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第244話 エリントからミースェへ

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エフィリアの、金色の騎士に対する説明。
あの中には【明らかにおかしい点】が有るのだが。
それは一先ひとまず置いといて。
時系列を少し巻き戻し、クライス達の方を注目しよう。



錬金術師の集団が、エッジスからエリントへ到着。
すぐに目に付く、鉄条網の様な柵。
そこでロッシェは気付く。
ここを離れる前は、確かにうねっていた。
それが今は、ピクリとも動かない。
町中へ入ると。
住民の頭には、相変わらずアクセサリーや帽子が有る。
降り注ぐ余剰の魔力を体に入れさせず、体調に影響を及ぼさない工夫らしいが。
それ等も反応無し。
心なしか、誰もも明るい表情に見える。
クライスは『ノイエル家のご当主へ、ご報告申し上げたい』と、リーダーのジェードへ提案する。
『当然の道理、我らも同行致しましょう』と。
ジェードと、サブリーダーのミクリシアも付いて行く事に。
後の者は、ヒーケルへ続く街道の入り口で待機。
早速クライス達4人は、テイワがまだ居るであろう診療所へ向かう。



「そろそろ戻られる事だと思っていました。」

診療所内に在る薬局で、テイワが出迎えてくれた。
と言っても、クライスが残して行った薬のレシピを早くも活用し。
薬局内はてんてこ舞い。
柵の様子から、テューアの安定化は成功したらしい。
報告しに来た使者も、そう告げていた。
そちらに割く人員は、それまで程必要無くなるだろう。
そう考えて、テイワが錬金術師を何人か呼び寄せ。
薬を増産し始めていた。
たくさんあっても邪魔にはならない。
寧ろこれからは、ミースェの方で需要が高まる可能性が高い。
ある意味、先行投資。
備え有ればうれい無し。
かと言って、通常の診療も続けているので。
そちらの薬も調合しなくてはならない。
テイワは、屋敷に戻るかどうか悩んでいた。
そこへ、戦況報告を終えたクライスが一言。

「一旦、家族の元へ戻られては?顔を見せれば、安心する事でしょう。」

「そう言われれば、そうですな。」

しばらく屋敷をけ、家族に任せっきりとなっていた。
ホッとさせる事も、主として肝要か。
そう思い、クライスの提案に同意。
薬局で働く錬金術師達に、その旨を告げ。
診療所を後にするテイワ。
別れ際、『次は是非とも屋敷へお越し下さい』とクライスに話す。
それに対し、丁寧なお辞儀で返すクライス。
敢えて確約はしなかった。
最後にどうなるか、今の時点のクライスには。
結末が読めなかったから。



エリントを離れ、街道を進んで行く集団。
傍の草木をジロジロ見ながら、ロッシェは歩く。
成長が加速したり、逆に戻ったりする事は無く。
至って正常。
やはりあの現象は、テューアから流入していた強力な流れの魔力にる物だった。
これならきっと、ヒーケルの辺りも平穏を取り戻しているだろう。
そうロッシェは思ったが。
上手くは行かないものだ。



ヒーケルの、あの変な街道口を前にして。
ロッシェの顔が曇る。
町から出てすぐ、2方向へ別れていた街道の内。
エリント側は閑散としているが。
逆にミースェ側への流量が増えた。
それもそうだ。
ノイエル家が警戒する対象。
それが完全に、ヅオウへとシフトしたのだから。
『まあ、こうなるよな』とは、クライスの弁。
ペントの爺ちゃんよ、済まねえな。
あんたの気苦労は、もう少し続きそうだ。
そう思いながら、ポンと鎧を叩くロッシェ。
ペントから借りた、各部寄せ集めの鎧。
そういや、テューアで錬金術師が妙な事を言っていたな。
《破魔の鎧》とか何とか。
ミースェへと向かい始める集団の中、その最後方に居るクライスへ。
聞いてみる。
『答えてくれるとは思えない』と考えながら。
しかしあっさり、クライスは解説する。

