上 下
53 / 320

第53話 使者、入城

しおりを挟む
ノウ達は、跳ね橋のたもとまで来た。
各検問所には、衛士が2人常駐している。
その内の1人がヘンに近付いて来る。

「お帰りなさいませ。」

ヘンに向かってお辞儀をする。

「ご苦労。何か変わった事は?」

「特段ございません。……そちらの方は?」

「あ、ああ。領地境で異変があってな。領主様へご報告する為連れて来た証人だ。」

打ち合わせ通りの受け答えをするヘン。
自然に受け取られた様だ。

「それは急がれませんと!おい、対岸に連絡しろ!橋を降ろす様に!」

もう1人の衛士が、それを受け合図を送る。
ギギギイッときしむ様な音がして、跳ね橋が降ろされた。

「ささ、お通り下さい。」

「速やかな対処、感謝する。」

「お嬢さんも、お気を付けて。」

「ありがとうございます。」

衛士に一礼して、ヘンの後を付いて行くノウ。
2人が渡り終えると、また速やかに跳ね橋は上げられた。



石橋の袂の検問所に着く前。
自分の替えの服をトワに着せるロッシェ。
みすぼらしい服は反って目立つと考えた。
後は《トワが勝手にやった事》。
止めて置けとは言ったんだが……。

「どうしたんだ、その顔は?」

衛士が建屋から出て来てびっくりした。
そこには、〔男物の服を着た少女?〕が顔を膨らませて立っていた。
面が割れていると思い、一目では分からない様自分で自分の顔を殴ったのだ。
念入りに、何発も。
手加減無しに。
痛々しく思いながら、トワの覚悟を感じるロッシェ。
ここは上手く切り抜けないと。

「ここに来る途中で賊に出会ってな。何とか撃退したが、最後は素手の殴り合いになってこのざまさ。」

呆れた様子で話すロッシェ。
やり過ぎてモゴモゴとしか話せないトワが、逆にリアル感を醸し出していた。

「そうか、大変だったな。早く医者に診て貰うと良い。」

そう言って、早く渡る様促す衛士。

「ありがとう。」

衛士にお辞儀する2人。
トワを庇いながら渡るロッシェ。
渡り終え振り返ると。
気の毒に思ったのだろうか、衛士が手を振っていた。
ロッシェは手を振り返し、町へと入って行った。
そしてトワにボソッと。

『さて、これからが正念場だぞ。お前さんをこのまま、領主の所へ連れて行く訳にはいかんからな。』

陳情書は届けなければならない。
それが本来の目的だから。
でもトワの力にもなりたい。
手助けをする事によって、境での異変と関わりが出て来るかも知れない。
そんな予感がしていた。



クライス達も、仮の橋に見える木組みまで来た。
鉄砲水で押し流されそうな簡単な造り。
『それも防衛の為なのだろう』とラヴィは思った。
検問所から、例の如く衛士が出て来た。

「何用か?」

行商人の格好をしているので、当然の反応。
クライスが紹介状を見せる。
『このまま行っても突っ返されるだろう』と、ロール婆さんがその場で書いてくれたのだ。
イーソに続く検問所なので、町の重役の名前は知っていた。
筆跡を2人で確認し、間違い無いと頷き合う衛士。

「通って良し。ところで……。」

「何か?」

衛士がラヴィに問い掛ける。

「良く紹介状を書いて貰えたな。かなり気難しい方だと聞いているが……。」

「いえ、とても温厚な方でしたよ。」

代わりに返事をして、左肩に留まる文鳥をギロッと睨むクライス。
涼しい顔をして横を向くオズ。
『やり過ぎた自覚はあるのね』とアンは思う。
さて、後はあいつ等を引き離すか。
そうクライスは思い直し、遠くの木陰を指差して言う。

「俺達の商品を狙ってか、賊らしき者達が付けて来ています。排除した方が宜しいかと。」

「何!本当か!」

それを聞いて。
もう1人の衛士が双眼鏡の様な物を持ち出し、指を指された辺りをジッと見る。
すると、何やらうごめいていた。
あれは、確か何処かで見た気が……。
……。

