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第278話 上に立つ者、上に奉られる者
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「くそう!あの無能め……!」
「どうした?イライラして。」
文句ばかり言っているオフシグに、言葉を投げ掛けるパップ。
恐らく、対象は皇帝だろう。
そう思いながらも。
聞いているこっちがムカつくので、遮る様に言う。
すると、オフシグから答えが返って来る。
「さっさと宿を探さないのもそうだが!」
「他に理由が有るのか?」
「当然だ!奴等を俺から離しやがった!とっとと行かせやがった!」
「ああ、あの連中か。」
オフシグが差しているのは、白装束だった者達。
つまり、ケミーヤ教の残党。
自分の身を守らせ、あわよくば皇帝暗殺に使おうと考えていたのに。
全て台無しにされては、怒るのも無理は無い。
冷静にオフシグへ物申すパップ。
「高貴な者を町で泊まらせたいだけだろう。皇帝の名誉に係わるからな。」
「本当にそれだけか?ならば何故、あの騎士を残した?」
「フレンツ王子に仕えていたから、護衛に向いていると考えたのだろう。」
「お前、さっきから楽観的過ぎるぞ!」
「お前こそ、ちょっと自分の思い通りにならなかったからと言って。荒れ過ぎだぞ。」
「この悔しさ、分かるものか!」
「分からんね。私は激情的な奴と違って、冷静に考えられるからな。」
「ば、馬鹿にしてるのか!俺を!」
「『本性を出し過ぎだ』と言っているのだ。周りを見ろ。皇帝に告げ口されたらどうする?」
「うっ……。」
そこで言葉に詰まるオフシグ。
確かに、住民は冷たい眼差しでこちらを見ている。
町の空気から、完全に浮いている自分。
情けないやら、悔しいやら。
必死に感情を押さえようとするが、顔はまだプルプル震えていた。
そこへ、鎧を抱えて戻って来るロイス。
声を掛けるパップ。
「陛下はどちらに?」
「お忍びで探っておいでです。すぐに宿も見つけて来られましょう。」
不敵な笑みを浮かべるロイス。
新たな狂信者へと変わり続けている女騎士に、不気味さを感じ。
それ以上、パップは尋ねようとしなかった。
その頃、テノは。
建物の中へ入っていた。
外見はただの四角い建築物。
ごちゃごちゃしているイメージは無かったのだが。
いざ入ってみると。
ベンチの様な長椅子が、真ん中の通路を挟んで左右に並んでいる。
それも縦方向へズラリと、間隔を一定に保ち平行に。
パッと見、12列は有るだろうか。
通路の先、突き当たった壁には。
床から高さ2メートル、そこを底辺にしたステンドグラスが。
縦3メートル、横1.5メートルと言った所か。
真下には〔高さ15センチ程・横幅10メートル・奥行き1メートル程〕の、木製のステージが有り。
普段はここをウロウロと歩きながら、司祭は教義を説いているのだろう。
ギシギシと物音を立てながら。
それ位、内装は古く見えた。
ただ、ステンドグラスだけは傷1つ付いていない。
描かれているのは、空に浮かんだ人間。
背中から八方に、光が降り注いでいる。
地面には、平伏す人間達。
奇妙な構成の画。
ステンドグラスから、何かを感じ取るテノ。
何処かで見覚えが……。
そこで漸く思い出す。
スラッジに在った教会と似ているのか!
と言う事は、信仰対象はまさか……!
「その辺りで着席されよ。」
ステージから2列目、ステンドグラスに向かって右側のベンチに。
テノは座る。
同じ列の左側のベンチには、トトが。
司祭のキュレンジは、ステージに立つ。
そしてテノの方を向くと、両手を広げて。
さあ、何でも話すが良い。
そう言わんばかりに、聞く体制を取る。
横からはジッと、トトに見つめられる。
清い、澄んだ目で。
『ふう』と一息付いて、テノは話し出す。
要点を掻い摘んで。
後、皇帝と言う身分を隠しながら。
話を聞き終え、腑に落ちない顔付きとなるキュレンジ。
トトがキュレンジに尋ねる。
「《御神託》は有りましたっけ?」
「いや、無いな。」
「御神託?」
テノが思わず口に出す。
キュレンジが言う。
「まだ話しておりませんでしたな。目の前に在る画、そこに描かれておるのは誰だと思います?」
「いやあ、皆目見当が……。」
テノの本音だった。
スラッジの物と起源が同じならば、妖精が残した伝承に絡んでいる筈。
でもその様な人物は、金の騎士以外に心当たりが無い。
しかしキュレンジは、テノに告げる。
「あなたの話の中で出て来ましたよ?」
「え?そうですか?」
テノの話で登場した人物は。
皇帝。
幻の錬金術師。
12貴族。
後は……。
ハッ!
そ、そっちか……!
