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第49話 その為に”ここ”にいる
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「エミル、泣かないで。あくまで最悪の場合だから。」
クライスが余りに怖い事を言ったので、エミルはその場で泣き出していた。
ホビイとビットも、震えが止まらなかった。
クライスは、必死に慰めていた。
「だって、クライスが言うんだもん……。」
その通りに決まってる。
その位クライスは凄いから。
知っているから。
ひっく。
ひっく。
泣き止まないエミル。
と、突然。
「良い加減にしろ!」
ビクッとなるエミル。
怒鳴ったのはクライスだった。
「そんなに俺を信用するなら、《俺がこれからどうするか》も信用しろよ!」
そうだ。
いつも、クライスは何とかしてくれた。
シルフェニアに居た時も。
旅に出た後も。
うちが一番知ってるじゃないか。
クライスがそんなの許す筈が無い事を。
漸くエミルは泣き止んだ。
「そうだね、そうだったね……忘れてたよ……。」
泣き笑いに変わるエミル。
ジューはその光景を見て、『この者なら託せる』と考えた。
「それで、クライス殿。我等はこれから、どうすれば宜しいかの?」
「そうですね……出来ればこのまま、時間稼ぎをお願いしたいのですが。」
「現状維持をお望みか?」
「はい。俺達がメインダリーを敵の手から解放するまで、そのまま小競り合いを演じて頂きたい。」
「如何程の時間を?」
「これまでの時間に比べれば、それ程お手間は取らせません。」
「期待しても宜しいので?」
ジューの問い掛けに、クライスはこう言った。
「その為に、俺は《ここ》に居ますから。」
「エミル。俺達が迎えに行く間、アリュース様の話し相手になってあげてくれ。」
「うん。待ってる。」
「ありがとう。ジュー様もありがとうございました。それでは。」
挨拶を終えると、金の彫像は動かなくなった。
クライスが約束した。
『迎えに行く』と。
その時、胸を張って会える様頑張ろう。
エミルは誓った。
まだブルブル震える小人2人にジューは言った。
「情けないぞ、お前達。エミル殿を見習え。」
「しかし大叔父様……。」
「罰として。ホビイとビット両名には、アリュース殿とエミル殿の護衛を命じる。良いな。」
「え……?」
「だから、早うアリュース殿の元へ戻れと言っておるのじゃ。寂しがっておられるじゃろう。」
それは逆に、『大事な友の事を頼んだぞ』と言う信頼の証でもあった。
それをやっと理解した2人は、急に勇気が出て来た。
「そうとなれば、急いで出発の準備だ!行くぞ、ビット!」
「おうよ!小人族の誇り、今こそ!」
そう言って慌てて洞窟を出て行く2人。
その後ろ姿を見ながら、ジューはエミルに言う。
「済まぬ、あの2人のお守りもお願い出来るかのう?」
「任せて。うちが居れば安心だよ。」
「ここを自分の故郷と同じと思って、何時でも来られい。歓迎するぞよ。」
「ありがとう。じゃあ行くね。」
ぴょこっとお辞儀をして、エミルは外に飛んで行った。
「さて、私も出来る事をするかの……。」
これからの策略を練り出すジューだった。
クライスの本体は、通信の間木陰で休んでいた。
急にオズが光り出したと思うとバタリと倒れてしまったので、慌ててセレナが木陰まで引きずって来たのだ。
私が見ていますから。
アンとラヴィには、余計な心配をしない様に辺りを偵察に行って貰った。
クライスの眠った様な顔を見て、セレナは思う。
『ラヴィが曽て起こした昏睡に似ている』と。
あの場合、キーリが原因だったのだが。
今回、クライスが言った様に手紙で知らせるだけのつもりだった。
それがオズの加入によって、多少は無茶が出来る様になった。
やはり直接話し合った方が良い。
そう考え、クライスは意識を飛ばしてテレビ会議みたいな状況を作ったのだ。
あの金の立方体に更に強い魔力を与える事によって、テレビカメラの役目を与えた。
彫像の形を取ったのは。
レンズやスピーカー、集音マイクなどの機能を備えた結果なのだ。
それ程、人間の体は良く出来ているとも言える。
1時間は経っただろうか。
漸く会議は終わり、クライスは目を覚ました。
ホッとしたセレナが話し掛けようとした時。
一瞬固まってしまった。
それ程、クライスは怖い顔をしていたのだ。
セレナは知っている。
その顔は、覚悟を決めた顔。
覚悟の奥底を知る術は無いが。
恐らくは、命のやり取り以上の覚悟。
その様に感じた。
辺りを偵察していたラヴィは、変な悪寒に襲われた。
真っ青になり、すぐに戻る。
心配そうな顔で覗き込むアン。
『大丈夫』と取り繕うラヴィ。
それでも理解した。
クライスの心の変化を。
夢の中で繋がった事のあるラヴィにだけ、感じられる事だった。
