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第208話 姉の行方の手掛かりは

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ツレイムの話が終わって。
出て来た内容で、引っ掛かる部分が有る。
そう感じた者が、それぞれ行動し始める。



「あのー。」

「何か?」

ウタレドの町へ戻ろうとしているツレイムを、ロッシェがつかまえる。
ロッシェには、気になる話題があった。
それは。

「『チンパレ家が奴隷売買まで手掛けていた』ってのは、本当ですか?」

慣れない敬語を使い、何とか情報を得ようとする。
姉は、奴隷として買われて行った。
元締めがチンパレ家なら……。
ロッシェにツレイムが答える。

「間違い無い。私もその現場を目撃したからな。」

「ど、どんな様子でしたか?」

「そうさなあ。」

少し、思い出す時間が掛かる。
そしてツレイムが言う。

「その時は丁度、傭兵斡旋のついでに見えたが。」

「ついで、ですか?」

「荷運びや周りの世話をさせるのに、人足を欲する者も居たからな。」

「なら、奴隷として売られた少女は……?」

「少女?」

「え、いや。仮定です。仮定での話。」

慌てて言い繕うロッシェ。
やや首をかしげたが、誠意をもって答えるツレイム。
その顔には影が掛かっていた。

「少女なら恐らく、使い倒された後捨てられるのではないだろうか。」

「そ、そうですか……。」

酷く残念がるロッシェ。
不躾ぶしつけとは思ったが、ツレイムが問い掛ける。

「良ければ、話してくれないか?打ち明けにくい事情なのは察するが……。」

話せば楽になる事もある。
自分が今そうだった様に。
チラッとツレイムの顔を見た後、興味本位では無い事を感じロッシェは打ち明ける。

「……姉さんが買われて行きました。奴隷商人に。」

「何と!」

「俺は、探す旅に出ました。姉さんを取り戻した後しっかり守れる様に、騎士にもなりました。」

「そうであったか……。」

「だから何でも良いんです!何か手掛かりを……!」

すがる様に訴えるロッシェを、悲しい目をして見つめるツレイム。
ここにも無理やり絆をかれて、苦しみもがく者が居る。
それはとても辛い事。
出来るだけ応えてやりたい。
ツレイムはそう思うと。

