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第163話 立派なのは

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元スラッジ民の下へ近付くハリー。
対して、彼等はハリーから顔を背ける。
嫌われているのかしら?
貴族だから?
身分が違い過ぎるから?
ただ会話をしたいだけなのに。
少し悲しくなるハリー。
仕方無いか。
向こうは着の身着のまま。
あたしは綺麗なドレスに身を包んでいる。
引け目を感じているのは、あたしの方。
町の人達を見ても、一人だけ浮いているのが分かる。
悪目立ち。
あたしが近付いたら、付いて来た人達に迷惑が掛かる。
それ位は分かる。
ハリーはそう考えて、離れようとする。
すると、周りの見物人から何かが飛んで来た。
道端に転がるそれを見て、ハリーはゾッとする。
角張った石。
それも拳大の。
思わず叫んでしまう。

「危ないじゃないの!当たったらどうするのよ!」

思わずハリーを見る元スラッジ民。
ハリーの叫びに対して、見物人の返しは。



「当たれば良かったのに。」



「何ですって!」

怒るハリー。
最初からぶつけるつもりで投げたのか!
何て危ない事を!
文句を言うハリー。

「この人達だって、懸命に生きているのよ!それを、こんな……。」

ギロッと見物人を睨む。
しかし逆に睨まれる。
そして罵倒が飛んで来た。

「そこのゴミじゃねえ!お前に言ってんだよ!豪華に着飾りやがって!」

「え?」

そして次々と、見物人から石が投げられる。
大小様々。
対象は元スラッジ民では無く、ハリー。
貴族に対して鬱憤が溜まっている様だ。

「どうせてめえ、どっかの貴族なんだろ!迷惑なんだよ!」

「そうよ!あたしは12貴族の1家、ムヒス家の者よ!何か文句あんの!」

売り言葉に買い言葉。
つい口答えをしてしまうハリー。
ハリーの言葉に、石投げがエスカレート。

「ムヒス家といったら、チンパレ家の連中の仲間じゃねえのか!」
「てめえ等がテントなんか作るから、こっちは被害甚大なんだよ!」
「客が来なくなったじゃねえか!とっとと撤去しろ!」

検問所から去った衛兵が、これはチンパレ家のせいだとバラしていたのだ。
12貴族内の対立も、この町では常識となっている。
ただ今までは、内周の内側でのいざこざだった。
ここまでは影響が無かったのだ。
しかし確執は外まで波及してしまった。
旅人が引き返す羽目になった為。
口伝えで『ここに来ても仕方が無い』と言う勘違いが広まって、ここを訪れる者の激減が懸念された。
それは即ち、客が減る事を意味する。
早く勘違いを払拭しないと。
宿屋や土産物屋、観光業等は致命的被害になりかねない。
怒りのやり場に困っていた町の人々が、ボロボロの人達に混ざってきらびやかな衣装を纏った少女を発見。
ここぞとばかりに、攻撃的感情の矛先を1人の少女へとぶつける結果に。
圧倒的な負の感情。
急に怖くなるハリー。
冷たい目線でも気が参るのに。
これは耐えられない。
その場にうずくまるハリー。
怖い。
怖い。
怖い!
誰か!
助けて!
うううっ……。
目から涙が零れ落ちる。



会議中のトクシー達にも、罵声が聞こえて来た。
不味まずい!
『少し中断を!』と断って、トクシーとリンツが飛んで行く。
2人は保護者としての義務感からでは無く。
守らねば!
単純なその気持ちだけで動いていた。
未だに石を投げつけている見物人達。
その前に立ちはだかったのは。



「「「やめろ!」」」



元スラッジ民の子供達だった。
ハリーを庇う様に仁王立ち。
両手を目一杯広げて、抵抗する。
驚きを隠せないハリー。
見ると、子供達の足はガタガタ震えている。
顔を見上げると、恐怖心を必死に我慢する顔が。
こんな子供に助けらるなんて。
守られるなんて。
あたしより幼いのに、これじゃあこっちの方が年下じゃない。
屈辱では無い悔しさ。
それは自分の心が未熟な為に招いた事態への、自分自身への憤り。
ヤジは子供達へも向けられる。

「お前等、良いのかよ!」
「奴隷みたいな扱いで!」
「惨めじゃねえのかよ!」

最早、根拠の無い言い掛かり。
フラストレーションが爆発し、言葉の刃となって向かって来る。
それでも子供達は退かない。
結束力が増すばかり。
そして子供達は言い返す。

「奴隷なんかじゃ無いやい!」
「友達だ!仲間だ!」
「おっちゃん達こそ恥ずかしくないのか!子供相手にムキになって!」

的を射る表現に、たじろく見物人達。
子供達を守る様に、大人も前に立つ。
『投げてみろ!』と言わんばかりに。
その間に年寄り達が、安全な場所へとハリーを連れて行く。
ずっと泣きっぱなしのハリー。
傍に付いて、『大丈夫だから』と優しく声を掛ける年寄り達。
素早く見物人と子供達の間に割って入る、トクシーとリンツ。
2人が凄い形相なのは、ビビる見物人の顔付きで分かる。
散れ!
トクシーの一喝で、サッと波を引く様に消える見物人。
すぐにハリーの元へ駆け寄る2人。
子供達も寄って来る。
或る子供がハリーに言った。

「無視してごめんね。『僕達と同じ身分に見られたら可哀想』って思ってたんだ。」

その一言が、重くハリーの心に突き刺さる。
こんなにも温かい心。
今まで感じなかった。
いや、感じようとしなかった。
知っている、じいやも同じ目をしていた事を。
貴族と言う地位に甘んじて、さも当然の様に受け止めていた。
でも、人としては余りに下衆な考え。
流石に身に沁みた様だ。
ハリーの顔付きが変わった。
そして覚悟した。
悟らずにはいられなかった。
貴族としての生き方を。
ハリーは涙を拭い、周りの人達に言った。
ありがとう。
それだけを、ひたすらに。



少し遠くから心配そうに見ていたラヴィ達。
何か有れば介入するつもりだった。
敵国の人間として目を付けられてしまうので、出来ればそれは避けたかったが。
トクシーとリンツに挟まれて、ハリーがこちらへ戻って来る。
安堵するラヴィ達。
そして、ハリーの心の微妙な変化に気付く。
少々顔が引き締まって見える。
取り敢えずこの場は収まった。
さて、どうするか。
検問所の突破を思案し直そうとした時。
ハリーから提案が有った。
それは、さっきの出来事で思い付いた作戦。
アンは素直に感心する。
利用出来る物は全て利用する。
兄様が考えそうな事。
意外と知恵が有るじゃない。
ここに来て、急激な成長。
どうやら頼もしい仲間が出来た様だ。
皆提案に乗り、早速準備に掛かった。



ハリーの作戦。
果たしてその中身は?
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