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第45話 解散と爆誕

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アンとセレナが作業を始めてから数時間。
ようやく補強が終わった。
目的地別に乗り込む群衆。
クライスは彼らに、次の点を注意した。



1.馬車は、関所で通して貰う時以外はノンストップで進む。
2.金で作られた部分は、目的地に到着すると霧散して何も残らない。
3.だからといって道中で金の部分を削り取っても、それすら消えてしまう。



これを聞いて、リゼはがっかり。
自分達は恐らく護送される。
その際に上手く抜け出し、あわよくば金を拝借して売れば莫大な金が転がり込む。
そう目論んでいた。
だからクライスは敢えて金が残らない様にした。
強欲な奴が仮に現れても、金に目がくらんで争う事が無い様に。
完全に当てが外れたリゼ。
グルグル巻きは解除されたが、今度はアジトにしていた家の中に閉じ込められている。
鍵は外から掛けられ、中は金の小人が数体うろついている。
試しに、ヘリックに窓を開けて外に出る振りをさせる。
すると小人は急に広い膜になり、ヘリックを包もうとする。
慌てて窓から離れると、また小人に戻った。
冷や汗だらだらのヘリック。
『感触を味わえば良かったのに』と、冗談を言うボーンズ。
お互い罵り合っている2人をよそに、リゼは考えていた。


あたい等をどうするつもりだい?
このままここに、置き去りにするとは思えない。
かと言って連れて行くとも……。
うぬぬ……。


馬車がそれぞれ走り出した。
ノルミンの両親には、村に新しく付いた名前を教えた。
とても喜び、『これで故郷と呼べる』と泣いていた。
その他にも名が無い村の出身者が居ないか確かめたが、幸いにも居なかった。
馬車の窓から手を振りながら、皆故郷へ帰って行った。



「そう言えば、少しの間居なかったわね。」

オズにラヴィが尋ねる。

「魔力の痕跡を追ってたのさ。使い方が慣れてるのか、少しの魔力しか感じなかったけどな。」

「それで?」

「やっぱり乗り物に乗って移動してた様だぜ。地面より少し浮いた場所の方が、魔力が濃かったからな。」

「ふうん。何に使ったのかまでは分かる?」

「想像だが、馬車自体に小さな馬を積んでたと思うぜ。」

そこへクライスが話に加わる。

「それなら合点がいくな。大方、歯車を回すのに力を使ったんだろう。」

ラヴィはそこで、話に付いて行けなくなる。
アンは肩に手を置いて言う。

「兄様は、この世界に無い物の知識も持ってるの。私が及ばない程のね。時々あんぐりしてたわ、私も。」

昔を思い出し、しみじみするアン。
この世界には、自動車はおろか蒸気エンジンも無いのだ。
当然だろう。
じゃあ、そのエンジンらしきを持ち込んだ者は?
クライスは何処からその知識を得たのか?
謎が深まるばかりだった。



「こ奴等をどうします?連行しますか?」

セレナが言う『こ奴等』は、勿論盗賊団の事。

「開放するさ。」

当然の様に言うクライス。

「ちょっと!《あの時》とは違うのよ!」

ラヴィが待ったを掛ける。
あの時。
敵側の貴族ミセルを開放した時。
あれは、妖精のエミルが暗示を掛けてクライス達の事を忘れさせたから良かったのだ。
今はエミルが居ない。
かと言って、オズがそれの代わりを?
そうは思えない。

「正気?」

念を押すラヴィ。

「ああ。」

答えるクライス。
その目は確信に満ちていた。
盗賊団としての性を。


「良い度胸だねえ。本当に構わないのかい?」

家から出されて、開口一番の台詞せりふがそれ。
リゼの盗賊としてのプライド。
それをズタズタにされる様な気がしてならなかった。

「おうともさ。あんた等はどうせ……。」

そう言いかけて止めるクライス。
曖昧にする事で、わざとけしかけた。

「そうかいそうかい、なら決めた!」

右手を高く掲げた後、クライスをビッと指差して宣言するリゼ。



「あんたを盗んでやる!盗賊のプライドを賭けてね!」



そう来たかー。
急に冷めるラヴィ。
アンは想像が付いていた。
クライスは、歩く金の延べ棒の様なモノ。
だからこそ狙われ続け、隠れ里みたいな山奥に隠遁していたのだ。
それを盗賊がみすみす見逃す筈は無い。
必然的行動だった。
そんなリーダーとは対照的に……。

「あわわわ、どうする?」
「知らんよ、姉御に付いて行くだけだろ!」

オロオロする子分2人。

「何してる!お前達、行くよ!」

スタスタ歩いて行くリゼに呼ばれて。
よちよちと付いて行く、ヘリックとボーンズ。
少し離れた所で、リゼが一行に向かって叫んだ。

「今は一旦引いてやる!しかし覚えときな!その不思議な兄ちゃんは、あたい等【スティーラーズ】が頂くよ!」

変なガッツポーズをするリゼ。
それに付き合わされる子分。
取って付けた盗賊団名。
何処まで本気なのか?
ラヴィは量りかねていた。
ただ、『変な〔おまけ〕だなあ』とだけ。



盗賊団が去ってから、再び旅の準備を始める一行。
支度が出来次第、旅立つ予定。
あくせく動く一行とは対照的に、遠く離れた山から望遠鏡の様な物で観察するリゼ。
付き纏ってやるよ、覚悟をし!
そう思った瞬間。
クライスがリゼの方を見てニコッと笑った。
ドキッとするリゼ。
見つかったからか?
感付かれたからか?
悩みながらも、ドキドキが止まらない。
適当に理由を付けて自分を納得させようとするが、クライスの魅力に負けそうになっているのに気付かない。
肝心な所が間抜けの姉御を見て、『俺達が何とかしないと』と思う子分だった。
こうして、ヘンテコ盗賊団の旅物語も始まろうとしていた。
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