テノが答える。
「《魔法使い》、ですね?」
「ご明察。我等は【グレートマジシャン】、略して【GM】と呼んでおりますが。」
「はあ……。」
「GMが直々に動かれておられるなら、こちらへも知らされているのが筋なのですが。」
どうやら、キュレンジは。
魔法使いに無視されている様で、その点が不服らしい。
テノは、クライスの事を思い出す。
勝手に神の如く奉られるのは、真っ平御免だ。
彼はそう言っていた。
魔法使いも、同じ思いなのだろう。
無暗に神格化されても困る。
何も干渉は出来ないのだから。
何もしてあげられないのだから。
そこまで思いを馳せて。
テノは1つの疑問へと行き着く。
それをキュレンジに尋ねる。
「そのステンドグラスが作製されたのは、何時頃なのでしょう?」
「もっともな質問ですな。」
キュレンジも応じ。
『伝承によると、なのですが……』と前置きした上で。
時期を答える。
「500年程前に、【妖精と人間の共同作業】で生み出された様です。」
「妖精と、人間!?」
驚きと戸惑いが入り混じった、テノの声。
スラッジに在るのは、妖精が単独で作り出した物。
人間が関与した形跡も伝承も無い。
なのにこちらは、人間も携わったと言うのか!
分からん!
全く分からん!
目を閉じ、あれこれ考えてみるが。
結局、首を横に振るだけ。
それを何回か繰り返した挙句。
テノは考えるのを諦めた。
メグ殿に尋ねれば、真相は分かるのだろうが。
恐らく、答えてはくれまい。
考えるだけ、時間の無駄だ。
今は、やるべき事が有る。
それが成就してからでも、遅くは有るまい。
そう結論付けた。
お互い、話は終わった。
キュレンジは、宿泊を了承してくれた。
『すぐに連れて参ります故』と断り、テノは教会を後にする。
そして町の中央で陣取っている、パップ達の元へと戻る。
呆れ返るオフシグ。
「お忍びとは聞いておりましたが、何たる格好!」
『皇帝が着る服では無い』と非難しているのでは無い。
『目的達成の為ならば、こうもあっさりとプライドを捨てられるのか』と言う、節操の無さに。
心の底から呆れたのだ。
これは、暗殺の為に一工夫も二工夫も必要だな。
そう考えさせられる、オフシグ。
事前に考えてきた策も、早く練り直さねば。
ここで、ケミーヤ教の連中と分断された事が。
ダメージとして効いて来る。
再びイライラして来るオフシグ。
『もう止めはしまい』と無視するパップ。
テノは行商人の格好のまま、馬に跨り。
ロイスに鎧を預けたまま。
パップ達を伴って、教会へと向かうのだった。
「どうした?イライラして。」
文句ばかり言っているオフシグに、言葉を投げ掛けるパップ。
恐らく、対象は皇帝だろう。
そう思いながらも。
聞いているこっちがムカつくので、遮る様に言う。
すると、オフシグから答えが返って来る。
「さっさと宿を探さないのもそうだが!」
「他に理由が有るのか?」
「当然だ!奴等を俺から離しやがった!とっとと行かせやがった!」
「ああ、あの連中か。」
オフシグが差しているのは、白装束だった者達。
つまり、ケミーヤ教の残党。
自分の身を守らせ、あわよくば皇帝暗殺に使おうと考えていたのに。
全て台無しにされては、怒るのも無理は無い。
冷静にオフシグへ物申すパップ。
「高貴な者を町で泊まらせたいだけだろう。皇帝の名誉に係わるからな。」
「本当にそれだけか?ならば何故、あの騎士を残した?」
「フレンツ王子に仕えていたから、護衛に向いていると考えたのだろう。」
「お前、さっきから楽観的過ぎるぞ!」
「お前こそ、ちょっと自分の思い通りにならなかったからと言って。荒れ過ぎだぞ。」
「この悔しさ、分かるものか!」
「分からんね。私は激情的な奴と違って、冷静に考えられるからな。」
「ば、馬鹿にしてるのか!俺を!」
「『本性を出し過ぎだ』と言っているのだ。周りを見ろ。皇帝に告げ口されたらどうする?」
「うっ……。」
そこで言葉に詰まるオフシグ。
確かに、住民は冷たい眼差しでこちらを見ている。
町の空気から、完全に浮いている自分。
情けないやら、悔しいやら。
必死に感情を押さえようとするが、顔はまだプルプル震えていた。
そこへ、鎧を抱えて戻って来るロイス。
声を掛けるパップ。
「陛下はどちらに?」
「お忍びで探っておいでです。すぐに宿も見つけて来られましょう。」
不敵な笑みを浮かべるロイス。
新たな狂信者へと変わり続けている女騎士に、不気味さを感じ。
それ以上、パップは尋ねようとしなかった。
その頃、テノは。
建物の中へ入っていた。
外見はただの四角い建築物。
ごちゃごちゃしているイメージは無かったのだが。
いざ入ってみると。
ベンチの様な長椅子が、真ん中の通路を挟んで左右に並んでいる。
それも縦方向へズラリと、間隔を一定に保ち平行に。
パッと見、12列は有るだろうか。
通路の先、突き当たった壁には。
床から高さ2メートル、そこを底辺にしたステンドグラスが。
縦3メートル、横1.5メートルと言った所か。
真下には〔高さ15センチ程・横幅10メートル・奥行き1メートル程〕の、木製のステージが有り。
普段はここをウロウロと歩きながら、司祭は教義を説いているのだろう。
ギシギシと物音を立てながら。
それ位、内装は古く見えた。
ただ、ステンドグラスだけは傷1つ付いていない。
描かれているのは、空に浮かんだ人間。
背中から八方に、光が降り注いでいる。
地面には、平伏す人間達。
奇妙な構成の画。
ステンドグラスから、何かを感じ取るテノ。
何処かで見覚えが……。
そこで漸く思い出す。
スラッジに在った教会と似ているのか!
