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第59話 悲しい現実と、救いの神

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「きゃあああああっ!」
「うわあああああっ!」

勢い良く進むトロッコの中で絶叫する、ラヴィとロッシェ。
頭を抱えてしゃがんでいる。
それに覆い被さる様に守るセレナ。
アンが運転に集中出来る様に。

「少しの時間位、我慢なさい!」

「だってだって……!」

アンが大声で怒るが、ラヴィは構わずわめく。
この世界には、トロッコは在ってもジェットコースターは無い。
娯楽感覚で乗れる代物では無かった。
ラヴィが叫ぶのも当然と言える。

「セレナを見習いなさい!」

セレナはラヴィを守るのに必死で、叫ぶ暇が無いのが実情。
怖いのは同じだった。
『ううううっ』と唸るばかりのロッシェ。
『男のくせに情けない』とアンは言うが。
比較対象がクライスだと知っているので、何とも言えないラヴィ。
『あの超人と比べたら駄目でしょ』と思うのもつかの間。

「そろそろ地下牢よ!対ショック準備!」

「え!このまま突っ込むの?」

「ブレーキが利けば免れるわ。後あれも用意して……。」

「ええええええ!」

また絶叫するラヴィ。
安全に止まる事を祈るしか無い。
誰に?
神に?
何の神に?
もう誰でも良いから!
助けてえええええええ!



「事の始まりは、お嬢様のお誕生日でした。」

その頃牢では、ユシが事の真相を話し始めた。
内容は以下に。


お嬢様がお誕生日を迎えたのに、旦那様が倒れられてしまいました。
主治医に診せたのですが、原因が分からずじまい。
お嬢様は町に下り、必死で医者を探していました。
そこで出会ったのが、あのヴェードという男。
藁にもすがる思いで、お嬢様は連れ帰りました。
ヴェードが診ると、すぐに良くなりました。
処方箋を出され、ヴェードが出す薬を旦那様は疑いも無く飲み続けられました。
その内評判となって、町の病人が度々訪れる様になりました。
『民の為になれば』と旦那様も屋敷を開放して、患者を受け入れる様になりました。
ある日、薄汚い身なりの男が『病気を治せ』とやって参りました。
旦那様はその男をヴェードに会わせました。
すると、男はおかしな事を言い出しました。
『俺が本当の領主だ』と。
気が狂ったのかと思い、旦那様は心配になってヴェードに相談しました。
その時、ヴェードが叫んだのです。
『領主様がおかしくなられた!隔離せねば!』と。
びっくりする旦那様でしたが、ヴェードにドンと突き飛ばされた途端バタリと倒れ込んだのです。
うつ伏せになりながら、何やら呻いておりました。
『益々おかしい』と、最初は離れに旦那様のみ閉じ込められました。
奥様もお嬢様も、それは大層心配なさっておりました。
しかし、離れの中で旦那様が暴れ出したのです。
近衛隊が止めに入ったのですが、余りの力の強さに負傷者多数。
『もう駄目です、手遅れです』とヴェードが奥様に進言し、泣く泣く旦那様は殺されました。
私共も、お嬢様と涙で濡らしました。
すると、留守を預かっていた召使いが男に殺されました。
男は宣言しました。
『俺、いや儂が領主だ、逆らう者は皆牢へ入れてやる!』と。
それが、今【サーボと名乗っている男】です。
町の民の信頼を得、邪魔な者をサーボを通じて排除し。
メインダリーはおろか、他の領地まで手を出そうとする。
悪魔の様なヴェードの本性があらわになりました。
御し易い者を領主へ据え実権を握ると、この事実を知る奥様とお嬢様を地下牢へ閉じ込めました。
暫くは牢内生活が続き。
私は唯一お嬢様方に信頼されているとあって、お食事をお運びする係になっておりました。
ある日突然、奥様が牢から連れ出されました。
その日以来、奥様の行方は知れません。
お嬢様だけが、この牢に残されてしまいました。
このままでは、いずれお嬢様も殺されてしまう。
そこで私が身代わりとなり、お嬢様を逃がしたのです。
御無事だと良いのですが。
その間、領主達を騙す為。
他の牢に閉じ込められた人達と結託して、隠し通して来たのです。
どうやらそれも限界の様ですが。
オースタン様がここに連れて来られたという事は、この牢に居るのがお嬢様では無いと発覚したも同然。
私の命は、もう無いでしょう。
でも良かった、この事実を誰かに話したかったのです。
自分の胸に納めるには、余りに辛過ぎますので。
もう悔いはございません。
出来れば、一目お嬢様にお会いしとうございました……。



