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第155話 造り替えられた検問所

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「責任者を出せぇ!」
「払うって言ったじゃねえか!」

何故か怒号が飛び交う。
検問所ではないのか?
どうやら昔とは少々、町の構造が変わっている様だ。
少しだけ。
トクシーは自分にそう言い聞かせて。
覗いてみる。
そこは、検問所だった所を改造して何かの取引所にされたらしい。
入り口にカウンターが有り、陳列棚が横の壁面に見える。
置いてある物は、武器や鎧?
トクシーに付いて来ていたロッシェ。
暴れながらカウンター前で怒鳴り散らしている集団へ、勇猛果敢に突入。
紛れながら、やり取りに耳を澄ませる。

「発注したのは、てめえ等の親分だろうが!」

「急に取り止めになったんだ。俺に聞かれても知らんとしか言えん。」

「じゃあ親分をここへ寄越せ!」

「それは出来んのだよ。」

「何でだ!」

「出来んものは出来ん。」

「くそう!こいつじゃあらちが明かねえ。」
「どうすんだよ!こちとら、寝もしねえでせっせと作ったんだぞ!」
「このままじゃあ大損だ!」

堂々巡りをしている会話。
親分とやらが何かを発注した。
それをせっせと作った。
納めに来たが、取り止めになった。
理由を聞いても『知らん』の一点張り。
そう言う事らしい。
粗方把握し、トクシーの元へ戻ろうとした時。
ロッシェは集団の誰かに足を引っ掛けられ、転んでしまう。
ゴロゴロ。
ドッスーン!
勢い余ってカウンターに激突。
いきなり現れた男に、場が一瞬凍り付く。
頭を掻きながら、『どうも』と一言。
途端に、怒りの矛先がロッシェへと向かう。

「何だ、てめえは!」
「俺達の邪魔をしに来たのか!」
「何とか言えや!」

『あはは』と笑いながら、タジタジとなるロッシェ。
仕方あるまい。
少しだけとは行かなくなったが。
不詳の弟子とは言え、助けずにはいられない。
スルスル群集の合間を縫って、ロッシェの傍まで来るトクシー。
膝間付いて『大丈夫か?』と聞く。
『済まねえ先生、ドジを踏んじまった』と謝るロッシェ。
トクシーの鎧を見て、ヘルメシア軍の騎士と分かると。
火の粉はそちらへと延焼。

「その恰好、親分の仲間だな!」
「丁度良い、何とかしろ!」
「そうだそうだ!」

群集がトクシー達へ詰め寄っている間に、逃げ出そうとするカウンター向こうの男。
そこに飛び込む、1つの影。
むんずと捕まえ、集団の前に引っ立てる。
そして言った。



「そこの2人は俺の連れなのだ。こいつとは関係無い。勘弁してやってくれ。」



その姿を見るや。

「おお!デュレイの旦那!」
「帰っていらしたんですかい!」
「これは心強い!」

堪りかねて、この場を収めようとすっ飛んで来たデュレイだった。
本来なら、まだ存在を隠して置きたかったのだが。
ここならまあ、大丈夫だろう。
何せここは、元々デュレイ家の管轄なのだから。
スラッジに潜入したのも管轄の延長、言わばついでだった。
それより。

「ここは検問所だった筈だが……。」

デュレイは群衆に問い掛ける。
『俺が俺が』と、返答するのに名乗りを上げる者多数。
収拾が付かなくなるので、見た事の有る面影を指名する。
それは、ここら辺りの工場群を仕切る親方。
刀鍛冶の【ゲイル】。
前に進み出るゲイル。
そしてこう言った。

「そいつの親玉が、『大量発注した武器を受け取らない』って言い出したんでさあ。」

「本当か?」

掴んだまま、カウンターの男に問う。
ただ、頷くだけ。
下手に喋ると、不利になると考えたのだろう。
パンパンと膝の埃を払い、立ち上がるトクシー。
ロッシェも慌てて。
更に男へ尋ねるデュレイ。

