上 下
49 / 320

第49話 その為に”ここ”にいる

しおりを挟む
「エミル、泣かないで。あくまで最悪の場合だから。」

クライスが余りに怖い事を言ったので、エミルはその場で泣き出していた。
ホビイとビットも、震えが止まらなかった。
クライスは、必死に慰めていた。

「だって、クライスが言うんだもん……。」

その通りに決まってる。
その位クライスは凄いから。
知っているから。
ひっく。
ひっく。
泣き止まないエミル。
と、突然。



「良い加減にしろ!」



ビクッとなるエミル。
怒鳴ったのはクライスだった。

「そんなに俺を信用するなら、《俺がこれからどうするか》も信用しろよ!」

そうだ。
いつも、クライスは何とかしてくれた。
シルフェニアに居た時も。
旅に出た後も。
うちが一番知ってるじゃないか。
クライスがそんなの許す筈が無い事を。
ようやくエミルは泣き止んだ。

「そうだね、そうだったね……忘れてたよ……。」

泣き笑いに変わるエミル。
ジューはその光景を見て、『この者なら託せる』と考えた。

「それで、クライス殿。我等はこれから、どうすれば宜しいかの?」

「そうですね……出来ればこのまま、時間稼ぎをお願いしたいのですが。」

「現状維持をお望みか?」

「はい。俺達がメインダリーを敵の手から解放するまで、そのまま小競り合いを演じて頂きたい。」

「如何程の時間を?」

「これまでの時間に比べれば、それ程お手間は取らせません。」

「期待しても宜しいので?」

ジューの問い掛けに、クライスはこう言った。



「その為に、俺は《ここ》に居ますから。」



「エミル。俺達が迎えに行く間、アリュース様の話し相手になってあげてくれ。」

「うん。待ってる。」

「ありがとう。ジュー様もありがとうございました。それでは。」

挨拶を終えると、金の彫像は動かなくなった。
クライスが約束した。
『迎えに行く』と。
その時、胸を張って会える様頑張ろう。
エミルは誓った。
まだブルブル震える小人2人にジューは言った。

「情けないぞ、お前達。エミル殿を見習え。」

「しかし大叔父様……。」

「罰として。ホビイとビット両名には、アリュース殿とエミル殿の護衛を命じる。良いな。」

「え……?」

「だから、早うアリュース殿の元へ戻れと言っておるのじゃ。寂しがっておられるじゃろう。」

それは逆に、『大事な友の事を頼んだぞ』と言う信頼の証でもあった。
それをやっと理解した2人は、急に勇気が出て来た。

「そうとなれば、急いで出発の準備だ!行くぞ、ビット!」

「おうよ!小人族の誇り、今こそ!」

そう言って慌てて洞窟を出て行く2人。
その後ろ姿を見ながら、ジューはエミルに言う。

「済まぬ、あの2人のお守りもお願い出来るかのう?」

「任せて。うちが居れば安心だよ。」

「ここを自分の故郷と同じと思って、何時でも来られい。歓迎するぞよ。」

「ありがとう。じゃあ行くね。」

ぴょこっとお辞儀をして、エミルは外に飛んで行った。

「さて、私も出来る事をするかの……。」

これからの策略を練り出すジューだった。



クライスの本体は、通信の間木陰で休んでいた。
急にオズが光り出したと思うとバタリと倒れてしまったので、慌ててセレナが木陰まで引きずって来たのだ。
私が見ていますから。
アンとラヴィには、余計な心配をしない様に辺りを偵察に行って貰った。
クライスの眠った様な顔を見て、セレナは思う。
『ラヴィがかつて起こした昏睡に似ている』と。
あの場合、キーリが原因だったのだが。
今回、クライスが言った様に手紙で知らせるだけのつもりだった。
それがオズの加入によって、多少は無茶が出来る様になった。
やはり直接話し合った方が良い。
そう考え、クライスは意識を飛ばしてテレビ会議みたいな状況を作ったのだ。
あの金の立方体に更に強い魔力を与える事によって、テレビカメラの役目を与えた。
彫像の形を取ったのは。
レンズやスピーカー、集音マイクなどの機能を備えた結果なのだ。
それ程、人間の体は良く出来ているとも言える。



1時間は経っただろうか。
漸く会議は終わり、クライスは目を覚ました。
ホッとしたセレナが話し掛けようとした時。
一瞬固まってしまった。
それ程、クライスは怖い顔をしていたのだ。
セレナは知っている。
その顔は、覚悟を決めた顔。
覚悟の奥底を知る術は無いが。
恐らくは、命のやり取り以上の覚悟。
その様に感じた。



辺りを偵察していたラヴィは、変な悪寒に襲われた。
真っ青になり、すぐに戻る。
心配そうな顔で覗き込むアン。
『大丈夫』と取り繕うラヴィ。
それでも理解した。
クライスの心の変化を。
夢の中で繋がった事のあるラヴィにだけ、感じられる事だった。
しかし敢えて知らない振りをしよう。
それが良い。
これからの為に。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する

青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。 両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。 母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。 リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。 マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。 すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。 修道院で聖女様に覚醒して…… 大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない 完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく 今回も短編です 誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡

小説家になるための戦略ノート

坂崎文明
エッセイ・ノンフィクション
小説家になるための戦略ノートです。『弱者のランチェスター戦略』を中心にして、小説を読んでもらうための『ウェブ戦略』なども交えて書いていきます。具体的な実践記録や、創作のノウハウ、人生戦略なども書いていきたいと思います。最近では、本を売るためのアマゾンキャンペーン戦略のお話、小説新人賞への応募、人気作品のネタ元考察もやってます。面白い小説を書く方法、「小説家になろう」のランキング上位にいく方法、新人賞で大賞を取る方法を考えることがこのエッセイの使命なんでしょうね。 小説家になろうに連載されてた物に『あとがき』がついたものです。 https://ncode.syosetu.com/n4163bx/ 誤字脱字修正目的の転載というか、周りが小説家デビューしていくのに、未だにデビューできてない自分への反省を込めて読み直してみようかと思います。

1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
コミュニティ「1ページ同好会」のお題で書いたお話です。 第3弾!

処理中です...