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第68話 正式な会談、そしてロッシェは

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アリュース達が護送される頃。
ある男もまた、護送されていた。
モッタの地を混乱におとしいれた者。
ヘルメシア帝国12貴族の末席である、イレイズ家。
その当主の弟、ヨウフ・フェルト・イレイズ。
モッテジンで拘留されていたのを、命が下ったとの事で他所に移される事となった。
不安がるヨウフ。
それもその筈。
護送決定と共に、勝手に金の首輪が生じたのだ。
またあ奴か……!
何処まで振り回されるやら。
しかし下手に抵抗すれば、この身はおろか国に残した家族にも弊害が生じるやもしれん。
何処かで隙を見て逃れるしかあるまい。
一度は諦めていた脱走を、再び試みようとしていた。



そう言えば、護送先は聞かされていなかった。
返答するか分からんが、聞いてみるか。
軽い考えで尋ねる。
返答は一言。
『パラウンド』。
それを聞いて、愕然たる思い。
全て終わった……。
完全にこちらの作戦が潰された。
何年も掛けて、練りに練った作戦が。
しかもたった数人に。
数か月の期間で。
我々の苦労は一体何だったのだろう?
空しさだけが心に残り、体から自然と力が抜けた。



同じ頃、パラウンドでは正式な会談がセッティングされていた。
新領主ハウロム卿とグスターキュ帝国第1王女との、戦後処理と位置付けされる物。



1.まずは敵軍の捕虜。
通例では奴隷としてこき使われるが、〔ここではマリー〕はそれを望んではいなかった。
命は無暗むやみに奪う物では無い。
クライスと同意見だった。
ではどうするか?
幻の中に閉じ込めるか?
無条件で国に帰すか?
それでは無益。
何も進展しない。
そこで、或る提案をする。
『目に見える成果を残せば、何もせず国へ帰そう』と。
てっきり強制労働かと思っていた敵兵は、未来を掛けて議論する。
従うか、争うか。
どちらも嫌だという結論になった。
だから逆に、次の様な提案をする。
自らそれを進言し、地域の為に貢献した。
その功績で国へ無事帰される、と言うていにしてくれと。
これならこちらのプライドを保ちつつ、相手の目的も達せられる。
ハウロム卿とマリーは、協議の結果これを承諾。
敵兵は、早速派遣された。
犠牲となったハウロム卿の母、その墓の建立に。



2.捕らえた者の内〔サーボ、ヴェード、ミセル〕の扱い。
サーボは保留。
町民にかなりの憎悪を与えた結果、簡単に処置を決めてはいけないと考えた為。
安易な決定は、町の反感を煽り立てかねない。
復興し、時が流れるのをしばし待たねばならない。
本人もそれは自覚しているらしく、牢の中で大人しくしていた。
そしてヴェードとミセル。
金の首輪をしているせいか、逃亡する様子はなかった。
であれば、町中で自由に過ごさせれば良い。
一時的に。
その代わり、洗いざらい吐いて貰う。
ミセルは一度痛い目に会っているせいか、素直に従った。
ヴェードはプライドが高い分厄介。
名前を【ヴェロニカ・ハン・スウェード】と名乗った以外、何も答えようとしない。
北風にも太陽にも、反応しない。
まあ良い、《あの方》に会うまで好きにさせよう。
意味深な言葉をクライスから掛けられ、パラウンド内部では自由とされた。

「大丈夫?」

マリーは不思議そうに言う。

「顔を合わせれば、自然とガードが緩くなる。その時が勝負さ。」

クライスには何か算段がある様だ。
任せて構わないだろう。
マリーはそう判断し、ハウロム卿もそれに従った。



3.そして最大の厄介物、敵国に通じるトンネル。

「とっとと埋めましょう。」

ハウロム卿にとっては邪魔でしか無い。
即刻消し去りたかった。
しかしクライスは違った。

「安易に触れてはいけない。トンネルが使えないと分かれば、向こうはすぐに別の手を打って来る。」

計画が頓挫した事を、こちらからわざわざ知らせる事は無い。
発覚を引き延ばしながら、逆に利用しようと考えていた。
その為にも。

「アリュース殿と相談する必要がある。マリーが直接。」

クライスは切り出した。

「そうね。『どうせ一度顔を拝んでおかないと』とは思ってたの。」

マリーもそれに応じる。

「セントリアでは、既にアリュース殿の身柄を確保。護送に入った様だ。」

これは国のトップに近い者同士の、政治的駆け引きに他ならない。
アリュースの向こう側は、ヘルメシア帝国皇帝へと繋がっている。
世界統一と言うマリーの野望の為には、避けては通れない道だった。
話し合い頷き合うマリーとクライスに、まだ少女であるハウロム卿はもはや置いて行かれそうになった。
そこに、ユシが声を掛ける。