「魔境を調査に行く時、不意に襲われても大丈夫な様に男が作ったのさ。錬金術で。」

何でも、流れ込もうとする魔力を受け流す作用が有るとか。
エリントの人達が頭に着けていた帽子等は、その原理を応用したに過ぎない。
オリジナル程の強力な物では無いが、普通の生活を守るには十分。
作る時に、賢者の石の材料を練り込んだので。
鎧は黒色とされている。
そう言われてみると、確かに胸当ての部分が黒光りしている。
これが、そうなのか?
ジッと見つめるロッシェ。
身に着けている自分としては、何の違和感も無い。
凄い物には思えないがなあ。
率直な感想。
特殊に思えない事こそ、本当は凄いのだが。
その意味に、ロッシェは気付いていなかった。



ミースェへと進行方向を変え、錬金術師の集団が進軍する。
木の枝はそよめいている。
草々も静かに揺れている。
この先待つであろう、熾烈な戦いを感じさせぬ様に。
より一層の緊張感を持って、錬金術師達は歩む。
反して捕虜の身である敵の者達は、宗主家の技を戦場で見られると期待していた。
何回もクライスが否定したにも係わらず。
変な教団に所属する位だ。
思い込みが激しい奴ばかりなのかも。
ロイスの狂信振りを見ていたので、ロッシェはそう考えていた。
あくまで変なのは、ケミーヤ教の教徒であって。
錬金術師では無い。
そこは明確に線を引きたいクライス。
味方の他の者も、同じ思い。
錬金術師に対するイメージが損なわれるのは避けたい。
だから敵の捕虜を、『錬金術師』としてでは無く『ただの教徒』として扱っている。
プライドが高いのかと思っていたら。
敵捕虜は、気にならないらしい。
どうやら心内こころうちでは、〔ケミーヤ教=錬金術師の集団〕と言う認識で一致している様だ。
ここまで来ると、もう放って置くしか無い。
敵捕虜から、クライスの関心が遠のいて行く。
チラリとも見なくなったのを感じ取り。
慌てて敵捕虜達は騒ぎ出すが。
時、既に遅し。
『お前等の前では戦わない』と言うクライスの言葉が、現実味を帯びて来る。
高揚感が、敵の心の中から消え失せ。
足取りも重くなっていた。
でもそれは、ミースェの町が見えて来る直前だったので。
道中の引き延ばしにも成らなかった。



町の姿が見えて来ると。
妙な既視感に襲われるロッシェ。
何処かで見た事のある外見だなあ……。
そこで思い出す。
そうか!
似てるんだ!
セントリアの首都〔テュオ〕と!
城塞都市では有りがちの施設。
高い城壁に、その上を歩く監視兵。
壁の中に砦が混じり、街道への入り口には大きな門が。
如何にも仰々しい外見。
テュオを参考にしたのか?
そう考えるロッシェだったが。
町内へ入る前に、錬金術師から説明を聞いた。
これは、かつてのヘンドリを模した物。
ガティはそれを、単純に大きくしたに過ぎない。
つまり昔のヘンドリの姿は、ガティの縮小版だったのだ。
ロッシェが物心ついた時には、遷都が完了して大分経ち。
町も荒廃していたので、その様な面影は無かった。
想像出来無かった。
だから驚いた。
その事実に。
急な遷都を行った当時の皇帝を、恨むロッシェ。
あんたがそんなに急かさなければ、町もボロボロにならなかったろうに。
でも一介の騎士がそんな愚痴を垂れ流した所で、過去は変わらない。
騎士ならば、主君の心中を察するべきだ。
もう一人の自分が、そう囁いている様に感じる。
分かってるよ、そんなの。
文句位良いだろ、俺も住んでたんだから。
言う権利は有るぞ。
心の中で葛藤しながら、ロッシェもミースェへと入って行った。
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