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第83話 違和感
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広場からも見える、大きな城。
そこへ向かって歩くデュレイ将軍と一行。
町の人は将軍に会釈するが。
その顔に笑顔は無かった。
「さて。馬や荷車はこちらへ。」
デュレイは召使いに指示。
荷車ごと馬を連れて行く。
城の中へと案内される一行。
かなり大きく、両側に塔が立っている。
真ん中は、西洋建築を思わせる様な外見。
石を積み上げた様式で、接着にはコンクリートの様な物が使われていた。
ドアは全て木製。
流石に鉄製だと使い勝手が悪いのか。
2メートル程の高さは有る正面玄関のドアを開かせ、デュレイは入って行った。
入る前、クライスはアンとメイに耳打ち。
コクンと頷くと、アンとメイはある仕草をした。
そして中へ入って行った。
「昔はこうして、共に行動していたものだ。」
「そうだな。」
昔話に花を咲かせながら、デュレイとトクシーは歩いて行く。
廊下も部屋もやたら広い。
お陰で移動が大変そうだ。
「ひっろいなあ。これじゃあ暮らし辛いんじゃないか?」
ロッシェがもっともな感想を述べる。
確かに暮らし辛い。
しかし。
セレナは気付いた。
「この構造は……?」
そこまで言った所で、アンに口を塞がれる。
それで察した。
違和感の正体を。
ある部屋まで来た時点で、デュレイが立ち止まる。
「ここを開けい!」
すると、ドアが勝手に開いた。
先導していた召使いが開いた訳では無い。
自動ドアの様に。
ギギギイッと動いた。
召使いがサササッと下がる。
「さあ、入られよ。」
『ならば』と、トクシーが足を踏み入れようとした時。
クライスが言う。
「不案内な中、転ぶやもしれません。どうか先に。」
罠が有るかも知れない。
自動ドアが有るなら、そこに錬金術有り。
警戒するのは当然。
「ちょっと!そんな事言わないの!」
ラヴィは反応するが、デュレイが諫める。
「確かに、訪れた事の無い者は転倒するかも知れぬな。承知した。」
そう言って、何食わぬ顔で入る。
それを見て、トクシーがクライスに囁く。
『クライス殿。あれは曽ての盟友。余り不審がられる行動は、慎まれた方が宜しいかと。』
対するクライスの返しは、あっさりしたもの。
『敢えてですよ。不審がって貰わないと困るんです。』
『え?それはどう言う……。』
真意を聞く間も無く、皆部屋に入って行った。
「自由に掛けられよ。立ち話も何なので。」
ドアが閉まると、デュレイは着席を促した。
すとんと長椅子に座るクライス。
それを見て、続々と着席。
部屋は縦横20メートル四方、高さ4メートル程。
窓にはステンドグラスの様な飾りがあった。
どうやら城の角にあるらしく、窓は2か所。
威厳を示す為か、1.5メートル四方はあった。
エミルは窓に興味を持ったのか、近くに飛んで行った。
人払いは済んでいる。
ここからが本題。
デュレイが話を切り出す。
「実は我が国には、評議会と言う物がございまして。そこが最高決定機関となっております。」
「ふうん、それで?」
ラヴィが相槌。
「そこで陛下が仰ったのです。《怪しい事・者があれば報告する様》と。」
「当然よね。」
「はい。それで諜報合戦になっているのです。この町にも、スパイが居るやも知れません。」
「それで?」
「そこで、皆さんに協力して頂きたいのです。我等が有利となる様に。」
「あなたの手先になれ、と?」
「これは必要な事なのです。我等の為に。」
「あのー。」
急にクライスが口を挟んだ。
「何か?あ、報酬は弾みましょう。」
そう答えるデュレイに、クライスは言い放った。
「《あ》じゃなくて。誰だ、あんた。」
「な、何を言っているのです?」
困惑するデュレイ。
トクシーも続く。
「そ、そうですよ。こいつは……。」
「共に過ごした仲間、だったら良かったのにね。」
アンはメイをむんずと掴んで、ステンドグラスに向かって放り投げた。
慌てて避けるエミル。
ガシャーーーーン!