しかし敢えて知らない振りをしよう。
それが良い。
これからの為に。
クライスが余りに怖い事を言ったので、エミルはその場で泣き出していた。
ホビイとビットも、震えが止まらなかった。
クライスは、必死に慰めていた。
「だって、クライスが言うんだもん……。」
その通りに決まってる。
その位クライスは凄いから。
知っているから。
ひっく。
ひっく。
泣き止まないエミル。
と、突然。
「良い加減にしろ!」
ビクッとなるエミル。
怒鳴ったのはクライスだった。
「そんなに俺を信用するなら、《俺がこれからどうするか》も信用しろよ!」
そうだ。
いつも、クライスは何とかしてくれた。
シルフェニアに居た時も。
旅に出た後も。
うちが一番知ってるじゃないか。
クライスがそんなの許す筈が無い事を。
漸くエミルは泣き止んだ。
「そうだね、そうだったね……忘れてたよ……。」
泣き笑いに変わるエミル。
ジューはその光景を見て、『この者なら託せる』と考えた。
「それで、クライス殿。我等はこれから、どうすれば宜しいかの?」
「そうですね……出来ればこのまま、時間稼ぎをお願いしたいのですが。」
「現状維持をお望みか?」
「はい。俺達がメインダリーを敵の手から解放するまで、そのまま小競り合いを演じて頂きたい。」
「如何程の時間を?」
「これまでの時間に比べれば、それ程お手間は取らせません。」
「期待しても宜しいので?」
ジューの問い掛けに、クライスはこう言った。
「その為に、俺は《ここ》に居ますから。」
「エミル。俺達が迎えに行く間、アリュース様の話し相手になってあげてくれ。」
「うん。待ってる。」
「ありがとう。ジュー様もありがとうございました。それでは。」
挨拶を終えると、金の彫像は動かなくなった。
クライスが約束した。
『迎えに行く』と。
その時、胸を張って会える様頑張ろう。
エミルは誓った。
まだブルブル震える小人2人にジューは言った。
「情けないぞ、お前達。エミル殿を見習え。」
「しかし大叔父様……。」
「罰として。ホビイとビット両名には、アリュース殿とエミル殿の護衛を命じる。良いな。」
「え……?」
「だから、早うアリュース殿の元へ戻れと言っておるのじゃ。寂しがっておられるじゃろう。」
それは逆に、『大事な友の事を頼んだぞ』と言う信頼の証でもあった。
それをやっと理解した2人は、急に勇気が出て来た。
「そうとなれば、急いで出発の準備だ!行くぞ、ビット!」
「おうよ!小人族の誇り、今こそ!」
そう言って慌てて洞窟を出て行く2人。
その後ろ姿を見ながら、ジューはエミルに言う。
「済まぬ、あの2人のお守りもお願い出来るかのう?」
「任せて。うちが居れば安心だよ。」
「ここを自分の故郷と同じと思って、何時でも来られい。歓迎するぞよ。」
「ありがとう。じゃあ行くね。」
ぴょこっとお辞儀をして、エミルは外に飛んで行った。
「さて、私も出来る事をするかの……。」
これからの策略を練り出すジューだった。
クライスの本体は、通信の間木陰で休んでいた。
急にオズが光り出したと思うとバタリと倒れてしまったので、慌ててセレナが木陰まで引きずって来たのだ。
私が見ていますから。
アンとラヴィには、余計な心配をしない様に辺りを偵察に行って貰った。
クライスの眠った様な顔を見て、セレナは思う。
『ラヴィが曽て起こした昏睡に似ている』と。
あの場合、キーリが原因だったのだが。
今回、クライスが言った様に手紙で知らせるだけのつもりだった。
それがオズの加入によって、多少は無茶が出来る様になった。
やはり直接話し合った方が良い。
そう考え、クライスは意識を飛ばしてテレビ会議みたいな状況を作ったのだ。
あの金の立方体に更に強い魔力を与える事によって、テレビカメラの役目を与えた。
彫像の形を取ったのは。
レンズやスピーカー、集音マイクなどの機能を備えた結果なのだ。
それ程、人間の体は良く出来ているとも言える。
1時間は経っただろうか。
漸く会議は終わり、クライスは目を覚ました。
ホッとしたセレナが話し掛けようとした時。
一瞬固まってしまった。
それ程、クライスは怖い顔をしていたのだ。
セレナは知っている。
その顔は、覚悟を決めた顔。
覚悟の奥底を知る術は無いが。
恐らくは、命のやり取り以上の覚悟。
その様に感じた。
辺りを偵察していたラヴィは、変な悪寒に襲われた。
真っ青になり、すぐに戻る。
心配そうな顔で覗き込むアン。
『大丈夫』と取り繕うラヴィ。
それでも理解した。
クライスの心の変化を。
夢の中で繋がった事のあるラヴィにだけ、感じられる事だった。
しかし敢えて知らない振りをしよう。
それが良い。
これからの為に。
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