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第81話 敵地へ、いざ
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ヴェード消失から幾日か後。
漸く旅の支度が整った。
荷物の用意は勿論。
今回は国家レベルの交渉になるので、グスターキュ帝国国王の親書が必要。
こちらに届くまで少々時間が掛かる。
それで足止めを食らっていた面もある。
到着した所で、改めて出発の儀が執り行われた。
これまでの旅路は内緒にしていたが。
国王本人だけには、ラヴィ(マリー)とセレナ(エリー)の行動を報告していた。
錬金術師の連絡網を通して。
父に心配を掛けたくないと言う、ラヴィの心遣いでもあった。
どうやら宮殿内部は平穏らしい。
王女失踪と言う失態はあったが、何だかんだでリッター卿の庇護の元過ごしている事にしていた。
それは、逃げられたレインズ卿の面目を保つ事で貸しを作る目的も兼ねていた。
親書の他に、ラヴィの体を気遣う父親としての手紙も添えられていた。
ラヴィは素直に感謝し、必ずや使者としての使命を果たそうと誓った。
出発の儀と言っても、盛大に送り出される訳では無い。
何事にも体裁と言う物がある。
セントリアの領主は外交官も兼ねているので、正式に任命したとする記録を残す必要があるのだ。
だから、マナック卿の屋敷でちょっとしたパーティーを開いただけ。
出席者も、使者と領主のみと言う寂しい物。
幽閉状態と言う事にしている敵軍将を、出席させる訳にはいかない。
仕方無いのだが、物足りない者が何名か。
それは、本格始動となるロッシェ。
久し振りに、共に旅が出来るエミル。
後は、こっそり紛れていたスティーラーズの面々。
納得行かない顔をする彼等を諭すラヴィ。
すっかりお姉さん気質が身に付いていた。
「遊びに行くんじゃ無いのよ。」
「でもさあ……。」
「エミル、あんたも目的が出来たんでしょ?しゃんとしないと。」
「うーん。」
唸ったままスウーッと飛んで行った。
妖精には無茶だったかしら?
難しいなあ。
考え込むラヴィ。
傍にそっと寄って行き、囁くアン。
『どうせ明日になったら元通りよ。考え込むだけ無駄だって。』
『まあ、ね。』
『それに。旅に出たら、考え込む余裕なんて無くなるんだから。』
アンの言う事も、もっとも。
明るい顔に戻るラヴィ。
チラ見していたセレナも、アンのフォローに安心した。
そうして、プチパーティーはお開きとなった。
翌朝。
ヘルメシア帝国への関所の前に皆集合。
親書はラヴィが大事に持っている。
荷車はぎゅうぎゅう詰め。
荷物を背中に背負うのが大変な位の規模になった一行は、とうとう荷車を馬に引かせて進む事となった。
今までは小回り重視だったので、最小限の荷物しか持っていなかった。
しかし今回は献上品などもあって、どうしてもこうなってしまった。
これまでと立ち回りを変える必要がある。
街道を避けて通る訳には行かない。
賊などに襲われるリスクが高まるだろう。
それだけ目立ってしまうので、先頭はトクシーとメイにお願いした。
荷車の馬を操るのは、経験のあるセレナ。
ラヴィも乗馬の心得はあったが、荷車を引く馬を操った事は無かった。
なので助手席で学びつつ、セレナの交代要員を兼ねる事に。
荷車の両脇は、クライスとアン。
後ろはロッシェが守る。
上空からはエミルが見張る。
ロゼ達は……まあ勝手に何とかするだろう。
今考えられる最強の布陣。
目的地に向かって出発。
兵士に敬礼され、門を通って行った。
それを遠くから見つめるアリュース。
頼んだぞ、みんな。
状況が変わり次第、俺も戻る。
その時まで。
深々と頭を下げた。
それを感じ取ったのは、クライスだけだった。
さて、これまでの旅は行商人として行動してきた。
今回の肩書きだが。
使者を引き受けたは良いが、元の身分を聞かれた時にどうする?
