272 / 320
第272話 追いつ追われつ
しおりを挟む
帝国軍分隊が橋を渡って〔キョウセン〕の町を通過し。
〔アイリス〕の支配地域へと差し掛かる頃。
分隊を追う様に進む者達が。
ブラウニーが操る荷車に隠れた、ルビィと王女達。
それを追い駆ける女。
更に、アイリスを目指すノーレン。
三者三様、それぞれが南を目指す。
「あれっ?この辺りって、こんなんだったかなあ……?」
シルバを離れ、砂漠からの道と遠回りルートが交わる箇所で。
悩むブラウニー。
来る時は遠回りルートでやって来たが、その時点では南方に砂漠が見えた。
しかし帰りの今回は、それが確認出来無い。
砂漠の途中に設けてある、オアシス。
そこへ通じていた石橋が、地面にめり込んだ形。
周りは見事なまでに、緑の森が広がり。
全く違う場所へ来た様だ。
砂漠の在った方から来る旅人に、話を聞くと。
皆口を揃えて、『少し前、急に森が出来上がった』と言う。
一体何が?
荷車がずっと止まっているので、怪しんだルビィが荷車から顔を出し。
ブラウニーへ尋ねる。
「どうされたのです?」
「いやあ、向こうに砂漠が広がっていた筈なんだけど。景色が変わっちゃったみたいでさあ。」
「それは好都合ではありませんか。早く進みましょう。」
「簡単に言うなよ。何でそう言う事になったか分からないんじゃあ、進み様が無いよ。」
「しかし……!」
せっつくルビィを、ブラウニーが諫める。
「焦るのは分かるけどさあ。ここは遠回りルートを選ぼう。何か途中に、危険なモノが潜んでいるかも知れないからね。」
ブラウニーが、遠回りルートへ通じる西側を見ると。
続々と行商人がやって来る。
対して、砂漠の有った方からは。
同業者は全く来ない。
『何か変わった事が有ってはいけない』と、警戒しての事だろう。
当然と言えば当然。
リスクはなるべく避ける、それが商人。
『何ならここで降りても良いけど?』とブラウニーに言われ。
渋々従うルビィ。
『良し、決まり!』と、ブラウニーは馬を西側へ向け。
荷車を走らせ始めた。
その頃、馬を駆るノーレンは。
シルバ内の町〔ルーゼ〕を抜け、〔シッティ〕へと通ずる街道に入った。
そこを少し進むと、街道沿いに植えられている木へと寄りかかる女の姿が。
何処かで見た事が……。
目の前で馬を止め、降りて女に近付くノーレン。
その姿をはっきりと捉えたと同時に、思わず叫んでしまう。
「あなたは!【シーレ】様ではありませんか!」
そう、王女達を追い駆けて走り続け。
この場所で力尽き、動けなくなっていた女。
ルビィが連れていた、実子では無い1人の王女の実の母。
それがシーレだった。
驚くと共に、すぐに水を飲ませるノーレン。
喉がカラカラだったのだろう、水をがぶ飲みし。
『ふう』と一息付くと、立ち上がってまた進もうとする。
それを強制的に止め、ノーレンはシーレを木陰に座らせる。
「いけません!まだ十分に体力が回復しておりませんぞ!」
「でも、早く追い付かないと……大変な事に……!」
「分かりましたから!取り敢えず、事情をお聞かせ願いませんか!」
ノーレンが必死になって止めるので、観念したのだろう。
シーレが『他言無用ですよ?』と念を押し。
内訳を話す。
「そ、そんな……。」
「ですから、早く追い付かねばならないのです。」
シーレの話を聞き、事の重大さを思い知らされるノーレン。
ノーレンがポツリと漏らす。
「その話が本当であれば、尚更協力を仰がねば……。」
「誰にです?」
ノーレンの眉を顰める表情に、不思議そうに尋ねるシーレ。
答えるノーレン。
「或る諜報機関です。あ奴等なら、助けとなりましょう。」
「信用に足るのですか?その組織は。」
