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第287話 奇襲へと動き出す時

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帝国軍の本隊と分隊が、それぞれワインデューへ入り。
拠点を設営してから。
1日過ぎ。
2日過ぎ。
3日過ぎた。
それでもまだ、ユーメントは動かない。
段々イライラして来るオフシグ。
すぐに攻め込まねば、奇襲を掛ける意味が無いではないか!
流石に我慢出来なくなって、ユーメントの元へ陳情しに行こうかと言う時。



その時は訪れた。



設営後3日目の夜。
椅子に腰掛け、うとうとしていたティス。
その膝元に、ヒラリと1枚の紙が。
その感触に気が付いて、ティスは目を開ける。
紙からは、虹色に輝いた文字が見える。
これは、もしや!
バッと紙を掴み上げ、顔の前にかざすと。
じっくりと読むティス。
ギョッとした表情に変わりながらも、何度も文章の内容を確かめ。
懐に紙を仕舞い込むと。
誰にも悟られぬ様、テントを後にした。



ハヤヒは、12貴族とは離れた位置にテントを張っている。
その中へ、恐る恐る入って行くティス。
そこには。

「ティス、お主も来たか……。」

「モーリア!」

大声を張り上げそうになるのを、グッと堪えるティス。
既にハヤヒのテントには、モーリアが居た。
『これがお主にも来たのだろう?』と、モーリアは懐から紙を出すと。
文面をティスへ見せる。
その内容はほぼ、ティスの元へ落とされた物と同じ。
この作戦で、ティスとモーリアが演じる役割。
そして、その理由。
簡潔に記されたその紙からは、ただならぬ力が感じられた。
強大な魔力では無く、逆に吸い取られる様な。
得体の知れぬ感じ。
まるで誰かを拒絶しているかの様に。
そもそも、文面の最後に記されていた言葉。
『こっそりとハヤヒのテントへ集まれ』と言う指示自体が、彼等にとって不気味だった。
ハヤヒには、別の何かが指示されているのか?
色々確かめたい事が有る。
でもまず、彼から話を聞かねば。
何も始まらない。
テントの周りに誰も居ない事を確かめた後。
『聞かせて貰おうか』と、ハヤヒにティスが声を掛ける。
それを受けて、ハヤヒが話し出す。



「何と……!」

「そんな裏事情が有ろうとは……!」

ティスとモーリアは絶句。
彼等が受け取った紙には、『アリュース達が亡命している』とまでは書かれていなかった。
勿論。
敵地で捕らわれの身とされてた身内が、無事に過ごしている事も。
ハヤヒの紙には、以下の様に指示があった。
今は、皇帝の名代として動いているハヤヒ。
その口から語られた方が、重みが増す。
だから2人には、包み隠さず洗いざらい話す様に。
今が正にその時だから、と。
その効果は抜群。
難しい顔になる2人。
色々な思いが交錯している事だろう。
そこを何とか整理する。
前へ進む為に。
事情を全て飲み込むと、ハヤヒの目を見つめながらティスが言う。

「相分かった。全力を尽くそう。」

「私も協力は惜しまんぞ。それが未来の為ならば。」

モーリアも静かに、誓いを立てる。
こうして3人の結束は固まった。
そして同時に、気付いていた。
ここに呼ばれていない者は、漏れ無く嫌疑の対象だと言う事を。



同時期に、ユーメントの元へも。
指令書の様な形で、紙が天から降って来る。
掴むとすぐに、食い入る様に読み漁るユーメント。
懐から顔を出し。
『内容を知りたい』と紙を見つめる、スズメの魔物。
そしてその内容に、目を丸くする。
作戦の中に、魔物も組み込まれていたのだ。
こうなる事を、事前に知っていたかの様に。
魔境で暮らしていた時、いろんな噂を耳にしていたが。
どうやら魔法使いと言う者は、それ以上の存在らしい。
驚愕しながらも、その事柄に興味津々。
『未来を見通せる』と言う噂が本当ならば、自分の役割も実現すると言う事。
細かな指示までは書いていないが。
文面に記された、取るべき行動だけでも十分だ。
良し、やってやろうじゃないか。
俄然やる気となり。
ユーメントと顔を見合わせ、ニヤリとする魔物だった。