……とはならなかった。
「発動!」
アンが右手に力を込める。
賢者の石がパッと光り、メイに繋がる銀の糸を通じてエネルギーが窓に送られた。
途端に景色が揺らぐ。
酔う様な感覚。
頭がクラッとする。
それもすぐに収まった。
皆気付いた時には。
「な、何だここは!」
トクシーがたまげる。
それもその筈。
豪華な装飾品は丸ごと消え。
部屋は前の2分の1の広さに狭くなり。
そこには妙竹林な生き物が立っていた。
大きさはざっと50センチ程。
ウサギの様な耳を持ったタヌキ。
明らかに焦っていた。
ズカズカと近寄るクライス。
改めて尋ねる。
「だ・れ・だ・あ・ん・た?」
「はいいいいい?」
困った様子のそれは。
切羽詰まった表情で。
白状した。
「じ、実は……。」
「実は?」
「留守を預かる者です。」
ラヴィが指を指して言う。
「明らかに魔物よね?」
クライスが答える。
「そう。同時にデュレイ将軍でもある。」
その言葉に反応するトクシー。
「どう言う事ですか、それは!」
「昔、将軍と使い魔の間で何かあったんですよね?」
「ええ。それで怖くなって……。」
「入れ替わったんですよ、その時に。こいつと。」
「えーーーーー!」
「どちらが望んだのか分かりませんが。」
そこでセレナが漸く口を挟む。
「感じた違和感は、これだったのですね。」
防御の為の要塞にしては、造りがざっくりしていて大き過ぎる。
攻められたら簡単に落とされるであろう、内部の単純な構造。
そして、町の人達の冷ややかな反応。
それは全て。
まやかし。
使い魔であるメイに過剰反応したのも、それを見抜かれるのを恐れた為。
でも。
「ビンセンスさんと過ごした時間は本物。そうだな?」
「勿論!」
騙すつもりは無かった。
交換条件だった。
『大事な友を頼む』と。
真相を探るべく、単独で行動していた本物。
友情を守るべく動いていた偽物。
その思いは共有されている。
繋がっている。
では何故そんな事を?
トクシーは聞かねばならない。
彼の意思を。
「今、本物の【エメロー・デュレイ】に危機が迫っているのです。どうかお力を!」
そう言って土下座する魔物。
スッと寄り添い、顔を上げさせるラヴィ。
優しく言った。
「なら、あなたの名前をまず教えてちょうだい。でないと呼び辛いもの。」
その言葉に魔物は涙を流し、改めて名乗った。
「私はデュレイの友人、【ラピ】と申します。どうかお力を!暗殺計画は前から進んでいたのです!」
そして語り出した。
事のあらましを。
そこへ向かって歩くデュレイ将軍と一行。
町の人は将軍に会釈するが。
その顔に笑顔は無かった。
「さて。馬や荷車はこちらへ。」
デュレイは召使いに指示。
荷車ごと馬を連れて行く。
城の中へと案内される一行。
かなり大きく、両側に塔が立っている。
真ん中は、西洋建築を思わせる様な外見。
石を積み上げた様式で、接着にはコンクリートの様な物が使われていた。
ドアは全て木製。
流石に鉄製だと使い勝手が悪いのか。
2メートル程の高さは有る正面玄関のドアを開かせ、デュレイは入って行った。
入る前、クライスはアンとメイに耳打ち。
コクンと頷くと、アンとメイはある仕草をした。
そして中へ入って行った。
「昔はこうして、共に行動していたものだ。」
「そうだな。」
昔話に花を咲かせながら、デュレイとトクシーは歩いて行く。
廊下も部屋もやたら広い。
お陰で移動が大変そうだ。
「ひっろいなあ。これじゃあ暮らし辛いんじゃないか?」
ロッシェがもっともな感想を述べる。
確かに暮らし辛い。
しかし。
セレナは気付いた。
「この構造は……?」
そこまで言った所で、アンに口を塞がれる。
それで察した。
違和感の正体を。
ある部屋まで来た時点で、デュレイが立ち止まる。
「ここを開けい!」
すると、ドアが勝手に開いた。
先導していた召使いが開いた訳では無い。
自動ドアの様に。
ギギギイッと動いた。
召使いがサササッと下がる。
「さあ、入られよ。」
『ならば』と、トクシーが足を踏み入れようとした時。
クライスが言う。
「不案内な中、転ぶやもしれません。どうか先に。」
罠が有るかも知れない。
自動ドアが有るなら、そこに錬金術有り。
警戒するのは当然。
「ちょっと!そんな事言わないの!」
ラヴィは反応するが、デュレイが諫める。
「確かに、訪れた事の無い者は転倒するかも知れぬな。承知した。」
そう言って、何食わぬ顔で入る。
それを見て、トクシーがクライスに囁く。
『クライス殿。あれは曽ての盟友。余り不審がられる行動は、慎まれた方が宜しいかと。』