「役に立つかは分からないが……。」

「どうぞ!何でも!」

「姉とは、何時いつ頃別れた?」

「10年と少し前に。」

「ならば、あの【事件】の頃か……。」

「事件?」

「昔、王宮に何者かが侵入して来てな。評議会会場を襲ったのだ。」

「え?」

訪れた時、かなり厳重な警備に見えた王宮が。
どうして?
ロッシェが疑問に思うのも無理は無い。
ツレイムが続ける。

「その時は、警護隊の方々の活躍が素晴らしくてな。いつの間にか侵入者達は消えていた。」

「そう言えば、先生も言っていたな……。」

「先生とな?」

「はい。〔トクシー・ビンセンス〕と言う方で、俺の槍の先生なんです。」

「おお!ビンセンス殿か!あの方は、若手の騎士の中でも有望株と噂されていたぞ。」

ふむふむと頷くツレイム。
彼の弟子とあらば、尚更協力したい。
そこで思い出す。
そう言えば。

「お仲間が連れていたあの騎士の様な女、何者か?」

「王族三男のフレンツ王子に、護衛で付いていたとか。」

嘘を言ってはいないが。
正体が知れると、厄介な展開になる気がする。
そう思ったロッシェは、素性を曖昧にした。

「そうか、道理で見覚えが……。」

「何時です?」

「事件の時だ。私もたま々遭遇しただけだが、華やかに活躍していた騎士だと記憶している。」

「それで?その事件と姉さんに、何の関係が?」

結論を早く聞きたがるロッシェを。
『物事には順番がある』と制して。
ツレイムが続ける。

「その後一時期、傭兵を大量に雇って王宮警備を強化したのだよ。それを手配したのが……。」

「チンパレ家だと?」

「そう言う事だ。連れていた女性もたくさん居たからな。或いはその中に……。」

「姉さんも!」

「あくまで可能性の話だ。そこに居たかは分からないが、同様の事を各地でしていたらしい。」

「じゃあ、姉さんを探し当てるには……。」

「紛争地域に行くのが近道だろうな。そこには居なくとも、一緒に連れられていた者が居るかもしれん。」

「なるほど!ありがとうごさいます!」

思い切り一礼して、ロッシェは一行の元へと戻って行った。
その後姿を見て。
自分の情報が役に立つのを願って止まない、ツレイムだった。



一方、クライスは。
話を聞く為、ロイスをソインの元から少し離れた場所へ引き離す。
尋ねる件は勿論。
ツレイムの話で出て来た、《チンパレ家からゲズ家へ遣わされた者》と。
デュレイが警告した3貴族の1人、《グスターキュ帝国侵攻の人選をした者》とが。
同一人物かどうか。
自演をしてフレンツを襲わせていたのなら、少なくとも繋がりがある筈。
クライスの問い掛けに対して、ロイスの答えは。
イエス。
その男、〔セメリト・ケイシム〕。
高度な術を操ると言う錬金術師。
どうやらシェーストに在った転移装置を設置したのも、そいつらしい。
フレンツには無理だと思ってはいたが。
普段から敢えて本名を名乗っていたのも、実力から来る『誰も倒せまい』と言う自負か。
ウタレドに展開されていた術の完成度からすると、かなりの実力者と認めざるを得ない。
だからこそ、そいつに関する情報を出来るだけ引き出さねばならない。
クライスはロイスに対して、キツく尋問するつもりだった。
しかし予想に反して、知っている事をスラスラと喋るロイス。
住民の姿を見て、心の底から改心したのか。
それとも、崇拝の対象をクライスに乗り換えただけなのか。
ロイスから敵意が喪失したのだけは確か。
そこから分かったのは。
チンパレ家は今忙しいと言う。
それは、紛争の種が芽吹こうとしているから。
アリュースを敵地に送り込み、捕虜として捕まらせた。
それを重く見た皇帝が、暗殺未遂を明らかにしてこちらの動きを牽制して来た。
材料が整いつつある。
後は魔境を開放し、南北からヘルメシア帝国の危機を煽り立てれば。
必ずや、国中に展開している仇共かたきどもが動き出す。
グレイテストの遺志を継いだ者達を討伐した輩、その子孫。
ロイスはそう聞かされていたらしい。
魔境から魔物を呼び出すには、ある程度の魔力が必要となる。
より強大な力を持つ魔物を呼び出し従わせる為には、相応の魔力をかき集めなければならない。
ウタレドにほどこされていたのは、その魔力を集める為の装置だった。
だから幹部の錬金術師は、チンパレ家からの使いと共に〔エッジス〕付近に居る筈。
魔境に近ければ近い程、魔物を呼び出し易くなるからだと。
ロイスは言った。
丁度ツレイムの元から戻って来たロッシェは、その話題に食い付いた。

「そいつはエッジスに居るんだな!」

「お、恐らく……。」

余りにロッシェの押しが強いので、困惑気味に答えるロイス。
エッジスは今大変な時。
テューアを開こうとする者達と交戦中。
敵がチンパレ家絡みだとすると。
姉さんの手掛かりが何かしら掴める。
そう確信すると、ロッシェはクライスに宣言する。

「俺もエッジスまで行く事にしたぜ!」

クライスに、ツレイムとの会話内容を聞かせる。
それなら、連れて行く動機は十分だな。
クライスも納得した。



これからの行動を話し合う一行。
ツレイムはテノの要請を引き受け、チンパレ家への牽制の為メドムへと戻って行った。
『ウタレドはプレズン軍に任せる』と、ソインに言い残して。
ロイスはソインの元で、しばらく働く事となった。
名目上は、主君であるフレンツ王子の捜索。
その実は。
最早人目をはばかる事無く、クライスを崇め奉る勢いを沈める為に。
ペコを監視に付けて、考え直させる時間を作る事。
厄介事を増やしたく無いと言う、クライスの本音からだった。
人気有るわねー。
皮肉交じりにクライスを揶揄からかうラヴィ。
その心中は如何に。
セレナも、ラヴィの振る舞いに悩む。
悩み事を多く抱える一行は。
北東へ、ハウの村を目指し。
そこから幻の湖に入る。
或る地点まで来れば、魔法使いが引き込んでくれるだろう。
メイはそう話す。
再びソインに見送られながら、一行はウタレドの町を後にする。
いよいよ、魔法使いとの面会になるのか?
その前に、また何かが起こるのか?
この時点では、誰も先の事は分からなかった。
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