と言う事は、信仰対象はまさか……!
「その辺りで着席されよ。」
ステージから2列目、ステンドグラスに向かって右側のベンチに。
テノは座る。
同じ列の左側のベンチには、トトが。
司祭のキュレンジは、ステージに立つ。
そしてテノの方を向くと、両手を広げて。
さあ、何でも話すが良い。
そう言わんばかりに、聞く体制を取る。
横からはジッと、トトに見つめられる。
清い、澄んだ目で。
『ふう』と一息付いて、テノは話し出す。
要点を掻い摘んで。
後、皇帝と言う身分を隠しながら。
話を聞き終え、腑に落ちない顔付きとなるキュレンジ。
トトがキュレンジに尋ねる。
「《御神託》は有りましたっけ?」
「いや、無いな。」
「御神託?」
テノが思わず口に出す。
キュレンジが言う。
「まだ話しておりませんでしたな。目の前に在る画、そこに描かれておるのは誰だと思います?」
「いやあ、皆目見当が……。」
テノの本音だった。
スラッジの物と起源が同じならば、妖精が残した伝承に絡んでいる筈。
でもその様な人物は、金の騎士以外に心当たりが無い。
しかしキュレンジは、テノに告げる。
「あなたの話の中で出て来ましたよ?」
「え?そうですか?」
テノの話で登場した人物は。
皇帝。
幻の錬金術師。
12貴族。
後は……。
ハッ!
そ、そっちか……!
テノが答える。
「《魔法使い》、ですね?」
「ご明察。我等は【グレートマジシャン】、略して【GM】と呼んでおりますが。」
「はあ……。」
「GMが直々に動かれておられるなら、こちらへも知らされているのが筋なのですが。」
どうやら、キュレンジは。
魔法使いに無視されている様で、その点が不服らしい。
テノは、クライスの事を思い出す。
勝手に神の如く奉られるのは、真っ平御免だ。
彼はそう言っていた。
魔法使いも、同じ思いなのだろう。
無暗に神格化されても困る。
何も干渉は出来ないのだから。
何もしてあげられないのだから。
そこまで思いを馳せて。
テノは1つの疑問へと行き着く。
それをキュレンジに尋ねる。
「そのステンドグラスが作製されたのは、何時頃なのでしょう?」
「もっともな質問ですな。」
キュレンジも応じ。
『伝承によると、なのですが……』と前置きした上で。
時期を答える。
「500年程前に、【妖精と人間の共同作業】で生み出された様です。」
「妖精と、人間!?」
驚きと戸惑いが入り混じった、テノの声。
スラッジに在るのは、妖精が単独で作り出した物。
人間が関与した形跡も伝承も無い。
なのにこちらは、人間も携わったと言うのか!
分からん!
全く分からん!
目を閉じ、あれこれ考えてみるが。
結局、首を横に振るだけ。
それを何回か繰り返した挙句。
テノは考えるのを諦めた。
メグ殿に尋ねれば、真相は分かるのだろうが。
恐らく、答えてはくれまい。
考えるだけ、時間の無駄だ。
今は、やるべき事が有る。
それが成就してからでも、遅くは有るまい。
そう結論付けた。
お互い、話は終わった。
キュレンジは、宿泊を了承してくれた。
『すぐに連れて参ります故』と断り、テノは教会を後にする。
そして町の中央で陣取っている、パップ達の元へと戻る。
呆れ返るオフシグ。
「お忍びとは聞いておりましたが、何たる格好!」
『皇帝が着る服では無い』と非難しているのでは無い。
『目的達成の為ならば、こうもあっさりとプライドを捨てられるのか』と言う、節操の無さに。
心の底から呆れたのだ。
これは、暗殺の為に一工夫も二工夫も必要だな。
そう考えさせられる、オフシグ。
事前に考えてきた策も、早く練り直さねば。
ここで、ケミーヤ教の連中と分断された事が。
ダメージとして効いて来る。
再びイライラして来るオフシグ。
『もう止めはしまい』と無視するパップ。
テノは行商人の格好のまま、馬に跨り。
ロイスに鎧を預けたまま。
パップ達を伴って、教会へと向かうのだった。
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