ラヴィは考えた。
商人では不自然だ。
一国の使者としては、身分が軽過ぎる。
よって、考えた末に《セントリア護衛隊の中堅》と言う事にした。
それなら外交官としてのセントリア領主の先兵として、あるいはバトル要員として使者の命を下されるに不都合はあるまい。
ロッシェはそれを示す為に、護衛隊の鎧を着せられた。
本人は『動き辛い』と抵抗したが、『一応騎士でしょ』とラヴィに説得された。
後はセレナも鎧着用。
戦士としては当然。
クライスとアン、ラヴィは適当に革の鎧もどきを付けていた。
この3人は、鎧を付けていると逆に怪しまれる。
錬金術師としては、その方が都合が良かった。
この流れで、必然的に使者の代表はラヴィで決まり。
今まではクライスが率いて来た感があるので、少し緊張していた。
セレナが小声で『私がフォローします』と言ってくれたのが、少し安心材料。
逆に自由な立場になったクライスは、どう立ち回ろうか考えていた。
参謀に徹するか?
索敵と称してどんどん前に行くのも悪く無い。
自分の腕を過信している訳では無い。
ただ、全力を出した事が無かったので。
『一度は試してみたい』と言う思いがあった。
アンにはそれがバレバレ。
ボソッと小言を言われる。
「駄目ですよ、兄様。本気を出したら、この世界のバランスがひっくり返っちゃいますからね?」
「わ、分かってるよ……。」
少し残念がるクライス。
妹の言う事だけは守らねばならない。
普段から心がけているだけに、アンの言葉は胸に刺さった。
昔、アンと2人きりの時に本気を出そうとした事があった。
それでエラい目に会い、両親共々アンからもキツく説教を受けたのだ。
自分が特別なのだと実感すると共に、親身に心配してくれるのはこの3人だけなのだと心に沁みた。
だからアンの説教は、愛情の裏返しと捉えていた。
温かさを感じていた。
使者一行が目指すのは、皇帝が直接治める領域【シルバ】の中心都市【ガティ】。
それまでには、幾つかの領域を通らねばならない。
それは12貴族の治める領域も。
それ以外が支配している領域も。
様々だった。
無事に辿り着ければ良いのだが。
そうも行かなかった。
こうして、新たな旅路が幕を上げた。
漸く旅の支度が整った。
荷物の用意は勿論。
今回は国家レベルの交渉になるので、グスターキュ帝国国王の親書が必要。
こちらに届くまで少々時間が掛かる。
それで足止めを食らっていた面もある。
到着した所で、改めて出発の儀が執り行われた。
これまでの旅路は内緒にしていたが。
国王本人だけには、ラヴィ(マリー)とセレナ(エリー)の行動を報告していた。
錬金術師の連絡網を通して。
父に心配を掛けたくないと言う、ラヴィの心遣いでもあった。
どうやら宮殿内部は平穏らしい。
王女失踪と言う失態はあったが、何だかんだでリッター卿の庇護の元過ごしている事にしていた。
それは、逃げられたレインズ卿の面目を保つ事で貸しを作る目的も兼ねていた。
親書の他に、ラヴィの体を気遣う父親としての手紙も添えられていた。
ラヴィは素直に感謝し、必ずや使者としての使命を果たそうと誓った。
出発の儀と言っても、盛大に送り出される訳では無い。
何事にも体裁と言う物がある。
セントリアの領主は外交官も兼ねているので、正式に任命したとする記録を残す必要があるのだ。
だから、マナック卿の屋敷でちょっとしたパーティーを開いただけ。
出席者も、使者と領主のみと言う寂しい物。
幽閉状態と言う事にしている敵軍将を、出席させる訳にはいかない。
仕方無いのだが、物足りない者が何名か。
それは、本格始動となるロッシェ。
久し振りに、共に旅が出来るエミル。
後は、こっそり紛れていたスティーラーズの面々。
納得行かない顔をする彼等を諭すラヴィ。
すっかりお姉さん気質が身に付いていた。
「遊びに行くんじゃ無いのよ。」
「でもさあ……。」
「エミル、あんたも目的が出来たんでしょ?しゃんとしないと。」
「うーん。」
唸ったままスウーッと飛んで行った。
妖精には無茶だったかしら?