「発注者は誰か?」

答えず。

「責任者はお前か?」

答えず。
反応の無さにいら立つ集団。
続けるデュレイ。

「ならば、質問を変えよう。俺はこの辺りを管轄するデュレイ家の者。この改造は、俺のあずかり知らぬ所なのだが?」

『勝手にやったのか?』と暗に問うている。
それに関しては。

「俺も最近ここへ派遣されたんだ。事情は知らん。それだけだ。」

やっと答えた。
取っ掛かりを掴むと。
これからは押せ押せ。

「派遣?そんな業務あったかな……?」

とぼけるデュレイに。
男は。

「有るんだよ。最近は。」

「陛下が業務を命じたのか?」

「そんな上からの命令じゃねえ!俺が聞いたのは……。」

そこで出た言葉。



「【チンパレ家】が中心になって運営してるんだとさ。ここはそいつ等の出先機関さ。」



「何……?」

トクシーが反応。
チンパレ家と言えば、前にデュレイが話してくれた〔王族反対派〕の1家。
残念ながら、格式は向こうが上。
その地位に物を言わせて、好き勝手にやっている様だ。
それにしても。

「俺達の管轄だと言ったろう?幾ら12貴族とは言え、許可無しに改造は……。」

そう言って詰め寄るデュレイ。
突っ返す様に両手を前に出し、迫るのを拒絶する男。
そこに口を挟むゲイル。

「それが、旦那。フードを被った男がいきなり現れて、強引に『この辺りはチンパレ家の所有となる!』って宣言しやがった。それっきりなんでさあ。」

「父上達が黙っていまい。どうしてそんな事がまかり通っているんだ?」

「言いにくいんですが……。」

どもるゲイル。
『ふう』と一呼吸して言った。

「当然反対しましたよ。ですが変な術を掛けられたみたいに、真逆な事を言い出したんで。」

「術?」

デュレイは嫌な予感がした。
ゲイルが続ける。

「人が変わったみてえに、『チンパレ家は絶対だ』なんて言い出す始末で。おっと、これは言い過ぎか……。」

「まさか……!」

どうやら的中の様だ。
考え込むデュレイ。
トクシーとロッシェも加わって、会議を始める。

「これは、俺達ではどうしようも無いな……。」

うな垂れるデュレイ。
肩に手を置き、ロッシェは言う。

「《あいつ》に託すしか無いでしょ。」

「私も賛成だ。《彼》しか、この事態を打開出来る者はいまい。」

トクシーも助言する。
デュレイも腹をくくった様だ。
統括の責任者として、こちらを解決せぬまま前には進めない。

「済まない、少し遅れそうだ。」

謝るデュレイ。
『気にするな』と励ますトクシー。
デュレイは頷いて、集団に語り掛ける。

「この場は、俺に一任してはくれまいか?悪い様にはしない。」

そう言って頭を下げる。
デュレイ家の者が、そう言うのなら。
一旦引き下がる事にした集団。
『ありがとう』と礼を言うデュレイ。
『仕方ねえ、戻るか』と解散を促すゲイル。
それを見てホッとした感じの男に。
一睨みし、ドスの効いた強い口調でメッセージを送るデュレイ。

「とっとと戻って雇い主に言え。『好き勝手はもう終いだ』と。」

そして、カウンターとは反対側の壁に男をブン投げる。
バンッと打ち付けた拍子に、壁がくるっと反転する。
隠し扉の様な仕掛けらしい。
行き止まりと思わせる為の。
そんな知恵を用いる者。
怪しい。
怪し過ぎる。
そう考えながら、一旦馬車の方へ戻るトクシー達だった。



結局、東から内周部へは入れそうに無い。
主要な玄関である南側に向かう他あるまい。
そう話し合って決めた。
そしてこれから、別行動となる一群は。
デュレイ。
クライス。
そして何故か、ウィドーだった。
一群が目指すのは。
工場群の中心、デュレイの実家。
何が起こるか想像が付かないが。
クライスに頼るしか無い、デュレイだった。
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