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第279話 構える

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「さ、先程は失礼致しました!」

パップ達を連れて戻って来たテノに向かって。
平伏す、キュレンジとトト。
テノが『皇帝・ユーメント』であると知ったからでは無い。
テノの話が本当なら、皇帝にGMが直接語り掛けたとの事。
ならば、GMは皇帝と共にある。
それに気付かず、失礼を働いたと考えたのだ。

おもてを上げよ。」

馬から降りたユーメントが、キュレンジ達に声を掛ける。
尚も恐縮する2人。
ロイスが強引に起こそうとするが、ユーメントはそれを制止する。
そしてキュレンジ達の傍で、言葉を発する。

「魔法使い殿は、そう言うかしこまった態度を望んではおらんよ。」

「そ、そうなのですか?」

「ああ。《直接話した事が有る》からな。」

「ちょ、直接!」

「あっ……。」

和ませるつもりで、思わず言ってしまった。
これは内緒の話。
王族反対派を一掃する計画が、パップ達にバレてしまうから。
幸いにも、パップ達はこちらに関心が無く。
さっさと教会内へ場所を移していた。
『他言無用』と念を押した後、部屋に案内してくれる様お願いするユーメント。
『た、ただ今!』と、キュレンジが中へすっ飛んで行く。
それを、『ふふふ』と笑いながら見ているトト。

「GMの存在を証明して下さる方が、この国の一番偉い方で。司祭様も嬉しいのですよ。」

そう語るトトの目は、嘘を付いている感じでは無かった。
司祭を名乗って置きながら、心の底では不安だったのだろう。
ただの伝説なのではないか?
実在していないのではないか?
このまま信仰心を保っていても良いのだろうか?
それ等の欺瞞ぎまんが、一気に晴れたのだ。
はしゃぐのも当然か。
そう思い直し。
トトに連れられて、ユーメントも中へと入って行った。



ステンドグラスの在る教会本体に付属して。
宿泊設備も備わっている。
本体へ入って左側の壁に、そこへ通じるドアがある。
キュレンジに案内される、皇帝一行。
それぞれ個室に入ると、思い思いに過ごす。
出された食事を食べ、風呂で汗を流し。
床へ就く。
本来なら、料理などにケチを付けたかったが。
皇帝がキュレンジに対して、素直に従うので。
12貴族のプライドからか。
パップもオフシグも、文句1つ言わなかった。



そして夜が明け。
皇帝一行は、教会を後にする。
丁寧なお辞儀をするキュレンジ。
にこやかに手を振るトト。
ユーメントは、トトが何故か気になった。
成し遂げた後、またここへ来るか……。
そう考えながら、ボーデュの町を後にした。



無理に進んでいた、帝国軍本隊だったが。
道が綺麗なので、疲労はそれ程溜まらなかった。
一方ケミーヤ教の残党は、怪しみながら進んでいた。
何せ、道が新し過ぎる。
つい最近整備されたばかりの様。
『奇襲の為に、わざわざ整備し直したんだと』とは、ヅオウ軍兵士の弁。
パップからの又聞きらしい。
それならば良いが。
何か別の意図が無いか、探り探り進む。
なので、残党だけが疲労を余計に蓄積していた。
そんな事に構わず、グングン進む本隊が。
大きく開けた土地へ着いたのは、ボーデュを通り過ぎてから2日後。
ここが本拠地となるらしい。
早速、テントなどの設営に入る皇帝軍。
やっとゆっくり休める。
後から追い付くであろう皇帝は、到着まで最低でも1日は掛かる筈。
その間、攻撃命令は出ない。
設営をちゃっちゃと終えて、羽を伸ばそう。
鬼の居ぬ間に。
自然と、兵士達の動きが良くなる。
それを眺めながら。
さあ、ここからですぞ!
気を引き締めて掛かりましょうぞ、陛下!
気持ちをたかぶらせる、アギーだった。



馬を走らせる、皇帝一行。
ユーメントと言えば、行商人の格好のまま。
教会で鎧に着替えても良かったのだが、敢えてそのまま。
『配下としてパップ達を信頼している』と言う風に見せかけて。
今のこ奴等に、自ら手を汚してまで私を討ち取る勇気は無い。
そうやって、パップ達を煽っているのだ。
案の定、オフシグは怒り心頭。
この小僧、馬鹿にしくさりおって!
絶対に許さん!
必ずや葬って見せよう!
殺す気満々になって行く、オフシグ。
その姿に、逆に冷静となるパップ。
この様な挑発をするのだ。
『完璧に防ぐ事が出来る』と言う、確固たる材料が有るのだろう。
ここは慎重に掛からねば。
結局、オフシグもパップも。
ユーメントに対して手を出す事が出来ず。
折角の大チャンスを、みすみす逃す事となった。



そんなこんなで、翌日。
馬を休み休み走らせながら、ユーメント達も本拠地へと到着した。
既に、本部としての機能は出来上がっている。
出迎えるアギー。
膝を付き、ユーメントへ報告する。

「陛下。何時でも攻撃に出られます。」

「そうか、ご苦労。して、分隊の到着はまだか?」

「あちらも。別の開けた土地へと到着後すぐに、設営等に取り掛かるかと。」

「なるほど、まだ連絡は無いのだな?」

「はい。」

「ならば、全軍に『その場で待機』と命じよ。私が攻撃を指示するまでな。」

「ははーっ!」

返事をして、アギーは群衆の中へすっ飛んで行く。
『我等もテントへ参ろう』と、ユーメントが中へと進み出す。
ここには大きなテントが3つ。
ユーメントと、12貴族2人。
それぞれ陣を構え、その時を待つ。
攻め込むタイミングを。
12貴族の2人は、『分隊の準備が整った時』と思い込んでいるが。
実は違う。
攻撃のタイミングを計るのは、ユーメントでは無い。
ユーメントにその時を教える、《別のモノ》。
アギーがわざわざ、2人の前でやり取りを見せつけたのは。
『手綱を握っているのは皇帝だ』と印象付ける為。
それを知ってか知らずか、ずっとユーメントの懐で大人しくしている者。
スズメの魔物。
教会で正の魔力を補充し、すっかり元気になっていた。
しかし、オフシグに存在を知られては不味い。
なので、なるべく気配を消していた。
オフシグ自体は怖く無い。
ただの人間だから。
問題は、その取り巻き。
漸くテントで合流したらしいが。
錬金術師達には、魔物の気配を察知されてしまう。
《こちらの考え》が向こうに筒抜けになるのを、何としても防がないと。
魔物はユーメントと、こっそり取引していた。
お互い、目的を達成するまで邪魔をしない。
魔物が実行したい事を、正直にユーメントへ打ち明けると。
偶然にも、利害が一致。
だから暫く共闘する事に。
ロイスは魔物の存在に気付いていたが、黙って見過ごしている。
告発は皇帝の作戦の阻害要因となり、結果としてクライスからの信頼が損なわれる。
何も知らない。
それで通すに越した事は無い。
あくまでロイスは、クライスの信任を得たいが為に行動している。
それだけだった。



本隊の支度は整った。
一方、分隊の方は。
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