「ジッとその姿を目に焼き付けて下さい。あなたが目標とすべき人達ですよ。」

民の事を思い、平和の為に自ら奔走する。
それは、民の上に立つ者に必要な資質。
ユシは、見て学ぶ様促したのだ。
ユシの思いを感じ取り、近衛隊が記録した会談内容を真剣に見返すハウロム卿だった。



「ざっとこんな所かしら。」

漸く面倒事から解放され、出された紅茶を飲む。
既にラヴィへと戻っていた。

「改めて、王女って大変だと思ったわ。宮殿では自覚無かったけど。」

「だろうな。」

特別な立場の2人だからこそ分かり合える。
このややこしさ、この面倒臭さを。
クライスとラヴィの関係を、少し羨ましいと思うハウロム卿。
そこへラヴィが微笑みかける。

「私達と《あいつ》の前では〔トワ〕で良いのよ。気兼ね無くね。」

あいつ。
当然、ロッシェの事。
最終的にどうするかは聞いていないが。
嫌な予感がする。
ラヴィには、未来が何となく見えていた。



続々と、使者として領地境に向かっていた者達が戻って来た。
ヘンは早速、修道院への援助を取り付けた。
そして敵兵と共に建立の為の人員をまとめ上げ、現場の指揮を部下の1人に託す。
部下は『必ずや成し遂げましょう』と誓い、敵兵や人足と共に現場へ向かった。
それらを見送るついでと、シスターに援助取り付けを報告する為。
ヘンはまたケンヅへと向かった。
入れ替わりにロッシェが帰って来た。
帰って来るなり、ラヴィに詰め寄るロッシェ。
土下座して頼んで来る。

「お姫さん!俺をどうか仲間に加えてくれ!もっと強くなりたいんだ!」

「それだけ?」

手を腰に当て、前かがみになってロッシェに問う。

「いや、本当は……。」

言いかけるロッシェ。
でもどうしても躊躇ためらう。
これは私事わたくしごと
巻き込んじまって良いのか?
コロコロ表情を変えるロッシェに、ラヴィが呆れて言う。

「ちゃんと言いなさい。何かしたい事が有るんでしょ?巻き込まれ上等よ。」

こちらもクライスとアンを散々巻き込んでいる身。
巻き込まれても、それは自分の野望のついで。
ラヴィは割り切っていた。
きもわっている姿を見て、ロッシェは口を開いた。

「姉さんを探している。ついでで良い、手伝って欲しい……。」

却下されると思っていた。
個人の事情を一々考えてる立場では無い事を、理解しているから。
しかし、ラヴィの返答はあっさりしたものだった。

「なあんだ、良いじゃない。私も元は、弟妹の為に動き出したんだもの。」

「い、良いのか?俺個人の問題に……。」

「じゃあ何であんたは、トワを助けようとしたの?」

ラヴィに言われ、言葉に詰まるロッシェ。
『そう言う事よ』とたしなめられる。
トワも声を掛ける。

「彼女達と行動するなら、私も安心だわ。頑張りましょ、お互い。」

《共に頑張ろう》と言う言葉に、グッとくるロッシェ。
『しょ、しょうがねえなあ』と照れ隠し。
ふふふ。
ははは。
共に照れ笑いするトワとロッシェだった。



「そうなるとは思ってたわ。」

帰って来て早々定員増加を聞き、ため息を漏らすアン。
『戦力増強になる』と前向きなセレナ。
アンの気持ちが分からなくも無いクライス。
行動は少人数の方が、融通が利く。
いたずらに、一行の人数を増やしたくは無かった。
姿が見えないエミルは良いとして……あ!
アンは或る事に気が付く。

「兄様どうするの、エミルの事。」

「勿論迎えに行くよ。」

「じゃ無くて、ロッシェは見えないと思うんだけど。」

「あ!」

クライスも声を上げた。
でも、またお気楽モードに戻った。

「セレナも見えるんだし、何とかなるんじゃないの?」

そんなクライスに、『えーーーっ!』と言う他無いアン。
もう、2人が出会ってから考えましょ。
アンもこの件に関して投げやりになった。
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