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第71話 城塞都市テュオ

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立派な城門をくぐり、中へと運ばれて行くアリュース達。
テュオは、言わば城塞都市と化していた。
高い城壁、鼠返しの様なトラップ、射撃用の穴。
あちこちの国の城をごちゃまぜにした様な造り。
大きな城門が3つ。
1つはメインダリーへ。
1つは関所としてヘルメシア帝国へ。
そしてもう1つは別の領地へ。
そう。
セントリアは交通の要所であるだけで、グスターキュ帝国の端に位置するのでは無い。
隣りには、更に領地が連なっているのだ。
たま々、そちらに戦火が行かなかっただけ。
但し、戦況は逐次情報として伝わっていた。
飛び火しなかった事を、心底喜んでいる事だろう。
アリュース達は、その別の領地へ続く門から入って来た。



国境と言う事もあって、中は結構賑やかだった。
戦争をしているていを取っていた頃は、もっと騒がしかっただろう。
アリュースは、騒がせた事を心の中で謝った。
一時期確保出来ずに仮に建てられた兵士の休憩所は、すっかり解体されていた。
建材は、流出すると事態が落ち着いたと悟られてしまう為。
ある物は屋台に、ある物はバルコニーに再利用されていた。
侵略する敵兵の振りをして逃れて来た人達は、続々故郷へ帰って行った。
その生活の痕は、まだ生々しく残っている。
家に開けられた、多数の弓矢の穴。
城壁には剣で削られた跡。
全部偽装工作。
戦っていると錯覚させる為の心理的な罠。
何処から敵のスパイが紛れ込むかも知れない。
その為の物。
合言葉もあった。
今となっては、もう無用の長物。
そうなって欲しかった。
それが今の町民の気持ちだろう。


アリュースは少し気になる事があった。
店や住宅に稀に見られる、扉に付けられた更に小さな扉。

「あれは何かね?」

アリュースに付いている騎士ゴームへ、扉の事を聞いた。

「ああ、あれは小人用ですよ。交流のある家には、当たり前の様に有りますよ。」

「ほう、こんな所まで来ているのか……。」

そう言えば昔出会ったのも、セントリアの結構奥だったな。
結構ああ見えても、行動範囲は広いのかも知れない。
ジューが迎えに来たのは、特別では無かったのか……。
その考えを悟ってか、ジューが答える。
ジューだけは、心配と相談の為付き添っていたのだ。

「大叔父様と言う立場になると、移動は制限されます。領主や国王は、余程の事が無い限り自ら動かないでしょう?」

「それもそうですが……。こちらの姫様も結構動かれてますな。」

その意見には、エミルが答える。

「ラヴィは野望がでか過ぎるからね。それに、自分の力で勝ち取りたいみたいだよ。」

「なるほど、似た者同士なのかも……。」

「まあ、近い物はあるよね。」

『それに振り回されるのは嫌なんだけど』と付け加えるエミル。
その意見には微笑み返ししか出来ないアリュース。
そうこうしている内に、目的地に着いた様だ。

「ささ、お気を付けてお降り下さい。」

国賓扱いなので、何か歯がゆいアリュース。
これからどうするか?
それをまず領主と相談しなければ。
既に次の行動を考えていた。



「これはこれは。」

領主の屋敷は、西洋の城をコンパクトにした感じだった。
結構頑丈な造り。
入りにくく、脱出し易い。
ややこしい内部構造とは裏腹に、外見はすっきりしていた。
そのロビーで、領主マナック卿が直々に出迎えた。

「ようこそ。……で、何とお呼びすれば?」

「アリュースで構わんよ。」

「分かりました。ではその様に。」

案内され、大広間へ通される。
鎧や勲章、高価な壺や絵画が掛けてある。
典型的な領主の誇示の仕方。
アリュースはむしろ安心した。
かつてのアリュース邸もこの様な感じだった。
今頃はどうなっているだろうか?
部下は?召使いは?
家族は?兄貴はちゃんとやっているだろうか?
安心したからか、心配事がふと浮かんで来る。
しかしそれは兄貴に一任してある。
国内の支持派に任せる他あるまい。
今は裏切り者を何とかせねば……。
それに関する相談が始まろうとしていた。



ジューからの情報。
クライス達は、敵の将3人を連れて来るらしい。
いずれも旅の途中で遭遇し、作戦を邪魔し妨害して捕らえた者ばかり。
一癖も二癖もある。
そこからどんな情報を引き出せるか。
そこで、クライスから1つ提案が。
それを元に協議するアリュース達。
クライスの案に改良を加える。
そのままでは事前に、護送中の者に察知されてしまうからだ。
ごにょごにょ、ごにょごにょ。
ニンマリ。
『よし、これで行こう』となった策とは……?



その頃、退屈なエミルは屋敷の中を探検していた。
屋根の上やキッチン、地下に至るまで。
まるでダンジョンをマッピングする様に。
そこでふと気づ付く。
何かの視線に。
誰っ!
振り返ったその先には。



時は戻って、クライス達がセントリアに入る頃。
領地境を挟んで、すさんだ光景が続く事に驚く敵の3人。
これ程激しい戦いをしていたのか。
そう思わせる程。
矢が地面に刺さり、盾は放棄され。
折れた剣が置き去りにされていた。
『宜しく頼む』と、メインダリーの近衛隊からセントリアの護衛隊へと引き継ぎ。
戦場の跡を進む一団。
途中で一泊の後、翌朝馬車に乗せられた敵3人は。
何故か目と口を閉ざされた。
それはテュオへ近付いた事を意味する。
要らぬ情報を与えない為の配慮。
ここから既に、クライスの作戦は動いていた。
ミセル、ヨウフ、ヴェード。
彼等に待つモノは……?
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