
雨が降り、水が地表を流れ。
水溜りが出来、それが蒸発してまた雲となる。
水の循環も、この世界は取り戻し。
沢から川への道筋も増加し、それに伴い池や沼も増えた。
これなら、わざわざ何処からか水を送らなくても。
人々が暮らすに困らない程の量は、十分に賄えるだろう。
漸く、ポンプとしての水の精霊の役目は終わった。
後は本来在るべき姿の、他の精霊と同様の振る舞いに戻るだけ。
それでメグは、納得してくれるだろう。



分離していた世界が繋がった。
その事実は、ホオタリの耳にも届いた。
錬金術の才能に溢れた少年は、元の世界に帰れないと悟り。
このままここで、一生を終えるつもりだった。
だから本格的に錬金術を習おうと、〔ケミスタ〕の町を目指し旅をしていた。
そこへ飛び込んで来た、信じられない話。
心が揺れ動くホオタリ。
それでも彼は、錬金術師を目指す。
『外の世界の時系列が、自分の暮らしていた時代と必ずしも一致するとは限らない』と考えたのだ。
確率的に低過ぎる。
そんな物に一縷いちるの望みを託すより、もっと前向きに生きて行った方が遥かにましだ。
この世界で暮らす人々を見て、そう感じる様になっていた。
その思いが、今の行動の原動力。
異界の者を、すんなりと受け入れてくれるかどうかは分からない。
でも自分も、役に立ちたい。
そして、人として認められたい。
それだけが今の望み。
一途な思いを叶える為、邁進する決意を高めながら。
ホオタリの旅は続くのだった。



為政者と、境界面に近い場所に暮らす者以外の。
大多数の人間は。
正直、どうでも良かった。
こんな内部まで、影響はすぐには及ばないだろう。
呑気に構えていた。
それより、変な物が空から降って来る様になった。
初めは怖がっていたが、これが《雨》だと分かると。
歓喜の声を上げた。
と同時に、農作業の大変さを痛感する。
今までは水を運んで撒かなくても、勝手に植物は育った。
それは水の精霊が、幻の湖から水を供給してくれていたから。
降雨と言う現象と同じくして、水の精霊の加護により農業が成り立っていたと知ったので。
これからは自分達で、植物に水を与えなければならない。
その事実を突きつけられ、作業効率などを考えなければならなくなった。
人手は足りるのか?
雨が降らない時期は有るのか?
潤沢に水を抱えておく方法は?
課題が山積し、あちこちの村・町で話し合いが持たれる。
錬金術師に知恵を借りようとする者。
為政者に治水対策を願い出る者。
土地の特性も様々なので、取られる行動も多彩。
そして人々は、2つの事に行き当たる。
『知識が足りない』、と。
『自立心が足りない』、と。
それ等を解消しない限り、未来は無い。
親は、思う。
子供に苦労をさせたくは無いと。
子供は、思う。
親に楽をさせたいと。
その思いが通じ合い、小さな学校の様な物が自然と生まれる。
そこに集う老若男女。
講師に錬金術師を迎え、知識を授けて貰う。
そして皆で議論をしながら、対処に当たって行く。
こうして民主主義の芽生えが、この世界で見られる様になった。
それに伴い、錬金術師の役目も変化して行った。



未知のモノに対処する為、より技術を高めねばならない。
そう危機感を持った、錬金術師達は。
宗主家のベルナルド家を旗振り役として、〔錬金術師の養成学校〕及び〔科学・医学技術の研究機関〕を。
〔マクリラ〕の町へ、設立する事となった。
これまで一部の血筋が独占して来た術を、今こそ広める時。
それが罪を償う為、危険な術を行使してまで全うしようとした《兄様の意志》だから。
アンにそう説得され、両親は納得。
『長らく〔転生前のクライス〕の正統な子孫と、協力関係に在った』と言う土壌も、それを後押しした。
流浪の民と化していた子孫達も、そろそろ何処かへ腰を落ち着けたい。
そう考えているだろう。
ならば、血脈を統一する良い機会だ。
分かたれた兄弟の血統が、再び表舞台で手を取り合う。
その橋渡しになるなら。
こうして、この世界のトップ水準の技術が。
一般の人々の手に届く所まで、降りて来ようとしていた。
その意味で、『錬金術師』と言う呼称は。
《科学者・医学者の総称》へと変化したのだった。



下々の者達の環境が、変化を見せ始めると。
上に立つ者の役割も、変わり始める。
その辺りがトップ会談で話し合われたのだが。
その内容とは?
そしてそれから見られる、この世界の見据える未来とは……?
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