ふう、と話し終わるユシ。
わなわなと震え出すヘン。
そっと肩に手を置くノウ。
恐る恐る、ヘンはユシに聞く。

「奥様の行方は、何か分からないか……?」

まさか。
違う。
違うと思いたい。
一縷いちるの望みを返答に託した。
しかしそれは空しい願いだった。

「噂では、ケンヅとの間にある森に連れて行かれたとか。」



「あああああああああああああああああ!」



ヘンは泣き叫び、その場にうずくまる。
ノウも察する。
そして涙を流した。
『心当たりがあるのですか?』とユシに聞かれ、代わりにノウが答えた。

「私をヘン様が助けてくれたのです。その森で、魔物に出くわした所を……。」

「……まさか、その魔物が?」

「恐らく。残念ですが……。」

下を向いて、うな垂れるノウ。

「俺が……俺が……。」

罪の意識にさいなまれるヘン。
知らなかったとはいえ、主君の奥方を手に掛けてしまった。
これ程無念な事があろうか。
何と非力な。
何と脆弱な。
ノウが声を掛けるも、その内反応しなくなった。
その時。



「「うわあああああああああああああああああっ!」」



ドスーーーーン!
アン達の乗ったトロッコが勢い良く地下の廊下を突っ切ったと思うと、突き当りの牢にぶち当たった。
その寸前、目一杯ブレーキを掛け。
クライスに教わった、エアバッグの様な物を錬成した。
お蔭で全員無事。
トロッコは壊れたが怪我一つ無かった。
大きな物体がぶつかったにも関わらず、牢は変形1つしない。
頑丈なのでは無い。
アンがすぐに気付いた。
錬金術で出来た牢の柵。
変形しても自動修復する仕組み。
ラヴィはすぐに牢の中を覗き込む。

「ロッシェの探している人って誰?」

もう敬語なんかどうでも良かった。
面倒臭い。

「多分女性、だと思う。」

「多分って何よ?」

「しょうがないじゃないか。会った事が無いんだから。」

「どう言う事?ちゃんと説明して。」

プンプン怒るラヴィに、『隠しておきたかったんだが』と渋々話すロッシェ。

「少女に頼まれたんだ。『身代わりに捕らわれている人を助けて』って。」

ロッシェのその発言を聞いて、ユシが反応。

「もし!その少女はまさか、おんぼろの服を着ていませんでしたか?」

「ああ、そうだが?あ、あんたか?トワの身代わりってのは。」

その言葉を聞いて、ユシは泣き崩れる。
助かったんだ。
良かった。

「安心するのはまだ早いぞ。トワもこの町に来てるんだ。一緒に迎えに来た。」

「え!危険なのは分かってるでしょう!」

「それだけ大事な存在って事だろ。今出すから。よっと。」

ふーーーーんっ!
牢の柵を曲げようとするが、幾ら力を入れても曲がらない。
『それじゃ鍵を壊そう』と、そこらに転がっている石で叩くも駄目。
壊れたトロッコの部品で殴っても駄目。

「もう結構です。諦めて下さい。」

ユシは満足気に言った。
無事脱出出来た事を確認した。
もうそれだけで良い。
しかし、それを許せない者が居た。

「兄様が居なくて良かったですね。《諦める》と言う言葉が大嫌いですから。」

アンが柵に手を触れると、パッと輝いたと思うとあっさり柵が消滅した。
ラヴィは中に入り、ノウへ手を差し伸べる。

「どうやらあなたが3人目の使者の様ね。お疲れさま。早く行きましょ。」

何が何やら訳が分からず、引っ張り出されるノウ。
ユシの手を引くロッシェ。
動かないヘンを見て、背中に背負うセレナ。
先行して他の牢を開けながら、捕まった人を逃がして回るアン。
皆解放感に浸り、一目散に出口を目指す。
トロッコで突っ込んで来るついでに邪魔する者をなぎ倒したおかげで、脱出はスムーズに進んだ。
皆が屋敷の門まで辿り着いた時。



何かが起こった。
屋敷内で。
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