「あっ!」

「何か居たか!」

「間違い無い!手配書にある盗賊団だ!」

「本当か!おいお前達、さっさと渡ってくれ!」

「わ、分かりました……。」

急な圧力で戸惑うセレナ。
その肩を抱いて、橋を渡って行くアン。
ラヴィが続き、最後はクライス。
一行が渡り終えると、ピタリと付けていた衛士達が橋の中央を木槌で叩いた。
そして素早く渡る。
『しまった!』と気付いて駆け寄るリゼ達をよそに、『ガララアアッ』と崩れ落ちる橋。
対岸で悔しがるスティーラーズを見て、取り敢えず安心する衛士達。
町の入り口にも衛士が配置されているが。
一連の様子を見ていたのか、ため息を付いてこう言った。

「また作り直しか。業者に頼んでも、いつ通れる様になるか……。」



一方。
橋を切り崩されて、困り果てる盗賊団。

「どうします、姉御。渡れなくなっちゃいましたが……。」

頭を抱えオロオロするヘリック。
それとは対照的に、すぐに別のルートを探し始めるボーンズ。
無茶な注文はいつもボーンズの役目。
こう言う時ヘリックは役立たずだから。
自然と動いていた。
ジッと考え込むリゼ。

『甘いよ、これ位で逃げおおせるとでも?』

次に会う時には、何をしてくれよう……。
お返しを何にするか考えながら、不敵な笑みを浮かべるリゼ。
それを見て余計にオロオロするヘリック。
遠くからボーンズが呼んでいた。
どうやら、抜け道の様な物を発見したらしい。
万が一の隠し道。
早速そこを通る3人。
蜘蛛の巣を避けながら。



天然の要塞にそれぞれ入って行った使者。
それに付いているおまけ。
それぞれの思惑とは関係無く、影が……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

罪人として生まれた私が女侯爵となる日

迷い人
ファンタジー
守護の民と呼ばれる一族に私は生まれた。 母は、浄化の聖女と呼ばれ、魔物と戦う屈強な戦士達を癒していた。 魔物からとれる魔石は莫大な富を生む、それでも守護の民は人々のために戦い旅をする。 私達の心は、王族よりも気高い。 そう生まれ育った私は罪人の子だった。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

小説家になるための戦略ノート

坂崎文明
エッセイ・ノンフィクション
小説家になるための戦略ノートです。『弱者のランチェスター戦略』を中心にして、小説を読んでもらうための『ウェブ戦略』なども交えて書いていきます。具体的な実践記録や、創作のノウハウ、人生戦略なども書いていきたいと思います。最近では、本を売るためのアマゾンキャンペーン戦略のお話、小説新人賞への応募、人気作品のネタ元考察もやってます。面白い小説を書く方法、「小説家になろう」のランキング上位にいく方法、新人賞で大賞を取る方法を考えることがこのエッセイの使命なんでしょうね。 小説家になろうに連載されてた物に『あとがき』がついたものです。 https://ncode.syosetu.com/n4163bx/ 誤字脱字修正目的の転載というか、周りが小説家デビューしていくのに、未だにデビューできてない自分への反省を込めて読み直してみようかと思います。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!  2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です 2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました 2024年8月中旬第三巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です

聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!

ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。 姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。 対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。 能力も乏しく、学問の才能もない無能。 侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。 人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。 姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。 そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。

家族に辺境追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて本家を超える国力に急成長

ハーーナ殿下
ファンタジー
 貴族五男ライルは魔道具作りが好きな少年だったが、無理解な義理の家族に「攻撃魔法もろくに使えない無能者め!」と辺境に追放されてしまう。ライルは自分の力不足を嘆きつつ、魔物だらけの辺境の開拓に一人で着手する。  しかし家族の誰も知らなかった。実はライルが世界で一人だけの《チート魔道具師》の才能を持ち、規格外な魔道具で今まで領地を密かに繁栄させていたことを。彼の有能さを知る家臣領民は、ライルの領地に移住開始。人の良いライルは「やれやれ、仕方がないですね」と言いながらも内政無双で受け入れ、口コミで領民はどんどん増えて栄えていく。  これは魔道具作りが好きな少年が、亡国の王女やエルフ族長の娘、親を失った子どもたち、多くの困っている人を受け入れ助け、規格外の魔道具で大活躍。一方で追放した無能な本家は衰退していく物語である。

処理中です...