そして、魔法使いからの指示通り。
これから皆、動く事となる。
それは。



帝国軍本隊、分隊共に。
全体へ向け、指示が出される。
真夜中だと言うのに、叩き起こされた兵士達は。
ボーッとした頭で考えながら、急いで進軍の準備をする。
全員が支度を整えた事を確認して。
本隊ではアギーが、分隊ではハヤヒが。
それぞれ先頭に立ち、軍を進め出す。
或る程度までは道が有ったが、その先はどう動くか。
ここで手腕が試される訳だが。
実は最初から、魔法使いにどう動くか指定されていた。
ハヤヒは文面で、アギーはユーメントから聞かされ知っただけ。
全軍が、道の途切れた先からは。
木々の間を縫う様に、そろそろと歩いて行く。
真夜中な上に。
いつもは燦然さんぜんと輝く星達が、全く見えない。
正に真っ暗な中を、行軍する羽目になった兵士達は。
文句半分、安心半分。
足元が見えないので、転びそうになる。
こんな時間に動かさなくても良いじゃないか。
その一方で。
これだけ暗く、敵味方の区別が付きにくい状態だ。
自分だけ軍から離れても、多分バレないだろう。
いざとなったら、戦線を放棄して逃げ切ってやる。
だから安堵と不満、半々の気持ちになっていたのだ。
この兵士達の心理状態が、作戦にどう響くか?
それとも魔法使いにとっては、これも想定内なのだろうか?



兵士達は。
1メートル程の長さの木の棒を、片手に持って。
森の中を、前へ前へ。
兵士如きの腕力では、金属製の剣を持たせても使いこなせない。
騎士が所持している剣も、斬ると言うより殴るに近い。
切れ味など、ナイフには程遠い。
使い道は攻撃用と言うより、盾代わり。
だから、如何に素早く殴り掛かれるかが勝負の接近戦において。
騎士は役立たず。
馬に乗って格好を付けているので、尚更だ。
いつも損な役回りは、下っ端へと来る。
コンコン、コンコン。
自分のすぐ前の地面を、棒で軽く叩きながら。
兵士達がまず進む。
罠などが無い事を確認しながら。
その後を、安心して騎士が続いて行く。
一方、暴れたくて仕方が無い傭兵達は。
大分先へ進行している。
この世界の傭兵は、戦闘ではナイフを好んで使用する。
相手を傷付けるには、こちらの方が小回りが利き効率的なのだ。
自分の身を守る為に、相手を確実に仕留める為に。
密集した木々の中で槍を持つのは、自分の動きを自分で制限する様なもの。
だから槍持ちは、単なる目立ちたがり。
馬上から攻撃するのには便利なので、攻撃的な騎士は槍持ちが多い。
ロッシェの槍の先生であるトクシーは、このタイプ。
もっともトクシーは、騎士道を極める為様々な武器を手に取り。
技を鍛え上げている。
その中で槍が得意だっただけの事。
セレナも様々な武器を使いこなせるが。
それはあくまで、武器の特性を知り研究して。
攻撃を防ぎ易くする為の鍛錬。
2人共、相手を傷付ける為に極めようとしているのでは無い。
そこが、傭兵や一般の騎士と違う点。
一緒くたにされては、可哀想なので。
ここで敢えて言及しておく。



ともかく、本隊も分隊も。
星の煌めきさえ見えない闇夜を。
傭兵が突っ込み気味で先行し、安全を確認しながら兵士達が続く。
その後に、騎士が居座る。
こう言った構図となっている。
特に、王族反対派の連中は。
グスターキュ侵攻とは、別の目的も持っているので。
軍の中央より後ろ当たり。
司令塔であるユーメントに、近い位置へと陣取る。
皇帝を守る風で実は、密かに暗殺の機会をうかがっている。
分隊でも、馬車に乗っていた筈のジェーンが。
いつの間にか居なくなっている。
ティスとモーリアが馬車の周りに、見張りの兵を張り付かせていたにも係わらず。
嫌な予感がする。
平然とここまで付いて来たのだ、一人だけ逃げ帰ったとも思えない。
何か別の考えが……。
そう考えながらも作戦遂行を優先させる、ティス達。
それがくは、陛下の御身を守る事へ繋がるのだから。



やがて。
国境付近まで来たらしい傭兵共が。
直面した事態。
それはこいつ等にとって、予想外な物だった。
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