上 下
101 / 320

第101話 答え合わせ

しおりを挟む
「何故!ピンピンしている!」

大声を張り上げるベルズ。
身体の感覚が戻って来る。
……縛られている?
他の手下共も!
どう言う事だ?

「疑問が一杯な様だな。」

クライスが見下ろす。
その横では、必死に手下を縄でくくりつけているロッシェ。
セレナもトクシーも手伝っているが。
何せ人数が多い。
隠れたままの奴も含めると、結構な数を縛り上げ。
順次、丈夫そうな木に繋ぎ止めて行く。

「こき使ってくれるじゃんよー、クライスー。」

「ブー垂れてないで、働く働く。」

「はーい、師匠。」

「また!もう……。」

「ははは、良いではないか。クライス殿のおかげで助かったのだからな。」

文句を言うロッシェ。
たしなめるセレナ。
ロッシェを納得させようとするトクシー。
ラヴィは馬車の番で暇そうだ。
ため息を付いていた。

「まあ。あんた達の目的である足止めは、効果有ったんじゃない?」

嫌味ったらしく言うラヴィ。
もう少しで森を抜けられたのに。
そうしたら、町に出て美味しい物が食べられたのに。
楽しみを先延ばしされたので恨み節。
そんな空気を察してか、馬はご機嫌斜め。
付きっ切りで馬をさするアン。
すると機嫌が直って来た。
ホッとすると、ラヴィに文句を言う。

「馬は人間の感情に敏感なんだから、荒れないの!」

「はーい。」

たまには悪い返事をしてみるラヴィ。



その滑稽なやり取りを、無理やり見させられているベルズ。

「旦那ー。助けて下せえー。」

うめく手下達。

「助けて欲しいのはこっちだ、全くドジを踏みやがって。」

ぼやくベルズ。

「一応フォローしとくけど、あんた達はドジなんか踏んで無いぜ。」

「は?な、何を……。」

「その通り。最初からバレバレだったのだよ、ぬし等の行動は。」

縛り終えたトクシーが会話に入る。

「な!」

「何処から?何時から?そう聞きたそうだな。はっきり言おう。」

クライスは言い切った。



「初めからさ。」



「は、初め!」

ベルズも、手下達も驚いた。

「完全に掌の上。そう言う事だ。」

トクシーが付け加えた。

「初めってのは、そう……。お前達の仲間で、板を持ち帰った奴が居た筈だ。金属のな。」

「いや!あ、あれは確か『何も仕掛けが無い』と……。」

「判断した奴が居る、か。浅はかだったな。錬金術はそんなに単純じゃ無いんだ。」

シンプルな方が騙し易い。
仕掛けが無い様で、実は有る。
クライスの金の糸が、密かに繋がっていたのだ。
極細の糸は、金だからこそ出来る芸当。
細く長く伸ばせる特性を生かした、トラップ。

「代行とやらが、まだ後生大事に持っているみたいだな。居場所が筒抜けだよ。」

「何!」

「まあ。知らせたからもう遅いけどな、気付いても。」

知らせた?
誰に?

「どうでも良いだろ。それより、この位置も知らせといたから。仲間がすっ飛んで来るだろうよ。」

「そんな訳有るか!簡単に見捨てられるわ!」

「そんな余裕、無い筈さ。人手が欲しくてたまらない状況だからな。」

「何か仕掛けたのか!」

「俺が望んだんじゃ無い。手を貸しただけさ。」

「く、悔しい……。」

恥をかきながら、仲間の到着を待つ羽目になるとは!
生き恥だ!
死んでしまいたい位だ。
そんなベルズの気持ちを読み取った様に、クライスが言う。

「死なせないよ。あいつがそれを望んでいない。」

「誰の事だ!」

「しょうがないな。《リゼ》。これで通じるか?」

「あいつ!生きていたのか!」

「死んだと思ってたのか?連絡が無いから?薄情だなあ。」

結構ドライな環境なんだな、盗賊の巣とやらは。
クライスはそう思った。



さて、種明かし。
クライスは、死体が置かれていた地点から既に気配を感じていた。
悪念を。
メイも同時に感じた。
それで、メイがレーダーとなって気配を探りながら進んでいたのだ。
エミルが先行する形で、トラップを見つけてはクライスに報告。
エミルにお願いして矢の向きを変えたり、アンが錬金術で落とし穴の上に金属の板を敷いたり。
トラップは易々と回避された。
トクシーが受けた毒攻撃も。
アンの治療で難無く切り抜けた。
元々、錬金術と言う物は探求心の表れ。
金を生み出そうとする内に、科学と医学を発展させた。
だから、錬金術師と言えば普通は医者か科学者。
しかし、賢者の石を持ち事象を操る者も稀に居る。
そのイメージが強すぎて、超人の様に考える人も居る。
それは半分誤解だ。
能力的には、さほど普通の人と変わらない。
特に身体能力は。
薬で強化も出来るが、余程の事が無いと使用しない。
基本的に、自然の摂理に逆らう事は無い。
逆らうと反撃を食らう事を知っているからだ。
そこで問題。
ベルズ達が一行に襲い掛かった時、明らかにおかしかった点がある。
それは?



