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第57話 ノウの期待は……

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「そこでしばらく待たれよ。」

領主の召使いに足止めされるノウ。
『大丈夫』と肩に手を置くヘン。
その手をぎゅっと握り締め、ノウは時を待つ。
取り次ぎが終わったらしい、召使いが戻って来る。

「こちらへ。」

奥へと案内されるノウ。
付き添うヘン。
屋敷と言っても、石造りの城の様だった。
『城のミニチュア』とも言える。
風雪に耐える造りとなれば、材料は限定される。
その代わり、増改築はしにくい。
筈。
なのにヘンには、来る度に部屋が増えている様に思われた。
大きな廊下を進んで突き当り。
そこに領主の大部屋があった。
ドアをノックして開ける召使い。
そそくさと下がる。
何かに怯える様に。

「近う寄れ。」

豪華な椅子に座る人物が、手招きする。
まずヘンが進み出る。

「申し上げます。領土境におきまして異変が発生致しました。その報告に伺った次第です。」

「うむ。早うせい。儂はこう見えて忙しいのじゃ。」

明らかにイライラしていた。
何か隠している?
そう感じたが、話を進める。

「はい。実はサファイ側から関所が閉ざされたと、この者が申しておりまして。」

そう言って、ノウを紹介する。
しずしずと前へ出て、ひざまづき名乗る。

「サファイに接する町ケンヅから参りました、ノウと申します。」

そして陳情書を差し出した。
それをヘンが受け取り、領主へと渡す。

「領主であるこのサーボ、確かに受け取った。何々……。」

そこには。
関所が突然閉ざされた事。
よって、サファイから物資が一切入って来なくなった事。
事細かに記されてあった。

「読んだが、内容は本当か?」

ヘンに問いただす。

「首都での物資不足は、それで説明出来ます。合理性があるかと。」

「実際に確かめておらんのか?」

「申し訳ございません。」

「まあ良い。善処しよう。して、《あの件》はどうなった?」

「魔物退治ですか?無事完了致しました。」

あの禍々しい姿を思い出して、顔色が悪くなるノウ。

「部外者の前で内容を告げるな!まさか……!」

慌ててひれ伏すヘン。

「退治の際にたま々居合わせただけでございます!他に意図はございません!」

「……見たのか?」

ノウに問うサーボ。
その顔付きは強張っていた。

「は、はい……。陳情書は急ぎの様に付き、近道として森を……。」

「もう良い!相分かった!」

言い放つサーボの言葉にはとげがあった。
嫌な予感がするヘン。

「おい!居るか!」

召使いを呼ぶサーボ。
飛んで来る召使い。

「オースタンよ、お前は下がれ。」

「ははっ。」

頭を下げながら返事するが。
次のサーボの言葉に、頭が沸騰する。

「この娘を地下牢に放り込め!生かしてはおけん!」

ガッと腕を掴まれ、召使いに引き摺られるノウ。

「お待ち下さい!他意は無いと申し上げ……。」



「それが余計に駄目なのですよ。」



入り口から現れるヴェード。

「罪の意識が無いからこそ、ペラペラ喋るのです。隠密に処理しようとしたのに、それでは意味が無いでしょう?」

言い返せないヘン。

「し、しかし!」

「黙らっしゃい!領地を混乱させるおつもりですか!」

そう言われては何も出来無い。

「せ、せめて国外追放で……。」

何とかノウの命を救おうとするヘン。
対してヴェードは首を横に振る。

「ですよね?」

サーボの顔を見るヴェード。
当然と言う表情のサーボ。

「連れて行けい!」

ずるずる引き摺られるノウ。
両手で顔を塞ぎ泣いていた。
その場にガクッと崩れ落ちるヘン。
ヘンに対し、ヴェードが冷たく言い放つ。

「あの娘、どう《処理》してくれよう……。」

処理!
処理だと!
あの子は人間だ!
物じゃない!
気が付くとヘンは。
ヴェードの胸ぐらを掴んで揺すっていた。

「撤回しろ!その言葉!」

「サーボ様の御前ですよ!」

「知るか!撤回しろ!」

「頭を冷やせ!お前も牢に入りたいか!」

怒鳴るサーボ。
前からこの無能領主にはムカついていた。
仕えるべき領主とは言え、言動が人の上に立つ者として相応しく無い。
大体領主が変わり、ヴェードの様な素性のはっきりしない者を傍に置く様になってから。
このメインダリーはおかしくなったのだ。
敵軍の兵を招き入れるなど、元から反対だったのに。
いつの間にか侵入だけで無く、素通りさえも許していた。
自分は近衛隊隊長に相応しく無いのかも知れない。
だったらこの手で幕引きを……!

「うおおぉぉぉーーーーっ!」

サーボに襲い掛かるヘン。
しかし、すぐに力が抜ける。
背中をヴェードに取られていた。
触れられたその手から、何かが流れ込んで来る感覚。
それで体が麻痺したらしい。
そこまでは理解出来た。
その原理までは分からず。
ただ無念。
無念。

「こいつは反逆者だ!同じく牢へぶち込め!」

ぐったりするヘンも、召使いに引き摺られていった。



『やっと切り抜けた』と安堵するサーボ。

「事前に用意しておいて正解でしたな。」

「全くだ。あれが『報告にあった者』か?」

「いえ、違う様ですが……。」

話をするヴェードの元へ、門の守衛から伝達が。

「何?また使者だと?」

『どんな姿だ?』と問い質すが、取り次ぎなので容姿までは把握していなかった。
しかし感じる。
向こうから不審な気配。
恐らく向こうも感じている筈。
考えるヴェード。
そしてサーボに言った。

「報告にあった者が、使者として来た模様です。如何いかがなされますか?」

「対処せねば、疑われるだろうな。通すしかあるまいに。」

「宜しいですね?くれぐれも……。」

「分かっておる!それ以上は言うな!言わないでくれ……。」

次々と問題が降って来て、疲れたと言わんばかりにシッシッと手を振るサーボ。
そして頭を抱える。
『次は同席しましょう』と残るヴェード。



彼等の、恐らく《人生で一番長い日》の始まりだった。
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