対するクライスの返しは、あっさりしたもの。
『敢えてですよ。不審がって貰わないと困るんです。』
『え?それはどう言う……。』
真意を聞く間も無く、皆部屋に入って行った。
「自由に掛けられよ。立ち話も何なので。」
ドアが閉まると、デュレイは着席を促した。
すとんと長椅子に座るクライス。
それを見て、続々と着席。
部屋は縦横20メートル四方、高さ4メートル程。
窓にはステンドグラスの様な飾りがあった。
どうやら城の角にあるらしく、窓は2か所。
威厳を示す為か、1.5メートル四方はあった。
エミルは窓に興味を持ったのか、近くに飛んで行った。
人払いは済んでいる。
ここからが本題。
デュレイが話を切り出す。
「実は我が国には、評議会と言う物がございまして。そこが最高決定機関となっております。」
「ふうん、それで?」
ラヴィが相槌。
「そこで陛下が仰ったのです。《怪しい事・者があれば報告する様》と。」
「当然よね。」
「はい。それで諜報合戦になっているのです。この町にも、スパイが居るやも知れません。」
「それで?」
「そこで、皆さんに協力して頂きたいのです。我等が有利となる様に。」
「あなたの手先になれ、と?」
「これは必要な事なのです。我等の為に。」
「あのー。」
急にクライスが口を挟んだ。
「何か?あ、報酬は弾みましょう。」
そう答えるデュレイに、クライスは言い放った。
「《あ》じゃなくて。誰だ、あんた。」
「な、何を言っているのです?」
困惑するデュレイ。
トクシーも続く。
「そ、そうですよ。こいつは……。」
「共に過ごした仲間、だったら良かったのにね。」
アンはメイをむんずと掴んで、ステンドグラスに向かって放り投げた。
慌てて避けるエミル。
ガシャーーーーン!
……とはならなかった。
「発動!」
アンが右手に力を込める。
賢者の石がパッと光り、メイに繋がる銀の糸を通じてエネルギーが窓に送られた。
途端に景色が揺らぐ。
酔う様な感覚。
頭がクラッとする。
それもすぐに収まった。
皆気付いた時には。
「な、何だここは!」
トクシーがたまげる。
それもその筈。
豪華な装飾品は丸ごと消え。
部屋は前の2分の1の広さに狭くなり。
そこには妙竹林な生き物が立っていた。
大きさはざっと50センチ程。
ウサギの様な耳を持ったタヌキ。
明らかに焦っていた。
ズカズカと近寄るクライス。
改めて尋ねる。
「だ・れ・だ・あ・ん・た?」
「はいいいいい?」
困った様子のそれは。
切羽詰まった表情で。
白状した。
「じ、実は……。」
「実は?」
「留守を預かる者です。」
ラヴィが指を指して言う。
「明らかに魔物よね?」
クライスが答える。
「そう。同時にデュレイ将軍でもある。」
その言葉に反応するトクシー。
「どう言う事ですか、それは!」
「昔、将軍と使い魔の間で何かあったんですよね?」
「ええ。それで怖くなって……。」
「入れ替わったんですよ、その時に。こいつと。」
「えーーーーー!」
「どちらが望んだのか分かりませんが。」
そこでセレナが漸く口を挟む。
「感じた違和感は、これだったのですね。」
防御の為の要塞にしては、造りがざっくりしていて大き過ぎる。
攻められたら簡単に落とされるであろう、内部の単純な構造。
そして、町の人達の冷ややかな反応。
それは全て。
まやかし。
使い魔であるメイに過剰反応したのも、それを見抜かれるのを恐れた為。
でも。
「ビンセンスさんと過ごした時間は本物。そうだな?」
「勿論!」
騙すつもりは無かった。
交換条件だった。
『大事な友を頼む』と。
真相を探るべく、単独で行動していた本物。
友情を守るべく動いていた偽物。
その思いは共有されている。
繋がっている。
では何故そんな事を?
トクシーは聞かねばならない。
彼の意思を。
「今、本物の【エメロー・デュレイ】に危機が迫っているのです。どうかお力を!」
そう言って土下座する魔物。
スッと寄り添い、顔を上げさせるラヴィ。
優しく言った。
「なら、あなたの名前をまず教えてちょうだい。でないと呼び辛いもの。」
その言葉に魔物は涙を流し、改めて名乗った。
「私はデュレイの友人、【ラピ】と申します。どうかお力を!暗殺計画は前から進んでいたのです!」
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事のあらましを。
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