正解。
ベルズがクライスに襲い掛かった時、クライスは《詠唱していた》。
錬金術師は、上で述べた通り大抵医者か科学者。
賢者の石を持つ者は、石に念を送って操作する。
つまり、詠唱はしない。
クライスは更に賢者の石を使わず、金を生み出すのだ。
唱える筈が無い。
ではその光景は何だったのか?
ベルズ達は襲った後、皆意識を無くした。
これはまず。
エミルの幻術をメイが増幅し、メイが事前に把握していた敵にだけ幻を見せる。
それは、隠れたままで出て来れなかった者も含む。
そこへクライスが力を行使。
敵の周りの空気を、酸素以外全て金に変えた。
つまり、過呼吸状態にしたのだ。
死なない程度に。
それで敵は皆気絶した。
ベルズ達の眼前に広がっていた悲惨な残虐劇は。
そう言う展開を彼等が望んだ為に『そうなんだ』と思い込んでしまった、心の落とし穴。
気絶している連中をロッシェとトクシーがせっせと運び出し、順次お縄につく羽目に。



バタバタと敵が倒れて行く光景を目の当たりにして、『どう言う原理なんだ?』と疑問が湧いて尋ねるロッシェ。
でも、クライスの返事はつれなかった。

「原子論、って言っても分かんないだろ?」

「げ、げん……?」

「ほら。」

うっ!
い、言い返せない!
しょんぼりするロッシェの頭を、撫でてやるセレナ。
精一杯の慰めのつもりなんだろう。
私も分からないんだから、あなたは無理よ。
小難しく考えるのは、あなたらしく無いでしょ?
耳元でそうボソボソ言われて、漸く立ち直るロッシェ。



実は、疑問を投げ掛けられたクライスも少し落ち込んでいた。
優れた知識を持ち合わせていても、それを議論し合える相手が居ない。
それはとても悲しい事。
その時。
うな垂れるクライスの右腕を、クイと引っ張るアン。
私が居るわ。
そう主張している。
左腕もクイと引っ張られる。
見ると、ラヴィ。
私も努力するから。
孤独にさせないから。
そう言いたい様だ。
その姿に、心の中で『ありがとう』と言うクライス。
その様子を見て。
『良いなー、羨ましいなー』と、下世話な想像をするエミルだった。



こうして、盗賊達による妨害は幕を閉じた。
いよいよ、森を抜けようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

眺めるほうが好きなんだ

チョコキラー
BL
何事も見るからこそおもしろい。がモットーの主人公は、常におもしろいことの傍観者でありたいと願う。でも、彼からは周りを虜にする謎の色気がムンムンです!w 顔はクマがあり、前髪が長くて顔は見えにくいが、中々美形…! そんな彼は王道をみて楽しむ側だったのに、気づけば自分が中心に!? てな感じの巻き込まれくんでーす♪

七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない

猪本夜
ファンタジー
2024/2/29……3巻刊行記念 番外編SS更新しました 2023/4/26……2巻刊行記念 番外編SS更新しました ※1巻 & 2巻 & 3巻 販売中です! 殺されたら、前世の記憶を持ったまま末っ子公爵令嬢の赤ちゃんに異世界転生したミリディアナ(愛称ミリィ)は、兄たちの末っ子妹への溺愛が止まらず、すくすく成長していく。 前世で殺された悪夢を見ているうちに、現世でも命が狙われていることに気づいてしまう。 ミリィを狙う相手はどこにいるのか。現世では死を回避できるのか。 兄が増えたり、誘拐されたり、両親に愛されたり、恋愛したり、ストーカーしたり、学園に通ったり、求婚されたり、兄の恋愛に絡んだりしつつ、多種多様な兄たちに甘えながら大人になっていくお話。 幼少期から惚れっぽく恋愛に積極的で人とはズレた恋愛観を持つミリィに兄たちは動揺し、知らぬうちに恋心の相手を兄たちに潰されているのも気づかず今日もミリィはのほほんと兄に甘えるのだ。 今では当たり前のものがない時代、前世の知識を駆使し兄に頼んでいろんなものを開発中。 甘えたいブラコン妹と甘やかしたいシスコン兄たちの日常。 基本はミリィ(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。 【完結:211話は本編の最終話、続編は9話が最終話、番外編は3話が最終話です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!】 ※書籍化に伴い、現在本編と続編は全て取り下げとなっておりますので、ご了承くださいませ。

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

第一王子様は婚約者を捨ててまで幼馴染の事を愛したかったようです

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族令嬢であるエリッサとの婚約関係をすでに結んでいたガラル第一王子。しかしそんな彼の心を誘惑したのは、隣国の王族令嬢であるレベッカだった。二人の関係は幼馴染であり、互いにその点に運命を感じる中でその距離は次第に近くなっていき、ついにガラルはエリッサとの関係を捨ててレベッカとの婚約を選ぶ決断を下した。半ば駆け落ちのような形で結ばれることとなった二人だったものの、その後すぐにガラルはレベッカの本性を知り、エリッサとの関係を切り捨てたことを後悔することになり…。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

処理中です...