「確かです。現に今、まことしやかに《或る噂》が語られているでしょう?」
「『陛下がお怒りになって、敵国を攻める』と言う、あれですか?」
「左様にございます。その噂を流したのが、その者達なのです。」
「あの噂は、何らかの意図があると?」
「はい。あの噂は、陛下のお考えに沿った物。つまり今から向かう先は、陛下の協力者なのですよ。」
敢えて打ち明けるノーレン。
こちらも、『他言無用』と予め念を押して。
何と無く納得したシーレ。
どうやら利害が一致している様だ。
そう判断し、ノーレンに願い出る。
「私を一緒に連れて行って貰えませんか?」
「宜しいので?」
「ええ。その方が近道と考えました。どの道、南を目指すのでしょう?」
ノーレンの指し示す組織に、心当たりが有る。
だからシーレはそう告げた。
『承知致しました、それでは』と右手を差し出すノーレン。
それを掴み、起き上がるシーレ。
2人は馬に跨り、一路南へと駆け始める。
その後。
ブラウニー達は遠回りルートを進み。
ダイツェンへの玄関口に当たる〔ステイム〕へ達するまで、1週間以上を要する事に。
一方、ノーレンとシーレを乗せた馬は。
シッティを駆け抜け、砂漠だった森をそのまま南進。
リスクを承知で、オアシスだった町へと向かう。
両者は異なるルートを選び。
結果、どれ位かは分からないが。
差が詰まる事に。
この事が未来に、どう作用するのか?
今の時点では、誰にも分からなかった。
〔アイリス〕の支配地域へと差し掛かる頃。
分隊を追う様に進む者達が。
ブラウニーが操る荷車に隠れた、ルビィと王女達。
それを追い駆ける女。
更に、アイリスを目指すノーレン。
三者三様、それぞれが南を目指す。
「あれっ?この辺りって、こんなんだったかなあ……?」
シルバを離れ、砂漠からの道と遠回りルートが交わる箇所で。
悩むブラウニー。
来る時は遠回りルートでやって来たが、その時点では南方に砂漠が見えた。
しかし帰りの今回は、それが確認出来無い。
砂漠の途中に設けてある、オアシス。
そこへ通じていた石橋が、地面にめり込んだ形。
周りは見事なまでに、緑の森が広がり。
全く違う場所へ来た様だ。
砂漠の在った方から来る旅人に、話を聞くと。
皆口を揃えて、『少し前、急に森が出来上がった』と言う。
一体何が?
荷車がずっと止まっているので、怪しんだルビィが荷車から顔を出し。
ブラウニーへ尋ねる。
「どうされたのです?」
「いやあ、向こうに砂漠が広がっていた筈なんだけど。景色が変わっちゃったみたいでさあ。」
「それは好都合ではありませんか。早く進みましょう。」
「簡単に言うなよ。何でそう言う事になったか分からないんじゃあ、進み様が無いよ。」
「しかし……!」
せっつくルビィを、ブラウニーが諫める。
「焦るのは分かるけどさあ。ここは遠回りルートを選ぼう。何か途中に、危険なモノが潜んでいるかも知れないからね。」
ブラウニーが、遠回りルートへ通じる西側を見ると。
続々と行商人がやって来る。
対して、砂漠の有った方からは。
同業者は全く来ない。
『何か変わった事が有ってはいけない』と、警戒しての事だろう。
当然と言えば当然。
リスクはなるべく避ける、それが商人。
『何ならここで降りても良いけど?』とブラウニーに言われ。
渋々従うルビィ。
『良し、決まり!』と、ブラウニーは馬を西側へ向け。
荷車を走らせ始めた。
その頃、馬を駆るノーレンは。
シルバ内の町〔ルーゼ〕を抜け、〔シッティ〕へと通ずる街道に入った。
そこを少し進むと、街道沿いに植えられている木へと寄りかかる女の姿が。
何処かで見た事が……。
目の前で馬を止め、降りて女に近付くノーレン。