難しいなあ。
考え込むラヴィ。
傍にそっと寄って行き、囁くアン。
『どうせ明日になったら元通りよ。考え込むだけ無駄だって。』
『まあ、ね。』
『それに。旅に出たら、考え込む余裕なんて無くなるんだから。』
アンの言う事も、もっとも。
明るい顔に戻るラヴィ。
チラ見していたセレナも、アンのフォローに安心した。
そうして、プチパーティーはお開きとなった。
翌朝。
ヘルメシア帝国への関所の前に皆集合。
親書はラヴィが大事に持っている。
荷車はぎゅうぎゅう詰め。
荷物を背中に背負うのが大変な位の規模になった一行は、とうとう荷車を馬に引かせて進む事となった。
今までは小回り重視だったので、最小限の荷物しか持っていなかった。
しかし今回は献上品などもあって、どうしてもこうなってしまった。
これまでと立ち回りを変える必要がある。
街道を避けて通る訳には行かない。
賊などに襲われるリスクが高まるだろう。
それだけ目立ってしまうので、先頭はトクシーとメイにお願いした。
荷車の馬を操るのは、経験のあるセレナ。
ラヴィも乗馬の心得はあったが、荷車を引く馬を操った事は無かった。
なので助手席で学びつつ、セレナの交代要員を兼ねる事に。
荷車の両脇は、クライスとアン。
後ろはロッシェが守る。
上空からはエミルが見張る。
ロゼ達は……まあ勝手に何とかするだろう。
今考えられる最強の布陣。
目的地に向かって出発。
兵士に敬礼され、門を通って行った。
それを遠くから見つめるアリュース。
頼んだぞ、みんな。
状況が変わり次第、俺も戻る。
その時まで。
深々と頭を下げた。
それを感じ取ったのは、クライスだけだった。
さて、これまでの旅は行商人として行動してきた。
今回の肩書きだが。
使者を引き受けたは良いが、元の身分を聞かれた時にどうする?
ラヴィは考えた。
商人では不自然だ。
一国の使者としては、身分が軽過ぎる。
よって、考えた末に《セントリア護衛隊の中堅》と言う事にした。
それなら外交官としてのセントリア領主の先兵として、あるいはバトル要員として使者の命を下されるに不都合はあるまい。
ロッシェはそれを示す為に、護衛隊の鎧を着せられた。
本人は『動き辛い』と抵抗したが、『一応騎士でしょ』とラヴィに説得された。
後はセレナも鎧着用。
戦士としては当然。
クライスとアン、ラヴィは適当に革の鎧もどきを付けていた。
この3人は、鎧を付けていると逆に怪しまれる。
錬金術師としては、その方が都合が良かった。
この流れで、必然的に使者の代表はラヴィで決まり。
今まではクライスが率いて来た感があるので、少し緊張していた。
セレナが小声で『私がフォローします』と言ってくれたのが、少し安心材料。
逆に自由な立場になったクライスは、どう立ち回ろうか考えていた。
参謀に徹するか?
索敵と称してどんどん前に行くのも悪く無い。
自分の腕を過信している訳では無い。
ただ、全力を出した事が無かったので。
『一度は試してみたい』と言う思いがあった。
アンにはそれがバレバレ。
ボソッと小言を言われる。
「駄目ですよ、兄様。本気を出したら、この世界のバランスがひっくり返っちゃいますからね?」
「わ、分かってるよ……。」
少し残念がるクライス。
妹の言う事だけは守らねばならない。
普段から心がけているだけに、アンの言葉は胸に刺さった。
昔、アンと2人きりの時に本気を出そうとした事があった。
それでエラい目に会い、両親共々アンからもキツく説教を受けたのだ。
自分が特別なのだと実感すると共に、親身に心配してくれるのはこの3人だけなのだと心に沁みた。
だからアンの説教は、愛情の裏返しと捉えていた。
温かさを感じていた。
使者一行が目指すのは、皇帝が直接治める領域【シルバ】の中心都市【ガティ】。
それまでには、幾つかの領域を通らねばならない。
それは12貴族の治める領域も。
それ以外が支配している領域も。
様々だった。
無事に辿り着ければ良いのだが。
そうも行かなかった。
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