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第296話 してやったり

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「報告、ご苦労であった。では死ね!」

伝令の兵士へ向かって、右手をかざそうとするジェーン。
一瞬ギョッとした顔になる兵士。
その時。
ロイスの右肩から『ビュッ!』と金の縄が伸び、兵士をグルグル巻きに捕らえると。
反対側である国境方面へと放り投げる。

「助けたつもりか!その高さでは即死だぞ!」

まだ金の小人の力をあなどっていたジェーン。
いや、認めたく無かったと言った方が正しいか。
数メートル上空から落下し。
兵士が地面に叩き付けられる瞬間、金の縄は網へと変形。
地面に接触する手前で、やんわりと兵士と受け止める。
一切ダメージを追わなかった兵士は、頭が混乱している。
そこへ、ロイスが辺りへ甲高く声を響かせ。
兵士へ命ずる。

「道を進み森を通り抜けた所に、陛下はいらっしゃる!伝令の役目は、まだ終わりでは無い!行け!」

「は、はい!」

自分を助けてくれたロイス。
恩人の言葉なので、辛うじて兵士の心に届いた。
国境に至る森へと、駆け出す兵士。
『捕まえろ!』と、ダイツェン軍に怒鳴るジェーンだが。
軍は動かない。
最早、従う道理が無い。
『気を吸い取る』と、ジェーンは言った。
具体的な方法は良く分からないが。
ジェーンの足元に倒れている人間。
あんな姿にされる。
それだけは理解した。
これ以上、ジェーンには関わりたく無い。
だから、傭兵達が逃げ出そうとする時。
ダイツェン軍もまた、通ってきた森へと逃げ出していた。
伝令役の兵士の方を向いている者は、1人も居ない。
結果的に、逃走を手助けする事となる。
こんな狭い道に、大勢がひしめき合っているのだ。
オフシグが雇った傭兵達、約100。
ジェーンを追い駆けて来た、雇われ傭兵達が約200。
ダイツェン軍、約300。
総勢約600もの人間が居る。
それ程の群衆が、この場から逃れようとしている。
かなりの混乱振り。
流石のジェーンも。
群衆の真反対を駆けて行く兵士を、直接捕らえる事は難しい。
何とか阻止しようとするが。
ロイスがジェーンに、淡々とした口調で言葉を投げ掛ける。

「別に行かせても良いではありませんか。その報を聞けば、陛下も困るでしょうから。」

王女達が行方知れずとなっている。
その事を知れば、皇帝はあれこれと邪推するだろう。
そこへジェーンが現れ、その《理由》を打ち明ければ。
精神的ダメージは計り知れない。
皇帝を倒す時の楽しみが増えるではないか。
絶望に顔を歪める、その姿を拝めると言うのに。
その機会を、みすみす手放すのか?
そんな内容を、取って付けた様にジェーンへ語るロイス。
悠然とした態度で。
自分ならそうする。
あなたはしないのか?
王女達の失踪と、ジェーンの行動との。
関連性を知った上で、揺さ振りを掛けるロイス。
それを聞いて、心変わりをした様だ。
ジェーンが言う。

「確かに、その方が面白そうだ。良いだろう、その口車に乗ってやる。だが……。」



「貴様は逃がさん!」



ごった返す群衆の中を、スルスルとり抜けるジェーン。
あっと言う間に、ロイスの傍へと近付く。
しかし、ロイスがまたがっている筈の馬に。
その姿は無い。
ヒヒーン!
ジェーンの異様な雰囲気を感じ取ったのか。
馬が暴れ出す。
周りに居た傭兵達が、更に混乱。
ジェーンの動きが縛られる。

「邪魔をするな!」

ジェーンがペタペタと、周りの人間を触って回る。
途端に、フラーッと意識が遠くなり。
触られた人間が、その場に崩れ落ちる。
そうやって、動く自由を確保した時には。
ロイスは別の馬に乗り、少女が倒れている場所まで達していた。
傭兵や兵士が装備の為、中々移動出来ない中を。
騎士姿のロイスは、馬で移動して見せた。
掏り抜ける為、頭を低くしていたジェーンは。
見えなかった。
《そんな方法》が有るとは、最初から思っていなかった。
おまけに、余りの人混みのせいで。
特定の人間の気配を感じる事が難しくなっていた。
それ等の要素が絡み、まんまと道の北側へ。
群集の端へと抜け出したロイス。
疑問しか浮かばない、ジェーン。
何故だ!
我すらも、くぐり抜けるのは容易では無かったと言うのに!
周りにどんな方法であったか尋ねようにも。
自ら倒してしまったので、聞きようが無い。
ジェーンがやった行為を目の当たりにしたので、群衆の混乱に拍車が掛かっている。
この場から立ち去ろうと、必死にもがく。
最早、収拾が付かない。
疑問を持ち続けたまま、ロイスの後姿を睨む事となるジェーン。
いつの間にか、馬の背に人間2人を乗せているロイス。
それはホオタリと、しなびた様子の少女。
もう良い!
こうなれば、直接聞いてやる!
捕まえてな!
仁王立ちしたまま、ジェーンが腰の両脇に手を添える。
すると、そこから辺り一帯に。
網の目の様な物が広がり、群衆を一繋ぎにからって行く。
兵士や傭兵は、蜘蛛の巣へと捕らわれた生き物の様に。
その場から動けなくなる。
そして身体から力が抜け、意識が遠くなる。
数秒も経たずに、グターッとなって行く群衆。
網がロイスの乗る馬を捉えようとした、その瞬間。
金のまゆが、馬の周りを覆ったかと思うと。



シュッ!



目の前から姿が消失。
見失った!
何処だ!
何処へ行った!
辺りを見回すジェーン。
群集の中にも。
地面にも。
空中にも。
ロイス達は居ない。
くそっ!
逃がしたか!
地面に拳を叩き付け、悔しがるジェーン。
そして、絶叫。

「ああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!」

一通り暴れた所で、気持ちがすっきりしたらしい。
ジェーンの顔は穏やかとなっていた。
そして、考える。
あいつがここから居なくなったのは、寧ろ好都合だ。
誰にも邪魔されず、皇帝の元へ向かう事が出来る。
フハ!
フハハハハハ!
ケミーヤ教の連中は、どうも高笑いが好きらしい。
笑いながら、右手をサッと上げる。
ぐったりしていた、ダイツェン軍や傭兵達が。
ムクッと立ち上がり。
死んだ魚の様な、虚ろな目をしながら。
国境付近へと向かって、進軍し始める。
その中には。
同様な姿と成り果てた、オフシグとパップも含まれていた。



一方。
ジェーンの目の前から消えたロイス達は。
ドスンッ!
馬ごと、とある場所へ。
それは何処か?
そして、ロイス達の身に起こった事とは?
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