その姿をはっきりと捉えたと同時に、思わず叫んでしまう。
「あなたは!【シーレ】様ではありませんか!」
そう、王女達を追い駆けて走り続け。
この場所で力尽き、動けなくなっていた女。
ルビィが連れていた、実子では無い1人の王女の実の母。
それがシーレだった。
驚くと共に、すぐに水を飲ませるノーレン。
喉がカラカラだったのだろう、水をがぶ飲みし。
『ふう』と一息付くと、立ち上がってまた進もうとする。
それを強制的に止め、ノーレンはシーレを木陰に座らせる。
「いけません!まだ十分に体力が回復しておりませんぞ!」
「でも、早く追い付かないと……大変な事に……!」
「分かりましたから!取り敢えず、事情をお聞かせ願いませんか!」
ノーレンが必死になって止めるので、観念したのだろう。
シーレが『他言無用ですよ?』と念を押し。
内訳を話す。
「そ、そんな……。」
「ですから、早く追い付かねばならないのです。」
シーレの話を聞き、事の重大さを思い知らされるノーレン。
ノーレンがポツリと漏らす。
「その話が本当であれば、尚更協力を仰がねば……。」
「誰にです?」
ノーレンの眉を顰める表情に、不思議そうに尋ねるシーレ。
答えるノーレン。
「或る諜報機関です。あ奴等なら、助けとなりましょう。」
「信用に足るのですか?その組織は。」
「確かです。現に今、まことしやかに《或る噂》が語られているでしょう?」
「『陛下がお怒りになって、敵国を攻める』と言う、あれですか?」
「左様にございます。その噂を流したのが、その者達なのです。」
「あの噂は、何らかの意図があると?」
「はい。あの噂は、陛下のお考えに沿った物。つまり今から向かう先は、陛下の協力者なのですよ。」
敢えて打ち明けるノーレン。
こちらも、『他言無用』と予め念を押して。
何と無く納得したシーレ。
どうやら利害が一致している様だ。
そう判断し、ノーレンに願い出る。
「私を一緒に連れて行って貰えませんか?」
「宜しいので?」
「ええ。その方が近道と考えました。どの道、南を目指すのでしょう?」
ノーレンの指し示す組織に、心当たりが有る。
だからシーレはそう告げた。
『承知致しました、それでは』と右手を差し出すノーレン。
それを掴み、起き上がるシーレ。
2人は馬に跨り、一路南へと駆け始める。
その後。
ブラウニー達は遠回りルートを進み。
ダイツェンへの玄関口に当たる〔ステイム〕へ達するまで、1週間以上を要する事に。
一方、ノーレンとシーレを乗せた馬は。
シッティを駆け抜け、砂漠だった森をそのまま南進。
リスクを承知で、オアシスだった町へと向かう。
両者は異なるルートを選び。
結果、どれ位かは分からないが。
差が詰まる事に。
この事が未来に、どう作用するのか?
今の時点では、誰にも分からなかった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
悪役令嬢は毒殺されました……え? 違いますよ。病弱なだけですけど?
レオナール D
恋愛
「カトリーナ、悪いけど君との婚約は破棄させてもらうよ」
婚約者から告げられた一方的な婚約破棄。おまけに動機は他に運命の女性と出会ったからという明らかな浮気だった。
馬鹿な理論を口にする元・婚約者。こちらを煽るように身勝手なことを言ってくる浮気相手。周囲から向けられる好奇の眼差し。
あまりにも理不尽な状況に、カトリーナの胃はキリキリと痛みを訴えてきて、病弱な身体はとうとう限界を迎えてしまう!?
追い詰めたのはそちら。どうなっても知りませんからね!
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる