130 / 320
第130話 つかの間の休みに
しおりを挟む
自称、神。
その正体は。
普段は白髪の少年、素は白蛇。
少年姿の時は、蛇の時の威厳を保つ為に『神の使い』と名乗っている。
偉そうで冗長的な性格だが。
無邪気な面も有り、そこが子供と気が合う点だった。
少年姿で町中へ現れては、町の子供達と遊ぶ。
それが、退屈を紛らわす手段。
実は、『町を守護する』と言うよりは『ここのパワースポットを守護する』者。
そう託されたからだ。
誰に?
何時か、語る時も来よう。
休憩所に戻ると、ラヴィはクライスへ詰め寄る。
「さっきの!説明!宜しく!」
鬼気迫る迫力。
でも顔を背けるだけ。
さっきからクライスは、或る一言だけを繰り返している。
「何時か時が来れば、全て話すよ。」
本当はそんな発言を無視して、脅してでも聞き出したいラヴィだったが。
余りに悲しそうな顔をするので、それ以上踏み込めない。
まだクライスとの間に壁があるのだろうか?
何故そんなに頑ななのか?
アンの方を向くと、目を伏せるだけ。
そうか、アンも聞きたいのを我慢してるのか。
納得はしないが。
本人が話したがらない以上、詳しくは聞けないな。
ラヴィは、一旦この件から手を引いた。
「なあ、メイ。」
「なあに?珍しいわね、あんたから寄って来るなんて。」
休憩所から少し離れた木陰で寛いでいるメイの隣に座って、ロッシェがボソッと話し掛ける。
「何処まで知ってるんだ?」
「何の事?」
とぼけるメイ。
ロッシェは続ける。
「『全部』と言ったら言い過ぎか?」
「そうね、言い過ぎね。あたいでも知らない事はあるわ。」
「例えば?」
「暗殺の黒幕とか。」
「他には?」
「そうやって喋らせて、思い当たる事を消去法で絞るつもりでしょ?何処でそんな知恵を付けたんだか。」
「そ、そんな事ねえよ。ただ……。」
「ただ?」
「クライスの姿が、見えなくなる事があるんだ。」
「何、その変な例え。」
「見かけじゃねえよ。あいつの心の中に、別の何かが居る様な気がしてならないんだ。」
「ふうん。」
「疑ってる訳じゃ無い。信じてるよ、あいつを。それでも時々不安になるんだ。」
「人間って、ややこしいのね。」
「そんなもんさ。『信頼と嫌疑は同義である』だっけか?昔聞いたんだ、ある人から。」
「大丈夫?」
「何だ急に?俺に気を使うなんて。」
「そりゃそうよ。哲学的な事を言い出すんだもの。」
「受け売りだっつうの。全く、そうやって話をはぐらかす……。」
「こっちの都合よ。悪いわね。」
そう言って、メイは起き上がってトコトコ歩き出す。
ロッシェは座ったまま。
メイの姿を見送った。
口止めされてるのか。
魔法使いに。
こりゃあ何としても、直接話を付けたいものだ。
ただの好奇心では無い。
真理に近付きたい。
ただそれだけ。
『自分にも真実を知る権利はある』と、ロッシェは考えている。
もし可能なら。
ただ。
メイが口を堅くする理由が、魔法使いを守る為では無く俺達を守る為だったら……。
そう考えると、心が後ろ向きになってしまう。
ええい、止めた止めた!
こんなの、俺の性分じゃ無い。
大体、クライスが話してくれれば楽になれるのに。
どうしてそんな頑なに……。
そこで思い付いたのが、アンの言っていた《黒歴史》。
錬金術師には、何か因縁めいたのが有るとか無いとか。
それでアンは、あの蛇野郎に話し掛けようと……。
おっと、また考えちまった。
最近は、こんな事が多いな。
今までの旅だと、何にも考えずに好き勝手やってたのに。
騎士道を意識し出してからだろうか。
『考えるのも修行』と先生に言われて、調子が狂っちゃったか?
まあ良い。
旅に同行していれば、分かって来るだろう。
そう考えている内に、ロッシェは木陰で居眠りを始めた。
「よーしよし、良い子ね。」
メークに水を掛けながら、優しくブラッシングしてあげるラヴィ。
本当の弟の様に感じていた。
それだけ、宮殿に残して来た本物の弟妹が恋しいのかも知れない。
今頃、どうしてるかなあ。
一応親書をお願いする手紙に、弟妹宛ての手紙も付けたんだけど。
返事を書く暇が無かったのかなあ。
それとも極秘事項な為に、私の事が伏せられてるのかも。
一目、会いたいなあ。
そう思うと、王宮のある方角を見やるラヴィ。
その姿を見かけて、セレナの胸は苦しくなる。
ずっと傍に居たので、考えている事は大体分かる。
空を見やる方角で、誰に対して思いを馳せているのかも。
世界統一と言う、野望の為とは言え。
年端の行かない娘が長旅をするのは、とても辛い事。
少しでも、その思いを分かち合えたら……。
セレナのラヴィを見る目線には、熱い物があった。
「デュレイよ。」
「何だ、ビンセンス?」
休憩所の隣にあるベンチで。
ヘルメシア側の騎士が語り合う。
「お前の知っている事、何処まで進んだら話せる様に?」
「そうさなあ……。」
考えるデュレイ。
ゴクリとその言葉を待つトクシー。
『うん』と頷いてデュレイは言った。
「ここでなら、陸の孤島だし。あの変な者も居るから少しは……。」
「本当か!」
デュレイの両肩をガシッと掴むトクシー。
その手には力が入っていた。
余程聞きたかったらしい。
それは、旅の仲間をある程度安心させたいと思うが余りの事。
「す、少しだけな。本当に少し。」
「ありがとう!皆を呼んで来る!」
そう言って、休憩所へ駆け出すトクシー。
後姿を見て、何処まで話そうか用意して待つ事にしたデュレイだった。
すぐにみんな、デュレイの元へ集合した。
その口から語られる事は?
少しは、見えない黒幕の背中でも掴める様になるのだろうか?
その正体は。
普段は白髪の少年、素は白蛇。
少年姿の時は、蛇の時の威厳を保つ為に『神の使い』と名乗っている。
偉そうで冗長的な性格だが。
無邪気な面も有り、そこが子供と気が合う点だった。
少年姿で町中へ現れては、町の子供達と遊ぶ。
それが、退屈を紛らわす手段。
実は、『町を守護する』と言うよりは『ここのパワースポットを守護する』者。
そう託されたからだ。
誰に?
何時か、語る時も来よう。
休憩所に戻ると、ラヴィはクライスへ詰め寄る。
「さっきの!説明!宜しく!」
鬼気迫る迫力。
でも顔を背けるだけ。
さっきからクライスは、或る一言だけを繰り返している。
「何時か時が来れば、全て話すよ。」
本当はそんな発言を無視して、脅してでも聞き出したいラヴィだったが。
余りに悲しそうな顔をするので、それ以上踏み込めない。
まだクライスとの間に壁があるのだろうか?
何故そんなに頑ななのか?
アンの方を向くと、目を伏せるだけ。
そうか、アンも聞きたいのを我慢してるのか。
納得はしないが。
本人が話したがらない以上、詳しくは聞けないな。
ラヴィは、一旦この件から手を引いた。
「なあ、メイ。」
「なあに?珍しいわね、あんたから寄って来るなんて。」
休憩所から少し離れた木陰で寛いでいるメイの隣に座って、ロッシェがボソッと話し掛ける。
「何処まで知ってるんだ?」
「何の事?」
とぼけるメイ。
ロッシェは続ける。
「『全部』と言ったら言い過ぎか?」
「そうね、言い過ぎね。あたいでも知らない事はあるわ。」
「例えば?」
「暗殺の黒幕とか。」
「他には?」
「そうやって喋らせて、思い当たる事を消去法で絞るつもりでしょ?何処でそんな知恵を付けたんだか。」
「そ、そんな事ねえよ。ただ……。」
「ただ?」
「クライスの姿が、見えなくなる事があるんだ。」
「何、その変な例え。」
「見かけじゃねえよ。あいつの心の中に、別の何かが居る様な気がしてならないんだ。」
「ふうん。」
「疑ってる訳じゃ無い。信じてるよ、あいつを。それでも時々不安になるんだ。」
「人間って、ややこしいのね。」
「そんなもんさ。『信頼と嫌疑は同義である』だっけか?昔聞いたんだ、ある人から。」
「大丈夫?」
「何だ急に?俺に気を使うなんて。」
「そりゃそうよ。哲学的な事を言い出すんだもの。」
「受け売りだっつうの。全く、そうやって話をはぐらかす……。」
「こっちの都合よ。悪いわね。」
そう言って、メイは起き上がってトコトコ歩き出す。
ロッシェは座ったまま。
メイの姿を見送った。
口止めされてるのか。
魔法使いに。
こりゃあ何としても、直接話を付けたいものだ。
ただの好奇心では無い。
真理に近付きたい。
ただそれだけ。
『自分にも真実を知る権利はある』と、ロッシェは考えている。
もし可能なら。
ただ。
メイが口を堅くする理由が、魔法使いを守る為では無く俺達を守る為だったら……。
そう考えると、心が後ろ向きになってしまう。
ええい、止めた止めた!
こんなの、俺の性分じゃ無い。
大体、クライスが話してくれれば楽になれるのに。
どうしてそんな頑なに……。
そこで思い付いたのが、アンの言っていた《黒歴史》。
錬金術師には、何か因縁めいたのが有るとか無いとか。
それでアンは、あの蛇野郎に話し掛けようと……。
おっと、また考えちまった。
最近は、こんな事が多いな。
今までの旅だと、何にも考えずに好き勝手やってたのに。
騎士道を意識し出してからだろうか。
『考えるのも修行』と先生に言われて、調子が狂っちゃったか?
まあ良い。
旅に同行していれば、分かって来るだろう。
そう考えている内に、ロッシェは木陰で居眠りを始めた。
「よーしよし、良い子ね。」
メークに水を掛けながら、優しくブラッシングしてあげるラヴィ。
本当の弟の様に感じていた。
それだけ、宮殿に残して来た本物の弟妹が恋しいのかも知れない。
今頃、どうしてるかなあ。
一応親書をお願いする手紙に、弟妹宛ての手紙も付けたんだけど。
返事を書く暇が無かったのかなあ。
それとも極秘事項な為に、私の事が伏せられてるのかも。
一目、会いたいなあ。
そう思うと、王宮のある方角を見やるラヴィ。
その姿を見かけて、セレナの胸は苦しくなる。
ずっと傍に居たので、考えている事は大体分かる。
空を見やる方角で、誰に対して思いを馳せているのかも。
世界統一と言う、野望の為とは言え。
年端の行かない娘が長旅をするのは、とても辛い事。
少しでも、その思いを分かち合えたら……。
セレナのラヴィを見る目線には、熱い物があった。
「デュレイよ。」
「何だ、ビンセンス?」
休憩所の隣にあるベンチで。
ヘルメシア側の騎士が語り合う。
「お前の知っている事、何処まで進んだら話せる様に?」
「そうさなあ……。」
考えるデュレイ。
ゴクリとその言葉を待つトクシー。
『うん』と頷いてデュレイは言った。
「ここでなら、陸の孤島だし。あの変な者も居るから少しは……。」
「本当か!」
デュレイの両肩をガシッと掴むトクシー。
その手には力が入っていた。
余程聞きたかったらしい。
それは、旅の仲間をある程度安心させたいと思うが余りの事。
「す、少しだけな。本当に少し。」
「ありがとう!皆を呼んで来る!」
そう言って、休憩所へ駆け出すトクシー。
後姿を見て、何処まで話そうか用意して待つ事にしたデュレイだった。
すぐにみんな、デュレイの元へ集合した。
その口から語られる事は?
少しは、見えない黒幕の背中でも掴める様になるのだろうか?
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
悪役令嬢は毒殺されました……え? 違いますよ。病弱なだけですけど?
レオナール D
恋愛
「カトリーナ、悪いけど君との婚約は破棄させてもらうよ」
婚約者から告げられた一方的な婚約破棄。おまけに動機は他に運命の女性と出会ったからという明らかな浮気だった。
馬鹿な理論を口にする元・婚約者。こちらを煽るように身勝手なことを言ってくる浮気相手。周囲から向けられる好奇の眼差し。
あまりにも理不尽な状況に、カトリーナの胃はキリキリと痛みを訴えてきて、病弱な身体はとうとう限界を迎えてしまう!?
追い詰めたのはそちら。どうなっても知りませんからね!
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる